顔合わせ
ガサゴソという音がして目が覚めた。
辺りを見回すとクラットが寝床から出ていこうとするところだった。
「ごめん、起こしちゃったね。」
「まだ起きるには早くないか?」
まだディオンが寝ているようなので小声で話す。
昨日は食事の後解散し寝床を求めて貸しテント屋に行ったのだが、個別で借りると高くなるので俺とクラット、ディオンで折半して同じテントで一泊することにしたのだ。
ザイードは自前のテントを別の場所に設営しているそうなのでそこに帰っていった。
ちなみに貸しテント屋は傭兵の国における宿屋みたいなもので寝具と設営したテントを金で借りることができる施設だ。
「出発前にジルパを迎えにいっておこうと思ってね。すぐに戻って来るからまだ寝てて良いよ。」
「いや、もう目が覚めてしまったし、ちょうど良いから俺も起きるよ。ここ最近はできて無かったけど、日課の鍛錬をしないと落ち着かないんだ。」
最近は色々あり過ぎてできて無かったが、俺は復讐のための力をつけるために騎士養成に入ってから訓練の他にずっと朝練を続けてきた。
これからは復讐のためのではなく、自分のために力をつけていく必要がある。
ようやく生活に安定の兆しが見えてきたので日課を再開したいと考えていたところだった。
「そっか、しゃあ僕はちょっと行って来るよ。」
クラットが出ていったので俺も外に出て鍛錬を開始する。
テント群から少し離れた広い所でまずは昨日新調した剣で素振りを行う。
その後はいつもなら敵の攻撃を想定した受けからの切り返しの動きを訓練するのだが、ふと思い立ってその辺に落ちている木の枝を拾ってそれに『闘氣刃』を纏わせる練習をすることにした。
真っ直ぐではなく微妙に湾曲した木の枝の表面に沿わせるように『闘氣』を流し、全体を包んたところでその表層に『闘氣刃』の渦を創り出す。
慣れた形状でもない物に『闘氣刃』を使うのは想像以上に難しく終わった後に木の枝を確認すると木の枝は所々が削れて歪な形になっていた。
(振ってもいないのにこんなに傷つけてしまったか。実戦では武器を振りながらこれをしなくちゃいけないからまだまだだな。でもこのやり方なら武器を傷つけずに練習できるし毎回違う形状の物になるからコントロールの練習になる。今後はこの訓練も朝練のメニューに加えよう。)
そんな風に考えているとディオンがやって来た。
「朝練するなら俺様も誘えよ。打ち合い形式でやった方が実戦的な訓練になるだろ。」
確かにその方が理にかなっている。ずっと一人で強くなろうと足掻いていた弊害で誰かと訓練するという考えが無かった。
もう復讐は終わったのだからこれからは誰かと協力することも覚えていかなくてはならない。
「すまん、次からは誘う。」
俺の答えに満足したのかディオンは大きく頷き俺の前に立って剣を構えた。
その後はディオンと二人で朝練をした。訓練が楽しいと感じたのは生まれて始めてだった。
朝練の後帰ってきたジルパを連れたクラットと合流して貸しテント屋を引き払う。
前々から名前を聞いていてもしやと思っていたがやはりジルパはボクチン男爵家が保有していた軍馬のジルパだった。
ただ、俺はもうあの国の人間じゃないのでとやかく言うのはお門違いだろうと思ったのでなにも言わないでおくことにする。
この後はザイードとも合流してギルドで依頼人と俺達とは別で依頼を受けた二人との顔合わせをして依頼に出発する予定だ。
ザイードとも合流して出店で朝食を買って食べながら、依頼を受けるうえでの注意事項などをザイードから教わる。
「まず知っておかなくちゃいけないことは、結界の外の魔物は強いってことだ。お前達はたぶんみんな結界の影響で弱体化していて魔物としか闘ったことはないと思う。だから結界の影響を受けていない状態の魔物がどれぐらい強いかわかってない。たとえゴブリンとかの雑魚でもお前達が想像している1.5倍は強いと思っておいたほうが良いな。」
「そんなに違うのか?」
「結界の影響を少しでも受けていると全ての能力が少しずつ下がってる状態になってるらしい。だからお前達が想像しているより、少しだけ力が強くて素早くて肉質も硬くなっていて頭の回転も良くなっていて反応スピードも速くなっている。それら全てを総合すると1.5倍は強いっていわれてる。」
「なるほど、それは事前に知っておけて良かった。その認識のズレは致命傷になりかねない要素だ。」
「あとは、そうだな……パーティーを組むなら求められている役割を常に意識して動くことかな。今回は俺達の他に依頼を受けた二人が後衛らしいから前衛がオイラとアーガス、ディオンで後衛がクラットと他二人で立ち回るのが基本的なフォーメーションになる。この場合、オイラは別としてアーガスとディオンより後衛の二人の方が攻撃能力が高いことが予想される。だからアーガスとディオンは敵を倒すより後衛の二人が攻撃に集中できるような立ち回りが求められると思う。」
「確かにそうなりそうだな。ということでディオン、手柄欲しさに先走ったり深追いしたりするなよ。」
「わかってるさ。俺様もそこまで馬鹿じゃない。」
先に釘を刺しておいたが昨日のこともあるので心配だ。勝手に動こうとしたら俺が真っ先に止めに入るように意識しておいたほうが良いだろう。
「それなら僕はどうするのがベストかな?」
「クラットは狩人だった経験を活かして索敵に注力するのが良いだろうな。正直なところクラットは攻撃能力が低すぎて決定力が無いからサポートで動いた方が能力を活かせるはずだ。」
「索敵かぁ……どこまで力になれるかわからないけど精一杯やってみるよ。」
「クラットは気配を察知するのはオイラ達の方が上手いだろうけど、魔物の痕跡とかを見つける能力は負けてないじゃないかと思ってる。あと、ジルパが魔獣特有の感覚で異変を察知できるかもしれないし。」
「なるほど、そういう方向なら僕でも力になれる気がするよ。」
そんな感じで話あいながら朝食を済ませてギルドに向かう。
ギルド職員に到着したことを知れせてしばらく雑談をしながら待機しているとギルド職員から声をかけられた。
「依頼を受けた二人が来ましたよ。」
ザイードの他で依頼を受けてとうい二人の人物が来たようだ。早速挨拶をしようと二人の元に向かうと二人組の女性が立っていた。
二人組の女性はほぼ同じ見た目をしておりザイードの顔を見るなり同時に口を開く。
「あなたはクラン様×コルト様の間に挟まりに来るお邪魔虫!」
「あなたはコルト様×クラン様の間に挟まりに来るお邪魔虫!」
ザイードのことを知っている口ぶりだったが、そのことをについて何かと聞くよりも早く何やら突然言い争が始まった。
「はぁ?何気持ち悪いことを言ってるの?コルト様×クラン様なんて有り得ない!クラン様×コルト様こそ王道にして正義であることがなぜわからないの?」
「そっちこそありえない!直ぐに見たまんまで何の意外性もない安直なカップリングに意識を囚われてばっかり!可能性を探究しようとしない!」
「コリナのその言葉は自分の願望のために真実を歪めることへの免罪符にしか聞こえない。」
「真実は確認するまでわからないこと。ゆえに私の見解が間違っていると決めつけるのはおかしい。」
二人の言い争うは終わる気配がない。埒が明かないなかザイードが空気を読まず口をはさんだ。
「なんか白熱してるとこ悪いけどオイラあんたらのこと知らない気がするんだ。オイラとあんた達って何処かで会ってたか?」
「「いえ、私達が個人的にあなたのことを知っているだけ」」
二人組の女性はピタリと言い争いをやめて今度は同時に反応した。
「私はカリナ。」
「私はコリナ。」
それぞれそう名乗った。おそらくこの二人は双子の姉妹なのだろう。
見た目も服装もほぼ同じだが共にそれなりに整った顔立をしている。体型は地味な灰色の外套を羽織っているのでよくわからないが背はそんなに高くなさそうで、武器のような物を装備しているようには見えなかった。
よく見ると前髪の分け方が違った。カリナと名乗った方の女性は前髪で右目が隠れており、コリナと名乗った女性はその逆で左目が隠れていた。
二人が自己紹介してきたので俺達もそれぞれ自己紹介し顔合わせが終わる。
「どう思う?コリナ。」
「私の見立てだとディオンとクラットが攻め、アーガスとザイードが受け。」
「はぁ?目が腐ってるの?どこをどう見ればそんな風に見えるの?」
「そんなのどこからどう見ても、だよ。」
「ありえない!」
「そっちこそありえない!」
またもや言い争いが始まった。何を討論しているのかいまいち理解できないがお互いに譲れないものがあることがうかがえた。
白熱した言い争いに部外者が口をはさむ余地はないだろう。幸い自己紹介自体はすでに終わっているので静観することにした。
俺以外のみんなも同様の結論に至ったようで先程と同じように俺達も雑談して依頼主が来るのを待つことにした。
「あの二人って後衛で闘うのが戦闘スタイルって聞いてたけど、弓みたいな遠距離武器は持ってなさそうだな。」
「あの二人はたぶん魔法をメインに攻撃手段としているタイプだと思うぞ。オイラは魔法はからっきしだから詳しくないんだけど魔法メインで闘う連中はあんな感じの装備をしていることが多いからな。」
「へぇ、魔法…か。」
元いた国でも魔法を使える人はいるらしいが魔法の素養がある人物は基本的にエリート階級の精鋭部隊として教育を受けるらしいので接点が全く無かった。
貴族に限らず多少裕福な一般市民の家庭なら子供がある程度の年齢になると魔法の素養が無いか調べるのが一般的だが、俺は家庭の事情でそのあたりの縁が無かったので興味がある話だ。
もしかしたら俺にも魔法の素養が眠っているかもしれないと思うとワクワクする。
そんな雑談をしながら少し待っていると再びギルド職員が人を声をかけてきた。
「お待たせしました、依頼人が来られましたので紹介します。こちらが今回の依頼主であるフウ様です。」
「ど〜も、フウちゃんです。」
ギルド職員から紹介されたの獣人種の女性だった。
なんの獣がベースになっているかまではわからないが、白い毛並みの猫科の獣がベースの獣人種だ。
身長は高めで肉付きが良い身体からは女性特有の色気のようなものが滲み出ているようだった。
しかしその一方で、それに反してどこか幼さのようなものが残っているようにも感じられ美しさと可愛さが同居していた。
「あ〜、そっか……なんかおかしいとは思ってたんだよ。フウ様が依頼主だったんだな。どおりで…普通こんな依頼にインターンが三人も付くことなんて無いもんな。」
ザイードはこの依頼主の女性のことを知っているようで何かに納得しているようだった。
この依頼主も傭兵の国の住人なのだろうからこの人物を知っていてもおかしくはないだろう。
「ザイード、あの依頼主のフウって人はどんな人なんだ?」
「フウ様はこの……」
「ちょっとそこの君?女って生き物はね、秘密があったほうが魅力的に見えるもんなの。だから…わかるよね?」
「……はいッス。」
ザイードはその一言で完全に封殺されてしまった。
カリナさんとコリナさんもこの依頼主のことを知っているだろうがさっきのやり取りを見ているので話を聞くのは難しいだろう。
仕方がないのでディオンとクラットにこっそりと声をかける。
「ディオン、クラットどう思う?」
「なぜだかわからないがあの人を見ていると動悸がする。これは……もしや恋?」
ディオンはダメだ。無視してクラットの意見を聞くことにする。
「僕はあの人…只者じゃないと思う。この国の人って強い人ほど堂々としているから、あの態度はその現れなんじゃないかと思ってる。」
「それは確かに、俺もあの人にはなにかありそうだと思ってる。」
「そこの三人?フウちゃんのこのカワイイお耳は飾りじゃないんだよ。だから、コソコソ話がしたいならもっとフウちゃんから離れてしなくちゃだ・め・だ・ぞ!」
魅力たっぷりのウォンクと共にそんなことを言われてしまい俺達も封殺されてしまった。
その場を仕切り直して今度は依頼を受ける側の人達がそれぞれ自己紹介を行った。
「新人の三人がアーガス、ディオン、クラット。残りの三人がカリナ、コリナ、ザイードね。覚えとく。それじゃ早速だけど出発しょっか。」
依頼主の号令でギルドを出て依頼に出発することになった。しかし、ギルドの外に出てみるとおかしなことに気がついた。
行商に行くのに荷物を乗せた馬車の類がどこにも無かったのだ。
「あれ?行商に行くんですよね?商品とかの荷物の類が見当たらないんですけど?」
「あ〜、いいのいいの。ちゃんと持ってるから。それよりもフウは依頼主だしジルパちゃんの背中に乗って楽してもいいよね。」
俺の疑問を軽く流してフウさんはジルパの背中に飛び乗ってしまった。
「じゃあ、出発〜。」
どう見ても荷物を持っているように見えないのだが、フウさんのことを知っている三人が特に言及しないので何かあるのだろう。
俺達の初めての依頼はこうして始まった。
野郎とおっさんが登場人物のほとんどをしめていたこの物語にようやく女の子が本格的に登場しました。
(癖が強そうだったり腐ってたりするこからはそっと目をそらす。)




