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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
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連戦

 計画の話をしている時点でも目的地は魔物の勢力圏内になっていたので、時間経過により現在も少しずつ魔物の層は更に厚くなっているだろう。

 到着までに無駄に時間をかけるとどんどん不利な状況になってしまう。

 かといって移動にスタミナを使いすぎても目的地に到着する前に疲労しすぎてしまっては本末転倒だ。

 なので軽く走りながらスタミナを温存しつつ移動しいたのだがフウさんが途中でストップをかけた。


「ちょっと止まって。……やっぱり、新人の三人は呼吸のやり方からしてなってないね~。そんなんじゃ目的地に着く前にバテちゃうからフウちゃんが特別にちょっとだけやり方を教えてあげる。普段はこんな特別なことはしないだけど今回はフウちゃんがあんた達を巻き込んだ形だし大サービス。」


 フウさんはそう言うと、足を止めたクラットとディオンの胸に手を当てた。


「まずは『獣氣』を使える二人からね。呼吸は『氣』を練るうえでの基本。これができているのとできていないのじゃ全ての動きが違ってくる。その中でも特に『獣氣』は体の中を循環させる性質上、呼吸の仕方で身体能力を活性化させる効率が劇的に変わる。二人とも目を閉じてフウちゃんと呼吸を合わせることだけに集中して。」


 クラットとディオンは言われた通りに目を閉じてフウさんがする呼吸に意識を集中している。


「うん、いい感じになってきた。この状態で体に『獣氣』を巡らせてみて。」

「なんか体がポカポカしてきました。それになんか力が湧いてくるような感覚が……。」

「俺様もなんか体の調子が良くなってきているような気がする。」


 二人には違いをハッキリと自覚できる程の変化があったようだ。


「今の感覚を忘れないようにね。それじゃ次はアーガスの番。」

「フウさん、俺は現状『獣氣』を使えないんですけどその呼気法で強くなれますか?」

「さっきも言ったけど呼吸は全ての基本だからね。ついでにアーガスがどのぐらい『獣氣』を使えるか見せてみて。」

「その…俺は『闘氣』以外の『氣』の練り方がいまいちわからないんです。だから…全く使えません。」

「ならちょっとフウちゃんの方から流してみようか。それで感覚が掴めればきっかけになるかもね。」


 フウさんが俺の胸に手を当てながら呼吸を始める。俺もフウさんの呼吸を真似するようにして意識を集中する。

 フウさんの手を通して何かが俺の中に流れ込んでくるのを感じる。


「どう?何か掴めそう?」

「何かが流れ込んできているのはわかるんですが……。」

「う~ん……呼吸の方はある程度できてるけど、フウちゃんの流している『獣氣』で感覚をつかめないんならアーガスは体質的に『獣氣』を練る適性がないのかもね。」

「そっ……そんな!?」


 便利そうな力だったので昔から習得できないかと試していて身に付けなかったので薄々そうなのかもしれないと感じていたが、実際に指摘されるとやはりショックだった。


「まぁ、『獣氣』に適性が無くても他に強くなる方法はいくらでもあるからあんまり気を落とさないようにね。」


 フウさんが慰めの言葉をかけてくれるが正直、気分は晴れなかった。




 気を取り直して移動を再開し、暫く進んだところでフウさんが注意喚起した。


「そろそろ魔物の勢力圏内に入るよ。気を引き締めて!」


 その言葉通り前方に魔物の姿が見える。見たことが無い猿型の魔物だった。


「鎌爪尾長猿が五匹だ!鋭い爪と器用に動く尻尾が厄介な魔物で攻撃のリーチが長いから注意しろ。このまま突っ込むから遅れるなよ!」


 まずはザイードが先行して進行先にいる一匹を切り捨てながら走り抜ける。

 その後に続いて俺達もザイードが倒した鎌爪尾長猿の屍を飛び越えて走り抜ける。


「「ソニックエッジ。」」


 仲間が殺られたことを理解した他の鎌爪尾長猿が俺達を追ってくるが、カリナさんとコリナさんが放った風の刃を連発する魔導術を受けて失速する。仕留め切れてはいないようだが怯ませるには十分だったようだ。

 なんとか鎌爪尾長猿からの追撃を退けたが、戦闘音を聞きつけた他の魔物がこちらに集まりだしたようで前方に再び魔物の群れの姿が見えた。


「次は斑毛大山猫が四匹だ!こいつらは攻撃能力はたいしたことないが動きが速いから追ってこられたら面倒だぞ。」


 今度もザイードが突っ込んで行くが散開しバラけて回避されたので一匹も仕留めることができなかったようだ。

 ザイードの攻撃を回避した斑毛大山猫は後続で走ってきた俺達を獲物と定めて攻撃を仕掛けてくる。

 ザイードの言う通り攻撃力はたいしたことないようで、あっさりと剣で弾けたが動きが速い。

 どうやら手数で攻めるタイプのようで、攻撃を弾かれたと見るや即座に身を翻し次の攻撃の準備に入っている。

 ダメージを与えて追ってこれないようにしないとずっと追って来るだろうから厄介な魔物だ。


「私が怯ませるからその隙に攻撃。」


 素早さで翻弄されている俺とディオンを見かねてコリナさんが援護してくれるようだ。

 何かを察したフウさんがすかさず耳を塞いた。


「ノイズショック」


 コリナさんが放った魔導術によりキィーンという高い音が響き斑毛大山猫が一斉に怯んで動きが鈍くなる。

『獣氣』により聴覚も活性化させていたのかディオンも若干怯んでいるようだが、俺とクラットで攻撃して手傷を負わせることに成功した。これでもう追ってくることはできないだろう。

 しかし、一息つく暇もなく先頭を走るザイードが次の魔物を発見して叫ぶ。


「今度はレッドホーンが突っ込んできてるぞ!」


 完全こちらを捉えているようで三体のレッドホーンが並走しながら急接近してくる。


「マズいぞ!このままじゃ正面衝突することになる。ザイード、どうにかできるか?」

「ブッ殺すだけなら楽勝だが死体の勢いまでは殺せない!なんとか避けろ!」


 状況的に回避するしかないが、回避をしくじるとそのままひかれて強制離脱させられることになるのは間違いない。


「ここは僕が何とかしてみます!」


 クラットが大きく跳躍して空中で弓を構えた。遠距離からの攻撃で仕留めることができれば死体も途中で失速して回避も容易になるだろう。

 空中で精神を集中して弓を構えるクラットに今までに無い何かを感じた。


「この矢は…確実に当たる。」


 小さくそう呟いたクラットが放った矢はこちらに隊列を組んで突撃してくるレッドホーンの端にいた一体の目に突き刺さった。

 しかし、空中で矢を放った影響か角度がついた影響で矢が脳に達していないようで一撃では倒すに至らなかったようだ。

 レッドホーンは興奮状態で痛みを感じずらくなっているのかよろめきはしたものの足を止めずに突っ込んできている。


「フレイズ!」


 そこにクラットの声が響き、それに呼応するようにして目に突き刺さった矢が燃え上がった。

 さすかにこれには大きく怯んだようで横を並走していたレッドホーンを巻き込んで盛大に転倒した。


「ナイスだクラット!」


 単独で突っ込んできたレッドホーンをすれ違いざまに切り捨てたザイードがクラットを称賛した。

 一体だけになり余裕を持って回避できるようになったので俺達も問題なくレッドホーンをやり過ごす。


「目的地まであとどのぐらいですか?」

「もう目の前。ちょうどあそこのオーク達がたむろしてい居る辺り。」


 目的地付近には四体のオークがうろついているようだった。


「邪魔だ!」


 ザイードが強襲して両手の手斧で二体同時に切り裂き、残りの二体がザイードに攻撃をしかける前に追いついた俺とディオンで切りかかる。

 手に持っていた棍棒で防がれたが俺達の目的はザイードの攻撃後の一瞬の隙をカバーすることなので問題ない。即座に体制を整えてフリーで動けるようになったザイードの横から攻撃で残り二体も瞬殺した。


「じゃあ始めるから護衛よろしく。」


 目的地に着いたフウさんは地面に手を当てて目を閉じて集中し始めた。

 フウさんを中心にした護衛用の陣形をとり魔物の襲撃に備える。ここからは護衛しながらの闘いだ。

 最初に現れたのは五体のオークの群れのだった。足元に転がっているオークの仲間だったようで、仲間の死体を見て激昂して一斉に襲い掛かってきた。

 しかし、オーク達が来ている正面に対峙しているのはザイードなので俺とディオンの出る幕はなさそうだ。

 まずは後衛のクラットが先制攻撃を行い矢を放つ。放たれた矢は雄たけびを上げながら先頭を走ってきたオークの喉に突き刺った。


「フレイズ!」


 クラットの言葉を合図に喉に突き刺さった矢が燃え上がりオークは苦悶の表情を浮かべて悶絶しながら倒れ込んだ。

 よく見ると矢の先端の方が燃えているようなので矢じりの方に何か細工があるのだろう。

 一撃で倒すには至らないようだがそれでも行動不能になる位の威力にはなってるので、課題だった攻撃力不足をある程度解消できているようだ。

 仲間が悶絶している姿を見て残りのオークが怯んでいるところにザイードが踏み込んで先程の同じ様に二体同時に切り倒す。


「「ウィンドランス」」


 残りの二体もカリナさんとコリナさんの魔導術を受けて何もできずに撃沈した。

 オークは片付けたが喧騒と血の匂いに惹かれた魔物が集まってきていた。

 視界に入っているだけでも複数の魔物の群れがいるが、魔王の影響を受けていない魔物は自分たち以外の群れを敵とみなすはずなので連携して襲ってくるようなことは無い。

 なので現状は俺達を含めて複数のグループがにらみ合っているような状態になっている。

 この膠着状態を維持できれば時間稼ぎになり楽なのだがそううまくはいかなかった。

 複数の集団がいることを感知したのか巨大な蛇の魔物が姿を現した。

 その魔物の出現により集まって来ていた魔物は散り散りになって逃げ出し始める。


「鎧甲麟大蛇だ!毒とかは持っていないがとにかくデカくて硬くて力も強い厄介な魔物だぞ!」


 どの獲物を狙うか品定めしているように周りを見渡していたが、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出した魔物達に見切りを付けたようで鎧甲麟大蛇がこちらを見据えてきた。


「完全に狙われているな…なんか弱点とかはないのか?」

「あいつの鱗は魔力で強化されているらしい。『闘氣刃』ですら時間をかけないと切れない硬度なんだと。だから狙うなら口の中とかの鱗が無い箇所だろうな。」


 話ができる余裕があったのはそこまでだった。

 大口を開けた鎧甲麟大蛇が俺めがけて攻撃を仕掛けてくるが、俺の背後にはカリナさんと護衛対象であるフウさんがいるので回避という選択肢は無い。

 腹を括って口の中を攻撃をするべく剣に『闘氣刃』を纏わせる。最悪は消化される前に内部から切り裂いて脱出するしかないだろう。


「アーガス、俺様が踏ん張っておくからその隙に攻撃しろ!」


 視界いっぱいに鎧甲麟大蛇の口内が広がったところで、俺の背後に滑り込んできたディオンが上下の顎を受け止めながらバックアップに入った。

 いきなりのことではあったが元々口内を攻撃する予定だったのでやることに変わりはない。むしろ飲み込まれなかったのでしっかりと剣を構えて振ることができる。

 口内に『闘氣刃』を纏わせた剣を突き立てるが口内すらも硬く剣がゆっくりとしか入っていかない。

 それでもダメージは入っているようで滅茶苦茶に暴れる始めた。

 自分にダメージが入ることすら構わず地面に頭ごと俺達を叩き付けてくるのをディオンと二人で耐えながら攻撃を続ける。

 踏ん張っているところでカリナさんかコリナさんの魔導術による援護が入ったようだ。必死過ぎてどんな魔導術なのかは聞こえなかったが急速に周りの温度が低下しているのを感じた。

 寒さにより鎧甲麟大蛇の動きが鈍くなってきた。このまま俺達を丸呑みにするのは難しいと判断したのか鎧甲麟大蛇は口を開けて俺達を吐き出した。窮地を脱して再び睨み合いとなったところでフウさんの方で動きがあった。


「お待たせ。術式の準備が整ったよ。」


 今回の闘いもようやく終わりが見えてきたようだ。


今後は何とか週一回の更新を目標に投稿していこうと思います。

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