新たな依頼
厚手の外套にくるまって眠っていたが朝の気温の低下で目が覚めた。寝る前に皆で囲んでいた焚き火からは火が消えていた。
まだ日は登っていないようだが東の空を見ると僅かに明るくなっているので、もうじき夜が明ける時間だろう。
昨日から再開した日課の朝練をするための準備を始める。
「ディオン、俺は朝練するけどお前はどうする?」
「あ~……俺様もやる。」
近くで寝ているディオンに一声かけると、ディオンも寝ぼけ眼をこすりながら準備を始めた。
「おっ、朝練か。いいな、オイラも参加する。」
俺達の動く気配を感じたのかザイードも起き出してきた。
俺達は朝なので小声て話していたがザイードはいつも通りの声の大きさだったので、静かな朝には場違いなほど声が響いていしまっていた。
そのせいでクラットも目を覚ましてしまったようだ。
「クラットも起きてしまったのか。俺達は今から軽く体を動かしてこようと思っているんだがどうする?」
「僕はちょっとやっておきたいことがあるから遠慮しておくよ。」
クラットは不参加を表明すると持ってきている矢をいじり始めた。
時間の使い方は本人の自由だ。無理に参加を強制する気は全くないので俺達は三人で集落の外れの一角に移動し朝練を初めた。
ディオンはザイードの指導のもと『獣氣』を練る練習に励んでいるようなので、俺は昨日思い付いた方法で『闘氣刃』の練習をする。
適当な木の枝を拾ってきて『闘氣刃』を纏わせて素振りをする。
その様子をちらりとみたザイードが俺の方にもアドバイスをくれた。
「『闘氣刃』の練習か。オイラもの兄貴達に見てもらいながらやったな~。どうせやるならその訓練は素振りじゃなくて水とかを切ったりしたらいいんだけどな。」
「水を切る?」
「そうすれば棒の周りの力場がどんな感じになってるか目で見て理解できるからな。」
「そうか、その発想は無かった。試してみたいけど、流石にここじゃできないな。」
「まぁ、ここは出先だからな。それにこのやり方は傍から見ると水遊びと思われるし。」
集落には井戸があるのだが勝手に使って水遊びにしか見えないようなことをするのは流石によくないだろう。
しばらく素振りをした後、この度はディオンと対峙しての模擬戦闘形式の打ち合いを行った。
「アーガスよ、今日からの俺様は昨日までとはひと味違うぞ。」
「なんか調子に乗ってるみたいだな。御託はいいからかかってこい。」
打ち合い前に謎の自信を持っていたディオンだが、その自信が伊達ではないことは剣を合わせている内に直ぐにわかった。
(なんだ?何かが嚙み合わない。ディオンのやつ…昨日より確実に強くなってやがる。妙にこっちのテンポを崩すのがうまくなってる。)
昨日の朝練では剣の腕は俺の方が若干優っていると感じていたが、今日は完全にディオンの方が上だと感じた。
結局、終始ディオンのペースで主導権を奪うことができず打ち合いは終わった。
「フッ…俺様の才能がここにきて開花し初めてしまったな。」
「お前の勝ちはみとめるが、そのクソみたいなドヤ顔はやめろ。今すぐにだ!」
勝ち誇るディオンに凄まじくイラッときてしまった。
この急激な成長の種明かしをザイードがしてくれた。
「ディオンの動きよくなってただろ?昨日の夜に『獣氣』の使い方を少し教えたんだ。」
「でも特別力が強くなってるって感じじゃなかったぞ。なんていうか…うまくなってた。」
「『獣氣』は力を強くするだけじゃないからな。感覚を鋭くしたりもできる。まぁ、今ディオンがやったのは感覚を鋭くしたんじゃなくて緩急をつけたんだけどな。」
「緩急?」
「そう、緩急。ディオンの剣を受けるとき違和感を感じただろ?それは途中でディオンの剣がちょっとだけ『獣氣活性』で加速してたからで、攻撃が来ると思っている瞬間から僅かに速く攻撃が来てたんだよ。他にも攻防の中でこういう緩急をおり混ぜていたから闘いにくかっただろ?」
「そういうカラクリがあったのか。どおりで主導権を握られてっぱなしになるわけだ。」
ディオンがザイードからのアドバイスで一皮むけたのはハッキリ言って羨ましい話だ。
たが、嫉妬したところで俺が強くなるわけでもないし、単純にディオンの日頃の研鑽がアドバイス一つで一皮むける段階にまで届いていたというだけの話だ。
「それじゃ、そろそろオイラも混ざるか。二人がかりでいいぞ、かかってこい!」
ザイードがやる気満々といった顔で武器を構えた。
そういえばザイードと模擬戦をやるのは初めてだ。
ザイードの戦闘スタイルは俺と似ている部分もあるので、直接対峙してみれば俺も何かを掴むきっかけになるかもしれない。ここは挑むしかないだろう。
「やるぞ、ディオン。」
「フッ、全く歯が立つ気がしたないが、ここで挑まないのはカッコ悪すぎるな…足を引っ張ってくれるなよ。」
「こっちのセリフだ。」
軽口を言い合いながら並んで武器を構えた。
模擬戦闘の結果は案の定、全く歯が立たなかったがいい訓練にはなった。
朝練を終えた俺達がテントのもとに戻ると、カリナさんとコリナさんも起きていてすでにテントを片付けていた。
それなりに汗を掻いまい三人とも上半身裸の状態で戻ってきていたので、女性陣が起きる前に身だしなみを整っておきたがったが間に合わなかったようだ。
俺達が帰ってきたことに気がついたカリナさんがなにやら慌て始めた。
「コッ、コリナ…見て。あの三人がなんか凄いことに……。」
「なんということ!三人で組んず解れつで大変なことに……。」
「この場合は誰と誰がどうなったの!?」
「落ち着いて、カリナ。理論上は三人でも繋がり合える。」
「たっ…確かに!でもそうなるとそれぞれのポジションは……。」
相変わらず何かを話し合っているのかサッパリわからないが、いつも通りの調子なのは見て取れた。
「あんたら……朝から元気ね〜。フウちゃんは寝る間も惜しんで色々と奔走して忙しかったのに。」
フウさんが少し疲れた様子でそう話しかけてきた。そういえば昨日寝る時にフウさんの姿を目にした覚えが無い。
「さて、今日の予定なんだけどちょっと良くない事が起こっててね。これから説明も兼ねて里長の所に皆で乗り込むよ。」
いつものどこか掴みどころがない雰囲気とは違い真剣な口調でそう宣言した。
その勢いに背中を押される形で俺達はフウさんに引き連れてられて里長の家に向かう。
「里長さん、大切な話があって来たんだけど。」
「こんな朝早くになんだ?取引は昨日のうちに終わったんじゃないのか?」
「それとは別件。この隠れ里の存亡に関わるとっても大事な話があってきたの。」
「……話を聞こう。中へ入ってくれ。」
里長に畝がされ家の中に移動した。
「とりあえず、現状の説明をするからこれを見て。」
フウさんの手元から光の粒がふわりと舞い上がると空中を漂い目の前の空間を歪ませた。
歪んだ空間から見える光景はまるで空から地上を俯瞰しているような視点で、中心に見える場所には何もないが所の周囲を囲むように赤い点が散らばっているのが見て取れた。
「これはこの村を上空から見た風景で赤い点は魔物。見ての通りこの隠れ里は現在進行形で魔物に包囲されつつある。」
「バカな!魔物なんぞ【星零獣】様の威光を恐れてこの地に足を踏み入れることなどない。でたらめを言うな!」
「その【星零獣】様に何か問題が起こってるってことぐらい、そっちでもとっくに把握しているんでしょ。ならこういう事態になってもおかしくないってことぐらい本当はわかってるでしょ?それにこの地に長く住んでいるなら何かがいつもと違うことぐらい感じてるんじゃない?」
「そっ…それはっ」
「それでどうするの?フウちゃん達は別にこのまま帰還してもいいんだけど?生き残る気があるなら、今ここにいるフウちゃん達傭兵の国に防衛の依頼をするしかないと思うんだけど?」
「むぅぅ……この情報が真実なら貴殿らに頼るより他は無い。真実を確かめている間に手遅れになってしまったら元も子のない……わかった、貴殿らを信じて正式に傭兵の国に依頼する。この地への魔物共の侵入を防いでほしい。」
「報酬は?」
「【星零獣】様がこの地に落とされた神聖なる力が宿るお体の一部を譲ろう。魔物なんぞの素材とは比べ物にならんほどの希少性と力がある逸品だ。不足はなかろう。」
「うん。それなら十分だよ。」
この後は傭兵の国に帰還するだけかと思っていたが、どうやらもう一仕事ありそうだ。
里長の家を後にして、フウさんが中心となって防衛の計画についての話をすることになった。
「さて、先に一応聞いておくけど今回の依頼を遂行する上で誰か有効な作戦とかを思いついた人はこの中にはいる?いなければフウちゃんのが考えた計画で行かせて行こうと思っているんだけど。」
誰も口を開かなかったのでフウさんは自身が考えていた防衛計画について話し始めた。
「それじゃ、フウちゃんが考えている防衛計画についての説明をするから良く聞いてね。フウちゃんがこの隠れ里の周辺の空間に魔物の感覚を惑わせて侵入を妨害する結界を張ります。この結界を張るためには結界の基点になる三箇所の場所にマーキングを行う必要がある。具体的にはこの三箇所。」
フウさんは里長の家でも見せていた俯瞰図を再度展開し、追加で青い点で目印を付けてその場所を示す。
その内の二箇所にはまだ近くに赤い点は無かったが、最後の一箇所が赤い点に囲まれていた。
「見ての通りこの二箇所は魔物からの妨害を受けずにチャチャッとやれそうなんだかど、この一箇所は既に魔物の勢力圏内に入ってしまっている。だからみんなには結界を張るための術式のマーキングする場所までの道を切り開くのと、マーキングが終わるまでの間その場所の防衛してほしい。」
俺達が何か特別な役割をするわけではなく、求められていること自体は元々受けていた護衛の依頼に近そうだ。
「ただし、今回は突発的な依頼なので新人の三人がこの依頼に参加するのかは自己判断に任せます。今回は報酬がおいしい分、大変な闘いになると思うからよく考えて選ぶこと。フウちゃんは先に簡単な二箇所のマーキングを済ませてくるから、戻って来るまでに闘いに参加するかどうか決めておいてね。」
フウさんは計画の概要を話すと俺達への選択を残して足早に行動を開始した。
俺達も依頼に参加するのか話し合うことにする。
「てっきり俺様達も依頼に参加する流れかと思ったけど、よく考えたらインターンとしてついてきたんだったな。」
「報酬がいいという話だし、俺は参加しようと思っているんだが二人はどうする?」
「もちろん参加するさ。戦力は一人でも多いに越したことはないだろうし、なによりもここでビビるのはダサ過ぎるってもんだろう。」
「ディオンはそう言うと思っていた。クラットはどうする?」
「僕もちょっと試したいことがあるから参加したいと思ってる。」
その返答は少し以外だった。昨日の戦闘でクラットは攻撃力不足を指摘されていたので、有効な攻撃手段がない現状なら不参加でもおかしくないと思っていたからだ。
「試したいこと?」
「昨晩、コリナさんから魔導術について少し教わってね。それで攻撃力の弱さを補う方法を思いついたんだ。」
「あぁ、そういえば今朝なにかしてたな。」
「うん、それがどれだけ通用するか試してみたいんだ。上手くいけば僕も今度こそ皆の力になれると思う。」
「そういうことなら、決まりだな。ザイード、俺達三人もこの依頼に参加させてもらう。」
話がまとまったのでザイードに俺達の意思を話して作戦のミーティングに参加する。
「今回の闘いは人手があったほうがいいだろうから、正直たすかる。早速だけど陣形を決めておこう。目的地に着いてからフウ様の作業が終わるまでの防衛はここに来るまでの陣形でいいだろうけど、そこまで行く時の陣形は考え直した方がいいな。」
「そうだな。とりあえず敵陣を突発しながら進むことになるから先頭はやっぱり一番突発力があるザイードが適任だろう。」
「ん、私達もそれがいいと思っている。フウ様を乗せたジルパを中心ににして進行方向の正面をザイード、両サイドに私とコリナ、アーガスとディオンが私達の前衛として魔物の攻撃を防ぎやすい位置で遊撃、クラットはフウ様の後ろに着いて追従しながら弓での牽制。これがベストな配置だと思う。」
「注意点として今回の闘いでは魔物を倒すよりも目的地に辿り着く事の方が重要だから魔物にいちいちとどめ刺さなくていい。私とカリナが構築を素早くできる魔導術で足を狙って追ってこれないようにするからアーガスとディオンは攻撃を防ぐことにだけ集中。クラットもできるだけ足を狙って攻撃。」
ミーティングを終えて各自が装備の点検をしているとフウさんが帰還した。
「お待たせ~。それで、新人の三人は来るの?」
「「「行きます!」」」
「いい返事。それじゃ、みんな行くよ。」
フウさんの号令で俺達は出発した。
再就職が決まったので次回から更新ペースをおとします。




