闘う理由
あけましておめでとうございます。
急いでテントに戻った私とシャマルは洗濯物をまとめておいた籠を持って他の女子衆の皆さんと合流し、その後みんなで本隊の近くある川にやってきました。
女子衆以外にも沢山の女性達が集まっていて凄い数の人達がいます。贅沢に水が使える機会は貴重なのでおそらく傭兵の国の女性のほとんどが集まって来ているようでした。
「さて、始める前に目隠しをしておこうかね。始めとくれ!」
キキョウ様の号令で傍に控えていた女性の一人が空に向かって魔導術を放った。
勢い良く放たれたその魔導術ははるか上空で炸裂し大きな音をたてて爆発した。
「わぁ!今のはひょっとして火の元素の三乗掛けの爆発の魔導術でしょうか!書物で読んで存在は知っていましたが実物は初めて見ました!それにあんなに離れた所に点位を設定できるなんてどんな術式なんでしょう?」
「私の見立てだとちょっと違う。爆発にしては響いた音が大きかったからあれは多分、火の元素の三乗掛けに加えて風の元素も掛け合わせた爆風の魔導術。」
「ん、更に付け加えると点位が設定されている位置はあの魔道術が爆ぜた場所よりもだいぶ下の方だと思われる。あんな遠くの位置に点位を設定するのは至難の業だからおそらく、使い捨ての触媒を加速さて打ち上げて落下が始まった瞬間に魔導術が発動するようにしてあったんだと思う。」
私の独り言に誰かが反応して話しかけてきました。ビックリして振り返るとそこには以前知り合ったカリナさんとコリナさんが居ました。
「カリナさんとコリナさん!」
「ん、久しぶり……というほどではないか。」
「確か五日前にギルドに行った時にあったから五日ぶり。」
確かに私は職業柄戦闘職の人達とはよく話すので五日ぐらい前に顔を合わせていました。
考えてみれば傭兵の国のほとんどの女性が集まって来ているので彼女達が来ているのも当然かもしれません。
突然私達が集まっている場所を囲むように地面が隆起し始め、あっという間に外部から隔離する壁ができました。
「一瞬で壁が!こんな大規模な魔導術をいったい誰が!」
「これはおそらく総大将様がやったんだと思う。」
「総大将様が!?ちょっと意外です。」
実は一度だけ、キキョウ様に会いに来た総大将様を遠くから見たことがありました。
キキョウ様は鬼人種という種族がら身長が高いのですが、総大将様はそんなキキョウ様が見上げるほどの高身長で全体的に身体が大きかったのを覚えています。
遠くから見ても高身長で体格が良いのがわかったのでてっきり前衛職で闘うタイプの御方なのかと思っていたので魔道術に関しては疎いのかと思っていました。
「確かに総大将様は見た目からは完全に前衛職にしか見えないけど魔道術に関しても超一流の実力者。ただ、普段は一々術式を構築するよりも直接動いて攻撃した方が早いからって殆ど魔道術は使わないって聞いたことがある。」
確かに魔導術の発動には仕込みが必要なので、仕込みをするよりも直接攻撃して相手を仕留められるなら魔導術を使う意味は無いのでしょう。
とはいえ、魔導術の規模が大き過ぎてどんな術式なのか見当もつかないレベルのものを簡単に行使できるのは流石としか言いようがない。
普段ならどんな術式なのか色々と考察するところですが、この魔導術は何がどうなっているのか全くわかりません。
早々に考察を諦め、それよりも傭兵の国での生活がながいお二人に出会えたので疑問に思っていることを聞いてみることにします。
「そういえば、洗濯するのは良いんですかど乾かすのはどうするんですか?流石に洗濯物の数が多過ぎて干す場所が無いと思うんですが?」
「すぐに誰かが始めると思うから見てたらわかる。」
曖昧な返事をされて教えてもらえませんでした。
仕方がないのでとりあえず洗濯を始めることにします。
洗濯を始めて少ししたらあちこちで不思議な光景が広がります始めました。
頭の上で洗濯物がぐるぐると乱舞し始めたのです。
おそらくこれは魔導術による現象でしょう。さっそくどのような魔導術なのか観察することにします。
「凄い!あの魔導術の元素は火の一乗と風の二乗の混合でしょうか?それに魔導術の範囲が球形になっています。これは、点位を四つ設定して術式に立体の概念を盛り込んだ後、別で二つの点位を設定して距離の概念を創り、そこに立体の式を掛け合わることで術式の効果範囲を球形にしている?」
「ん、正解。洗濯が終わったらあそこに放り投げたら良い。魔導術の温風で洗濯物はすぐに乾かせる。ちなみにわざわざ効果範囲を球形にしているのは三角形だと内部の温風の動きが偏って均一に乾かせないから。」
「なるほど!元素も三乗ですし点位は最低でも六個設定してあるわけですからあの魔導術も高度な術式なんでしょうね。」
「そうでもない。あれは昔、傭兵の国で活躍したドラムという人が編み出した魔導術で、立体の概念を創り出す四つの点位を仮想点位としてテンプレート化することで簡略化した術式を組み込んだ魔導術。テンプレート化した術式を理解してしまえば、元素を三乗掛けした攻撃術式とそこまで変わらないから制御も難しくないしそんなに複雜な術式でもない。なんなら、術式を教えてあげるからやってみたらいい。」
「私がですか!?」
「ん、首から下げているペンダントは触媒でしょう?」
午前中に行った買い物で魔導書の他に、よさそうなペンダント型の触媒があったので衝動に負けて買っていました。
触媒を試したいとは思っていたのですが突然の提案で戸惑ってしまいました。
「私にできるでしょうか?」
「いつか何処かでやってみないと永久にやったことがないことのまま。」
「レリアは基礎が出来ているからやれると思う。便利な魔導術だから覚えておくにこしたことはない。」
「…わかりました。やってみます。」
御二人に促された私は魔導術を使ってみることにしました。
カリナさんとコリナさんに魔導術の術式を教わりながら、買ったばかりの触媒に導氣を送って術式を構築してみます。
「いい感じ。そのまま術式が崩れないように注意しながら解放言葉を唱えて。」
「むむぅ…やっ、やってみます。えーっと『ドラム式乾燥風球』。」
私の言葉をトリガーにして魔導術が発動し、私の頭の上の空間に熱を持った風が循環する球形の領域が展開されました。
カリナさんとコリナさんは私が発動させた魔導術を観察した後、自分達の洗濯物を私の魔導術の影響エリアの中に放り投げながら口を開きました。
「よくできました。やっぱりレリアは基礎ができてるから飲み込みが早い。これたけできるなら少し訓練すれば戦闘員としてもやっていけると思う。」
「いやいや、無理ですよ!今できたのは時間がたっぷりあってゆっくりと術式を構築できたからで、魔物と対峙している時に相手の動きに注意しながら術式を構築するなんて私には無理です!」
「確かに戦闘中の術式の構築は難易度が高くなるけど、レリアなら訓練次第でできるようになると思うんだけど……」
「カリナ、無理強いするようなことじゃない。自分の戦場は自分で決めるべきもの。」
「自分の戦場は自分で決めるべきもの……。」
その言葉は私の心に深く刺さる言葉でした。
最近、生活が安定してきて余裕ができ始めたせいか色々と考えるようになり、自分の中にある迷いに気がつき始めました。
兄の件をこのまま過去にしてしまっていいのか?
私の戦場はここなのだろうか?
「御二人の闘う理由って何ですか?」
気がついた時には殆ど無意識に自然とこの問いを口にしていました。
カリナさん達は最初は突然の問に面食らったような顔をしていましたが、私の目を見た後に少してれくさそうに話してくれました。
「私達はある人の背中を見て強さを求めるようになった。いつかその人が私達の助けを必要とした時に、応えられる自分でありたいと思ったから闘い、力をつけることを選んだ。」
「ある人…ですか?」
「ん、お母さん。」
「私達は魔王の侵攻で滅んた開拓村で拾われた子供だった。そんな私達を育てて愛してくれたのがお母さん。」
「お母さんは事情があって傭兵の国を出ることになって今は近くにいないけど、複雑な立場の人だから助けになれる人は多いにこしたことはない。」
「だから私達はお母さんの反対を押し切って戦闘職に就いて力をつける道を選んだ。」
「大切な誰がが助けを求めた時に、応えられる自分でありたい…ですか。素敵ですね。」
御二人はポジティブな理由で理想の自分になるために闘う道を選んだ。今の私はそんなふうに闘うことをポジティブに捉えることは出来ないし、そんな気概も覚悟も無いから参考にはできませんでした。
「私達の話はもうおしまい。そろそろ水浴びと洗濯をしないと時間が無くなる。」
カリナさんは褒められたのが照れくさかったのか強引に話を切り上げてしまいました。
迷いの答え見つける参考にもう少し話を聞いてみたいところでしたが、これ以上は御迷惑になりそうです。
「闘う理由なんて覚悟を持った人の数だけある。何か迷っていることがあるならいろんな人に聞いてみるといい。」
コリナさんが最後にそう締めくくってこの場での話は終わり、私も水浴びと洗濯を済ませることにしました。
それから少し時間がたち、みんなの水浴びと洗濯が終わったのをみはからってキキョウ様が再び傍で控えてい女性に合図を出しました。
先程の魔導が打ち上げられ上空で炸裂すると、目隠しとして展開されていた魔導術が解除され隆起していた地面が元に戻り始めます。
その過程を改めて観察しますが、規模が大きすぎてやはりどんな術式なのか見当もつきませんでした。
目隠しが消えて私達からも向こう側の様子を見ることができるようになるとなにやら戦闘の後のような痕跡が見えました。
「私達が水浴びをしている間に外で何かあったのでしょうか?」
「大規模な魔道術を発動させたから魔物が集まって来たんだと思われる。まあ、覗きをしようとしたバカがシメられたって可能性もあるけど。」
どうやら私達が水浴びしている間にもひと悶着あったみたいです。やはり集団での水浴びは傭兵の国でも大きいイベントなのでしょう。
水浴びと洗濯が終わった後はもう一度シャマルと合流して夕食を食べに出かけました。
今は懐具合が暖かいので前から食べてみたかった少しお高めの屋台の料理を巡る計画です。
何件かの屋台で食事をした後、見知った顔の人を見かけました。
向こうも私に気付いたようで声を掛けてきました。
「レリアさん…だったっけ?」
「お久しぶりです。ザイードさん。今日は御一人なんですね。」
「ああ、オイラとアーガス達はまだまだ地力に差があるから、日常的にパーティーを組んでるわけじゃないんだ。だから最近はたまに様子を見みるぐらいでしか関わってないんだよ。」
「そうなんですね。」
「まぁ、基礎ができてるからそんなに遠くない内にあいつらも銀プレートに上がってくれるかもな。強くなろうって気概はしっかりあるみたいだし。特にアーガスなんかは復讐っていう目的が無くなって勢いがなくなるって危惧してたんだけど、ちゃんと新しい自分なりの闘う理由ってやつを見つけたみたいだからそんなに心配はしてないぞ。」
「えっ……復讐…ですか。」
「なんか初めて会った時にそんな感じだったぞ?興味があるなら今度本人に聞いてみるといいかもな。」
アーガスさんの過去に何があったのかはわかりませんが御話を聞ければ参考になりそうな気がします。
そんなことを考えていると蚊帳の外になっていたシャマルに肘で突かれました。
「ちょっとレリア。この殿方に私のことを紹介しなさいよ。」
小声でそう催促されたのでザイードさんにシャマルのことを紹介します。
ザイードさんはまだ若いのに銀プレートにまで昇格した将来有望な戦士なのでシャマルとしては知己の仲になっておきたいのでしょう。実際、少しお高めの屋台が立ち並ぶこの区画で日常的に食事ができているということはそれなりに稼げていることの現れです。
(明日は仕事だからアーガスさんに会うかもしれない。その時に少し話を聞けたいいな。)
紹介した途端に積極的にザイードさんに話しかけていくシャマルを尻目に私はそんなことを考えていました。
3章にしてようやく傭兵の国の総大将の人物像が少しだけ判明。




