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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アーガス編
13/82

プロローグ

 男は東方伯家に仕える騎士爵家シュヴァルハイトの長男として生を受けた。

 古くから東方伯家を支える名家でありそれなりの地位を持つ貴族の血筋であった。

 貴族として生まれ順風満帆な人生を歩んでいたが19歳のある日に転機を迎えた。

 魔王の侵攻だ。東方砦街を守護する役割を持つシュヴァルハイト家は当然のようにこの侵攻を阻止する為に尽力することとなる。

 この侵攻により男は尊敬していた父と信頼していた側近の騎士を失った。

 男は強力な魔将の攻勢に成すすべ無く殺された父と騎士たちの死体に埋もれて身を隠しこの侵攻を生き延びた。

 その戦い自体は傭兵の国によって魔王が討伐され無事に終結したものの、この時の経験から死の恐怖に囚われることとなった。

 次に魔王の侵攻があった時は絶対に死地には居たくない、そんな思いでより安全な中央の王都で暮らせるようにあらゆる手を尽くしたが、生まれた家の宿命もあってこの願いは叶わなかった。

 男は落胆と絶望に苛まれ酒と女に溺れるようになった。

 そんな生活が暫く続いたある日、見回り中に立ち寄った開拓村で好みの村娘を見つけ手籠めにした。男はこの村娘を気に入り妾として囲うことにした。

 やがて妾となった村娘は子を産んだ。男の子だったのでなにかに使える可能性があったため一応認知しておくことにした。

 本妻との軋轢を嫌い離れの別宅に二人を押し込んで隔離して育てさせる。

 暫く平和な日常を過ごしたある日、男は正式にシュヴァルハイト家の家督を継ぐことなった。それは魔王の侵攻の際には前線での指揮を執ることを意味していた。自分は決して魔王の侵攻の際には安全圏内にいられないと悟った男はさらなる絶望に苛まれた。

 これにより男は完全に壊れてしまい、絶望を少しでも忘れられるようにと妾の女に暴力を振るうようになった。

 妾に暴力を振るい可愛がっている間は恐怖を忘れることができた。それは妾がどれだけ暴力を振るおうと決して陰ることが無い強い瞳を持っていたからで、苦痛の中でも輝きを失わぬその瞳は男には無いものだった。夢中にさせた。

 やがて行為はエスカレートしていき妾の体は次第にボロボロになっていった。そんな歪んだ日常はある日、あっけなく終わりを迎えたる。

 行為のさなで妾に苦痛を与えてやろうと口にした「お前の産んだ出来損ないも後で同じめにあわせてやる」という言葉が妾の逆鱗に触れた。「そんなことをしたら絶対に許さない。例え私が死んでも貴方を必ず呪い殺してやる」と返され酷く動揺した。

 死の恐怖に囚われてしまっている男にその言葉は深く突き刺さった。

 激昂しつい力が入り過ぎてしまい誤って妾を殺してしまった。

 そのこと自体は権力を使い罪に問われることにはならなかったが、放たれた言葉は心に突き刺さったままであった。

 これ以降、妾が産んだ子が男に殺意を隠さぬ憎しみの視線を向けるようになったが男は妾の子を処分することができなかった。処分しようとすると最後に妾が残した言葉が頭をちらつきどうしてもできなかったのだ。

 男は仕方なく妾の子を騎士の養成所に送り遠ざけておくことにして、教員には追加で金を渡し事故死してもおかしくない程の厳しい訓練をするように依頼する。

 男には実の子であろうと自分を害する可能性がある者なら排除することに躊躇は無かった。




 それから数年の月日が流れ男にとって最も恐れていた事態が起こってしまう。

 魔王が出現し侵攻を開始したのだ。男は背負わされた宿命により前線に立つことになった。

 そして今、男が指揮している砦は魔物の波に呑まれそうになっていた。先頭に立つ強大な魔将に見据えられ死を身近に感じ絶望している男の脳裏に妾が最期に口にした言葉がよぎる。


 「例え私が死んでも貴方を必ず呪い殺してやる。」


 直接手を下だしてはいないが妾が産んだ子を事故死することを期待して騎士養成所に送ったことを、妾は許さなかったということなのだろうか?

 迫りくる死の気配に怯えながら現実逃避のようにそんなことを考える男に最期の時が迫ろうとしていた。

 

プロローグは短いのでアーガス編の一日目も同時投稿します。

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