事件の足音
設定しておくとその時間に振動する魔道器が起動して眠っていた私の体をゆらし目を覚ましました。眠い目をこすりながら魔道器を止めて朝の準備を始めます。
ギルドは就職する為に読み書き計算等の基礎能力が要求されますが、ギルド職員になると一定の生活保護や生活に必要な道具を貸し与えられるという特典があります。
私が今寝泊まりに使っているテントもさっき私を起こしてくれた魔道器もギルドから貸し与えられいる物で、その他にも勤務時間によっては食事も出してくれます。
テントを出ると同僚で友人のシャマルが同じようにテントから出てくるところに出くわしました。
「おはよう、レリア。」
「ふぁ……おはよう…シャマル。」
「なんか眠そうね。」
「昨日買った魔導書を読んでたらちょっと夜更かししちゃって…。」
「しっかりしなさいよ。今日の作業の流れとかはちゃんと思い出せる?」
「今日は確か…朝一番にギルド本部の撤収作業でその後に移動。日が傾き始める前まで移動して、日が沈む前までにギルド本部を再設営。設営後からはギルドの雑用…だったかな。」
「頭はちゃんと働いてるようね。ギルド本部の撤収が終わったら朝食が出るからさっさとやってパパッとやっちゃいましょう。」
シャマルと一緒にギルドに向かい夜勤を勤めていた先輩のギルド職員や私達同様に朝から勤務のギルド職員と合流しました。
ギルドは基本的に常時誰かが勤務しており人がいなくなることはありません。
夜行性の魔物を狩りに行く戦闘職の方もいるし、ギルドからの依頼で夜間の警邏を行う人もいるのでその対応の為にギルドに職員が必要になる場合があるからです。
「来たか。早速だがそろそろ撤収の準備でテントを畳むから手伝ってくれ。」
「おはようございます。先輩達はまだあがらないんですか?」
「撤収準備が終わるまではいてくれって言われてる。撤収作業は人手があった方が早いからな。」
先輩職員達と協力してギルドのテントを解体して移動の準備をします。ほぼ毎日のようにこの作業を行うので流石に私も慣れてきましたが、先輩職員達は年季が違うので凄まじい速さでテントを解体していきます。
ギルド本部はかなり大型のテントなのですが熟練者の先輩職員達が連携しあっという間にバラバラの部品と布の山に解体されました。
「よし!片付いたな。今回、テントの部品や荷物はアークケイロンが運んでくれる手筈になっているからこの場に残して置いていい。各自、朝食の引換券を配るから弁当を受け取って自分の荷物をまとめて移動までいったん待機。」
アークケイロンというのは傭兵の国の本隊の目印にもなっている巨大な亀型の龍の名前です。
ギルド本部を解体した部品と布の山だけでも運ぶにはかなりの重量なのですが、アークケイロンや時空系統の魔導術が使える人が運んでくれるのであまり問題にはなりません。
まとめ役の先輩職員から朝食の引換券を受け取り一旦解散になりました。
「お疲れ~。やっぱ先輩達の手際はとんでもないね。私もだいぶ慣れてきたと思うんだけど先輩達の手際の良さには全然敵わないな~。」
「そうだね。あの領域に私達がいくのはまだ時間がかかりそう。」
私とは別の場所で作業していたシャマルと合流して雑談しながら朝食のお弁当を受け取りに行きました。
ギルドと提携している料理人のところに先程受け取った引換券を渡せば朝食の弁当を貰えます。
「今日のお弁当は何かな~。お肉は流石にそろそろ飽きてきたんだけど。」
「まぁ、傭兵の国は狩猟民族だからね。肉料理がメインになるのは仕方がないと思うよ。食事が出るだけでもありがたいと思わなきゃ。」
「それはそうなんだけど、でもこうも連日お肉だとね流石にね~。」
そんな雑談をしながらお弁当を受け取り、その後は自分達の移動の準備に取り掛かりました。
ちなみにお弁のメインはやっぱりお肉料理でした。
お弁当を食べて終えて荷物をまとめた後、ギルドの職員が利用できる運び屋に荷物を預けると私の移動の準備は完了しました。
私が荷物を預け終わったあと少ししてシャマルも荷物を預けにきました。そのまま合流して少し雑談していると空に魔道術が打ち上げられ移動が始まります。
腹這いの状態で横たわっていたアークケイロンが起き上がり動き出します。見上げるほど大きな巨体が動き出すその様は何度見ても圧巻です。
アークケイロンの後を追うようにして私達も歩き出します。
傭兵の国の移動は徒歩や飼いならした魔獣の牽く荷車に乗ったり魔獣そのものに騎乗したりと移動の仕方は様々で、長蛇の列を作りながらアークケイロンの後に続くように移動します。
これほどの大規模な集団での移動ともなれば、当然目立ちますし本隊から遅れる人達も出てきます。
そういった人達を狙って魔物も集まってくるのですが、戦闘職の人達はそんな魔物を逆に狩ってし今日の晩御飯にしてしまいます。
基本的にはこのまま日が沈む少し前まで移動して、日が沈みきる前までに野営の準備を終わらせてるのが傭兵の国のでの日常です。
移動中は流石にシャマルとお喋りする余裕はありません。もしも集団についていけなくてはぐれてしまった場合は自己責任だからです。
そうなってしまったときに見捨てられないように傭兵の国の中に知り合いをたくさん作っておき、困ったときに助けてくれるように普段から自分自身も周りの人達に親切にしておくことがこの国で長生きする秘訣らしいです。
アークケイロンの移動速度はそれ程早くないので足に怪我をしていたり、何か病気を患っているなどの悪条件を抱えてなければ置いて行かれることもないし、アークケイロンの巨体を見失うことはまずありえないのではぐれる心配はほどんどありませんが、魔物の襲撃で戦闘に巻き込まれたりすることは十分あり得るのでお喋りをして体力を消耗するわけにはいきません。
ある程度の安全はありますがそれでも死と隣り合わせの日常が当たり前なのが傭兵の国での生活です。
今日も無事に移動を終えることができたのでギルド本部のテント設営をします。
熟練のギルド職員の先輩達の手によって驚くべき早さギルド本部のテントが建ちました。そのギルド本部のテント内で雑用の仕事をしていると珍しい来客が現れました。
集団でギルド本部を訪れたその集団は統一された鎧を身に着け統率が取れた動きをしていました。
鎧に汚れがほとんど無く身なりが全体的に綺麗なことから、傭兵の国の住人ではなさそうです。
どうすべきか迷っているとギルド職員の先輩が集団の代表と思われる人のところに話を聞きに行きました。
「もし、すまないがギルド本部というのはここでいいのだろうか?」
「はい。ここがギルド本部です。どういった御要件でしょうか?」
「我々はラガンジャ騎士団の者だ。ここに来れば傭兵の国の上層部の者に取次いでもらえると聞いた。ひとまずギルドの責任者に会わせてほしい。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
どうやら、重要な話があるみたいでギルド長に面会を求めているようです。
先輩ギルド職員がギルド長を呼びに行き、すぐにギルド長が出てきて対応し始めました。
「お待たせしました。私がギルド長を務めておりますトリアという者です。奥に部屋を用意しましたのでそちらでお話をお伺いします。」
「すまない。できれば傭兵の国の総大将殿と話がしたいのだが……。」
「総大将様は多忙のみです。ですので私の方で一度お話を伺います。」
「むぅ……そうか。では……」
「おいキサマ!我々がわざわざ出向いてきてやっているというのになんだその態度は!。御託を並べる前にキサマらは黙って我々の前に総大将とやらを連れてくればいいんだ!」
話がまとまりかけていたところでしたが騎士団の一人が声をあげました。
その発言でギルド職員一同は全員内心で冷や汗をかくことになりました。傭兵の国では「自分よりを弱い存在にナメられたらわからせろ」というのが常識だからです。
事実、横柄なその態度にギルド内にいた戦闘職の人が一瞬で戦闘態勢になり動き出そうとしましたがトリア様が視線でそれを制して止めます。
「黙れ!お前に発言を許した覚えはない!」
「なぜこんな誇りも持たない野良犬の集まりのような野蛮な者達に礼を尽くす必要があるのです!こんな者達に下手に出れば栄えあるラガンジャ騎士団の名が泣きます!」
「黙れと言った!十二年前に起こった帝国と傭兵の国との戦争の顛末を知らぬとは言わせん!戦傭兵の国は少なくとも軍事力においては我らに匹敵する程の戦力を持つ集団だ!キサマの発言一つで外交問題に発展しかねんということを理解しろ!」
「ですが!」
「これ以上の狼藉は許さん!ここから先の話し合いはわたしだけで行う!貴殿は傭兵の国から出て頭を冷やしてくるがいい!」
騎士団の方も代表の方が発言した人を強くを諫めて一触即発の事態は収束しまし。
ギルド長と騎士団の代表の方がテントの奥に消えて行き、程なくしてテントの奥からの音が一切聞こえなくなくなりました。
テントには防音機能はないのですが、ギルド長のトリア様は魔導士としても一流以上の腕を持っている方なので何らかの魔道術を発動させて音が外に漏れないようにしたのでしょう。
「ねぇレリア。何の話なんだろう?」
「さあ?でも重要な話なら私達にはあんまり関係ないんじゃないかな?」
近くで作業していたシャマルが話しかけてきますが、私としては話の内容よりもトリア様が使用した魔導術の方が気になります。周囲に音が漏れないようにする魔道術は憶えられたら何かと便利そうです。
興味深い魔道術に思いをはせながら雑用の仕事をしていると、それ程時間がたたずに話し合いが終わったみたいで奥の区画から出てきました。
「それでは先ほどの件で何か情報が入れば我々にも共有を願いたい。もちろん相応の謝礼はさせてもらうのでくれぐれもよろしく頼む。」
「承知しました。今回のお話は私の方から責任を持って総大将様に伝えさせて頂きます。」
何やら念押しをした後、騎士団の方は帰って行きました。
「ちょっと総大将様のところに報告に出ます。帰りが少し遅くなるかもしれないから後のことはよろしく。」
「了解しました。」
その背中を見送った後、トリア様は職員にギルドの事を任せて出ていきます。
この日はどこかの騎士団の方々が訪ねてきた以外は特に代わり映えのない日常で、話を聞きたいと思っていたアーガスさんのギルドには現れませんでした。
傭兵の国のギルドは市役所みたいなものなので職員はいわば国家公務員です。
報酬として金銭の受け渡しや申し送りで記録を残す必要があるため読み書き計算ができることはギルド職員の必須能力です。
この世界の識字率は低めなので読み書き計算ができるだけで就職が有利になります。




