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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
29/105

急転直下

 昨日と同じ様に隠れ里の一角で目を覚ました。

 今日も日課の朝練の準備を始める。クラットとディオンにも声をかけようと考えていたが、今日は二人とも既に起きており準備を始めていた。


「今日はクラットも参加するのか?」

「うん。アーガスやディオンみたいに打ち合いは無理だけど『獣氣』のコントロールの練習の練習ぐらいはしておきたいからね。」

「いい心がけだな。普段からの備えがいざって時にどれだけ動けるかを決めるって兄貴も言ってた。」


 いつの間にか合流したザイードがごく自然に会話に加わってきた。俺達の中で一番の実力者なだけあって声をかけてくるまで気配がわからなかった。


「今日はクラットも参加するんだな。ならオイラはクラットに『獣氣』のコントロールについて教えるとするか。」

「よろしくお願いいたします。」


 手始めにいつもの方法で『闘氣刃』の練習から始める。この練習を始めてまだ数日だがそれでも以前よりも形成する力場が安定してきている気がする。

 ディオンやクラットはここ数日で戦場で活躍でいるような力を身に付けてきているから、内心で焦りは感じているが俺も少しずつ確実に強くなっていると思う。


「そろそろ始めようぜ。」


 俺の練習がひと段落したと判断したディオンが今日も模擬戦闘を申し込んできた。

 ディオンとの模擬戦闘も今日で三度目になる。昨日はディオンが急速に力を付けてきたので遅れをとったが、このまま負けっぱなしで終わるつもりは無い。

 だが、『獣氣』を使えるようになり基礎能力が向上した今のディオンに一朝一夕で勝つのは難しい。

 なので今回は正面からの勝負はしないことにする。

 ディオンを正面に俺は剣を下段で構えて対峙する。


「どえした?俺様に隙がなさ過ぎてかかってこれないのか?」

「今回はちょっと作戦があるんだ…よっと!」


 仕込みが終わったので俺は剣をすくい上げるように振り剣先で小石を弾いて顔面を狙う。

 ここまでは予想していたのか、ディオンは小石を最小限の動きで躱そうとするのだが俺の狙いもそこにあった。


「フレイズ!」


 俺の言葉をきっかけにディオンの顔面近くであらかじめ魔導式を刻んでいた小石が発火する。


「うおっ!」


 予想外の出来事にディオンの回避の動作が大きくなり俺からも視線が外れた。

 この隙を逃すともう俺に勝ち目は無いだろう。

 大きく踏み込んで剣を振るう。万全の体勢で攻撃した俺に対して、ディオンは『獣氣』で身体能力を強化して迎え撃つが大きく回避した影響で致命的に体勢が悪い。

 俺の攻撃を防御した剣は大きく弾かれて、次の俺の攻撃を防御するには間に合わない。

 俺はディオンの喉元で剣を寸止めして勝利宣言する。


「今日は俺の勝ちだな。」

「くっそ〜、完全にしてやられたぜ。さっきのあれは昨日クラットが使ってたやつだよな?」

「ああ、昨日クラットから教わった魔導式を俺も使ってみた。試しに練習で魔導式を刻んでみた小石を持ち込んでおいたんだ。剣を下段に構えていたときにこっそりと剣先を小石に当てておいて、剣を通じて『導氣』を流して術式を励起させてな。」

「昨日の今日で実戦に組み込んでくるとは流石は俺様のライバル兼親友だな。」


 ディオンとさっきの模擬戦について話をしていると、『獣氣』のコントロールの訓練指導を終えたザイードとクラットが合流した。


「今回はアーガスの作戦勝ちだな。いい奇襲だったと思うぞ。さて、じゃあ今日は三人まとめてでいいぞ。かかってこい!」

「三対一でも勝てる気がしないな……でも逃げるべきじゃない時に逃げるのは俺様の美学に反する。」

「僕はせめて足を引っ張らないように頑張るよ。」

「連携次第で勝機はある…かもしれん。やるぞ!」


 今日の朝練の締めもザイードとの模擬戦闘になり、手も足も出なかった。


 朝練を終えて野営している場所に戻ると女性陣の姿が無かった。

 よく見ると地面に、(女の子達で身だしなみを整えに行きます。覗きに来たら命の保証はしないからね)と書かれていた。

 順調にいけばこの後仕事の報酬を貰ったら傭兵の国に帰還することになるので、今のうちに近くの川か泉にでも行っているのだろう。

 女性陣が帰ってきた後時間がありそうなら俺達も体を洗いに行ってもいいかもしれない。

 そんなことを考えていると隣にいたディオンが話しかけてくる。


「おい、あれってレリアさんじゃないか?なんか挙動不審な動きをしてるけど。」


 ディオンが示した方を見ると何かを探しているような様子のレリアさんがいた。

 キョロキョロと視線を巡らせて周囲を見回っている。

 理由はわからないが胸騒ぎのようなものを感じ、気になったのでレリアさんに話しかけてみる。


「レリアさん、なにかあったのか?」

「アーガスさん……兄をみませんでしたか?」

「すまない、見ていない。ガリアさんになにかあったのか?」

「朝起きたら居なくなっていたんです。」

「どこに行ったか心当たりとかはないのか?どこかに行くとか、何かするつもりみたいな話はしなかったのか?」

「心当たり…兄は基本的に引きこもりだったので外に出ることは稀で………ひょっとして、【星零獣】様に開発した魔導薬を使うつもりなのかも……だとしたらっ!」


 レリアさんは何か思いあたったのか猛然と走り出し隠れ里の外に向かう。

 俺達は一瞬皆で顔を見合わせたが、レリアさんを一人にしてはいけない気がしたので全員でその後を追うことにした。

 隠れ里の出入口で見張りをしていた男とレリアさんの会話が聞こえてきた。


「ダッタさん!ひょとしてここを兄がここを通りませんでしたか?」

「ガリアのことか?それなら朝早くに出ていったよ。」

「なんで止めてくれなかったんですか!?そんな時間に出ていくなら理由を聞く決まりになっていたはずですよ。」

「それは………ほんとだ!あれ?なんで自分は何も聞かずに素通しさせたんだ!?」


 見張りの男自身もなぜそんなことをしたのかわからず混乱している様子だ。


「とにかく兄がここを出たことががわかった以上、私は兄の後を追います。」

「待ってくれ。素通しさせた自分が聞くのもあれだがガリアがどうかしたのか?」

「兄は…【星零獣】様の元へ向かったのかもしれません。」

「なに!それは本当か?そんなことになってるなら里長に報告しなきゃならない。【星零獣】様の所にいくなら里長の許可が必要だ。」

「そんなの待てません!私は行きます。」


 レリアさんはそう言い残すと隠れ里を出ていってしまった。


「なんとなくだけど今レリアさんを一人にしちゃいけない気がする。僕はフウさん達に事情を説明してから後で皆と一緒に追いかけるよ。三人はこのままレリアさんを追って。」


 クラットがフウさん達への連絡係を申し出た。

 フウさんが協力してくれれば俺達の居場所がわからないなんてことはないだろうし、ジルパに乗って移動すればすぐに追いつけるだろうからから適任だろう。


「わかった、俺達はレリアさんを追いかける。そっちは頼んだ。」


 俺達はクラットと別れてレリアさんの後を追った。




 レリアさんの後を追って森の深部に進んでいくと周囲の雰囲気が変わってきた。

 大型の生物の気配が周囲にほとんど無い。小さな虫や小動物の鳴き声はわずかにきこえるが、静かで静寂な森がただ広がっているのみだ。

 そんな森の中を進んでいると視界が開けた場所に出た。

 その空間はどこか特殊で植物の類も生えておらず、かといって荒れているわけではなく、まるで神聖な何かがあるから生命が定住できない場所であるかのように感じられた。

 そんな場所の中心にソレは居た。

 一目見た瞬間に本能で理解した。

 自分達とはあらゆる面で次元が違う存在。

 敵と認識されたら最後で瞬時に殺されるのが確定する。

 そんな印象を受ける生物、あれが話に聞いた【星零獣】で間違いないだろう。

 見た目が一番近い生物は鹿だろう。ただし、身体の大きさが通常の鹿よりも圧倒的に大きい。

 今は地面に座り込んでリラックスしているようだが立ち上がれば体高は2メールを軽く超えるだろう。 

 そして、それよりも大きく特徴的なのは頭部から生えた巨大な角だ。

 以前見た魔将と同じように結晶のような材質に見えるが、【星零獣】の角は見る角度によって色が変わり美しさすら感じる程に力強く神々しい。

 角の大きさは生えている身体と同じぐらいなので、はっきり言って角がとても重くて邪魔そうに見えた。

 幸いなことに【星零獣】はこちらの事に気がついているようだが敵意を示していないようで何かをしてくる気配は無い。

 ざっと周囲に目線を走らせるが、先に来ているであろうガリアさんの姿は無さそうだ。どこかに隠れているのかもしれない。

 今は敵対していないが【星零獣】の前で下手な動きをして敵と認識されたら終わりだ。なので現状なにか動きがあるまで待機する他無い。

 しばらく変な緊張感がある膠着状態が続いた。


「どういう状況?」


 そんな膠着状態の中、後から合流してきたフウさんが現れ話しかけてきた。

 合流したメンバーはフウさん以外だとクラットとジルパ、カリナさんとコリナさん、その他に何故かさっき会った見張りをしていた男の姿もあった。

 ガリアさんを素通しさせた責任からついてきたのかもしれない。


「今は………」


 現状を説明しようと口を開いた時、【星零獣】に動きがあった。

 突然立ち上がりその場で頭を激しく振り始める。

 様子を見守っているとあの巨大で神々しい角がポロリと抜け落ちて地面に転がった。

 予想外の事態に混乱する俺達を尻目に頭が軽くなった【星零獣】は軽い足取りでどこかへ消えて行った。


「は?なんなんだ?今のは?」

「たぶんだけど…落角だと思う。鹿とかは定期的に角が抜け落ちて生え替わるから、もしかしたら【星零獣】も見た目が鹿みたいだったし角が生え替わる時期だったのかも?」


 思わず溢れた疑問に元狩人のクラットが私見を述べた。

 確かに身体に対して角が大きすぎる印象はあったのでその可能はあるのかもしれない。

 そんな話をしていると何処かに身を隠していたガリアさんが姿を現し、【星零獣】が残していった角に近づいた。


「ガリアのやつ【星零獣】様の遺物を独り占めにするつもりだ!あいつは初めから自分の研究の為にこうするつもりでここに来ていたんだ!懲らしめてやる!」


 そう叫んだ見張りをていた男は、俺達が止める暇も無く持っていた弓でガリアさんめがけて矢を放った。

 放たれた矢はまるで吸い込まれるようにしてガリアさんの心臓に突き刺さった。

【星零獣】の残した角まであと少しという所で倒れ込み手元からはなにかがこぼれ落ちた。


「にっ…兄さん!」


 大量に血を流しながら倒れたガリアさんの元にカリナさんが駆け寄る。

 一方で明らかにやり過ぎなことをした見張りの男は矢が当たっことにガッツポーズをしていた。その様子を見てディオンがくってかかる。


「やったぞ!ガリアのやつを懲らしめてやった!」

「さっきからアンタ何言ってんだ!懲らしめるどころか殺してんじゃねぇか!」

「は?何を言ってんるだ?自分はちょっと懲らしめただけで殺してなんか……」

「どう見ても心臓に矢が刺さってるだろうが!殺したんだよ!アンタが!」

「そんな……自分はそこまでするつもりは……」


 ディオンが問い詰めると男は今ようやく自分が何をしたのか理解したような様子を見せた。

 レリアさんを追いかける前もそうだったがこの男はどうも様子がおかしい。

 そんな様子がおかしい男にフウが詰め寄る。


「ねぇ、あなたさっき撃った矢はどこで手に入れたものなの?」

「何を言ってるんだ?アンタがいざって時に使えって自分に売った矢じゃないか!」

「フウちゃんはそんな物売った覚えはないよ。」

「なんだと!でもあの矢は確かにアンタから…いや、待て……あの矢アンタから買った物じゃない。あの矢は…あの矢は……わからない。」


 問答をしている間にレリアさんが倒れたガリアさんのところへたどり着いた。


「兄さん!兄さんしっかりして!」


 倒れ込んでいるガリアさんの安否を確認している横で、ガリアさんの手元からは転がっていった何かが【星零獣】の角にぶつかっていた。

 どうやらそれは液体が入った瓶だったようで、脆かったのか瓶はぶつかった衝撃でヒビが入り中の液体が洩れ出して【星零獣】の角にかかっていた。

 その液体は【星零獣】の角に触れたことで、まるで意思を持ったかのように膨張し【星零獣】の角を取り込み始める。

 それと同時に明らかに致死量の出血をしていたガリアさんが平然と立ち上がった。


「ふむ、色々と苦労しましたがまずは第一の目的は果たせましたね。さて、これで実験の成果も期待通りなら言うことはないんですがねぇ……。」


 立ち上ったガリアさんは明らかに異質な雰囲気を纏っており、まるで別の存在に成り代わっているように感じられた。

鹿ブームに乗り遅れた。

あと1クール早くこの話を書けていれば………

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