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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
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エルフの里

 森の中は木の根で足元が悪く馬車での移動は難しいと思っていたのですが、予想に反して問題無く森の中を馬車で進むことができています。

 考えてみればエルフの方々が集落まで馬車が通れるような道を整備していたとしても不思議ではありません。

 今回の任務で私達は、表向きはエルフの長老が個人的に傭兵の国のギルドに注文した物品を届けに来たギルド職員とその護衛、ということになっています。

 エルフの里と傭兵の国は昔から良好な関係を築いており、傭兵の国が近くに来た時は物品の取引などを行う間がらなので、今回のように傭兵の国の者達がエルフの里を訪れたとしても不自然ではないはずです。

 既にエルフの里内部に入ったのでここから先は何処で誰が話を聞いているのわからないので迂闊な事は喋れません。

 自然と会話がなくなり緊張感が漂い始めます。

 そんな空気など、どこ吹く風といった感じで私の隣で子供らしく足をブラブラさせているサヤさんだけが、沈黙に支配された馬車の中での唯一の癒しでした。


「馬車で進めるのはここまでだ。すまないが、この先は徒歩で移動してもらうことになる。」


 しばらくそんな沈黙の中を馬車で進んでいると外からそんな声が聞こえ馬車が止まりました。

 馬車を降りると、そこは数々の大木に囲まれた広場でした。

 私が住んでいた隠れ里ではお目にかかれないような大木が乱立するその光景は圧巻の一言です。

 視線を上に向けると大木の枝を基礎として利用した住居がいくつも有り、一部の場所から縄梯子がぶら下がっているのご見て取れます。

 話に聞いていた通りエルフの方々は木の上に住居を作って生活しているようです。


「シゲン様のお住まいはこっちだ。ついて来きてくれ。」


 そう言って先導してくれる案内人の方は長身で金髪の女性のエルフでした。

 女性ながら良く鍛えられた身体で凛々しい雰囲気をしており同性にモテそうな印象の方です。

 先導のエルフの方が移動し始めたので、後を追って私達も移動します。

 大木の根があっちこっちに張り巡らせられていて足場が悪く歩きにくいですが、先導するエルフの方は流石に慣れているようでスイスイと進んで行きます。

 悪戦苦闘しながら進む私達が珍しいのか、木の上の住居からいくつもの視線が向けられているのを感じます。


「すまない。エルフには余所者を快く思わない者が一定数いるんだ。シゲン様を筆頭にした我々穏健派の方で何とか意識改革を試みていはいるんだがあまり進んでいないが現状だ。」


 先導してくれているエルフの方が遅れ始めた私達を待ちながら振り返り声をかけています。


「余所者が歓迎されないのは何処も同じですよ。貴方がたのように歩み寄ろうとしてくれている人がいるというだけでありがたいことです。」


 私達一団を代表してダグラス先輩が返事をします。


「そういえばまだ自己紹介をしていなかった。私は始祖の木レンヨウに連なる枝の一つ、ゼイノビという。今は故あってシゲン様の側仕えとして動いている。よろしく頼む。」


 独特な言い回しの自己紹介をされました。

 エルフの方々はこのような言い回しの自己紹介をするのが一般的なのでしょうか?


「レンヨウ様といえば、エルフの始祖と言われる十二人の中の一人だったと記憶しています。その高潔たる意志は今も貴方のよう戦士に受け継がれているのですね。申し遅れました。自分この一団の代表者のダグラスと申します。後の者達は自分の後輩のレリア、護衛として同行してもらっているジャドとサヤです。よろしくお願いします。」


 ダグラス先輩が要領良く対応してくれたので良好な雰囲気で自己紹介を終えることができました。


「ここからは上を通って移動する。高いところが怖かったら下を見ないようにした方がいいぞ。」


 足場が悪いエリアを抜けること今度は木の上から下がっている縄梯子を登って、木の上に張り巡らされている足場の上を移動します。

 何本か木から木へと渡されている足場を通ると、周りの家とは明らかに違う大きな家が見えてきました。


「あれがシゲン様のお住まいだ。伝令の鳥を飛ばしておいたので面会の準備はできていると思う。」


 ゼイノビさんが先に動いていてくれたのでスムーズに今回の任務の依頼主に会えそうです。




「遠路遥々よく来てくれた。ワシが今回、貴殿らに依頼を出したシゲンじゃ。」


 シゲン様の屋敷に着くとすぐに面会することになりました。


「自分が代表のダグラスで、後の者達は順番にレリア、サヤ、ジャドです。御依頼頂きました品をお届けに参りました。こちらになります。お納めください。」


 ダグラス先輩が小さな箱を取り出してゼイノビさんに手渡します。

 ゼイノビさんから箱を受け取ったシゲン様が箱を少し開けて中を確認し再び口を開きます。


「確かに。言い忘れておったがこの場にカスケード一派の耳は無いから楽にしてもらって大丈夫じゃ。さて、これで貴重な物を譲ってもらったので礼の手紙を書くから書き上がるまで客人として滞在してもらう、という名目が立ち貴殿らが数日ここに滞在してもおかしくはない状況になった訳じゃな。」

「はい。それでは、さっそくですが具体的に今後の動きについて話し合いましょう。」

「うむ。貴殿らがこの場に滞在できる理由は作ったが、カスケード一派もワシらの動きについては既に探り始めているはずじゃ。巧遅は拙速に如かずという言葉もある。早急に話をすすめようぞ。」

「それでは、まずは現状の説明をわたくしゼイノビからさせてもらいます。現在、カスケード一派が件の御令嬢を捕らえている場所はある程度まで特定できているという段階で、正確な場所までは掴めていない状態です。」

「それならば、まずは某の出番ですな。」

「っ!何者だ!」


 突然何も無いところから声が聞こえてきたと思ったら、いつの間にかそこにはシキシマさんが立っていました。

 ここにきて始めて私はシキシマさんが馬車を降りたときから姿が見えなくなっていたことに気が付きました。


「ご安心下さい。この者は自分達が連れてきた手の者でシキシマという者です。」

「驚かせてしまいましたかな?此度の一件は某の存在を伏せていた方が何かと良いと考え、潜ませて頂いておりました。」

「味方…なのか。しかし、今まですぐ近くに居たというのに全く気付けなかった…。」

「気を落とさないで下さい。彼は傭兵の国でも指折りの隠行の使い手です。彼の本気の隠行を見破れる者は傭兵の国でも殆どいません。」


 シキシマさんの隠行を見破れなかったことが戦士としてショックだったのか、ゼイノビさんが気落ちしていまいました。

 ですがそんなゼイノビさんをよそに話は進んで行きます。


「そちらで絞り込んだ場所を某が調査して参りましょう。そうですな……一日もあれば正確な幽閉場所を特定できるでしょう。」

「地の利も無いのにたった一日でそんなことができるのか!?」

「御安心を、先程も言いましたが彼は傭兵の国でも指折りの隠行の使い手です。この手の潜入調査で彼の右に出るものいません。彼ができると言ったならできるのでしょう。」

「うむ。彼等を信じよう。ならぼ次の問題はどうやって御令嬢を連れ出すかじゃな。いくらシキシマ殿が隠行に長けていようと人一人を監視の見を欺いて連れ出すのは骨であろう。」

「そうですな。某は己の姿を消すのは自信がありますが、誰かと共に姿を消すとなれば話が変わってきますな。」

「……斬る?」

「サヤ殿、それは最終手段ですぞ。…ジャド殿であれぼ何とかできるのでは?」

「ここでオレに振るのかよ。そうだな…ここはちょいと空間が特殊だが、術式をイジれば何とかなりそうだ。本当は傭兵の国まで飛ばしたいところだが、長距離の転移は厳しい。だから双方向転移の術式を仕込んだ魔導紙でお嬢さんにこちらに来てもらう形でなら誰にも見られずにお嬢さんを連れ出せるだろう。」


 魔導紙はいわゆるスクロールとも呼ばれる使い捨ての魔導器です。

 使い捨てなのに生産コストが高いことから一般には普及していませんが、術者が不在でも効果を発揮できるのでとても便利な魔導器です。

 コスト面以外にも、持ち運びの過程や保存用状態次第で書き込んである術式が掠れたり消えたりすると、術式が壊れ正常に効果を発揮できなかったりするデメリットがあったりします。

 ですが、今回はジャドさんが作成してすぐに使うことになるので、持ち運びの仕方を誤らなければ問題無く使用できるはずです。


「計画の目処が立ちそうですね。それでは話をまとめます。シキシマさんが幽閉場所の特定及び潜入を行い、ジャドさんが用意した魔導紙でターゲットの御嬢様を転移させ確保。その後、シキシマさんは転移に使用した魔導を回収しその場から撤収という流れですね。シキシマさんへの負担が大きいように感じますが大丈夫でしょうか?」

「なんのなんの。久方ぶりの大きな仕事で腕がなるというものです。誰一人にも知覚られずに仕事をこなしてみせましょう。」

「ありがとうございます。では、この方針で行きましょう。シキシマさんには早急現場の調査を、ジャドさんには魔導紙の製作をお願いします。」


 ダグラス先輩が話をまとまめにかかると、名前を呼ばれなかったサヤさんが自分はどうするのかとでも言いたげに視線でダグラス先輩を見つめます。

 その視線に気付いたダグラス先輩は少し気まずそうにしながらサヤさんにも指示を出します。


「サヤさんは我々非戦闘員の護衛として近くで待機していて下さい。」

「…わかった。」


 こうしてそれぞれどう動くかが決まったのでこの場での打ち合わせは終わりました。





 打ち合わせの後は滞在する部屋に案内され、一息ついたところで夕食に呼ばれました。

 出されたエルフの郷土料理は野菜中心の料理でした。

 傭兵の国に来てからは肉中心の食生活になっており、野菜の類は高級品という意識が芽生え始めていたこともあって、なんだか高級料理を食べた気分になりました。

 サヤさんは苦手な野菜があったのか若干顔をしかめながら一部の料理を食べていましたが、それ以外は特筆すべきことは無い食事会でした。

 皆が食事を終えて一息ついたところで上座に座っていたシゲン様がおもむろに口を開きました。


「おぉほん。ところで…傭兵の国のギルド長からはなにか預かって来ていないのか?手紙と伝言とか…」


 少なくとも私は何も預かったりはしていませんでした。ダグラス先輩の方を見ると、そっと目を反らしていたので私と同様に何も預かっていないようでした。


「いえ、特に何も預かっていません。」


 ダグラス先輩が何も言わなかったので私が代わりに返答すると、シゲン様は目を見開き驚愕と絶望の表情に早変わりしました。


「なん…じゃと……馬鹿な!ワシの可愛い可愛いトリちゃんが、大好きなじぃじに何もなしなど…ありえん!何かの手違いなのでは…」


 突然の豹変に困惑しているとダグラス先輩が小声で事情を話してくれました。


「シゲン様はトリア様の祖父にあたる間柄なのだ。」


 その一言で大体の事情はわかりました。

 トリア様は既に何処に出しても恥ずかしくない立派な方へと成長なされているのに、シゲン様の中ではトリア様がまだ幼く自分に懐いていた頃のままのイメージなのでしょう。


「御客人方、申し訳ない。シゲン様は大きなショックを受けてしまったようなので今日の食事会はここまでとさせていただきたい。」


 こうして側に控えていたゼイノビさんの提案で食事会はお開きになりました。

 部屋に戻る途中でダグラス先輩が話しかけてきます。


「この後、自分はゼイノビ殿に同行してもらい外を歩き監視の注目を集めておく。その隙にギルド長への現状報告をしてくれたまえ。」

「了解しました。」


 ダグラス先輩が動いてくれる様なので借りている自室に戻ってさっそく通信用の魔道器で報告を始めます。


「トリア様、聞こえますか?」


 こちらの呼び出しに少し間をおいて応答がありました。


「聞こえるわ。どうやら無事に到着できたようね。早速だけど現状報告をお願いできるかしら。」

「はい。現在我々は無事にエルフの里の協力者と合流しています。作戦の進行状況ですが、ターゲットである御令嬢が囚われている正確な場所がまだわかっていないのでシキシマさんに調査してもらっている段階ですが、明日中には特定が完了する見込みです。」

「そう。シキシマなら問題無く特定できるでしょうから心配は要らないわね。奪還作戦の方だけど、ジャドの魔導術でやれそうかしら?」

「はい。そちらも術式を調整すれば問題ないとの見解てす。現在ジャドさんが術式を調整し御令嬢を転移させる為の魔導紙を作成中です。」

「当初の私が想定した通りの展開で、想定外の事態にはなっていないようね。他に何か報告はある?」

「えっと…シゲン様が手紙とか伝言とかが無いって落ち込んていました。」

「………あー、そうね…。それじゃあ……元気でいねって言っていたって伝えておいてちょうだい。」

「了解しました。」


 無事に報告も終えることができエルフの里での初日は順調な滑り出しができました。

ダグラスは仕事ができる男。

トリアがレリアを行かせる事を承認したのも、ダグラスがサポートに回ればなんとかなるとふんでのことです。

ちなみにサヤが顔をしかめながら食べていたのはピーマン的な苦手みのある野菜です。

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