依頼
ギルドに戻ると帰還したザイードが誰かを連れてギルドに来ているところに遭遇した。
「よし、これでクラットのギルド登録とジルパの従魔としての登録は完了だ。」
どうやらザイードは誰か別の新人に対して世話を焼いているらしい。
「ザイード、帰って来ていたのか。」
「アーガス、心配かけたな。ギルドの登録は無事にできたか?」
「問題なくギルドの登録もできたし武器も受け取り終わったぞ。ザイードの方は大丈夫だったのか?」
「あぁ、クランの兄貴にいつまでも甘えるなって活を入れられた。だから次にこの辺りに来た時は兄貴達に胸を張って会えるようにオイラ頑張るつもりだ。」
ザイードは出発前と比べてどこかスッキリしたような様子だった。ひとまず表面上は兄貴分との別れを受け入れて前に進もうとしているように見えた。
「そうか。ところでそっちの人は?」
「そうだった。クラットのことも紹介しておこう。こいつはクラットっていってクランの兄貴から頼まれてしばらく面倒を見るつもりなんだ。」
「はじめまして。クラットです。」
「そうか、俺はアーガスだ。俺も最近傭兵の国に来たばかりだから同期ってことになるな。これも何かの縁だし助け合えそうなことがあれば協力していこう。」
「それはいいですね。僕はこの国に知り合いとかは全然いなかったので内心不安だったんですよ。これからよろしくお願いします。それと僕のことは気軽にクラットと呼んでくれて大丈夫です。」
「なら俺もアーガスでいい。これからもよろしく。」
お互いの自己紹介が済んだところで俺は本来の目的を思い出した。
「さて、俺は武器が手に入ったんで鉄プレートへの昇格の審査を受けに来たんだった。ってわけでちょっと行ってくる。」
「なるほど、まぁアーガスぐらい動けるなら鉄プレートでも問題なさそうだしいいと思うぞ。」
ザイードが俺の実力を鉄プレートでも問題ないと言ってくれたので少し自信が持てた。受付に行き手続きに進む。
「鉄プレートへのランクアップの審査を受けたい。それとできれば何か稼げそうな依頼とかはないだろうか?」
「ランクアップの審査と依頼の斡旋ですね。……それでしたら丁度いい依頼があります。ついでにランクアップの審査もこの依頼の結果で判定することでもできますので御受けになるなら一石二鳥でいいかもしれません。」
「内容は?」
「隠里へ行く商人の護衛のバックアップ要員です。」
「隠里?」
「隠里というのは様々な要因で魔物が住み着いていない空白地帯に人々が集まってできた集落のことです。その地域でした手に入らない物などがあったりしますで今回のように傭兵の国の本隊がある程度逗留しそうな時に商人が行商しに行くことがあるんですよ。」
そんなところがあるとは初耳だった。今まで傭兵の国を除けば大陸に存在する五つの国の領土以外に人が住める場所などないと教わってきた。
たが考えてみれば人が住めない最大の理由はその土地が魔物の襲撃によって安全性を確保できないためなので、逆にいうと魔物がいない土地なら人が住むこと可能になるということか。
「なるほど、そんな場所があるとは知らなかった。それでバックアップというのは?」
「いわゆるインターンシップというやつです。本来ならこの依頼は銅プレート以上の方が受ける依頼なんですが、ギルドの意向で新人育成の一環として本来受ける銅プレートの方とは別で新人も依頼を受けて協同組合で依頼に対処してもらういます。」
「……つまり、本来依頼を受けた銅プレートの人の助手みたいな立場で依頼にくっついて行くってことか。」
「そんな感じです。ただし、本来依頼を受けた方の指示に従うことが絶対条件です。それと本来の依頼を受けた方があなたの命を保証してくれることは無いので、自己判断で動いて死んでも文句を言えない立場で依頼に同行することになります。」
後ろで話を聞いていたザイードが会話に加わってくる。
「その依頼は誰か受けてるやつはいるのか?」
「二人組の方が受注していますが定員にはまだ一名空きがある状態です。」
「じゃぁ、オイラが受けても問題ないよな?」
「ザイードさんがですか?ザイードは銀プレートなので受注資格はありますけど……はっきり言って銀プレートの方が受けてもおいしい依頼じゃないですよ?」
「構わねえよ。そのかわりこっちのクラットもついでにインターンで依頼を受けれるようにしてくれねぇか?」
「ぼっ、僕ですか?」
いきなり依頼に参加することになりそうでクラットが困惑した声を上げた。
「クラットにはジルパっていう従魔がいるからそれ込みでの総合力なら鉄プレートでもいいんじゃないかって思ってたんだよ。」
「でも、僕にはまだ早いんじゃ……」
「木製プレートの時期は短くできるならそれに越したことはないんだよ。なんせ稼げる依頼が極端に少ないからな。これはオイラの経験談だから間違いないぞ。」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。」
「クラットさんの従魔は……馬型の魔獣ですね。でしたら荷馬としての働きも期待できそうですし、銀プレートのザイードさんが受注するのであれば戦力的にも問題なさそうですね。先に受注していた二人は共に後衛タイプの人だったので前衛にザイードさんが入ってくれるならパーティーとしてのバランスも良くなりました。ここに前衛のアーガスさん、後衛のクラットさんが加わる形になります。むしろこの条件ならもう一人ぐらい前衛のインターンの人がいてもバランスがいいぐらいかもしれませんね。」
資料を確認しクラットの情報を精査したギルド職員はこの提案を了承したと。
「ならばその話、この俺様も一枚かませてもらおう!」
声がした方を見ると色々あって汚れた服を着替えたディオンがキメポーズをして立っていた。
一瞬の沈黙の後、全員が何となくめんどくさそうという感覚で一致したので聞かなかったことにしてやり取りを再開する。
「では、ザイードさんをはじめ、アーガスさんとクラットさんもこの依頼を受けるということで処理していいですね。」
「いいぞ。」
「それでお願いします。」
「ええっと、僕も皆さんの足を引っ張らないように頑張ります。」
「ならばその話、この俺様も一枚かませてもらおう!」
ディオンが鋼のメンタルで別のキメポーズに切り替えてもう一度絡んできた。
ギルド職員はさっきの騒動もあってかディオンの発言を拾う気がないらしい。
ザイードとクラットはそもそもディオンとは初対面だ。
……つまり、俺以外ディオンに触れてやりそうなやつはいないということだ。
そのことをディオンも理解しているのかさっきからチラチラと視線を送ってくる。
非常に気が進まないがこの様子だと永遠に絡んできそうなので仕方なく声をかけることにする。
「あ~……、ディオン。お前の武器はさっき壊れたから参加できないんじゃないのか?」
「こんなこともあろうかと予備の剣がある。だから心配無用だぞ、わが友アーガスよ。」
そんなに接点があったわけじゃないはずなのにいつの間にか友にされていた。
「なんだ、変なヤツが出てきたからスルーする流れかと思ったらアーガスの友達だったのか。」
「その……個性的な友人がいるんですね……」
(ザイードとクラットが変な勘違いをしている!?まずい、早く誤解を解かなければ事実にされてしまう。)
「友って……俺とお前は騎士養成所は同じだったが、そこまでの接点は無かっただろ。」
「それはアーガスがずっと何かに取りつかれてるような切羽詰まった雰囲気だっただけだろう。俺様は同じ東域守護騎士の家系出身だから親近感を持っていたし合同訓練を共に乗り越えたあの日から友だと思ってたぞ。」
今になって思い出した。ディオンの本名はディオン・サングレートで、俺が生まれたシュバルハイト家とこいつのサングレート家は同じ東域守護騎士と呼ばれる古くからグレルカイト王国の東方地域を守る騎士の家系なのだ。
騎士養成所に居た頃は復讐のことばかり考えて過ごしていたから気にもとめてなかったが、どうやらディオンの中ではそれなりに親しい間柄と認知されていたようだ。
あまり深く人と関わろうとしてこなかったことの弊害だろう。思い返してみれば俺はディオンの素行が悪いという話は噂で知っているがどういう風に素行が悪いのかは全く知らなかった。
もしかしたら俺が知ろうとしなかったから知らないだけでディオンはそんなに悪いやつじゃないのかもしれない。
………たが現状は変なヤツで友達と思われるのは避けたいタイプの人種であることは揺るぎない事実だろうけど。
「ええっと、ではディオンさんもこの依頼を合同で受けるということでいいですか?」
めんどくさくなったのかギルド職員がさっさと話をまとめにかかってきた。
「いや、ちょっとま……」
「それでかまいわせんとも!よろしくお願いします。」
ディオンがこれ幸いと話に乗っかり結局押し切られてしまった。
依頼の出発は明日になったので俺はザイード、クラットと共にギルドを後にしていた。
……ちなみになぜかディオンもしれっとついてきている。
「クラットは武器は今使ってる弓で良いとして、防具は調達したほうが良いな。」
「僕は後衛として弓で攻撃に参加するので防具は最低限の物でいいと思ってるんですけど。」
「クラットは動きやすさを重視した革鎧とかが良いんじゃないか?あと弓を引く動きの邪魔にならないならバックラーとかがあれば防御の幅が広がっていいかもしれないな。」
「でも僕は盾とかは使ったことが無いんですよね。うまく使えるかな?」
「ならばこの俺様が少し手ほどきしてやってもいいぞ!」
……何気ない会話にもしれっと参加を試みている。
流石に無視するわけにもいかないので俺から話しかけることにした。
「ディオン、お前いつまでついてくる気だ?」
「同じ依頼を受けることになったのだから一緒に行動したほうがいいだろ。パーティーを組むことになるなら相手の事は知っておくに越したことはない。」
悔しいが正論だ。ディオンが言うことは理にかなってはいる。
「ええっと、お前はディオンでいいんだよな?一緒の依頼を受けるならオイラも自己紹介しとこう。オイラはザイードだ、見てたから知ってるかもしれないけど銀プレートでアーガスとこっちのクラットの面倒をみてる者だ。」
「どっ…どうも、僕はクラットです。」
「おっと、俺様としたことが自己紹介がまだだったな。失礼した、俺様はディオン。そこにいるアーガスの友人で共に騎士養成所で研鑽を積んだ仲だ。」
見かねたザイードが自己紹介をしてしまったので、なし崩し的に一緒に行動する流れになってしまった。
仕方がないので俺も観念してディオンを受け入れる方向で話を進めていく。
「わかった。一緒に行動するのは百歩譲ってひとまずいいとして、さっきみたいに変な問題を起こしてこっちを巻き込むのは勘弁してくれよ。」
「あれはナメられないようにと思ってうっかり空回ってしまったんだ。こういうのは最初が肝心だからな。勝てなくてもできるだけいい勝負になりそうな人に挑んで、コイツは新人の中でも一味違うなって思わせる予定だったんだ。勝負に乗ってきてもらうために挑発したのが効きすぎたのと、とんでもなく強い人を引いてしまったのが誤算だったがな。」
その結果、失敗して勢いを失ったので挽回のチャンスに飛びついて来たということか。
案外この図太さは傭兵の国向きかもしれない。
「アーガス、こいつなにかしたのか?」
「ザイードが帰ってくる前にギルドでライカ様って人に勝負を仕掛けて返り討ちにあった。」
「あ〜、たまにいるんだよな…そういうバカ。よく死ななかったな?」
「途中でギルドマスターが介入して命拾いしたんだよ。」
「なるほど、運は持ってるみたいだな。」
ザイードに小声で問われて事情を説明するとなぜか話を聞いていたクラットまでディオンをバカを見る目で見始めていた。
小声で「あのライカ様に喧嘩を売ったのか……」と呟いていたのでクラットもライカ様のことを知ってるのかもしれない。
「ま、何にしても明日依頼に出発するから今日の内に必要な物を準備しておかなくちゃならない。とりあえず必須なのは数日分の食料と水、あとは雨風をしのぐ外套と持ち運び用のリュックだな。外套とリュックに関しては多少金をかけてでも丈夫で使いやすいのを選んでいたほうが良いな。」
こんな調子で傭兵の国での生活が長いザイードのアドバイスで必要な物を揃えていく。
手痛い出費となったが必要経費だろう。
一通りの物資の調達が終わる頃にはすっかり夕暮れ時になり、全員で晩飯を食べてた後今日の所は解散する流れになった。
ディオン が 仲間になった。(強制イベント)




