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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
28/105

依頼達成

「広域結界術式『幻創斯ク理』」


 フウさんの魔導術が発動したようで周りの空間が不可思議な雰囲気に包まれた。その効果は劇的で目の前にいたはずの鎧甲麟大蛇との距離感が全く分からなくなってしまった。

 鎧甲麟大蛇も俺と同じ感覚を味わっているようで困惑しているのが伝わってきた。


「魔物を倒すのが目的じゃないからあの鎧甲麟大蛇はほっとくよ。隠れ里に戻るからフウちゃんについてきて。フウちゃんとはぐれてたら下手すると永遠に彷徨うことになるから遅れないようについてきてね。」


 さらりと恐ろしいことを言われて俺たちは慌ててフウさんの後を追う。

 背後の方をちらりと確認すると鎧甲麟大蛇は何もない空間を攻撃しては攻撃が空振りに終わることに首をかしげていた。

 フウさんの後に着いて移動していると同じような光景を何度か見かけた。その他にも俺達の姿を発見した魔物が何故か明後日の方向に向かって走り出したりしているのを見かけた。


「凄い術……ですね。なにがどうなっているんですか?」

「簡単に言うと、結界の範囲内にその空間内で認識した情報が頭の中でズレて認識されるようになる効果を持つようにしたんだよ。」

「なっ…なるほど?とにかく魔物の進行を防ぐには十分そうですね。こんな魔導術があるなら魔王の侵攻の時にも使えそうですね。」

「それがそうもでもなくてね。この術はいわゆる地脈の力を利用する術なんだけど、王都とかに張ってあるある結界とかもどうやら似たような原理で展開しているみたいでね。干渉しあっちゃって効果が減衰するみたいなんだ。それに魔王に支配されている魔物は自我が消失しちゃってるからこの手の認識を弄る効果は効きにくいんだよ。」


 結界を複数張ることができれば魔王の侵攻に対してとても有効な手段だと思ったがそんなに都合よくはないようだ。

 隠れ里に帰還するまでまだ時間がありそうなのでさっきの戦闘で気になったことを聞いておくことにした。


「そういえばクラット、さっきの闘いで発火する矢を使っていたな。あれは魔導術を応用したものなのか?」

「うん。矢じりに簡単な魔導式を刻んでブレイズっていう開放の言葉で術式を発動させられるようにしてあるんだ。」

「簡単な術式でも中々有効な攻撃手段になってたと思うぞ。俺も『獣氣』が使えないぶん何か魔導術で補えないかと考えているところだから参考のために教えくれ。」

「もちろんいいよ。他にも応用できないか色々考えていたからアーガスも一緒に考えてくれたら僕も助かるよ。まずは今回僕が矢じりに刻んだ術式なんだけどーーー。」




 魔導式について雑談している内に隠れ里に無事に帰還できた。

 早速首尾を里長に報告すべく里長の家にむかうと家の前に先客がいた。


「君は…レリアさん?」

「知り合いか?はっ、さてはナンパしたんだな?そういう時は俺様も誘ってくれよ!」

「うるさい黙れ。縁があって昨日知り合いになっただけだ。そんなことより、レリアさんも何か里長に用があるのか?」

「今、兄が里長を説得しようと直談判に来ているんです。」

「説得?」

「はい。兄のガリアは魔導術の中でも術式を組み込んだ液体、いわゆる魔導薬についての研究をしていまして。それでようやく以前から目標にしていた【星零獣】様にも効果がある魔導薬が作れたらしくて、【星零獣】様を治療する許可を貰うと意気込んで里長の家に乗り込んで行ってしまったのです。それで私は兄が無理を言ってないか心配でついてきたんです。」


 魔導薬という知らないワードが出てた。魔導薬という物に関しては今晩にでも時間を作ってカリナさんかコリナさんに聞いてみるとして、どうやら里長はレリアさんの兄のガリアという人物と取り込み中のようだ。


「重要な話をしているなら俺達は出直した方がいいのか?」

「いえいえ、里長はおそらく許可を出さないでしょうから話はすぐに終わると思います。ですので里長になにか用があるならこのまま訪ねて行っても大丈夫だと思います。」


 レリアさんがそう言うので俺達はこのまま報告に向かうことになった。


「このまま手をこまねいていても事態が好転する保証はないことぐらい里長も本当はわかっているはずだ!こんな時のために私が日々研究を続け、製作したこの魔導薬を使えば【星零獣】様も復調され回復に向かうと何度も説明しているだろう!」

「【星零獣】様はそんな物が無くても自然に御回復なされるはずだ!そんな得体の知れない物を【星零獣】様に使うことなど許可できるはずがないだろう!」


 部屋の前まで行くと中から言い争う声が聞こえた。レリアの話しにあった兄のガリアと里長が口論しているようだ。


「もう結論は出ておる。客人が来たようだし、これ以上お前の作った得体が知れない薬の話しに構ってはいられない。帰るがいい。」

「くっ…今に後悔しますよ?」


 里長は俺達が来たことを理由に一方的に話を終わらせてガリアさんを退室させた。


「それで、首尾はどうなった?」

「万事上手くいったよ。これでしばらくはこの隠れ里に魔物が来ることは無いだろうね。」

「ふむ、流石は傭兵の国といったところか。仕事が速いな。一応詳しくどんなことをしたのか話を聞いておきたい。」

「まぁ、報告までは仕事のうちだもんね。今回フウちゃんがーーー[ぐうぅぅぅ]ーーー」


 フウさんが詳細を説明しようとしたところでザイードの腹の虫が盛大に泣き始めた。


「…………面目ねぇ……。」


 俺達は今朝携帯食料で簡単に食事した後からなにも食べないで一仕事終えた後なので腹がすき始める頃合だった。


「あ~…ゴホン。ご苦労だった、今更ではあるが貴殿らの働きに対する感謝の証としてささやかながら労いをさせて貰おう。レリア、すまないが皆さんの食事を用意してやってくれないか?使った食材などは後で補填する。」

「あわわ…ばれてた……。」


 里長は報告を聞く邪魔になると判断したのか、近くで聞き耳を立てていたレリアさんに俺達を押し付けることにしたらしい、

 俺達としてもここのところ味気ない保存食ばかりだったので、まともな食事にありつけるのは素直にありがたい。

 フウさんは報告のために後で合流することになり俺達は一足先にレリアさんの家に呼ばれることになった。




「どうしたレリア?誰か連れて来ているのか?」


 レリアさんの家に行くと先に帰宅していたガリアさんから出迎えられた。


「誰かと思えばさっきの来訪者達か。どうして連れて来た?」

「里長から食事でおもてなしするよう頼まれたの。」

「里長めっ!私の研究を認めないどころか邪魔者を押しつけて…嫌がらせのつもりか!」


 どうやらあまり歓迎されてはいないようだ。


「……まぁいい。レリアが客人として呼んだ以上、追い出すような無粋なことはしない。だが私の研究の邪魔だけはしてくれるなよ」


 ガリアさんはそれだけ言い残すとさっさと自分の部屋に引っ込んでいった。


「ちょっと、兄さん!お客さんに失礼だよ!」


 自室の扉に消えた兄の背中に抗議したが反応は無かった。


「兄が失礼な態度をとってごめんなさい。兄も昔はあんなに偏屈じゃなかったんですけど……母さんが病気で死んじゃってからは何かに取り憑かれたかのように魔導薬の研究に没頭するようになってしまって。」

「そういう事情ならある程度仕方ない。ここのような隠れ里には医術に精通しているような人は少ないだろうから理解されずらい。」


 カリナさんが理解を示してフォローを入れたが、どことなく気まずい雰囲気が流れた。


「……変な話をしてしまいましたね。お詫びってわけがじゃないんですけど、腕によりをかけて料理を作りますから期待しててください。」


 話題をかえるようにレリアさんが明るく振舞い料理を始めた。

 しばらくして料理が完成し、その後は報告を終えたフウさんも合流してひさしぶりに出来立ての美味しい食事にありつけた。




 報告の結果、仕事の成果を確認してから報酬が支払われることになったらしく俺達はもう数日この隠れ里に滞在することになった。

 特にやることもないので今日も魔導術についての講義をカリナさんにお願いした。


「カリナさん、今日も魔導術について教えてください。」

「ん、意欲的で大変よろしい。…さて、今日は何について話すか……」

「そういえばガリアさんが研究しているっていう魔導薬ってどんなものなんですか?」


 カリナさんが何を話すか迷っているようだったので手始めに今日話題に出た魔導薬について聞いてみることにした。


「魔導薬というのは魔導術の触媒となる物質を水に溶け込ませて魔導式を組み込むことで性質を変化させた液体のこと。組み込んだ魔導式次第で毒にも薬にもなって色々な用途に使える。ちなみに実はスライムとかも魔導式が溶け込んだ液体でできているという点では同じなので定義的には魔導薬の一種と言える。とはいえスライムは魔導式によって組み込まれたある程度の疑似的な自己意識と呼べるものがあるので、薬というよりは魔導生物という魔導術によって生み出された議事生命体に分類されている。」


 何となく聞いてみただけだったのだが、話が逸れそうなので一番知りたいことを聞いて本題に入ることにする。


「すみません。自分で聞いておいてあれですけど魔導薬についての話は今は置いておいて、今日は俺でも実戦で使えそうな魔導術の話を聞きたいんです。」

「アーガスは『闘気』が使えるから魔導術と併用することで戦略の幅が広がる。傭兵の国にはアーガスと同じ様に『獣氣』に適性がない人もいるからその人たちと同じ様に自分のスタイルを確立させたらいい。例えば詠唱によって魔導式を構築することもできるから近接戦闘をこなしながら魔導術を放って闘ったり、単純に装備に魔導式を刻んで魔導器に改造して戦闘を補助するとか方法はいくらでもある。」


 詠唱によって魔術式を構築するのはイマイチわからないが、装備に魔導式を刻むのはクラットがやっていた方法でその有効性は実証済だ。


「変わり種だと自分の鎧をゴーレム化させて闘う人もいる。」

「ゴーレム…ですか?そういえば以前出会ったゲンゴロウ殿という方が土からゴーレムを作って魔物の素材を運ばせているのを見たことがあります。」

「ゴーレムは魔導式を組み込まれた物体の総称で術者の命令に従って様々な用途で活躍する。さっき少し話したスライムと同様にゴーレムも魔導生物に分類される。実際には魔導式によって定められた通りの動きしかしないから生物ではないんだけど、綿密な魔導式が組み込まれた物は生物と見間違えるほどの挙動をすることがある。ゴーレムとスライムの違いは魔導式によって動かしている物が固体か液体かの違いがないんだけど、組み込まれている魔導式は根底の部分から大きく違っている。まぁ、魔術式を構築する上での前提となる属性元素が土と水で違うから当然の話なんだけどーーー」


 その後は結局夜まで講義を受けたが、今日の講義では強くなるための具体的なヒントは得られなかった。

ギリギリ目標達成……

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