強さを求めて
【星零獣】…聞いたことが無い言葉だった。
「【星零獣】って何なんですか?」
「【星零獣】は星の力が強く集まる所で生まれるめっちゃ強い獣だよ。どういうわけか魔力を持つ存在に対しては敵意をむき出しにして攻撃的になるけど、魔力を持たない生物に対しては基本的に無関心な性質を持ってる。まぁ、それでも変なことしたり近づき過ぎたら攻撃される場合もあるけどね。」
だいぶざっくりとした説明だったが最低限の概要は理解できた。
それと同時に今まで内心で疑問だったことの答えがわかった。結界も無いのに魔物の脅威が無い場所がどうしてできるのか疑問だったのだ。
説明を聞く限り【星零獣】というのは言わば魔物の天敵となる存在なのだろう。さらに人には基本的に無害なんて都合のいい生物がいるならそいつのナワバリに小規模の集落ぐらいなら作れてもおかしくない。
「そういえばオイラもクランの兄貴から【星零獣】って存在について少し聞いたことがあったな。たしか兄貴は絶対にケンカを売るな、必要以上に近づくな、進行方向にいたら不審な動きをしないで迂回しろ、それさえ守ってたら基本的には安全だ、って言ってな。」
どうやら傭兵の国では一部の人は知っている情報のようだ。
「そういうわけでここからは定期的に索敵の魔導術を使って進行方向に強い生物の反応があったら迂回して進む。」
コリナさんが話をまとめて森に入ってからの方針が決まった。
休憩と食事を終えた俺達は【星零獣】の住む森の中を進んでいた。
平原の時とは違いこの森の中は不自然なほど魔物の気配がない。かといって生物が全然いないのかといえばそんなことは無く、魔力を持たない動物や昆虫がいる形跡はあちらこちらに見受けられた。
しばらく森の中を進んでいると何かに気がついたフウさんがポツリと何か呟く。
「ん?これって……まぁ、いいか。」
「フウさんどうかしたんですか?」
「いや〜、何でもないよ。それよりも暇だから何かみんなでお話しようよ。」
なんだか上手くはぐらかされてしまった。
護衛依頼の真最中で警戒を解くわけにいかないのだか、この森には魔物の脅威はなさそうなのは事実だ。
むしろ話をしながら進むことで【星零獣】にこちらの存在をアピールしながら進んだ方が不意の遭遇を避けられるかもしれない。
「それなら、ちょうどいいから今後のためにさっきの闘いの反省会をやっとこう。まずはオイラと組んだクラットについてだ。クラットは弓の狙いはある程度正確だったと感じた。でも、致命的に弓に攻撃力が足りてなかったぞ。その弓の威力だともうちょっと強い魔物には矢が刺さらないと思う。だからその弓で闘っていくなら目とか口の中とかの硬くない部位を狙わないとダメージを与えられないぞ。」
「う~ん、この弓は今までずっと使ってきたやつだから使い慣れてるんだよね。でもダメージを与えられないなら武器としてはダメか……。僕も少し『獣氣』を使えるようになったからもっと強い弓でも弾けるようになったしそろそろ更新した方がいいのかな……でも、お金が……。」
俺の方からではクラットの闘いぶりを見ることはできなかったので何とも言えないが、金がないというのは大いに共感できる話だ。
「ん……じゃあ私からも、私と組んだアーガスは基本的には悪くない動きができてたと思う。レッドホーンが突っ込んでくるとわかった後の対応も依頼主を守るという意味ではいい判断だった。まぁ、バックアップを頼んだとはいえ私の前衛としての役割をあっさりと抜けたのは驚いたけど。でも、ディオンのピンチに素早く駆け付けるスバダリムーブはとても良かった。新しい可能性を感じだ。」
後半の話はよくわからなかったが、どうやら俺の動きはそこそこ好印象のようだ。
「それじゃ、私も。私と組んだディオンだけどこっちもそこそこ良かったと思う。『闘氣』の他に『獣氣』も少し使えるみたいだから身体能力が高くて安定した立ち回りができてた。特にレッドホーンが突っ込んで来た時に押し返した時の『獣氣活性』はワイルドで逞しく粗らしいパッションに満ちた攻めが期待できそうでとても良かった。」
ディオンの方も好評のようだった。
しかし……ディオンは『獣氣』を使えるのか……『闘氣』は俺の方が練度は上だと自負していたが俺は『獣氣』は今のところ使えないのでもしかすると総合力ならディオンの方が強いのかもしれない。
なんとなくだがディオンに負けるのは嫌なので俺も『闘氣』の練度を更に磨きつつ『闘氣刃』の他に何かに使える手札を増やしたいところだ。
今まで魔法を使える人に接点が無かったので魔法について詳しく知る機会が無かったが、カリナさんとコリナさんは魔法をメインに闘うタイプのようなので教えてもらえたら手札を増やせるかもしれない。
「カリナさん、俺にも魔法とかって使えたりしますかね?俺…もっと強くなるために何かに習得できないかって思ってて。」
「ほう、それはつまりスバダリに磨きをかけたいということ?」
「えっ……と、たぶんそんな感じ?だと思います?」
スバダリというのが何のことなのかわからなかったが、頷いておいた方が話がスムーズにいきそうなのでつい肯定してしまった。
「いい心がけ。とてもいい。そういうことなら時別に時間がある時に魔導術について少しだけ教えてあげる。」
なんだかよくわからないが魔法について教えてもらえる流れになった。
ここで話を聞いていたクラットも魔法について興味があるのか話に加わってくる。
「その話、僕も一緒にいいですか?僕は現状が皆さんより弱いので少しでも強くなりたいんです。」
この言葉にカリナさんよりも早くコリナさんが反応する。
「ならクラットには私が教える。クラットの強くなりたいという意思と攻めの姿勢を私は最初から予見していた。一見すると気弱そうに見える印象の裏に攻めとしての資質が潜んでいると思っていた。」
クラットの方もよくわからないが魔法について教えてもらえる流れになったようだ。
「ディオンは魔法について教えてもらわなくてもいいのか?」
「あ~…俺様は国元に居た時に魔法の素養については一通り調べたことがあるんだ。で、俺様には魔法の資質が無いってことがすでに分かってんだ。」
「それならディオンはオイラが教えるか。ディオンの戦闘スタイルは『闘氣』と『獣氣』を混合した近接戦闘スタイルだからオイラと一緒だ。何か教えられることがあると思う。」
「おぉ、それはありがたい。ぜひ、お願いする。」
こっちも話がうまくまとまった。
そう思っているとカリナさんとコリナさんが同時に口を開く。
「えっ、ザイード×ディオンの可能性!?」
「えっ、ディオン×ザイードの可能性!?」
口を開いたのは同時だったが内容は少し違ったようだ。
「は?何を言ってるの?この流れはどう考えてもザイードがディオンを強く激しく指導する王道の展開でしょ?」
「なにそれ?なんの意外性も無い。『獣氣』を暴走させたしまったディオンをザイードが師として身体で止める展開の方がドラマチックでいいでしょ?」
なにやらまた言い争いが始まってしまった。
「元気ね~あんたら。でも一応フウちゃんの護衛中ってことは忘れないようにね?」
二人はフウさんの言葉で争いをやめて、俺達は改めて森の中を進んだ。
何事も無く森の中を進んでいると索敵魔法を使っていたカリナさんが突然足を止めた。
「この先に何かの反応がある。」
「【星零獣】ですか?」
「たぶん違う。これは…おそらく人。」
「こんな森の中に人?でも、隠れ里が近いならおかしくはないのか。ザイード、どうする?」
「そうだな……何人いるかわかるか?」
「たぶん一人。」
「ならこのままいこう。野党の類なら一人ってことはないだろうし。」
ひとまずはこのまま進むことになり足を進めた。
しばらく進むとやがて一人のエルフ種の男性と出会った。
「おや、こんな場所で誰かに会うとは珍しい。貴方がたはひょっとしてこの先の集落に行く御一行ですか?」
エルフ種の男性はにこやかにこちらに話かけてきた。
この問にフウさんが代表して返答する。
「そうだよ。そういう貴方は?」
「自己紹介をしておきましょう。私はセイジという者で、趣味で世界中を旅して色々な場所を見て回っているしがないハンターです。」
世界中を旅するセイジという名のエルフ種のハンター。この情報に当てはまる人物の噂を聞いたことがあった。
「もっ、もしかして貴方は世界各国のハンターギルドでS級と認められた伝説のハンター『天握地壊』のセイジ様ではないですか?俺様ずっと貴方の英雄譚に憧れてたんです!」
ディオンにセリフを取られたが俺も同じ質問をしようとしていたところだった。
「伝説のハンターかどうかは知りませんが、S級の評価を頂いて一部の方達に『天握地壊』なんていわれることがあるのは事実ですね。」
ハンターギルド、この組織はこの大陸に存在する五つの大国にそれぞれ支部を持つ国家をまたいだ組織で、主に魔物がらみのトラブルを解決する戦士を斡旋する組織である。
その中でもS級と呼ばれるランクのハンターは強大な力を持つ戦士であり、その一角に『天握地壊』のセイジと呼ばれるエルフ種の男がいる。
彼は特定の国に拠点を置かず大陸全土を気ままに放浪しながらもその圧倒的な武力で数々の伝説的な武勇伝を各地に残しているまさに生きた伝説と呼べる存在だ。
その中でも最も有名な逸話に、ある国に侵攻した地を埋め尽くす程の魔王の軍勢に対して単身で立ち向かい、天を掌握したと言えるほどの空を覆いつくすような膨大な魔法陣を構築して地上の魔物を殲滅し尽くしたという話がある。
この時の様子から『天握地壊』の二つ名で呼ばれるようになったという話だ。
本当にこの人物が『天握地壊』のセイジなのかどうかはわからないが、かの人物は世界中を放浪しているらしいので何処かで遭遇してもおかしくはないだろう。
「フウちゃん達は傭兵の国からこの先の隠れ里に行商に来た商人とその護衛だよ。」
「ほぅ、傭兵の国の方達でしたか。少し懐かしいですね、傭兵の国には何人か知り合いがいたりするんですよ。」
各国にあるハンターギルドと傭兵の国は別に敵対しているわけではないが、魔物を倒す戦士の集団という意味では商売敵となる一面があるのは事実だ。
なので、過去に何かしらの因縁があってもおかしくはないだろう。
「それでその『天握地壊』のセイジ様がどうしてこんな場所にいるわけ?」
「この辺りに【星零獣】がいると聞いたので見てみたいなと思いまして。」
「ふ~ん…見てどうするつもり?」
「どうもしませんよ。ただ見てみたいだけです。とはいえこの先にある集落でその話をしたら、【星零獣】様に不用意に近づくなと怒られましてね、それで結局最終的に隠れ里を追い出されてしまいました。」
高位のハンター達はどこか思考回路がオカシイ人が多いと聞いたことがあったが、傭兵の国の強者達ですら近づかないことを徹底しろと教えている【星零獣】を興味本意で見に行こうとするあたりこの人もそうなのかもしれない。
「あっそ、さっきも言ったけどフウちゃん達はこの先の隠れ里に用があるからもう行くね。」
フウさんが素っ気ない態度で別れを切り出した。
隠れ里まではあと少しのようなのでここで世間話をして時間を消費する理由は無い。
ディオンはとても残念そうにしていたが、結局セイジ殿とはすぐに別れて再度出発することになった。
「傭兵の国…これは予定を変更したほうが良いかもしれませんね……」
【星零獣】を見に行くことを諦めたのか、別れ際にセイジ殿が小さくそんなことを呟いていた。
六日目は3で終わりにする予定だったのに色々詰め込んだら4まではみ出ちゃった。




