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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
クラット編
12/82

エピローグ

 目を覚まし見慣れない天井に一瞬混乱したが、すぐに傭兵の国に来ていることを思い出した。

 自分のテントを出ると既に日が昇っていた。昨日は遅くまで考えをまとめていたのでどうやら少し寝過ごしたようだ。

 一緒に来た村の皆は既に起きていて活動を開始しているようでテントを覗いてみてももぬけの殻になっていた。

 とりあえず誰か人がいそうな広場に行ってみると炊き出しが行われており列ができていた。

 その中に同行して来た村の皆の姿を見つけ話を聞いてみると、どうやらこの炊き出しは僕達のような外から来た人たちを支援する為のものらしい。

 丁度空腹だったので僕もその列へと加わる。列はスムーズに進んていきすぐに炊き出しの肉団子が入ったスープを受け取る事ができた。

 村の皆と合流して食事をする。おそらく何かの動物の骨を煮込んだスープなのだろう、しっかりと出汁が出ていて美味しかった。夢中になって味わっていると村人と村長の会話が耳に入ってきた。


「このスープ肉が贅沢に入ってて美味いですね。」

「傭兵の国は食料のほとんどを狩猟で賄うから必然的に肉中心の食事になるらしい。だからここではワシらが持ち込んだ野菜なんかは逆に高級食材になる。酒も良い感じで取引してくれたから村の復興はなんとかなりそうじゃ。」


 普段は村で作っている野菜は東方砦街などの都市に売っているのだがそこでは安く買い取られてしまっている。それが傭兵の国では高級品扱いになるのは傭兵の国は外の世界を移動しながら国から国へと渡り歩く集団だからだろう。野菜などのを自作することが難しいだろうから需要が多く、酒類に関しても色々な場所を渡り歩くので気候が変動しやすく品質が安定しないのかもしれない。




 朝食を終え借りていたテントを片付けて返却し村へ帰る準備をしていると商人が訪ねてきた。どうやら商品の準備が完了したようだ。

 荷運びを兼ねた護衛として『防人衆』という部隊が同行してくれるらしく広場の外れに人員と荷物を積んだ牛のような獣が集結していた。

 その中にはクランさんと昨日出会ったザイードさんの姿もあった。


「クランさんとザイードさん、見送りに来てくれたんですか?」

「いや、ザイードがどうしてもコルトのやつの故郷を見ときたいって言うもんだからな。『防人衆』に無理を言って同行させて貰うことにした。」


 どうやらもう一度クランさんと行動を共にすることになるようだ。

 村へと向かう全員の準備が完了し傭兵の国を出発する。傭兵の国に向かう道中に定期的に木に目印を残しながら来たので村までの道のりにも特に迷うことはなかった。

 道中、小声でクランさんが僕に尋ねる。


「それで、クラット。答えは出たのか?」

「はい。村についてたらみんなの前で言おうと思います。村を出て傭兵の国で強くなりたいって。」

「そうか。」


 小さくそう返事をしたクランさんはどこか微笑んでいるように見えた。




 その後は何事もなく無事に村へ帰還した。

 早速、出迎えてくれたゼフさんやテイルをはじめとした村の皆に僕の決意を伝えることにする。


「皆、少し僕の話を聞いてほしい。」


 突然話し始めた僕に村の皆の視線が集まる。その中でゼフさんだけは何かを察したよう少し驚いた表情をした後小さく微笑んて頷いた。


「僕はこの村を出て傭兵の国に行きたい。生まれ育った故郷を捨てるような行為だということもわかってる。でも……それでも僕はどうしても強くなりたい!強くなって自分の運命を自分の力で切り開けるようになりたい!」


 僕の叫びにも似た思いを聞き村の皆は一様に面食らったような表情をしていた。

 やがて状況を飲み込んだ村長が代表して僕に語りかける。


「傭兵の国にか……正直、お前のように彼らが魔王と戦う様を見た若者がその姿に憧れて村を去ることはそう珍しい話ではない。しかし、憧れだけではどうしようもないこともある。元々お前はゼフの後任として育てておったんじゃ。お前が出ていけばゼフは足の古傷を抱えた状態で一人で周囲の森の監視を行うことになる。そのことを気掛かりとしたまま村を出て傭兵の国に行ってお前は後悔無く憧れを追い求め津ことができるのか?」

「それは……」


 痛いところを突かれてしまった。確かにそれが一番の気掛かりであった。実際、傭兵の国が二度と近くに来ない訳ではないのだ。僕以外の後任の者を育てて次に傭兵の国が近くに来た時に旅立つという選択肢は確かにあるのだ。

 お世話になった人達に迷惑をかけてまで憧れを追い求めるのは筋違いではないだろうか?という思いが僕の中で次第に大きくなっていく。

 しかし、次がいつ来るかなんて誰にもわからないのだ。ここでチャンスを逃せば僕はもうどこにも行けなくなる可能性もある。

 揺れ動く心の葛藤で決意が鈍り始めた時、思わぬ所から助け舟がだされた。


「そういうことなら、俺がクラットの代わりにこの村に残る。言っちゃあなんだが俺はクラットより何千倍も頼りになる漢だぜ。」


 そう言って名乗りを上げたのはクランさんだった。その言葉通りその背中は最高にかっこよく頼りになっていた。




 その後、僕の旅立ちの話はあっさりと承諾され晴れて僕は傭兵の国に行くことになった。

 村での商品の受け取りと確認のために出発まで少し時間ができた僕は荷造り早々に済ませクランさんの元を訪ねていた。

 クランさんはザイードさんとの別れを惜しんでいるようだったが、今しか挨拶とお礼を言うチャンスは無さそうなので声をかけさせてもらった。


「クランさん…その…さっきはありがとうございました。」

「気にするな。実は昨日お前さんの相談を受けた後にはもう決めてたことなんだ。お前さんの決意が見たくて直前まで黙ってたけどな。」

「なんでこの村に残るのか聞いてもいいですか?」

「そうだな……ちょいと長い話になるぞ。前に俺のダチがここで寝ることになるって話はしたよな。そのダチは俺とはずっとライバルでお互いを高め合って強くなっていったんだ。お互いにへとへとになるまで模擬戦闘をしては最後にはぶっ倒れて空を見上げながら話してたもんだ。将来、強くなったらどうする?ってな。あいつは将来、最後にはこの村に戻って置いて来ちまった村の皆を守るって言ってたんだ。俺はいわゆる戦争孤児ってやつどっかの廃村から拾われてきたらしくて物心ついた時には傭兵の国にいたんだ。だから傭兵の国以外には故郷と呼べる場所は無かった。それで、最後に帰る故郷があるあいつの事を少しだけ羨ましいって思ってたんだ。そんな俺を見てあいつは「それじゃあ、お前も俺と一緒に俺の故郷で暮らせばいい」なんて言いやがった。当時はなんだそりゃって思ってたんだけどあいつが死んで、この村に来てみてのんびりと生きていけるこんな場所も悪くないし、この場所を守りたいって言ってたあいつの気持ちも少しは理解できるなと思ったんだ。」

「つまりご友人の代わりにここに残るってことですか?」

「そいつは違うぞ、代わりじゃない。俺はあいつが死んだときあいつの想いも背負って闘い抜くって誓ったんだ。この誓いがある限り例えあいつが死んじまってるとしても、あいつは俺と一緒に闘い続けてることになるし俺はずっとあいつと戦友でいられる。ま、現実的な話をするなら俺は自分の力の天井ってやつがうっすらと視えちまったってのもある。あいつと高め合ってた頃は天井なんて見えなかったし、見えてもぶち抜けそうな気がしてんだがな……。そんな時に昨日テイル嬢から好きです結婚してぐださいって言われてな、俺もそろそろ落ち着いて身を固めてスローライフをしてもいいかもなって思ってたところだったんだ。そこにお前さんのからの相談を受けてな、最後に若者の背中を押してやれるなら傭兵の国での闘いの締めにはいいかもなって思っちまった訳だ。」


 そう語ったクランさんは晴ればれとしていながらもどこか寂しそうに見えた。

 それはそうと、テイルはアタックしてみるなんて言ってたけどまさか結婚まで申し込んでいたとは………。

 この感じだとなんか二人は上手くいきそうな雰囲気がして、僕はまた複雑な気持ちになった。

 ここで、今まで黙って隣で話を聞いていたザイードさんが突然声をあげる。


「クランさんの兄貴の気持ちもわかるけど、オイラはまだ完全に納得しきれない!」

「ザイード、その話は昨日の夜に散々しただろうが。それに極端な話、お前が納得しようがしまいが関係ない。俺のことは俺自身が納得できてるならそれだけで十分だ。」

「…やっばりクランの兄貴が村に残るならオイラも一緒に……」

「バカ言うな、お前はまだ自分の強さを追い求めてる途中だろうがよ。俺もこれからも訓練は続けるし自分の天井と思える所までは高めるつもりだが、それはもう傭兵の国でじゃなきゃ駄目って段階の話じゃないんだ。でもお前は傭兵の国で、闘いのなかで学んでいかなきゃならない事を身に着けてない。断言するがここで俺と一緒に残ったらお前は中途半端なままで終わることになる。そんなんでお前はいいのか?」

「クランの兄貴……」

「最後に活を入れてやる。いつまでも俺に甘えるな!お前はもう一人で歩いていけるだろ。寧ろこのクラットのような新人の面倒見てやれるはずだ。クラットは少しだけだが俺が最後に面倒を見たからいわばお前の弟分だ。俺の代わりにクラットの面倒を見てやってくれ。」

「わかりました!オイラ…クランの兄貴に追いつけるように頑張ります。」


 ザイードさんも最終的には納得したようで決意に瞳を燃え上がらせている。


「話が逸れちまったな。でもまぁ、俺が村に残る理由はそんな感じだ。この村は俺が守る。だからお前さんは全力で憧れを追い求めて強さを掴んでこい。」

「はい!」

「お前さんにも最後に活を入れておく。外の世界は過酷で自分の中に踏み出して生き抜いていく決意が無いとやって行けない。だから今日、皆の前で口にした決意を忘れるな。」

「はい!」

「さて、そろそろ他の連中も出発の準備もできた頃だろう。行って来い!クラット。」


 そう背中を押されて僕は新たな一歩を踏み出す。

 これからどんな出会いと闘いが待っているのかわからないが、それでも僕は自分で決めたこの道を力の限り歩んで行く。

 決意と共に踏み出した一歩は今までで一番誇らしくて力強い一歩だった。

一章はこれで終わりです。

二章からは主人公が変わって別の視点からの傭兵の国の物語を書いていきます。

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