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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
レリア編
40/104

逃げ足の速さは大事

 昨日と同じように魔導器の振動で目を覚ましました。

 昨晩も昨日に引き続きついつい魔導書を読み耽ってしまったので少し寝不足気味です。

 眠い目をこすりながら朝の準備を始めます。

 今日の予定も昨日と同じような感じです。というかギルドの職員になってからの私の日常はほとんど昨日と同じように朝一番にギルドの撤収作業、移動、ギルドの再設営、ギルドでの雑務の流れです。

 身支度を整えてテントを出るとやはり同じようにシャマルと出くわします。

 数日だけシャマルの方が先輩なのですが、ほぼ同時期にギルド職員になったので生活のサイクルがほぼ一緒なので必然的に毎日のように顔をあわせることになるのです。


「おはよう、レリア。なんか今日も眠そうね。」

「ふぁ…おはよう、シャマル。実は昨晩も魔導書を読み耽っちゃって。」

「ほどほどにしときなさいよ。寝不足は美容に良くないんだから。」

「うん…そうだね。気をつけるよ。」

「ホントにわかってるのかしら?まぁ、いいわ。それより最近聞いた話なんだけど、アンセンブルって国で髪をサラサラにしてくれる薬液が流行してるんだって。私達って常に旅の空だからそういうの欲しいわよね〜。大漁生産されて私達にも手が届くようになったりしないかしら?」

「どうだろう?薬液を作る素材が安価で大漁に手に入る物だったらいけるかもしれないけど。」


 他愛もない会話をしながらギルドに向かいます。

 今日は移動した後にギルドの再設営を行うまで特別なことは何も起こらない少し退屈な普通の日常でした。




 ギルドの再設営後に雑務をこなしていると昨日に引き続き今日も珍しい来客が現れました。

 今度の集団は服装にある程度の統一感はあるものの、昨日のように鎧等の防具が全て同じ物というわけではありませんでした。

 動きも統率が取れているという程ではない様子でしたが、それでも彼らが同じグループに所属していることは一目瞭然でした。

 なぜなら彼らは全員同じ種族、エルフ種の集団だったからです。


「我々はエルフの里から来た者だ。傭兵の国の総大将殿に取り次ぎ願いたい。」


 どうやら、昨日と同じような目的でギルドに訪れたようです。

 これまた昨日と同じように先輩のギルド職員が対応しトリア様に取り次ぎました。

 ただ、今回は騒ぎたすような人はいなかったので話はスムーズに進んで一向は奥の区画に消えて行きました。


「ねぇレリア、なんか昨日見たような光景だけど何かあったのかな?」

「さぁ?でも、二日連続だし昨日の件と無関係ってことは無いんじゃないかな?」

「やっぱりそうだよね!何か事件のにおいがするよ!」


 シャマルは噂好きで変わらない日常にちょっとした変化をもたらすこの手の情報に目がありません。

 昨日は相手がどこかの国の騎士団でちょっとしたトラブルもあったので空気を読んでおとなしくしていたようですが、今日は何とか情報を得られないかとソワソワしています。

 先輩職員の視線を受けてすぐにおとなしくなりましたが、数日もすればどこかから情報を仕入れて私にも話してくれると思います。

 なので私は話の内容には気にも止めず今日もトリア様の音を外部に漏らさないようにする魔導術に思いを馳せることにしました。

 程なくして奥の区画から来訪したエルフ種の人達とトリア様が出てきました。


「では今回の件、くれぐれもよろしく頼む。」

「まったく…無茶な依頼をしてくれますね。なるべく穏便に事が運ぶように注力しますが…高くつきますよ。」

「こちらも無茶な依頼をしているという自覚はある。今回は事が事だ、当然相応の謝礼はしよう。」


 そんなやりとりを最後にして訪ねて来たエルフ種の人達は帰っていきました。

 その後ろ姿を見送った後、トリア様は大きなため息を吐いて頭を抱えます。


「ひとまず、お父様に話を通さないと…それから対応可能な人の選抜…おおっぴらには動けないからカモフラージュも必要………」


 自らの考えをまとめるように小声でブツブツと呟いています。


「悪いけど今日もちょっと出てくるから。後のことは任せるわ。」


 トリア様はそう言い残すと今日も何処かへ出かけて行きました。

 その後は、狩りに行っていた戦闘職の人達が次々と帰還し買い取のラッシュが始まりました。

 ギルドが一番混雑する時間帯なのですが、今日は新しい魔物のナワバリに入ったのか狩りの成果が多い日のようでいつもよりも忙しく動き回ることになりました。

 そのラッシュが終わって今日の勤務時間もあと少しといった時間になった頃、私にとっては待ち人となっていたアーガスさんがギルドに訪れました。


「フッ、今日の狩りは俺様の華麗な活躍で大成功だったな!」

「何が華麗な活躍だ。前に出過ぎてクラットに魔物が向かって行ってただろうが!」

「まあまあ、僕も最近は『獣氣活性』で動き回れるよえになってきたからそんなに危ない場面は無かったと思うよ。」

「それは結果論だ。俺はパーティーにおけるポジションの話をだな……」

「だか、俺様があそこで前に出なければ闘いはもっと長引いていたと思うぞ。」

「そういうふうに動くなら事前に一声かけるなりなんなりあるだろ。」

「そこはお前を信頼しているからで……」


 アーガスさんは現在、ディオンさんとクラットさんの三人で固定のパーティーを組んで活動しているようで、いつも今のような様子でギルドに訪れます。

 それぞれ狩りの成果と思われる魔物の素材を抱えているので買い取りの為にギルドを訪れたのでしょう。


「本日はそちらの買い取りでしょうか?」

「はい。お願いします。それと近くの森で採取したものもあります。」

「魔物は…剛毛剛角羊ですね。採取された物はキノコ、樹の実、野生の根菜…全て食用になる物ですので買い取り可能です。買い取り料金の計算をしますので少々お待ち下さい。」


 ギルド内で待ち時間ができたみたいなので今のうちに話しかけて約束を取り付けておくことにします。


「こんにちは、アーガスさん。後でちょっとお話したい事があるんですが……。」

「あぁ、レリアさん。こんにちは。話し…ですか?それなら今ここででも構いませんけど。」

「いえ、今は勤務中ですので。もう少しで勤務時間も終わりますのでその後に少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?」

「なにぃ!この俺様を差し置いてアーガスが逆ナンされているだと!」

「うるさい。そいうのじゃないから黙ってろ。……わかりました。では屋台区画の鉄級通りの辺りで待ち合わせしましょう。」

「ありがとうございます。」


 一瞬話が脱線しかけましたが無事に約束を取り付けることに成功しました。

 その後、アーガスさんはディオンさんに説教を始めたので私も仕事に戻ることにします。




 無事に報酬の受け渡しが終わってアーガスさん達もギルドから去り、ギルドを訪れる人が疎らになった頃に受付業務をしていた先輩のギルド職員から声をかけられました。


「レリアさん、悪いんだけどちょっと私お花を摘みに行きたくってね。少しの間だけ受付業務に入っててくれない?もう人も少ないし一通りのレクチャーは受けてるから大丈夫よね?」

「はい、大丈夫だと思います。」

「じゃあ、よろしく。」


 ということで少しの間だけ受付業務をすることになりました。

 おそらくこのタイミングでギルドに来る人はそういないだろうとたかをくくっていましが、予想に反して来訪者が現れました。


「しばらくぶりだね。調子はどう?」


 そう言って声をかけてきたのはフウさんでした。


「あっ、フウさん。おかげさまで順調です。フウさんにギルドの仕事を紹介して貰えてたすかりました。でも珍しいですね。フウさんはあまりギルドには来ない人だと思っていました。本日はどのような御要件でしょうか?」

「ちょっと聞きたいことがあってね。」

「そうでしたか。あいにく今はギルド長は外出していまして…」

「うん、知ってる。だから今来たんだよ。それでちょっと聞きたいんだけど、昨日と今日に来た来客ってどんな感じだった?」

「すみません。あいにく私はその事に関して何も情報は持っていないんです。」

「そう……トリア姉…じゃなくてギルド長はどんな感じだった?」

「なにか緊急で総大将様に会いに行かれました。」

「その時に何か言ってなかった?」

「特には……あっ…でも、おおぴらにできないとか対応可能な人の人選をとかって呟いてました。」

「ふ〜ん………なるほどありがとう。ところでフウちゃんも久しぶりに勤労意欲が湧いてきたから何か手頃な依頼でも受けようって思ったんだけど、何かいい感じの依頼とかってある?」

「えっ…依頼ですか?そうですね……商人の方からこの辺りをナワバリにしている魔物の素材が欲しいって依頼がいくつかあります。こちらがその依頼書です。」

「どれどれ………おっ!よさそうなのがあるじゃない。じゃあこの依頼を受けるわ。手続きをお願い。」

「わかりました。ギルド証の提示をお願いします。」

「ほいほい。」

「はい。確認しまっ…えっ!フウさんって銅プレートなんですか!?」

「そうだよ。フウちゃんって繊細だから闘いとかってあんまり向いてないんだよね。それよりも手続きをお願い。」

「あっ、すみません。少々お待ち下さいね………はい手続きは終わりです。依頼、頑張って下さい。」

「ありがと。じゃ、またね〜。」


 そう言い残すとフウさんは足速にギルドを去って行き、それと入れ替わるようにトイレに行っていた先輩ギルド職員が帰ってきました。

 戻って来た先輩は少し慌てた様子でした。


「ねえ!戻ってくる途中でフウ様を見かけたんだけど、ひょっとしてフウ様がギルドに来た?」

「はい。依頼を受けて帰られました。」

「あーーー、やられたっ!」

「えっ?ひょっとして私、何かやっちゃいました?」

「いえ…これは説明してなかった私の落ち度だわ。気にしないで。……レリアさんはそろそろ定時ね。詳しい話はまた後日するからもう上がってもらっていいわよ。……はぁ……ギルド長になんて説明しよう……。」


 よくわからないけれど、どうやら私は何かしてしまったようです。何をしてしまったのか詳しく聞きたいところでしたがアーガスさんとの約束があります。

 説明はまた後日ということなので、少し後ろ髪を引かれる思いですが自分の予定を優先させてもらうことにしました。




 シャマルに今日は用事ができたと告げて別行動をとり、屋台区画の鉄級通りに向かいます。

 鉄級通りとはその名の通り、価格設定や出される食事の量が鉄プレート級の人達向けの屋台が並んでいる区画で、簡単に言うと量たっぷり・味付け濃いめ・価格据え置きというお店が多く並んでいる区画です。

 私やシャマルは戦闘職の人達程多く食べないので、普段は量を少なくしてその分味に力を入れている屋台が多い区画で食事をするのがほとんどなのでこの辺りの区画にはあまり来たことがありません。

 人混みが多い区画なので無事に合流できるか少し不安でしたが、アーガスさんが区画の入り口付近の目に付くところで待っていてくれたので無事に合流する事ができました。


「すみません。お待たせしました。」

「いや、先に軽く食事していたからそれ程待ってはいない。急いで来たようだし、レリアさんは食事はまだだろ。お勧めの屋台があるからそこで食事を買ってから話そう。」

「はい。ありがとうございます。」


 アーガスさんがお勧めしてくれた屋台で食事を買って落ち着いて話ができる場所に移動しました。

 話をどう切り出そうかと悩みながら、ひとまず買ってきたご飯を食べて沈黙が不自然にならないようにします。

 気を遣ってくれたのかアーガスさんも同じ屋台でご飯を買っていたので二人で並んで食事をしながら会話の糸口を探します。

 ですが、悩んでいても結局どう聞けばいい思いつかなかったので勢いに任せて聞いてみることにします。


「その……アーガスさんには復讐したい相手がいたって話を聞いたんです。だから…その……できればお話を聞きたくて……。」


 なんと聞けばいいのかわからずにたどたどしいく口を開く私でしたが、アーガスさんは私の事情を知っていることもあってすぐに私が何を聞きたいのか察してくれたようです。


「なるほど……そういう話か。そうだな……なら、まずは俺の生い立ちから話すことにしようか。」


 そしてアーガスさんは自分の生い立ちから、復讐したいと思う相手がどうしてできたのかという経緯、復讐を誓った相手との結末を話してくれました。


「ーーーーーという感じで俺は結局、ぶっ殺してやりたいと思っていたあの男を直接殺すことはできなかったんだ。」

「そう……ですか。では復讐は果たせなかったんですね。」

「そうだな。この手で息の根を止めるという目標は果たせなかった。でも、その後にザイードに出会ってあいつの提案で顔の原形がわからなくなるまでにぶん殴りまくったから結構スッキリはしたな。」

「ぶん殴りまくった……ですか?」

「ああ、反吐が出るほど偉そうだったあの男の顔面を気が済むまで殴ってやった。それで……レリアさんが聞きたい本題は、俺が復讐の為に人生を捧げた事に後悔は無いのか…だろ?」

「っ!………はい。正直、私は兄の件で魔王に復讐するべきなのかどうか迷っています。」

「そうだな………俺の時とは復讐の相手も状況も何もかもが違うから、俺の口から復讐は辞めるべきだとかした方がいいとはか言えない。ただ、結局のところ自分がどうしたいかなんだと思う。俺の場合はあの男に復讐したところで母は喜んてはくれないだろうし、そんなことに命をかけるよりも自分の人生を生きて幸せになって欲しいって願ってくれていたと思う。だけど、俺はこの道を選んだし後悔など微塵もしていない。俺はそうしないと人生の人生ってやつを始められなかったからだ。死者の願いで踏みとどまるのも一つの道だと思うが、そうすると残された者は一生、心の何処かにモヤモヤとした後悔を抱えて生きていくことになる。そして、そのモヤモヤは大切な誰かとの楽しかった思い出すら上書きして一生こびりつくことになる。それはつまり、死んでしまった大切な誰かとの絆が自分にとっての呪になってしまっているってことだと思う。」

「絆が……呪いに…」

「全てをかけて俺を愛してくれた母との絆を呪にしたまま一生を過ごすなんて俺には耐えられなかった。もし過去に戻って道を選び直せるとしても、俺は何度だってこの道を選び続けると思う。」

「………ありがとうございました。とても参考になりました。」


 アーガスさんの話を聞いて何か求めている答えに近づけた気がしました。


ディオンとクラットがちょい役で再登場。

ちなみにこの頃のアーガスは身体強化の魔導術を覚えたのでディオンとの模擬戦の勝率を五割ぐらいにまで戻すことに成功しています。

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