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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
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到着

 隣で小さくて暖かい何かがモゾモゾと動くのを感じて私は目を覚ましました。

 薄く目を開けて周りを見渡し、今は任務でエルフの里に向かっている最中で、昨日はサヤさんと一緒に寝たことを思い出しました。

 馬車の窓に目を向けるとまだ夜明け前で起き出すには早い時間であることがわかります。


「ふぁ…サヤさん、もう起きるんですか?」

「…朝の修行の時間。」


 そう言うと一緒に包まっていた厚手の布から抜け出して馬車の外へ行ってしまいました。

 ぼんやりとした頭で改めて馬車の中を見渡すと私の反対側の席にダグラス先輩とジャドさんの姿がありました。

 シキシマさんは見張りをかって出てくれたので外にいるはずです。

 まだ少し眠いですが暖かい熱源になってくれていたサヤさんが出ていってしまったので、もう一度眠る気にはなりませんでした。

 サヤさんが修行を終えたタイミングで朝食の準備が終わっていたらサヤさんが喜んでくれると思ったので、少し早いですが朝食を作り始めることにします。

 馬車を出ると見張りをしているシキシマさんが焚いたのであろう焚火の臭いに混じって血の臭いがしました。

 血の臭いの発生源を探して周囲を見渡すと、ジャドさんが設置した地陣式魔導術によって体の一部を切断されて絶命した魔物が複数いるのが見て取れました。


「ジャドさんの術式…凄い。できれば起動しているところを見たかった。」


 思わず口からこぼれた呟きでしたが焚火の近くで待機していたシキシマさんが反応して返事をしてくれました。


「見事なものでしたぞ。『断空』殿の技に興味があったので魔物が来てもギリギリまで静観していたのですが、魔物が陣の中に踏み込んだ瞬間には両断されましたからな。『断空』の通り名は伊達ではないといったところでしたな。」


「まぁ、見事な技という点では、あちらも相当なもののようですが。」


 シキシマさんの視線の先には、腰を落として剣の柄に手を置きいつでも抜刀できる姿勢で佇むサヤさんの姿がありました。

 修行というからにはもっと激しい動きをするイメージだったので面食らってしまいました。


「あれは何をしているんですか?」

「おそらくあれは居合という技の構えでしょうな。」

「いあい…ですか?」

「『天眼』殿が最も得意とする剣の技で聞くとことによると、鞘の内部と刀身に纏わせた闘氣による力場で刀身を驚異的な速度へと加速させ防御力も回避も許さぬ協力無比な一閃を放つ絶技だそうです。『天眼』殿はこの技で後の先を制すことを極めたことで『近衛衆』の筆頭にまで上り詰めたと聞いております。」

「それは…なんか凄そうですね?」


 説明だけではいまいちピンときませんが、踏み込んだ瞬間に両断するという点ではジャド殿の技と近い技なのでしょうか?

 疑問に思いながらサヤさんの修行を見学させてもらっていたら不意にサヤさんが構えを解いて、てくてくとジャドさんが魔導術を仕掛けた辺りまで行くと何かを拾って戻ってきました。


「サヤさん、どうしたんですか?」

「……これ、投げて。」


 そう言って渡されたのはジャドさんの魔導術によってバラバラにされた魔物の死体の一部でした。


「えっと…サヤさんに向かって投げるんですか?」

「…うん。構えたら投げて。」


 突然のことで困惑しながならも、言われた通り再び先程と同じ構えを取ったサヤさんに向かって受け取った魔物の死骸を軽く放ります。

 緩やかな弧を描きながらサヤさんに向かっていく魔物の死骸はサヤさんの剣の間合いに入った瞬間、消失してしまいました。

 何が起こったのか全くわかりませんが、いつの間にかサヤさんが剣を振り抜いた姿勢になっているので斬ったとういことなのでしょう。

 魔物の死骸が消失した辺りの地面をよく見るとミンチのように細かく切り刻まれた肉片が落ちていました。


「ほぅ!これはお見事!闘氣を纏わせた剣閃が空間をも切り裂く領域にまで届いておりましたぞ!その齢でこれほどの技を身に付けておられるとは。『近衛衆』に見込まれるだけのことはありますな。朝から良いものを見せてもらいました。」


 サヤさんが凄いということはわかりましたが、私には具体的にどう凄いのかはいまいちわかりませんでした。

 サヤさんの方を見ると相変わらず無表情ですが心なしか誇らしげに見えます。

 もしかしたら先程の私とシキシマさんとの会話を聞いていて私に居合を披露してくれたのでしょうか?


「サヤさん、今のは私に見せるためにやってくれたんですか?」

「…うん。見たいのかと思って。」


 違った?とでも言いたげに少し首をかしげるサヤさんに思わずほっこりしてしまいました。


「見せてくれてありがとうございます。お礼に朝食でも腕を振るっちゃいます。」

「…たのしみ。」


 というわけで私は気合を入れて朝食を作ることになりました。




 朝食は昨日シキシマさんが採集してきてくれた果実でジャムを作り、持ち込んだ保存用のパンを薄く切って焼いた物につけて食べることにしました。

 パンは保存用なのでかなり固いパンなのですが、薄く切って焼けば硬さもそんなに気にならないでしょう。

 サヤさんに腕を振るいますと言ってしまった手前、手の込んだ美味しい料理を作りたかったのですがあまり調理に時間をかけられそうになかったので苦肉の策です。

 サヤさんが満足してくれるか内心心配だったのですが、サヤさんは一口食べた後に目を見開き一心不乱に食べ始めてくれたのでどうやら満足してくれたようです。

 朝食を食べた後は野営地を引き払い、再び馬車に乗り込んで今日の分の移動が始まります。

 昨日に引き続き今日もダグラス先輩が馬車の御者をかってでてくれました。


「ダグラス先輩すみません。今日も馬車の御者をしてもらって。」

「構わない。移動に時間をかけ過て状況が変わってしまったら元も子もない。君が御者をするよりも自分がやった方が迅速にことが運ぶ。現地に着いてからは君が中心になって動くことになるだろうからこれは役割分担というやつだ。」

「ありがとうございます。エルフの里まではあとどれぐらいですか?」

「今日中にはエルフの里がある森まで行けるはずだ。」

「では今日で馬車の旅は終わりになるんですね。少し残念です。」


 熟練の魔導士に魔導術についてじっくり聞くことができる機会はそうありません。

 馬車での移動は話をする以外することがないので私にとっては非常に有意義な時間です。


「できるだけ早く着きたいから今日は休みなしで移動しようと思う。だから昼食は各自で適当に済ませてくれ。」


 簡単な打ち合わせをした後、皆で馬車に乗り込み起動を開始しました。




 馬車での道中の移動は昨日と同じでシキシマさんは瞑想し、サヤさんは窓の外の風景をみていました。私とジャドさんも魔導術の話をして大変盛り上がっていました。

 暫く馬車で進んでいると窓の外を眺めていたサヤさんが見るのを止めて足をぶらぶらさせ始めます。

 風景を見るのに飽きたのかと思って私も窓の外に目をやると窓の外が白くなっており風景が見えなくなっていました。


「あれ?……これは…霧がでていますね。気象条件的には霧が発生する状況ではないはずなんだけど。」


 私が暮らしていた隠れ里でも早朝などに霧が発生することがありましたが、その時は前日に雨が降ったり急に寒くなったりといったことが重なっていました。

 道中で雨が降っていた様子はありませんでしたし気温が急激に下がったわけでもありません。


「目的地が近いということでしょう。エルフの里がある森は湿度や気温に関係なく常に霧に覆われておりますからな。」


 私の疑問にシキシマさんが解説してくれました。


「自然現象ではない霧……それはつまり魔導術で霧を作り出しているということでしょうか?」

「魔導術かどうかはわかりかねますが、あの霧には方向感覚を狂わせたり狂ったり森の奥にたどり着けなくする効果がありましたな。」

「霧は濃いですが森の中央にある大きな樹はうっすらと見えています。あそこに向かって進み続けてばいずれはたどり着けそうな感じがしますけどそれじゃダメなんでしょうか?」

「傭兵の国の本隊があの樹に向かって一直線に進路を取ったことがありましたが、いつの間にか森の反対側を進んでおりました。あの森には来る者を拒む何かがあるのでしょうな。」


 目の前に広がる森を覆う霧は広大な範囲に広がっています。もし魔導術でこの霧を発生させているのだとしたらどんな術式なのかとても気になります。

 そんな私の様子を見てジャドさんも会話に加わってきました。


「いや、あの霧はどうも魔導術で作り出しているわけじゃないみたいだ。魔導術の影響を受けたらなんとなくわかるが、あの霧からはそいう感じがしない。それと、言葉では表現しにくいんだが空間が妙な感じになっている。……そいうえば、あの霧について前に総大将様が【星零樹】がなにか関係していると語っていって聞いたことがある。まぁ、オレも又聞きしただけで詳しくは知らないんだけど。」

「魔導術ではない別の力…そんなものがあるのですね。」


 超常的な現象を起こすのは魔導術の専売特許だと思っていたのですが、そもそも魔導術は魔王の魔力を研究して作られた技術でした。

 私が知らないだけで世界には魔力とは別の超常的な現象を引き起こせる力があっても不思議ではないかもしれません。


「トリア様からは森の入り口まで行けば依頼主側の勢力の人が迎えに来る手筈になっていると聞いていましたが、迎えに来る人達は迷わないのでしょうか?」

「なぜだかはわからないが、エルフはあの霧の中でも迷わないらしい。」


 結界が無く魔王の脅威が身近な外の世界でエルフ種の方々が集落を作れているのはこの霧のおかげなのかもしれません。

 そんな話をしていると不意にサヤさんが腰の剣に手をかけまじめました。


「サヤ殿、おそらくこれのは迎えの方々でしょうから一旦落ち着きなされ。」

「…斬らなくてもいい人達?」

「寧ろ斬ってしまっては大問題になりますぞ。しばらく静観するとしましょう。」


 そんな会話がされて私が状況をつかめずにいると馬車の外からの声が聞こえ始めます。


「止まれ。お前達は何者だ?」

「葉力の賢人シゲン殿の依頼で傭兵の国から来た者です。」


 馬車の外でダグラス先輩が声の主と会話始めたようです。


「むっ、長老様の御客人か。話は聞いている。ついてこられよ。」


 短い会話の後、再び馬車が動き始めました。どうやら無事に進むことができそうです。

 外の様子が気になりますが馬車が動き出したので降りて確認することはできません。

 ですが目的地はすぐそこだということはわかりました。

レリア氏、サヤの餌付けに成功。

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