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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
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出発

 目覚ましの魔道器が作動し目を覚ましました。

 昨日はシャマルと色々と話をしながら一緒のテントで寝たので起きた時に隣にシャマルの姿がありました。

 少し遅れてシャマルも起きたようで隣で目を覚ました気配がします。


「ふぁ…おはよう、シャマル。」

「んー……あれ?なんでレリアが…そっか、昨日一緒のテントで寝たんだっけ…おはよ。」


 いつもしっかりした印象のシャマルも流石に寝起きでまだ少し寝ぼけているようです。


「ふぁ~…普段は美容のために早く寝てるんだけど、昨晩色々と話しして夜更かししちゃったからまだ眠いわね…。」

「え?あれぐらいなら夜更かしの内にはいらないと思いますけど?」

「あんた普段何時に寝てるのよ…まぁ、いいわ。今日出発するんでしょう?」

「朝には集合だからもう準備して行かなくちゃ。」

「そう。じゃあテントを出たらしばらくお別れか…しっかりやって必ず元気に帰って来なさいよ。」


 こうして私はシャマルと別れて集合場所に向かいました。




 集合場所に着くとまだ集合時間より少し早いにも関わらず、既にトリア様とダグラス先輩、そして面識がない方が二人集まっていました。


「私が最後でしたか?すみません。」

「いえ、集合時間には少し早いし私達も今来たところだから問題無いわ。あと一人来る予定なんだけど…先に今いる手配した人員を紹介しておくわ。『先触衆』のシキシマ、『防人衆』のジャドよ。あと一人は『近衛衆』からも来てもらうことになっていんだけど…そのうち来ると思うから、ひとまずは先に二人に自己紹介でもしておいてもらいましょうか。」

「そういうことでしたら、まずは某が先陣を切らせていただこう。某は名をシキシマと申す。『先触衆』では既に役職を退いた老骨ではあるが、歳を食っておる分それなりの腕はあると自負しております。よろしくお頼み申す。」


 初めに自己紹介したシキシマさんは初老の男性でした。

 傭兵の国に来てギルド職員になってから色々な人達と関わるようになって、なんとなくですが強い人とそうでもない人の見分け方みたいなものがわかってきました。

 傭兵の国の日常は常に闘いの中にあります。当然ながら闘いの中で死んでしまうこともあります。

 故に初老といえる年齢まで傭兵の国で生き残ってきたこの男性は、まさしく文字通りの意味で百戦錬磨の実力者なのでしょう。


「オレはジャド。『防人衆』の所属で得意技は空間系統魔導術だ。」


 続いて自己紹介したジャドさんはボサボサの髪に無精髭を生やした中年の男性でした。

 ジャドさんの自己紹介で空間系統魔導術という言葉が出てきて私のテンションは跳ね上がりました。

 空間系統魔導術は使い手が極端に少ない為に資料などが少なく、使い手が個人で研究している場合が殆どなので情報があまりない謎に満ちた魔導術なのです。

 今は流石に自重しますが旅の間に話を聞く時間はあるでしょうからぜひ詳しく話を聞きたいところです。


「これはまた……大物が来ましたね。『朧霞』殿と『断空』殿に来ていただけるとは……。」


 二人の自己紹介を聞いて、隣にいたダグラス先輩が小さな声でそう呟きました。どうやらこの二人は傭兵の国でも名が通った方々のようです。

 傭兵の国では突出した実力で頭角を現した人には、その戦闘スタイル等から取った通り名が付けられる事があります。

 今ダグラス先輩が呟いたのは、おそらくこの二人の通り名でしょう。


「皆さん既にお揃いでしたか、少し遅れてしまいましたね。申し訳ない。」


 御二人の自己紹介が終わった所で背後から声をかけられ、振り返るといつの間にか目隠しをした白髪で長身の麗人が佇んでいました。

 その麗人は非常に整った顔立ちをしており、ぱっと見では性別が判断できない中世的の容姿をしていました。服装は異国のゆったりとした服を着ており体格がわかりずらいですが、立ち姿の骨格から推測するとおそらく男性だと思われます。ですが、傭兵の国には体格が良い女性もいらっしゃるので断言はできません。

 口ぶりからしてまだ集合場所に来ていなかった最後のメンバーでしょうか?

 そんな風に考えていると私をよそに私以外の皆さんはどうやらこの人のことを知っているようで、一様に驚きの表情を浮かべていました。


「これは驚いた。まさか『近衛衆』からは『天眼』殿が来られるのか?」


 皆さんを代表するようにシキシマさんが新しく現れた人物に問いかけます。

 あからさまに何かありそうな目隠しで目元を隠しているので、『天眼』というのはこの方の通り名なのでしょう。


「いえ、僕はただの見送りです。今回行かせようと思っているのはこの子ですよ。」


 そう言って『天眼』さんは自身の背後にいた人物を引っ張り出しました。

 その人物は黒髪のまだ幼さが残る顔立ちの少女でした。

 服装は『天眼』さんと同様の異国のゆったりとした服を着ており小柄な体格n不釣り合いな細身の長い剣を腰に帯びています。


「この子はサヤといって僕の弟子の一人なんですが、そろそろこういった任務を経験させるのもいい頃合いだと思いまして。見ての通りまだ若いですが実力はそれなりにあるので、皆さんの足を引っ張るような事は無いと思います。」

「ほぉ…『天眼』殿の弟子で「それなり」ですか…どれほどの実力か興味がありますなぁ。」


 その言葉を最後にさっきまでそこに居たはずのシキシマさんが突然居なくなりました。

 何が何だか全くわかりませんが本当に忽然と目の前から消えて居なくなりました。

 それに対してサヤさんは腰を落とし何時でも腰に差していた剣を抜ける体勢を取り、鋭い視線をあっちこっちに向けはじめました。

 二つの瞳が見えない何かを追いかけるように忙しなく動き周り少しずつ空気が研ぎ澄まされていくような緊張感が漂い出します。

 ひりついた空気ようなものが流れ、固唾を飲んで見守っていると突如弾かれたようにサヤさんが大きくその場を跳びのき、同時に少し離れた所にシキシマさんが姿を現しました。


「一緒に行く以上、同行者の実力が気になは当然のことですが、出発前なのでその辺にしておきましょうか。」


 どうやらサヤさんを連れて来た『天眼』さんが仲裁に入ったようです。

 何をしたのかはわかりませんがサヤさんやシキシマさんが冷や汗を流しているようなので、何かをしたのは間違いないでしょう。


「失礼、年甲斐もなく少しはしゃいでしまいましたな。ですが、サヤ殿は某の動きをある程度捕捉できていた様子。まだ年若いのに見事なものです。」


 シキシマさんが矛を収めサヤさんを賞賛する形で事態は収束しました。


「はいはい!戯れるのもその辺にしてさっさと自己紹介して出発してもらうわよ。」


 トリア様がその場を仕切り直しお互いの自己紹介が再開されました。


「ほら、サヤも自己紹介しておきなさい。」

「………サヤです。」


『天眼』さんに促されてサヤさんが自己紹介をしますが、名前だけをボソッと口にしただけで自己紹介を終えてしまいました。


「すみません、この子はちょっと人見知りが激しくて。」


 すかさず『天眼』さんがフォローを入れますが、サヤさんは話すべきことは全て話したとでも言いたげな雰囲気で再び口を開くことはありませんでした。

 ひとまず今回同行してもらえる三人の自己紹介が終わったのでそれに続いて私とダグラス先輩も自己紹介を終わらせます。

 顔合わせが終わったので最後に今後の流れを打ち合わせして出発することになりました。


「今回は先日来たエルフの里の方々から受けた依頼を三人にこなしてもらい、そこに研修としてギルト職員と職員の新人が研修として同行するという体裁で現地に行ってもらうことになるわ。移動にはギルドで管理している馬車と騎獣を貸し出すから利用してちょうだい。」


 今回は迅速な対応が必要だからか、どうやら移動に便利な騎獣付きの馬車が使えるみたいです。長距離を歩くことになるかもと覚悟していましたが、この分なら移動の負担は少なくて済みそうです。

 御者をダグラス先輩がかって出てくれたので残りのメンバーは馬車に乗り込み出発しました。




 馬車に乗っているメンバーは私も含めて積極的に会話するようなタイプの人がいないようで、馬車内は少し気まずい沈黙に支配されていました。

 シキシマさんは目を閉じて瞑想しており、ジャドさんは手帳のようなものを取り出して考え事をしながら何かを書き込んだりしています。

 サヤさんは窓の外から見える風景が珍しいのかずつと視線を窓の外に向けたままです。

 沈黙に耐えかねて何か話題は無いかと視線を巡らせるとちらりと見えたジャドさんの手帳の中身に目が止まりました。

 複雑な文字や図形が書かれていましたが、おそらくそれは魔導術の術式に関するメモだと思われます。


「それはもしかして空間系統の魔導術の術式ですか?前から空間系統の魔導術について詳しく聞いてみたいと思っていたんです!ぜひともお話を聞かせて下さい!」


 先程までの沈黙の気まずさも忘れてつい好奇心に負けてジャドさんに話しかけてしまいました。


「ん?あんた魔導術に興味があるのか?」

「はい!とてもあります!」

「いいだろう。今ちょっと考えが煮詰まってて気分転換したいところだったし。それで、何が聞きたいんだ?」

「えーっと、まずは空間系統の魔導術の術式の構成についてとか聞いていいですか?」

「オレが使う空間系統の魔導術の術式は基本的には一般的な四大元素の術式をベースにして少し発展させた術式だ。具体的な違いは元素式の部分を空間に干渉する式にアレンジしている。」

「なるほど…聞いておいてなんですがそれってジャドさんの強さの重要な秘訣ですよね?ほぼ初対面の私なんかに簡単に話していいんですか?」

「構わねぇよ。空間系統の魔導術は当人の『導氣』が持っている波長みたいなものの相性が良くないとまともに使えないからな。術式だけ知ってても資質が無かったら意味がないものなんだよ。だから空間系統の魔導術使いは数が少ないんだけどな。」

「空間系統の魔導術は便利なものが多いと聞いてことがありますが、使い手が極端に少ないのはそいう理由だったんですね。」

「ああ、だからあんたがオレから何を聞いてもまともに魔導術を使えるようにはならないと思うぞ。精々質量が小さい物を短距離転移させられるようにはなる程度が関の山だな。」

「そうですか…。では早速詳しい話を…」

「オレの話を聞いてたのか?術式を教わったところで空間系統の魔導術使いになれるわけじゃないんだそ?」

「かまいませんとも!私がただただ知りたいから聞きたいのです!」

「……あんた変わってるって言われないか?」

「あんまり言われたことはありませんね。そんなことより具体的な術式についてのお話をぜひ!」

「わっ、わかった。わかったからそんなにグイグイ来るな。」


 馬車に乗った時は気まずい沈黙でどうなるかと思いましたが移動の時間は非常に楽しいものになりそうです。

三章に入ってから二回目の新キャララッシュ。

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