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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
31/104

闘いの終わり

 攻撃の準備をしている三人にスライムの攻撃の矛先を向かわせるわけにはいかない。

 俺達は攻撃の準備をしている三人からスライムを引き離すように移動しながら攻撃を仕掛けてスライムの注意を惹く。

 何度目かの攻撃を回避した後ディオンが口を開いた。


「気のせいか?攻撃が正確になってきてる気がするぞ。」

「たぶん気のせいじゃないな。俺達の動きを学習してきている。」

「やっぱりか…そうなるとあんまり長くは時間稼ぎできねぇな。俺様とアーガスは近づかないと攻撃できないから危険度が跳ね上がる。特にアーガスは『獣氣』を使っての身体能力強化ができないから気をつけろよ。」

「大きなお世話だ。俺のことを心配している暇があるならその分動いて注意を惹け!」


 話をする余裕があったのはここまでだった。

 スライムの学習能力は想像以上で直前までディオンを狙っていた攻撃していたと見せかけて、攻撃の軌道を変化させて近くにいた俺を狙ってきた。

 スライムがフェイントを仕掛けてくるとは考えていなかった俺はこの攻撃に反応するのが遅れた。

(しまった!回避が合わない!せめて『闘氣』で防御を……)


「アーガス!こっちだよ!」


 回避ができないと判断し防御の姿勢をとった俺にジルパに乗って駆け付けたクラットが手を差し伸べてきた。

 とっさにその手を掴みその場を離れることができてでスライムの攻撃を回避することに成功する。


「今のは危なかったね。ここは遠距離攻撃手段がある僕と機動力があるジルバが中心になって注意を惹くよ。」


 スライムは術式が壊れかけているくせに学習能力はしっかりあるようで、攻撃を当てるためにフェイントまで自力で学習し始めた。

 こうなると反撃に対する警戒のレベルを上げざるを得ないので攻撃の頻度はどうしても下がってしまう。

 そんな中でジルバに乗ったクラットは攻撃の手を緩めずに連続して矢を放ちスライムの注意を惹く。

 クラットはジルバに乗っていることで攻撃のみに専念でき、ジルバは高い身体能力を活かして的確にスライムの攻撃を回避する。

 完全に役割を分業することで無駄がない的確な動きを可能としていた。

 まるでお互いがどう動くか最初からわかっているかのような自然な連携だ。


「フレイズ。」


 何本か打ち込んだ矢に仕込んでいた術式を一斉に起動させた。さすがのスライムも体内で発火する矢は無視できないようで矢を体外に排出する動きを見せた。

 スライムはそんな矢を打ち込んでくるクラットを積極的に狙いだす。

 今までの闘いではジルパはフウさんを背中に乗せていたので戦闘に参加していなかったのでわからなかったが、こうしてクラットを背中に乗せた状態で戦闘にするとクラットとの息が合った動きで見事な活躍をしていた。


「こっちの準備は整ったぞ。」


 ザイードの合図が聞こえて俺達は最後の仕上げに入る。


「図体ばかり無駄にデカいのろまめ!こっちだ!」


 スライムがこちらの言葉を理解するほどの知能を持っているとはいえ思えないが一応罵倒しながら攻撃を行いスライムの気を惹いた後に下がる。

 クラットとディオンもそれぞれ攻撃をしかけた後に大きく下がって離脱しスライムの攻撃を誘う。

 狙い通り俺達に向かって触手状にした身体を伸ばしてくる。

 コアを覆っている液体の壁が薄くなったのを見計らって三人が攻撃を開始した。


「いくぜぇぇぇ!『衝波削ぎ』!」


 ザイードのこの技を見るのは二度目だが相変わらず凄い威力の攻撃だ。

 空気を切り裂く音が聞こえた後に破壊の波が押し寄せてスライムの表面を大きく削り取る。流石にこのクラスの威力の攻撃だとスライムの液体を本体から引きちぎるような形で切り離しスライム全体の体積を減らすことができるようだ。


「『アクセル』、『ブースト』、『アイスジャベリン』」

「『エコー』、『リフレイン』、『エアハンマー』」


 カリナさんとコリナさんは単一の強力な魔導術ではなく複数の魔導術を連続起動させてメインの攻撃術式を強化する作戦のようだ。

 ザイードの攻撃に続いてコリナさんが氷でできた巨大な槍を作って加速させて打ち出し、カリナさんがその槍を後ろから押し込むような形で風の塊を叩き付ける魔導術を連続で発動させて押し込む。

 氷の槍がスライムの身体を貫きながら進みコアに迫る。


「おぉ!やったか!」


 思わずという感じでディオンからそんな声が漏れたが予想外の出来事が起こった。

 スライムは後ろに下がりながら形状を変化させ氷の槍を受け止めるように前方に液体を集中させて勢いを殺しにかかった。

 これにより氷の槍はどんどん勢いを失っていき、後押しする風の塊が打ち止めになって完全に停止した。

 だが攻撃が完全に無駄だったわけではない。攻撃を強引に防いた影響でザイード達が攻撃した方向の反対側の液体の壁が薄くなっていた。


「ディオン、俺をコアまで飛ばせ!今ならこっち側から攻撃したらコアまで届くかもしれない。」

「正気か!?飲み込まれたら助からないんだぞ!」

「スライムの学習能力が厄介すぎる。今を逃したらもう俺達にはコイツを倒せなくなる。」

「あーーー、クソ。絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」


 ディオンが両手で握りこんだ剣の腹に飛び乗って突撃の準備をする。


「ぶちかましてこい!」


『獣氣』による全力の身体能力強化で打ち出された俺は矢のような速さでスライムの背後に迫る。

 取り込まれないように全身に『闘氣鎧』を最大出力で纏い、更に剣にも渾身の『闘氣刃』を纏わせて今俺が出せる全力強化状態で攻撃を仕掛ける。

 こんな後先考えない無茶苦茶な力の配分で闘えば数分と持たずに全ての力を使い果たしてしまうだろう。

 だが、今ここで全力を出さなければ勝てない。


「うおおおおぉぉぉ!」


 雄叫びと共に突撃してコアに迫る。

『闘気刃』を纏わせた剣はスライムの中を突き進みコアまであと少しというところまで到達した。

 スライムに体を飲み込まれるのも構わずさらに手を伸ばして剣を進める。全力で『闘氣』をまとっているおかげでスライムも俺を簡単には飲み込めないようだ。

 限界まで手を伸ばし剣先がコアまで届いたと思ったところで何か硬い物に当たって剣が止められてしまった。

(何かに止められた!これは…【星零獣】の角の欠片!?吸収しきれなかった小さな欠片がコアの周りに浮いていたのか。これ以上は俺に剣を押し込む余力も手段も無い。ここまでか……いや、まだだ!まだ手はある!)

 剣を通じて『導氣』を流し【星零獣】の角の欠片に術式を書き込む。

【星零獣】の素材は強い力を秘めているという話だ。術式を書き込む触媒としてはこれ以上無い物だろう。

 書き込む術式はクラットから教わった発火術式、現状で俺が実戦でも使える唯一の魔導術だ。


「ブレイズ!」


 術式を構築し終えて即座に起動させた。コアにほとんど密着している【星零獣】の角の欠片が刻まれた魔導式に従い発火する。


「!!!」


 スライムが声にならない悲鳴を上げて全身の液体を震わせた。

 俺の体を飲み込もうとしていた液体からも力が抜けて俺は尻餅をつくような形で地面に落下した。


「勝った…んだよな?」


 疲労困憊でスライムの残骸に濡れながらそう呟く。

 スライムの身体だった液体からは動きだす気配はない。


「やったじゃないか!すげぇ!流石は俺様のライバルで親友だ!」

「凄い!凄いよ!正直、もう勝てないんじゃないかと思ってた。」


 呆然としている俺の元に駆けつけたディオンとクラットがハイテンションで騒ぐのを聞いてようやく俺も勝利を掴んだと実感した。


「ん、よくやった。賭けとしては無謀な部類だった気がするけど最終的に勝ったんだから問題ない。」

「私も基本的にはカリナと同意見だけど、運が良かったから勝てたところもある。命を賭けるならそれなりに勝率が良くなる条件を揃えてからにした方がいいとアドバイスはしておく。」

「あの土壇場でよくあれだけ動けたな!確かに無謀な賭けだった部分もあったけど、オイラは踏ん張りどころを間違わないでしっかりと結果を出したんだから胸を張って良いと思うぞ。」


 勝利の余韻に浸っていると主戦力の三人からも賛辞を送られた。

 勝ちはしたものの思い返せば確かに指摘さえれたように無謀すぎる賭けをしたとも思う。

 あの時はチャンスは今しかないと思ったのだが、冷静なって考えてみるとスライムが防御してくるという事を前提に作戦を練り直して改めて攻撃した方がリスクも少なく確実だったかもしれない。

 反省すべきところもあったと思うが今はそれどころではないことを思い出した。

 スライムは倒したが迫ってきている魔物の群れの問題は何も解決していない。早く安全な場所まで撤退しなけえれば囲まれて全滅することになる。

 これからどうするか話し合おうと口を開こうとした時、突然どこからか拍手の音が聞こえた。


「いや~お見事でしたね。貴方達であのスライムに勝つのはやや厳しいと思っていたのですが、いい意味で期待を裏切ってくれましたね。」


 拍手が聞こえた方を見るといつの間にか数日前に会ったセイジ殿が立っていた。


「あなたは…セイジ殿、なぜこのような場所に?」

「私も色々と事情がありましてね。」


 そう話しながらセイジ殿は懐から水晶玉を取り出し内部に書き込まれた魔導式を確認し始める。


「そろそろだと思うのですが……おっ、魔王の反応が消えましたね。フウがしっかりと仕留めたようです。今なら監視の目も無いでしょうから少々派手に動いても詳細まではわからないでしょう。フウも皆さんも頑張ってくれたことですし後始末ぐらいは私の方でやりましょう。」


 水晶玉を懐に仕舞うと今度はタクトの様な短い杖を取り出して構える。


「では、『天位術式・壱番から七十七番までを励起』」


 合唱を指揮する様に杖を小刻みに動かしながら振るセイジ殿のその言葉に応えるように、空を覆うほど巨大な魔導式がまるで満天の夜空のように広がった。


「まずは『センテシアの瞳』。」


 空を覆った魔導式の一部が煌めき巨大な目の形をした星座のようようなもの出現し大地を見下ろす。


「続いて『グランドアルクの脈動』。」


 その瞬間、地面が揺れたわけではないがのだが大地全体が力強く脈打ったのを感じた。

 どうやらその脈動は魔物のみを攻撃する魔導術だったようで、魔物の足元の地面から隆起した杭のような物が突き出て魔物を貫き空中に張り付にした。

 強力な魔導術のようだが最も凄まじいのはその効果範囲だろう。かなりの広範囲に効果が及んでいるようで、見渡す限り全ての方向におびただしい数の魔物が串刺しにされて空に張り付けにされている。


「仕上げに『エンデライアの光輪』。」


 光の輪が出現してそれがどんどんと広がり、張り付けにされている魔物を飲み込んで消滅させた。

 セイジ殿が行動を開始して数十秒も経っていないが魔王が呼び寄せた魔物は今の魔導術で全滅しただろう。


「これが…『天握地壊』」


 思わずといった感じでディオンの口からそんな呟きが溢れた。

 俺もその呟きと目の前の光景でセイジ殿がなぜそう呼ばれているのか理解できた。

 圧倒的な魔導術を見せられて呆然としているところにフウさんが戻ってきた。


「また派手にやったわね~。」

「フウ、戻ってきましたか。今回はご苦労でしたね。」

「まったくよ。いくらフウちゃんが強くて頼りになるからって働かせすぎじゃない?」


 先日に会った時とは打って変わってフウさんもセイジ殿もお互いを知っているような口ぶりで会話し始めた。


「それにしては動きがなまっているように見えましたよ?確かにあの魔王の魔力の波長を記録するために時間稼ぎして欲しいとお願いしましたが、終始闘いの主導権を握りきれていないように見えました。おそらく実戦をさぼり過ぎて、それを見かねた父上に今回の件を言いつけられたんじゃないですか?」

「なっ…なんでそのことを!?」

「わかりますよ。かわいい妹のことですからね。」


 会話の中で衝撃的なことをサラリと告げられた。その意味を一拍して理解した一同は声を揃えて叫んでいた。


「「「「「「妹!?」」」」」」

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