プロローグ
私達家族は【星零獣】様の領域の森の中の隠れ里でひっそりと暮らしていました。
私達の家系はどうやら体質的に『獣氣』よりも『導氣』に対しての適性が高いみたいで、昔から他の獣人種の人達と比べて身体能力で劣っていました。
魔導術は術式を理解して構築しなければその力を使うことができず、それゆえ魔導術の存在を知る前の私達は獣人種のくせにどんくさい一族と軽んじられて隠れ里の中でも肩身が狭い存在でした。
そんなある日、傭兵の国という所から行商にやって来た人の一人と仲良くなりました。
彼女は魔導術の使い手で、私と兄は彼女との交流で魔導術という私達にも使える力の存在を知りました。
無力だった私達を変え、未来を切り開く魔導術という力に私と兄は魅了され競い合うように魔導術についての知識を身に着けていました。
しかし、隠れ里という閉ざされた世界では限界がありました。そのため私はいつしか外の世界を旅して色々な魔導術について知りたいという思いを抱くようになってました。
そんな生活を何年か続けているうちに転機が訪れます。
隠れ里で流行病が流行しはじめたのです。私や兄は若かったせいか比較的すぐに治ったのですが、両親は病が重篤化してしまいました。治療しようにもまともな薬は無い。兄は魔導術の本に書かれた少ない記述からなんとか両親を助けられる魔導薬を開発しようと頑張りましたが現実は残酷で、やがて両親は息を引き取りました。
それから兄は何もできなかった悔しさからか魔導薬の研究に没頭するようになりました。
そんな兄の姿を見て私は、私の中に芽生えた外の世界を旅してみたいという思いに蓋をして兄を支えようと決心しました。
それから数年は何事もなく穏やかなを日々が続きましたが、そんな日常はある日唐突に終わりを告げました。
兄が魔王に目をつけられてしまったんです。
色々あって最終的には兄は命を落とすことになりましたが、不幸中の幸いで助けてくれる人達がいたおかげで最後に兄とじっくり話ができる時間ができました。なので突然のお別れにならなくて済み、兄が息を引き取る直前まで私は兄と色々な事を話をすることができました。
兄の後悔と懺悔。自分が死んだ後の私物と財産、その他危険な研究資材の処理について。
ここ数年で知らず知らずのうちにすれ違っていた思いを伝え合いました。
そして、最後に私のこれからについて。兄は私にこんなことを言い残して息を引き取りました。
「レリア……最後になるがこれだけは約束して欲しい。決してあの魔王に復讐しようなどと考えないでくれ……私は魔王の依代にされたことで身に沁みて理解できた。魔王とは我々の様な者達が太刀打ちできるような存在ではない。真っ当に生きていく上で、あんなものとは関わってはいけない。」
その言葉に私は最初、素直に頷くことができなかった。
兄の想いを歪め踏みにじり、散々利用した挙句ゴミの様に捨てた。
とてもではないが許せることじゃない。
たが、兄の真剣な目に気圧されて私は最後には頷いていた。
「わかったよ…兄さん。」
その言葉を聞いて安心した兄は眠るように息を引き取りました。
兄が息を引き取った後、私の日常は劇的に変化することになりました。
天涯孤独になり家族との思い出がたくさんある家で一人で生きていくのは耐えられそうになかったし、今回の事件で知り合いになった傭兵の国の人達から誘いもあったので、隠れ里を出て傭兵の国で生きていくことしたからです。
傭兵の国に着いてからの数日は新しいことばかりで何かと忙しく、日々の生活のあれこれで忙殺されていたので兄の死について考えなくてすんでいました。
でも、ある程度生活にも慣れてきて余裕ができ始めた最近はふとに思い出すようになりました。
それは兄が息を引き取った後に関係者に話をしにいく時に、途中から同行してくれたフウさんと話した内容です。
「貴女には話しておかないとスッキリしないから言うけど、貴女のお兄さんが死んだ原因の一端はフウちゃんの判断ミスにもある。だから貴女にはフウちゃんを責める権利がある。」
「どういうことですか?」
「フウちゃんはあの矢が放たれた時、止められる位置にいた。でも止めなかった。言い訳にしか聞こえないだろうけど、あの矢が放たれた時の矢の軌道は絶対に貴女のお兄さんに当らない軌道で放たれていた。だからフウちゃんはあの矢は外れると判断して事態の観察を優先させた。その結果、矢に魔法がかけられている事に気付くのが遅れて貴女のお兄さんを助けられなかった。」
「……そんなことを言ったら私にも責任はあります。あの時、私はダッタさんの隣にいましたから弓を構えた時に飛び付いていれば止められました。それに、そもそも私が兄の異変に気付けていれば兄がおかしな行動をとる前に止められたはずです。」
そう、私には兄を止めるチャンスがいくらでもあった。兄が魔王の影響を受けていることにももっと注意していれば気がつけたはず。
兄を支えると決心しておきながら結局何もできていなかった。
兄は自分の死を愚かさの代償と言っていましたが、それなら私は何もできなかった事の代償として大事な人の命を失ったと言えるのでしょう。
そのことが後悔として私の心に残り続けている。
兄には復讐を止められた。実際、私ではどれだけ頑張っても魔王を討伐することはできないだろう。
だけどこのまま何もしないのであればまた同じ事を繰り返すことになるんじゃないのか?
私はどうするべきなんだろう?そんな考えを抱くようになった。
我々は大いなる意志によってこの世界に産み落とされた選ばれた存在だ。
世界の守護者としての役目を与えらた尊い存在だ。
だが、現状はその世界の守護者としての役割を十全に担えているかと問われれば否と答えざるをえない。
ゆえに正さなければならない。
本来与えられた役割を全うし我々の手によって真の安寧をもたらさなければならない。
幸いなことにここ数年は私のこの考えに賛同してくれる同士が急速に増えてきており行動を起こす準備が着々と整ってきている。
同士が急速に増えてきている陰には何かしらの不穏な存在の関与がありそうな気配があるが、こちらにも理があることなので精々利用させてもらうことにする。
私の考えに賛同しない頭硬すぎる長老達はその大多数が森へと還って逝っているので状況は良くなってきておりその面から見ても盤面は整いつつあると言えるだろう。
事を起こすにあたり不安要素としてあるのはやはり傭兵の国の動向だろう。
我々の行動に対して介入してくる可能性は低いだろうが、あの集団が持つ力は無視できない程に強大なのは事実だ。
事前に話を通し不干渉の約束を取り付ける事ができれば最良だが望みは薄いだろう。
まあ、奴らの在り方を考えれば裏でコソコソと動き回っている存在とつぶし合う展開になることが予想できるので上手くコントロールして利用させてもらうとしよう。
「カスケード様、各国に忍ばせている同志から情報が入りました。どうやらラガンジャで王族の血筋の者が王都から出て巡行に向かうようです。その際に派閥争いにより「事故」が起こる可能性があるとのこと。」
「その者の血筋は確かなのか?」
「はい。王弟の四女であり、結界への登録の儀も無事に済ませていると確認が取れています。」
「そうか…些かタイミングが良すぎると思わなくも無いがこれを逃すのは惜しいな……。よし、計画を次の段階に進めるとしよう。」
「おぉ!では遂に我らが動く時が来たのですね!」
「うむ、部隊の編成を行え。その御令嬢をこの地に招待して差し上げるとしよう。」
「了解しました!」
この数日後、大陸に存在する五つの大国の一つ、ラガンジャで王族の血を引く令嬢が謎の集団からの襲撃を受けて行方不明になるという大事件が起こった。
プロローグなので少し短いです。




