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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
20/105

ギルド登録

 目を覚ますと見知らぬテントの中にいた。


「おっ、目が覚めたか。」


 テントから顔を出すと近くにクラン殿がいて声をかけててきた。


「寝ちまってたからとりあえず俺のテントに運んだんだ。」


 どうやら迷惑をかけてしまったらしい。クラン殿の傍らにはザイードの姿もあって泣きはらしたように眠っていた。


「すみません。ご迷惑をおかけしたみたいで。」

「いいって、この国で新人の世話焼いてやれるのもこれが最後になるだろうからな。ザイードは一晩中話してなんとか納得したみたいだが少し引きずりそうだ。できれば俺の代わりに助けになってやってくれねぇか?」

「はい。ザイードには色々と助けられたんで、どこまでできるかわからないけど可能な限り助けになってやりたいって思ってます。」

「俺が出ていくときにお前とザイードが出会ったのも何か縁なのかもしれないな。……そういえば話が変わるけど今日俺はコルトの故郷の村へ向かうんだが、その時にザイードのやつが村まで一緒に行って見送るって聞かなくてな。だからギルドとかに案内をするって話をしてたみたいだけど反故にすることになりそうだ。」

「構いません。ザイードがこれからも先もしっかりと進んでいくためには必要なことだと思います。俺も子供って歳でもないんで一人で何とかしてみせます。」

「わからないことがあったら昨日の宴に参加してた連中を頼ってくれ。気のいいやつばかりだから力になってくれるはずだ。」

「はい。」


 話をしていると腹が鳴って空腹を自覚した。昨日は成り行きでクラン殿の送別会に参加することになったので酒は飲んだが食事はあまりしていなかった。


「腹減ってるなら今日も炊き出ししてるはずだから行ってくるといい。」

「そうします。」


 情けない話だが現状金がないので食事のあてはそれしか無い。俺はクラン殿のテントを出て炊き出しを貰いない行くことにした。




 昨日と同じように炊き出しを貰って朝食にする。

 炊き出しのメニューは昨日と同じ肉団子スープだったが、善意で配ってくれてるものなのでありがたくいただく。

 食べながら今日の予定を考える。

 まずは、ギルドに行き傭兵の国の人間とて登録する。その後は用意してもらった武器を受け取る。

 予定としてはこれだけだが、それとは別に早急に生活資金を稼ぐ必要がある。

 昨日ザイードがギルドに登録すればレッドホーンの討伐報酬を受け取れると言ってたから数日分の食費のあてはあるが、新生活を始めるうえで必要になる物は多くあるだろうから生活資金を稼ぐのは急務だ。

 朝食を済ませて一度ザイードの所に戻ると丁度クラン殿とザイードが出発するところだった。

 ザイードは意気消沈しているのか普段と違い随分とおとなしい。


「ザイード…お前大丈夫か?」

「アーガス…正直、わかんねぇ。ただ、いつか来ることだったし乗り越えなくちゃいけないことだとは理解しているつもりだ。心配してくれてありがとな。それと、案内してやるって言ってたのに反故にして悪かったな。ギルドは商人のテントの区画と職人のテント区画の間の区画にあるからそのあたりのデカいテントを目指せば多分間違えないと思う。」

「その情報だけで十分だ。」


 ザイードのことは心配だが今俺にできることはないだろう。

 俺はザイードとクラン殿の出発を見送った後にギルドに向かった。




 ギルドのテントに到着し中を覗くと多くの人々でごった返していた。傭兵の国は世界中を渡り歩くだけあって色々な人種が集まる場所だ。故郷のグレルカイト王国ではあまり見たことがない亜人種の人々もここでは当たり前のように見ることができる。

(見たところ通常の人間種が六割、獣人種が三割、その他のよくわからない人種が一割ってところか。誰もが自然体で堂々としているからここではこれが普通なんだろう。)

 キョロキョロと周りを見渡して受付の窓口を探す。


「入り口で止まってたら邪魔だぞ。ライカは従魔の登録で中に用があるからどいてくれ。」

「あっ、すまない。始めてここに来たので勝手がわからなかったんだ。」


 反射的に謝って道を開けて振り返ると異国の外套を着た女の子が立っていた。可愛らしい女の子で将来は間違い無く凄い美人になるだろう。そう思っていると髪の間からは角のようなものが生えていることに気が付いた。

(この子……たぶん希少種族と言われている鬼人種の子だ。)


「ん?お前、新人だったのか。なら仕方ないな。人込みで見ずらいけど新人の受付はあっちだぞ。」


 俺が困っていることを察して受付の場所を教えてくれた。言葉遣いが偉そうだったけど悪い子ではないのだろう。


「教えてくれてありがとう。行ってみるよ。」


 鬼人種の女の子と別れて教えられた窓口へ向かう。俺と同じように最近傭兵の国に来た新人たちが窓口に並んでいた。

 その中に見知った顔を見つけた。俺とは別のグループだったのであまり接点はなかったが、騎士養成所で何度か合同訓練で一緒に行動したことがある男だった。

(確か名前はディオンだったか。実力はあるが素行が良くないことで有名なやつだったはずだ。ここでも問題を起こさなければいいが……。)

 今のところはおとなしいようだが注意しておいたほうが良いだろう。

 そんなことを考えいると列の進みが急に早くなった。あっという間に俺の番になり受付で簡素な木製のプレートを渡された。


「新人の登録が多いみたいなのでまとめて説明することになりました。説明が終わったらこのプレートに名前を彫って持ってきて下さい。説明は全員にプレートを配り終わったたらあちらの区画で行いますので少々お待ち下さい。」


 どうやら新人の登録者が多かったので個別対応からまとめての説明会に切り替えるようだ。

 プレートを受け取って指示された区画で少し待つ。程なくしてギルドの職員が説明を始めた。


「これより新人の為の説明会を始めます。最初に説明するのは皆さんに配ったプレートについてです。これはその国で皆さんの身分を証明する物になります。ですので無くさないようにして下さい。無くした場合は再発行できますが料金がかかりますので注意して下さい。プレートは皆さんの強さが認められるとランクアップしていきます。今皆さんの手元にあるのが木製の見習い以下のプレートです。ランクアップすると順番に見習い戦士の鉄プレート、下級戦士の銅プレート、中級戦士の銀プレート、上級戦士の金プレート、特級戦士の白金プレートになります。ランクが上がるごとにちょっとした特典がありますが、それよりも重要なこととしてランクが低いとこの国ではナメられます。それと魔王戦では最低でも下級戦士のランクでなければ戦場に立つことすら認められません。プレートについての説明は以上です。次にランクアップする方法について説明します。初期の木製プレートから鉄プレートに昇格するのは我々ギルドの判断でその人物に実力があると認めた場合昇格させます。ここにいる皆さんにも戦闘訓練を受けた経験がある人とそうでない人がいると思いますが、現在は一律で木製プレートを渡しています。ですので自分は鉄プレートの実力があると自負する人は後で別途、受付に申請に来てください。審査して昇格の是非を判断します。では次に銅プレート以上への昇格方法を説明します。銅プレート以上への昇格は昇格するランクの者に証人立ち合いの元で挑み勝利することです。」


 ここまで説明を聞いたところで懸念していたディオンが動いた。


「挑むのはそのランクの者なら誰でもいいのか?」

「原則挑まれた相手が了承したなら誰でも構いません。」


 ディオンは確認を取るとニヤリと笑い宣言する。


「だったら俺様はそこのチビに挑ませてもらうぜ。さっきチラッと見えたんだかそこのチビは金のプレートを持っていた。ちまちまランクを上げるのも面倒くさいから俺様の実力を見せつけてやる。」


 ディオンが示した方には先程入口で出会った鬼人種の女の子がいた。


「おい、そこのチビ!俺様の挑戦を受けやがれ。」

「ん?今お前、ライカのことをチビって言ったか?」


 突然の挑戦を受け女の子は困惑している様子だが悪口を言われたことは理解したようだ。


「そうだよチビ。どうせコネかなにかを使ったんだろうけどお前みたいなチビが金プレートを持ってるとは俺様もついてるぜ。チビをちょっと捻り潰して俺様も瞬時に上級戦士にランクアップだ。まさか金プレートが見習い以下からの挑戦に怖くて逃げ出すなんてことはなよな?」


 ディオンは挑発して女の子を勝負の場に引きずり出そうとしている。

 鬼人種とはいえまだ幼い少女だ。金プレートを持っているのも何か特殊な事情があってのことかもしれない。助けに入るべきかと考えて周りを見渡すとこの場にいる新人以外の人達は皆一様にマジかコイツとでも言いたげな表情を浮かべていた。

 俺が周りの反応に困惑していると事態が動いた。


「お前、ライカのことをナメてるのんだな?いいぞ、その挑戦受けてやる。」


 女の子が挑戦を了承すると空気が劇的に変化した。

 目の前にいるのは幼い少女なのに昨日出会ったオオロ様に近い対峙した者が絶望するような強者の別次元のプレッシャーを放ち始める。


「ライカが本気で動いたら一撃も攻撃できないだろうからハンデをやる。好きなように切りかかってこい。」


 流石にディオンも異常な相手に勝負を仕掛けてしまったことに気が付いたようだ。全身から変な汗をにじませながら怖気づいている。


「なんだ?来ないのか?ライカも暇じゃないから来ないならもう潰すぞ。」


 膨れ上がるプレッシャーに負けてディオンが滅茶苦茶に切りかかった。

 女の子は振られた剣をあっさりと人差し指と親指の二本で挟んで止めて見せた。

 ディオンはあわてて剣を引こうとするが剣はまるで空間に固定されたかのようにピクリとも動かない。

 女の子が更に挟んでいる剣に力を込めるとビキッと音がしてディオンの剣に罅がは入った。

 それを見てディオンの顔が引きつりるが、そんなディオンを尻目に女の子は更に挟んでいる指に力を込めてとうとうディオンの剣を砕いてしまった。


「お前の攻撃はこれで終わりでいいな?ならもう潰すぞ。」


 告げられた言葉はほとんど死の宣告に等しく、その後の女の子の動きは何が起こったのか理解できないほど速かった。

 気付いた時にはディオンは喉をつかまれた状態で地面に引きずり倒されて失禁していた。

 そのまま女の子が喉を握りつぶそうとしたところで待ったが入った。


「ライカ、そこまでにしておきなさい。」


 声がした方向を見るといつの間にか美しいエルフ種の女性が佇んでいた。


「うっ…トリア姉…でもコイツ、ライカのことをナメてた。」

「ギルド内ではギルド長と呼びなさいと何度も言ってるでしょ。…まぁ、いいわ。それよりそいつが死ぬとそいつの粗相は私たちが処理しなくちゃいけなくなるのよ。そいつももう二度とライカのことをナメたりしないでしょうからそこまでにしておきなさい。」

「…………わかった。」


 女の子は不服そうにしながらもディオンにとどめを刺すのを止めて手を放す。


「妹が失礼したわね。バカ騒ぎはこの辺にして説明を再開してちょうだい。」


 エルフ種の女性がその場を仕切りなおして説明会が再開されて、ギルドでの依頼の受け方や報告のやり方などの細かい説明がされた。

 それらのやり方はグレルカイト王国にもあったハンターギルドでの手続きと違いは無かったので問題なく理解できた。

 説明会が終わり木製プレートに名前を刻んだ俺はもう一度受付へ向かった。

 俺のプレートを受け取ったギルド職員は俺の名前、年齢、使える武器の種類などを軽く確認して紙にまとめ最後にプレートをハンコ替わりにして押印する。


「はい。これでアーガスさんの登録は完了です。その他に何か聞いておきたいことはありますか?」

「ここに来る前にレッドホーンを一体狩っていて、それを『集荷衆』の人に回収してもらってるはずなんだがその分の報酬は今受け取れるだろうか?」

「確認します。回収した人が誰なのかとか情報はありますか?」

「ゲンゴロウ殿に回収して頂きました。」

「ゲンゴロウさんですか。少し待って下さいね…………あっ、ありました。確認が取れましたので報酬をお渡しいたします。」


 こうして俺は特に疑われることもなくあっさりと報酬を受け取れた。

 登録が非常に簡単だったこともそうだが、たいした確認も取らずにあっさりと報酬が支払われたことに少し拍子抜けしてしまった。


「えらく簡単に信用するんですね。手続ももっと複雑だと思っていました。」

「この国でギルドを騙すという行為は自らの死刑執行に同意したことと同義ですからね。あとこの国ではその人がどんな過去を持っているのか一々詮索しません。自分勝手に悪いことを考えている人は大体いつの間にか死んでるのが日常ですから。」


 笑顔でそう返され絶句した。

 考えてみればディオンはエルフ種の女性が止めなけれ殺されていたであろうことから、この国では命というものが非常に軽いものだということが伺える。

 悪事を企むということは少なからず周りの人達に不利益をもたらすことになる。そうなれば当然不利益を被った者は報復に出る。

 ……いつの間にか死んでいるとはつまりそういうことなのだろう。


「アーガスさんは使える武器が豊富ですから何か戦闘訓練を受けた経験があるんじゃないですか?もしそうなら申請すれば鉄プレートにランクアップできるかもしれませんよ。」

「そうしたいのは山々なんですが今は武器を調達中でして。武器もなしに実力の査定は受けられないでしょう。」

「そうでしたか。では武器が手に入った後に申請していただければ査定を受けられますのでその時はまた手続きに来てください。」

「わかりました。」


 ひと悶着あったものの無事に登録が完了したと俺は次の予定のガンタツ殿の所へ向かった。




 ギルドを出てガンタツ殿の所に直行しようとおもっていたが昼食時で腹も減っていたので受け取った報酬で昼食を済ませてからガンタツ殿の所に向かった。


「ガンタツ殿、アーガスです。武器の方は仕上がってますか?」

「アーガスか、武器は仕上がってるが今は別の作業で手が離せない。ちょっと待ってろ。」

「だったら外で少し待ってます。」

「ここで待ってて構わねぇよ。世間話でもしてたらじきに終わる。」


 ガンタツ殿の言葉に甘えて俺は、世間話の一環で先程のギルドであったことを話しながら待たせてもらうことにした。


「ーーーってことがあったんですよ。」

「初日から色々あったみたいだな。まぁ、そのぐらいのトラブルはこの国では日常茶飯事だ。」

「しかし、鬼人種は戦闘能力が高いと聞いていたがあれほどまでとは思わなかったですよ。」

「その鬼人種の子はライカと名乗っていたんだろ?ならそれは鬼人種が強いというよりその方が総大将の血筋であったことのほうが理由だろうな。」

「総大将の血筋?」

「お前さんが会ったのは俺達の総大将のご息女であるライカ様だ。そして総大将はおそらく、この世界で一番強い人間だ。………よし、ひとまずはここまででいいだろう。それで…お前さんの剣だったな。調整は終わっているから持っていけ。」


 作業の手を止めたガンタツ殿が一振りの剣を取り出した。

 受け取り確認してみると柄の凹凸が俺の手にピッタリとはまり握りやすく、刀身のバランス、重心が絶妙に仕上がっていて完璧なできであった。


「凄いですねこれ……まるで俺のために存在しているかのようにしっくりきます。」

「実際、お前さんのために仕上げたんだよそいつは。とはいえ元々あった既製品をお前さんに合うように調整した物だから品質はそこまでいいもんじゃ無い。これからお前さんが闘っていく上でお前さんなり戦闘スタイルというやつが磨かれていくだろうから、それに合わせて武器も新調していった方がいいだろうな。」


 ガンタツ殿は完璧な仕事をしてくれた。ならば正当な報酬が支払われて然るべきだろう。

 流石に全額を一括で払うことはあできないがレッドホーンを狩って得だ報酬で頭金ぐらいは払えるかもしれない。


「ガンタツ殿の仕事に対して今の俺の精一杯で報いたい。さっきレッドホーンを狩った報酬をギルドで受け取ったからその金を受け取ってほしい。」

「新人が無理する必要はねぇよ。」

「しかしそれでは俺の気持ちが……」

「新人は何かと金が必要な時期だろうが。いいから今は無理をするな。それに報酬はギルドの方に建て替えでもらっておくからギルドに払え。」

「ガンタツ殿……感謝します。」


 こうなったらバンバンギルドの依頼をこなして、ギルドの建て替え金を返済するのが誠意というものだろう。

 俄然やる気になった俺はガンタツ殿に礼を言ってギルドに戻り受けられる依頼がないか確認することにした。

ちなみにディオン君はその後、ギルド職員に往復ビンタされて正気に戻された後自分の粗相の後始末をしっかりとさせられてますが、アーガスは武士の情けで見て見ぬ振りをしているので描写されていません。

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