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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
23/104

護衛開始

 出発してから半日程は何事もなく単純な移動だけで終わった。

 これは魔王の侵攻が起こった直後で、周囲に生息していた魔物が居なくなったことが原因らしい。


「もう少し進んだ所の休めそうな所で一度休憩にしよう。たぶんこの先は魔王の影響から逃れた魔物達が、この機会に新しいナワバリを得ようと群雄割拠しているエリアになってると思う。」


 銀プレートであることからこのパーティーのリーダーになったザイードの提案で、小休止を挟むことになった。

 休憩中、雑談がてら周辺に生息していることが予想される魔物の情報を聞いてみることにする。


「この先にはどんな魔物がいるかわかったりするか?」

「この先はしばらく平原が続いているらしいから、草食系の魔物とそれを狙う肉食系の魔物の両方がいるだろうな。この辺なら、草食系の魔物ならナワバリ意識が強いレッドホーン、肉食系の魔物なら集団での狩りを得意とする狼型の魔物アサルトファングとかがいそうだな。」

「そういえばこういう護衛の依頼で魔物を倒したら魔物の素材はどうするんだ?『集荷衆』の人とかは流石に取りに来てくれたりはしないだろ?」

「こういう場合は基本的にその場で解体して、持っていけそうな物だけ持っていく感じになるな。依頼主の馬車とかに余裕があれば運んでもらえたりする場合もあるんだが…。」


 ザイードや他の二人はともかく、俺達三人は懐具合が寂しいので金になりそうな物は持ち帰りたいところだ。

 もちろん依頼主を危険にさらしてまで戦闘しに行く気は無いが、襲ってきた魔物を返り討ちにできたら臨時収入につながる。


「新人君達は懐具合が寂しいものだもんね〜。しょうがないから何か仕留めたらフウちゃんが運んであげる。まぁ、規則だからその分の一割はフウちゃんが貰うけどね。」


 話を聞いていたフウさんがそう申し出てくれた。どうやって運ぶのかは謎だが、これで魔物に襲われることもマイナス要素だけでは無くなったのは嬉しい誤算だ。


「話を戻すぞ、平原を抜けたら隠れ里がある森の中に入る。その森にはなんかヤバいヤツがいるって話だからこの辺からは本格的に気合入れとかなきゃ危ないぞ。」

「その森の中はにいるヤバいヤツってのはどんな魔物なんだ?」

「わからん。」


 ある程度は頼りになるが、やっぱりザイードはザイードだな。

 森に入ってからは不測の事態にならないように今以上に気を付けておいたほうが良さそうだ。




 休憩を終えてから改めて平原を進んでいた俺達は、現在魔物の群れに囲まれていた。


「アサルトファングの群れだ。依頼主を護るように陣形を組み替えるぞ。草原の草に紛れてて正確な数がわからないが、こうやって襲ってきた以上勝算があるってことだ。なら最低でも俺達よりも頭数が多いだろうから気をつけろ!」


 ザイードの指示で事前に話し合っていたフォーメーションに切り替える。

 依頼主を中心にして囲みザイードとクラット、俺とカリナさん、ディオンとコリナさんがそれぞれ前衛と後衛でタッグを組むフォーメーションだ。


「遠巻きに監視しながら包囲網を徐々に狭めていってたから逃げるのは難しかったかな。あえて姿をさらしている六匹の他に周辺で身を隠しているのが四匹いる。それと、少し離れたところにも三匹いるみたいだから頑張ってね〜。」


 危機感を全く抱いてない様子のフウさんがザイードすら把握できてない情報をさらっと口にした。

 これから戦闘が始まる状況で気にすることではないが、やはりフウさんは只者じゃないのは間違いなさそうだ。


「カリナさん、前衛の俺が攻撃を止めますので動きが止まったところを仕留めて下さい。」

「わかった。」


『闘氣鎧』で防御力を底上げしなが魔物の攻撃を待つ。

 できれば魔物の頭数を減らしたいが依頼主を護らなくてならない状況で、確実に仕留めきれる保証もないのにこちらから攻撃を仕掛けて隙をつくるのは愚策だろう。

 魔物と睨み合いをする形となったが今回の闘いでは時間は俺達の味方だ。


「術式構築完了、ウィンドランス。」


 カリナさんの攻撃により不可視の槍がアサルトファングの一匹を貫いた。


「ウィンドランス。」


 背後でも同じ様に魔法を行使するコリナさんの声が聞こえた。

 攻めあぐねていては一方的に数を減らされるだけであることを理解した魔物達は積極的な攻撃の姿勢に切り替えてくる。

 正面に見えていた一匹を牽制していた俺めがけて伏兵として隠れていた一匹が跳びかかってきた。

 咄嗟に両手持ちしていた剣を片手持ちにして、空けた手で拳を握り鼻先を殴って迎撃する。

 跳びかかってきた魔物は怯んで攻撃をやめたが、牽制していた魔物がこの機を逃さず姿勢を低くして俺をすり抜けようとしてくる。


「させるか!」


 体ごとぶつかるつもりで無理矢理魔物の進行方向に割り込みそれを妨害する。

 踏み込むことが難しいと判断したのか魔物は攻撃対象を俺に切り替えて噛みついてきたが、剣での防御がギリギリ間に合った。

 剣に噛みつかれた状態で魔物との力比べになったが後衛への攻撃をブロックして膠着状態には持ち込めた。

 しかし、この状態ではさっき怯ませた魔物が再度動き出したら防ぐ術が無い。


「ウィンドランス。」


 内心で焦っていたところに再度カリナさんの魔法が放たれさっき怯ませた魔物が倒れた。

 このままカリナさんの援護を待ってもよかったが、別の伏兵が動き出したら面倒なので俺も力比べをしている魔物を早々に倒すことにする。

 力比べの最中、噛みつかれている剣に『闘氣刃』を纏わせる。

 口の中に力場の渦が発生したことに驚いた魔物は力比べを辞めて剣を離す。

 俺はその隙を逃さず剣を振り魔物を一刀のもとに斬り伏せた。

 周りを確認する余裕ができたので辺りを見渡すと俺達以外のタッグもしっかりと魔物に対応できていて何匹かは倒せているようだった。


「安心するにはまだ早いみたいだよ。離れたところにいた三匹が動きだしみたい。ナワバリ意識が強いレッドホーンを挑発してこっちに引っ張って来てる。誘導したレッドホーンをフウちゃん達にぶつけるつもりみたいだね。」


 どうやらこの後ももう一波乱ありそうだ。

 音を頼りにレッドホーンが突っ込んできてる方角を特定する。どうやらディオン達がいる方にレッドホーンが迫ってきているようだ。

 ディオン一人ではレッドホーンの突進を止められないだろう。幸い俺達の方には現在魔物は来ていないようなのでディオンの援護に回ることにした。


「ザイード、俺はディオンの援護に回る!こっちのバックアップは任せた。」


 ザイードにカリナさんへのフォローを任せてディオンの援護に向かう。

 何とかレッドホーンが突っ込んで来る前にディオンの隣に並ぶことができたが、その直後にレッドホーンが突っ込んできた。

 ディオンと二人でレッドホーンの突進を止めにかかるが、勢いにのったレッドホーンの突進は二人がかかりでも完全に止めることはでき徐々に押し込まれてしまう。


「くぅぅ……ディ…ディオン、このままじゃ押しきられるぞ。」

「ふぬぅぅ……俺様が止めておくからアーガスがその間にこいつを仕留めろ。」


 二人がかかりでも止められていないのに一人でどうするつもりだ?と思っているとディオンの全身の筋肉に力が漲り俺にかかっていた負担が激減した。

 俺に『闘氣刃』という切り札があるようにディオンにも何かの切り札があったのだろう。

 ディオンが作ったこの機を逃すわけにはいかない。俺も剣に『闘氣刃』を纏わせて素早くレッドホーンを仕留めにかかる。

 ディオンに攻撃を止められている状態のレッドホーンには俺の攻撃を止めるすべはない。下からの振り抜くようにして剣を走らせ首を切り落として仕留める。


「おぉ~、結構やるね。いまので最後だったよ、おつかれ~。」


 背後からフウさんののんきな声が聞こえ戦闘が終わったことを知らされた。

 フウさんのことを信用していないわけではないが間違いがあるかもしれない。警戒を解かずに周りを確認するとその言葉通り見える範囲に魔物の姿は無かった。


「魔物は全て倒せたのか?」

「いや、オイラ達を倒しきれないと判断したのか何匹かは逃げていったみたいだ。それでも大半の魔物は討ち取ったから流石にあの群がすぐにまた来ることは無いと思う。今のうちに進んじまおう。」


 できれば倒した魔物の素材を回収したかったが血の匂いに誘われた新手の魔物が現れたら厄介だ。今は依頼主の安全を優先するべきときだろう。

 そう考えて移動しようとしていると倒した魔物の死体がいつの間にか消えていた。


「魔物の素材ならもう回収したよん。それじゃ改めて出発~。」


 いつの間にかフウさんが回収していたようだ。

 どうやって回収したのか、いつ回収したのかが全くわからない。相変わらず只者ではない感じがするが正体を知っている人が誰も教えてくれそうにないのでもはや気にしないことにする。

 俺達は改めて目的地の隠里に向かい移動を開始した。




 その後は平原での魔物との戦闘は無く、平原を抜けた森の入り口まで俺達は来れていた。

 この後は一気に森を進んで隠れ里まで行く予定と聞いているので、森に入る前に休憩と軽い食事をすることになった。

 食事をしながら森の方に目を向けると、騎士養成所で演習を行った森とは違う異質な雰囲気がした。


「ここから先の森は木とかの遮蔽物が多いから魔物が隠れやすいし木の上からの奇襲とかもあるかもしれない。俺もできるだけ警戒を強めるが正直、索敵能力ではあまり力にれないかもしれないぞ。」

「森に入ってからは本格的に油断できないから私達が交代で索敵の魔導術で警戒する。だからそんなに肩ひじ張らなくてもいい。」


 俺の懸念にコリナさんが助け舟を出してくれた。

 奇襲を受ける危険性が減るのはありがたいが、森に入ってからは本格的に油断できないという言葉が引っかかった。


「本格的に油断できないというのは、この森には何かヤバい魔物とかがいるってことですか?」

「魔物ではないけどヤバいのが居るって聞いてる。」

「魔物じゃない?」

「私も詳しい話は知らないけど魔物とは違うなんか凄いのがいるらしい。」

「そんなやつのナワバリに入って大丈夫なんですか?」

「魔物と違って不用意に近づかなければ大丈夫って聞いてる。そもそも、この先に隠れ里があるのもそいつのナワバリの近くに魔物があまり寄り付かないかららしいし。」


 そんな話をコリナさんとしているとジルパの背中の上でだらけていたフウさんがボソリと口を開いた。


「この森の頂点に君臨しているのは【星零獣】だよ。」

久しぶりの戦闘描写。

アーガス以外のメンバーも闘っているんですが、この章の物語はアーガスの視点で書いているので基本的にはアーガスが認識できてないことは描写されません。(複雑な戦闘描写を避けるための言い訳)



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