事後処理
「お二人は兄弟だったんすか!?」
フウさんのことを知っているはずのザイードから疑問の声が上がった。
「そうですよ、私は傭兵の国の総大将の長男として生まれました。フウは私の二番目の妹にあたります。今の若い方々には知らない人もいるんですね。まぁそれも仕方ありませんかね……十五年ぐらい実家には帰っていませんし。」
そう言いながら懐から傭兵の国の所属であることを証明するプレートを取り出した。
「白金プレート……本物で間違いない。」
プレートを確認したザイードが半ば呆然としながらも本物であることを確認した。
「でもこの前はハンターギルドに所属しているって…」
「それも嘘ではありません。確かに昔のハンターギルドの幹部達と父上との間には色々あったので、二つの組織は良好な関係とは言い難いですが別にどちらか一つの組織にしか所属できないなんて誓約はないんですよ。」
「貴方が総大将様の御子息であることは理解しました。でもそれならなんでフウ様と会った時に他人のふりをしてしいたのですか?」
俺も疑問に思っていたことをカリナさんが聞いてくれた。
始めてセイジ殿に会った時のやりとりは明らかに兄弟が再開した時の反応ではなかった。
「その方が色々と都合がよかったんですよ。私は星零獣の件とは別であの魔王を前々から追っていたんです。それであの魔王がこの辺りで何かしらの実験をしていることまでは掴んでいたんんですが、誰の背後に潜んでいるのかまではまだ掴めていなかったので何処に魔王の目があるかわらない状況でした。魔王にはまだ私という追跡者がいるとことは把握されていないはずなので慎重に動かざるをえないと考えていたところに、父上から星零獣の様子を見てくるように派遣されたフウが来てくれたので表立って動いてもらうことにしたんです。」
「久しぶりに会ったと思ったらいきなり他人行儀な話し方に加えて意味深なアイコンタクトまでしてくるんだもん。なにか事情があると思って咄嗟に話を合わせたフウちゃんの機転に感謝してよね。」
思い返してみれば隠れ里に到着した後にフウさんは仕事があると言って一人行動をしていた。
あの時にセイジ殿と合流して情報交換を行ったのだろう。実際、フウさんが積極的に動き出したのはその後からだった。
「もちろんフウにはとても感謝していますよ。おかげであの魔王の魔力を探知する術式を構築することができました。フウが倒したのはあの魔王の一部でしたないみたいだったので、今回の件で殺しきれてはいないでしょうが探知が可能となったので魔王を殺しきるまで追うことができます。基本的には私が追ってあの魔王を始末しますが、念のために探知術式をフウにも教えておきます。他の兄弟たちにも共有しておいて下さい。」
「りょ〜かい。」
「頼みましたよ。これで後残っている問題は魔王の依代にされてしまった方の件だけですか。治療できれば良いのですが、遠目で見た限りでは厳しそうでしたね……ひとまず我々も集落に戻りましょう。」
ガリアさんの件もあるので俺達は急いで隠れ里に戻ることになった。
隠れ里に戻る道中でガリアさんを運んでいる門番をしていた男とレリアさんの背中が見えたのでそのまま合流してガリアさんの容態を確認する。
「レリアさん、ガリアさんの容態はどうですか?」
「皆さん…兄さんの体…どんどん冷たくなってきてるんです。息はまだしているけど…心臓の鼓動も弱くなってきてるみたいで……」
「まずいですね…このままでは隠れ里に到着するまで持たないでしょう。フウも手伝って下さい。このまま移動しつつ治癒の魔導術をかけます。」
「フウちゃんの治癒系の術は本人の生命力を活性化させる類のものしかないんだけど。この人はもう活性化させる生命力そのものがほとんどない。」
「生命力が枯れてしまっているのは私が魔導術で補います。フウは彼の氣の流れを整えてあげてください。」
意識が無い成人男性を背負いながら走るのは体力の消耗が激しい。門番をしていた男もここまでガリアさんを運んできたこともあり息が上がっていたので、俺達もガリアさんを運ぶのに協力し交代でガリアさんを背負いながら隠れ里まで走る。
セイジ殿とフウさんはガリアさんを運ぶ俺達に並走しながら応急処置を行う。
その甲斐あってか死人のようだったガリアさんの顔色が少しだけ良くなった。
治療を続けながら隠れ里に戻ると集落は騒然としていた。
魔王の呼び声により集まって来ていた魔物達の咆哮はこの場所でも聞こえたのだろう。
「お前達!戻ってきたのか!【星零獣】様のお住いでいったい何があったのだ?」
戻って来て早々に里長が詰め寄ってきた。
今は悠長に事の経緯を説明するよりも一刻を早く家に戻ってガリアさんを安静にさせるべきだ。セイジ殿も同じ考えのようで半ば里長を無視してレリアさん達の家に向かう。
「フウ、詳しい説明をしてあげなさい。私はこのまま治療を試みてみます。」
セイジ殿はフウさんに説明を任せてガリアさんの治療に専念するようだ。俺達もレリアさんが心配だったのでセイジ殿に同行してその後に続いた。
ガリアさんをベットに寝かせた後、セイジ殿が本格的に治療を始める。
何か手伝えることがあるかもしれないので俺達もこの場に残ることにした。
どれぐらい時間がたったのかわからないが、セイジ殿は色々な魔導術を試してガリアさんを必死に助けようとした。
その甲斐あって僅かに回復したようだが、根本的な問題を解決できなかったようで重苦しい空気が漂っている。
思いつく方法はあらかた試したのだろう。やがて治療の手を止めたセイジ殿が沈黙を破り口を開く。
「結論から申し上げますと……残念ながらこの方はもう助からないでしょう。魔王の依代にされていた時に生命力を好き放題使われ過ぎたようです。さらに悪い事に魔王がこの方の身体から出ていった際に、命の根源とも言える生命の源を壊していったようです。これ程までにボロボロにされては、おそらく明日まで保たないでしょう。」
「そんなっ……」
セイジ殿の言葉を聞いてレリアさんは絶句してしまった。
「やはりそうか……、自分でもそんな気はしていた。愚かさの代償を命で払う事になったというわけか……。」
「兄さん!目を覚ましたのね。」
「せめて残された時間は家族と過ごして欲しいところですが、その前にあの魔王について知っている事を話して頂きたい。その代わりと言ってはなんですが、話して頂けるならあの魔王は私が必ず仕留めると約束します。」
「………いいでしょう。あの魔王に一矢報いることになるならお話します。レリア、私の部屋に黒い装丁の本があるはずだから持ってきてくれ。」
ガリアさんの要望を聞きレリアさんが部屋に本を取りに向った。
もうここでできることは何も無い。俺達は外で待っていた方がいいかもしれないと考えて外に出ようとしたところで以外にもガリアさんから話しかけられた。
「君達はレリアの友達になってくれたんだろう?魔王に操られた者の身内という立場になってしまってはこの集落では今後生きづらいだろうから、私が死んだ後はあの子をここから連れ出してやってくれないか?」
「どうするかは彼女が決めることですが……声をかけてみます。」
「ありがとう。」
話をしているとレリアさんが例の本を持って戻ってきた。
「兄さん、持ってきたけどこの本…中になにも書かれてないよ…」
「そんなはずは……いや、そうか…そこら既に魔王の掌の上で、その本から得たと思っていた知識は全て魔王に干渉されて植え付けられたものだったということか。思い返してみればいつその本を手に入れたのか記憶が無いし、いつの間にか戦闘用のスライムを創り出す研究をしていた。私の本来の研究テーマは魔導薬によるケガや病気の治療だったはずなのに…」
「ちょっとその本を見せてもらいます。…確かに何の変哲もない白紙の本ですが、この本から僅かに魔王の魔力の残滓のようなものを感じます。この本を媒体にして魔王からの干渉を受けていたと見て間違い無いでしょう。具体的にどのような干渉を受けていたか覚えていますか?」
「正直、自分が干渉を受けていたという自覚はありません。私にはその本に書かれていた知識を元に研究を進めていただけという認識しかない。」
「そうですか……では、この本を読んでいて何か変わったことはありますか?」
「そういえば…その本を読んでいると急激に眠くなる時がありました。」
「眠くなる…ですか。私が別件で入手した情報にも同じ様な手口で暗躍していた形跡がありました。干渉された本人がことごとく始末されていたので、残された情報からの推測しかできませんでしたが貴方の証言で確信が持てました。おそらく、あの魔王には夢を通じて対象に干渉する能力がある。その力で貴方に干渉して意識の誘導と実験に必要な基礎知識を与えていたのでしょう。」
「夢か……そういえばこの辺りではないどこか別の森の風景の夢を見ることがありました。もしかしたらあの夢も魔王となにか関係があったのかも……」
「あの魔王は複数の対象に同時に干渉していた形跡もありました。もしかしたら同時進行で干渉されている別の人物がいて、その人物となにか関係がある夢なのかもしれません。詳細をお願いします。」
「とても大きな木があった。それと木の上に住居があったのでそういう文化がある地域かもしれない。」
「巨木と木の上に住居を構える文化…ある程度は絞り込めそうですがもう少し情報が欲しいですね。」
「申し訳ないがこれ以上は参考になりそうな特徴は無かったと思う。強いてあげれば夢を見ていた時に現状に対する強い不満のようなものを感じた気がする。もっとも、それは私自身が常日頃から感じていたものだったかもしれないから関係があるかどうかはわからないが……」
「そうですか……参考になりました。これ以上貴重な時間を頂いては悪いですね。どうか残された時間を大切してください。」
話を終えたセイジ殿が部屋を出ていこうとする。ここから先は家族の大切な時間だ。俺達もセイジ殿に倣ってその場を後にした。
外に出るとフウさんと里長がなにやらもめているようだった。
「魔王に操られ【星零獣】様を利用しようとしたなど言語道断だ!ガリアには即刻この地を出ていって貰う!」
「そんなことしなくても、あの人はおそらくもう助からない。最後ぐらい故郷で安らかに過ごさせてやる人情とかは無いの?」
「一度魔王に支配されたのだろう?その際に何かされている可能がある。ワシには里長として皆の安全を護る義務があるのだ!」
「あ〜もう!うっさいわね!ならそんなことになったらフウちゃん達で何とかするわよ!」
どうやらガリアさんの処遇についてもめているようだ。冷たいことを言っているようだが、里長の言うことも筋が通っている。
売り言葉に買い言葉でもう一泊していくことになった。
戦闘後のリザルト回なのでセリフが多い。
こういう時に誰が発言したのかわかる描写を入れすぎると話のテンポが悪くなるので難しい。




