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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
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エルフの里を観光

「…起きて。」


 サヤさんに揺さぶられて目を覚ましました。

 久しぶりにベッドで寝たのでいつもよりも深く寝入ってしまっていたようです。


「んー…サヤさん……もう起きてたんですか?」

「…修行があるから。」


 サヤさんは今日も欠かさずに修行のために早起きしていたようです。

 エルフの里側が滞在先として準備してくれた部屋は二部屋でダグラス先輩とジャドさん、私とサヤさんでそれぞれ使わせてもらうことになりました。

 シキシマさんに関してはエルフの里に入ってから隠密行動をしているようなので、シゲン様達を除きエルフの里側に存在を認知されていないようです。

 存在していないはずの人物に部屋を用意するわけにはいかないので、シキシマさんだけは部屋が無い状態です。


「ふぁあ…まだ少し眠いですね……。」

「…もう起きた方がいい。誰か来る。」


 その言葉通り部屋の外から微かな足音が聞こえ、それが少しずつ大きくなってきているのに気付きました。

 その足音は私達の部屋の前で止まり、その後コンコンと部屋がノックされました。


「失礼します。朝食の準備ができました。」

「ありがとうございます。すぐに向かいます。」


 朝食のことを伝えてに来てくれた人に一旦そう返事を返すと足音が遠ざかって行きました。今度はダグラス先輩達の方に向かったようです。


「サヤさん、起こしてくれありがとうございます。でもよくさっきの人が来るのがわかりましたね。」


 私は獣人種なので通常の人種のサヤさんより五感が鋭いので耳には少し自信があるのですが、そんの私でも微かにか聞き取れなかった足音を聞き取ったのでしょうか?


「…うん。気配がこっちに向かって来てたから。」

「気配ですか…。」


 どうやら足音ではなく気配で感知していたようです。

 そいうえば、昨日ギルド長に報告する時は私が通信用の魔道器を使っている隣で目を閉じて何かに集中しているような様子でした。

 もしかしたらあの時、誰かが検視していたかどうかを気配で感知してくれていたのかもしれません。


「ひょっとして昨日の夜とかも監視が無いか探ってくれてました?」

「…うん。昨日は覗いている人はいなかった。」

「……昨日はってことは今は誰かが監視してるんですか?」

「…うん。遠くの方からこの部屋の窓を覗いてる人がいる。」


 昨日の夜はダグラス先輩が監視の目を惹いてくれていたのが功を奏していたようです。

 やはり時期が時期なのでカスケード一派からしっかりマークはされているようです。

 とはいえ、現状監視されていることがわかっても私にできることはボロを出さないようにすることだけです。


「とりあえず、ご飯食べに行きましょうか。」

「…うん。」


 なのでひとまずは不信に思われないように平静を装って朝食を頂くことにしました。




 朝食の席に着くと既に皆さんが揃っていました。

 部屋を出る前に着替えたりしていたので少し遅れてしまってようです。


「すみません、遅れました。」


 私の謝罪に対してダグラス先輩達は軽く手を上げて問題ないと意思表示してくれましたが、上座に座っていたシゲン殿はどこか魂が抜けたような様子で無反応でした。

 どうやら、昨日のショックからまだ回復してないようです。

 一晩経ってもまだ復活していないようなので、昨日の夜に預かったトリア様からの伝後を伝えておくことにします。


「シゲン様、おはようございます。昨日ギルド長…トリア様から伝言を預かったのでお伝えします。これからも元気でいてくださいだそうですよ。」


 私がトリア様の名前を出した瞬間に魂が抜けたように無反応だった様子が激変し、クワッと目を見開くとこちらを食い入るように見てきます。


「つまり、じぃじいつまでも元気でいてね!じゃないと私…悲しい!……ということじゃな。」

「えーっと……そうですね。そんな感じ……だったと思います。たぶん…きっと…おそらく。」


 なにか誇張したように伝わってしまったような気がしないでもないですが、ここで訂正するのは野暮というものでしょう。


「活力を取り戻された良かった。失礼ながら、シゲン殿はご年齢的にも森に御還りになってもおかしくないはずなので内心心配しておりました。」

「心配をかけてしまっていたようだが問題ない。ワシはまだまだ森に還る気はないからのう。」


 森に還るとはお亡くなりになるということのエルフ風の表現でしょうか?

 確かに元気は無さそうでしたがお亡くなりなりそうなほどではなかったと思います。

 そんなふうに考えているのが顔に出ていたのか、近くの席に座っていたゼイノビさんが解説してくれました。


「森に還るとうのは我々エルフのみが迎える特有の結末でな。老齢となったエルフは感情の起伏がなくなってきて、最後には気にいった場所から動かなくなる。そしてやがて根が生えて少しずつ身体が樹に代わっていくんだ。我々の祖である十二人の始祖も今は大樹となって今も我々のことを見守ってくださっている。」


 エルフの方々の驚きの整体を知り衝撃を受けました。

 この話が本当なら、それはつまりエルフ種は動物から植物に変異する体質ということです。

 傭兵の国でもエルフの方はそんな見かけないので、世界的に見ても少数しか居ない希少種族なので未知の特殊な体質を持っていてもおかしくは無いとは予想していましたが、これほど特殊な体質を持つ種族だったとは知りませんでした。

 身体が樹になってしまうなら森に還るという表現は文字通りでそのままの意味なのでしょう。


「シゲン様は今も精力的に活動しておられるエルフの中ではかなり高齢な部類に入られる。いつ森へ還ることになってもおかしくないのは事実だ。高齢でもあそこまで精力的なのはシゲン様とカスケード様ぐらいなものだ。」

「カスケードのヤツとワシは同世代のエルフでのう。アヤツとワシ以外の同世代のエルフ達は皆既に森へと還ってしもうておる。里の方針を決める代表議会のメンバーも世代交代しておりワシらの子の世代の者達が中心となって里を運用しておるが、エルフの里は歳を食っとる者の方が偉いという古い価値観があるからのう。故にワシもカスケードのヤツも未だにご意見番としてよく意見を求められており、結果としてワシが穏健派、ヤツが改革派の頭目として扱われておるのじゃ。まぁ、こんな辺境の地の権力闘争の話など外の広い世界で生きるおぬしらにとっては退屈な話じゃろうし長々と語る程のものでもない。全員揃って居るようじゃし飯にしよう。」


 最後にそう言ってシゲン様が話を終えて食事が始まりました。

 今日の朝食も野菜がふんだんに使われており非常に美味しかったです。

 朝食の後は特に予定が無い私には暇な時間でです。

 せっかくエルフの里という普段来れないような場所にいるので色々と見て回りたい気持ちはありますが、任務で来ていることを考えると一人でブラブラするわけには行きません。

 この後どう時間を使うか考えているとダグラス先輩が話しかけてきました。


「レリア君、この後の予定は?」

「特にありません。」

「そうか。それなら、せっかくだしエルフの里を見てくるといい。」

「えっ?でも任務中ですよ?」

「今回、君はギルドの研修として自分に同行した形だ。であるならば、暇な時間にめったに来られない場所を見に行くのは不自然なことではない。むしろ部屋に引きこもっていると何かしているんじゃないかと勘ぐられる可能性がある。」


 あくまでも私は研修としてダグラス先輩に付いてきただけという体裁です。

 私へのマークを外すという意味では、監視している人達に呑気に観光をしている姿を見せておいた方がいいのかもしれません。

 それにエルフの里という場所にも興味があります。

 ここはお言葉に甘えて観光させてもらうことにしました。


「わかりました。では少し出歩いてこようかと思います。」

「それならば案内は私がしよう。」


 案内役をゼイノビさんがかって出てくれたので私とサヤさんにゼイノビさんを加えた三人でエルフの里を見て回ることになりました。


「さて、何処を案内したものか…。実際のところ外の人達が見て喜びそうな物などこの里にはないからなぁ。里の中心にある【星零樹】様の雄姿ぐらいしか思いつかない。御客人方は何かこの里で気になるものでもあるだろうか?」

「はい!エルフの方々は種族的に魔導術が得意だと聞いたことがあります!だから魔導術関連の施設とかをみたいです!」

「魔導術関連か…なら魔導術の触媒を生産している職人の工房とかでも見学するか?」

「素晴らしい!ぜひ行きましょう!すぐ行きましょう!」

「あっ、あぁ。こっちだついてきてくれ。」


 こうして楽しいエルフの里観光が始まりました。




 案内された場所は薬草などの臭いが強くする建物でした。

 色々な香草の臭いが入り混じった臭いがして私には少し刺激が強い場所です。


「ここでは森で採れた薬草を加工して薬や魔道器の触媒を作っている。…獣人種の君には少し臭いが強すぎたみたいだな。すまない。」

「いえ、リクエストを出したのは私ですし、嗅覚はある程度すれば慣れるものですから。」

「それでもキツそうだから手短に説明して別の場所に移動しよう。君は魔導術には詳しそうだがら詳細な説明は省くが、知っての通り一部の植物は魔道器の触媒として優秀な効果がある物がある。【星零樹】から落ちる葉などはその最たるものだ。その他にもそれなりに量が取れて優秀な触媒になる植物として、カラカ草、パテナの花弁、ダムダラの種などがあり、それらをすりつぶして乾燥させて樹脂で固めるなどの加工を行っている。…建物の奥まで案内するのは無理そうだな。市場にいけば加工済みで臭いもしなくなった物が見られるだろうから次はそちらを案内しよう。」

「……はい…お願いいたします。」


 加工の工程もできれば見たかったですが奥はもっと臭いがキツそうなので泣く泣く断念し、エルフの里の市場に向かいます。

 工房は人気が少ない場所にあったので移動中はあまり視線を感じませんでしたが、市場が近づくにつれてちらほらと他のエルフの方々の姿が見え始め、それに比例して私に対して珍しい者を見るような視線が増えていきます。里の住人は当然ながらエルフばかりのようなので私達のような他種族の人が珍しいのでしょう。

 ゼイノビさんは迷いのない足取りで市場の一角のとある店舗まで私達を案内します。


「ここが先程の工房で加工した魔道器の触媒を販売している店舗だ。店主、いるか?」

「ゼイノビか、お前がここに来るのは珍しいな。どうした?手持ちの魔道器の調子でも悪いのか?」

「魔道器の調子は悪くない。今日は御客人を連れてきたのだ。」


 そこまで話すと店の店主はようやく私達の存在に気が付いたようで視線を向けてきました。


「ふむ、外からの御客人というのは珍しいが、それが獣人種ともなると更に輪をかけて珍しい。」

「こんにちは。道中でも視線を感じましたが、やっぱり私達のような存在は珍しいんですね。」

「そうだな。霧の力もあって外界からこの里にたどり着ける者は極めて少ない。ごくたまに迷い込んだ旅人が訪れることはあるが、基本的にはお前さんらのような傭兵の国からの遣いの者しか来訪してこないのが普通だ。」

「獣人種がさらに珍しいとおっしゃっていたのは?」

「もう随分と昔の話らしいのだが、かつて獣人種がこの地を奪おうと責めてきたことがあったという。そのせいで古い考えを持ったままのエルフは獣人種を毛嫌いしておるから自然と獣人種がこの地を訪れることも少なくなるのだ。」

「この店の店主は我々と同じ穏健派に属するのでそういった偏見があまりなく貴殿らもやりやすはずだ。店主、こちらの御客人に里で加工された魔導器を見せてやってくれないか。」

「どうせなら見るだけじゃなく買って行ってくれた方がうれしいのだが?」

「私もできれば買っていきたいのですが…御土産とかも買って帰りたいので…その…お財布と相談させてください。」


 その後は、見せてもらった魔道器の誘惑に負けそうになりながらもなんとか耐えてお財布の中身を守り切りました。

 魔道器を取り扱っている店舗を出て少し他の商店も見て回りました。

 傭兵の国は色々な物が集まりやすい場所なので、そこで暮らすようになってからは珍しい物にも慣れていたつもりでしたが、エルフの里には独特な文化があるようで傭兵の国でも見たことがないような物がありとても興味をそそられました。

 一通り店舗見て回った後は最後にこの里の中心にある【星零樹】を見に行くことになりました。

 背の高い木々に視線を遮られていたのである程度視界が開ける里の中心部に来るまではわかりませんでしたが、視界が開けるとすぐにその巨大な姿が目に飛び込んできました。


「やはり最後にはこの里の象徴ともいえる【星零樹】様の雄大な御姿は見て行ってもらいたい。」

「【星零樹】……とんでもない大きさですね。自慢したくなるのも納得です。」


 傭兵の国のシンボルになっている亀龍もそうとうな大きさですが、この【星零樹】の大きさも負けていません。流石に横幅は亀龍の方が大きいように感じますが、高さは【星零樹】のほうが大きいみたいです。

 私の隣にいるサヤさんも目を見開いた様子で圧倒されていました。


「おい!お前、獣人種か?なぜ神聖なこの場所にお前のような穢がここにいる!」


 突如として、そんな私とサヤさんの感動を台無しにするような声が背後からかけられました。

裏設定解説

この世界のエルフは歳を取るごとに感情の起伏がなくなっていきますが、シゲンは孫が好きすぎるせいで強く感情を刺激されているので定期的に森還りキャンセルが発生しています。

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