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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
クラット編
11/82

九日目

 住み慣れた村の自室で目を醒ます。

 昨日はその後、約束通りライカ様に村まで案内してもらいなんとか無事だった自宅で一晩過ごす事が出来た。

 村は周囲を囲っている柵と住居の一部、畑の一画が壊されてはいるものの思ったより無事な状態であった。

 ライカ様は僕とジルパをこの村まで案内した後、早々に傭兵の国の本隊へと帰還してしまった。

 正直、魔王が討伐されたとはいえつい昨日までの洗浄だった場所でジルパがいるとはいえ一人で一晩過ごすのは不安であったが、そのことをライカ様に相談すると現在地この辺りは魔物がほぼいない空白地帯になっているので大丈夫だと言われた。

 なんでも、魔王が侵攻のために周辺の魔物を可能な限り集めており侵攻の一番目の波で来る魔王の支配を受けていない魔物は先鋒として使いつぶされており、弐番目の波の魔物は魔王が討伐された時点で自らの意思で動くことはない生ける屍になっているとのことだ。

 それらの生ける屍となった魔物は生き残った魔将が指示を出せば動く状態なのだが、生き残った魔将は魔王が出した最後の指示に従って動くのでほとんどが東方砦街へ残滓兵力を総動員した特攻をするだろうとのことだ。

 ある程度安全な環境で自分よりも年下の女の子に不安だから一緒にいてくださいなどと頼むことは流石にできず一人と一頭で夜を明かすここととなった。

 家に備蓄してあった食料を使い手早く食事を済ませると家の外へ向かう。

 今日は村の皆はまだ魔王が討伐されたことを知らないだろうからこのことを知らせに避難先の洞窟へ向かう予定だ。その後は皆と一緒に村を再興する作業に没頭することになるだろう。

(ようやく平和な日常が帰ってくる。しばらく村の復興に忙殺されることになるだろうけど…その後は…)

 今までと同じように村の周囲を監視しながら狩人としてこの村で過ごす。それでいい…はずだ。

 ……………いや、自分を偽るのはよそう。僕は強さに、外の世界に憧れを抱いてしまった。

 このまま流されるままに村で生きていくのはきっと楽なことだろう。だがそれでは僕の中にある憧れとあるかもしれない可能性に蓋をして生きていくということだ。

 それが僕にとって良いことなのか悪いことなのかいくら考えても答えを出せない状態でいた。

 傭兵の国は来る者は拒まず去る者は追わずというスタンスで誰でも受け入れてくれる場所だと聞いたことがある。僕が踏み出すとしたら傭兵の国が近くにいる今しかないだろう。

 だが、僕が傭兵の国に行くと村には足が悪いゼフさんしか狩人がいなくなってしまう。そうなると今回のようなことがまた起こった時に僕の故郷は、村は生き残ることができるだろうか?もちろん僕が村に残ったからといってこの先も安泰だなんてことはないだろうが何かの助けにはなれるかもしれない。

 答えが出ない問の中で悩みながら僕はジルパを呼んで背に乗せてもらい洞窟へと向かう。






 洞窟の近くまで行くと村の皆を引き連れたクランさんと鉢合わせた。


「おつ、お前も生き残ったのか。俺のアドバイスは役に立っただろう!」

「はい。あの時あの言葉をもらえなかったらたぶん僕は死んでました。ところで皆はどうしてここに?」

「俺は洞窟の前で近寄ってきた魔物共をひたすら倒し続けていたからな。それで魔王が討伐されたのが見えたから夜明けを待って皆を村まで送り届けてる最中だ。」

「そっか、あんなにデカい魔王が空中で討伐されたんだから地上からでも見えて当然か。僕は村の皆が魔王が討伐されたことを知らなかったらいけないと思って知らせに来たんです。」

「行き違いにならなくてよっかったな。それじゃ一緒に戻るか。」

「はい。」


 こうして村の皆とクランさんと合流して村へ戻ることになった。

 道中ではクランさんに聞かれ僕の闘いがどうだったのか話すことになった。

 一通り話が終わってクランさんが口を開く。


「お前さん、持ってる側だったんだな。なんとなくそんな片鱗はあったけどたいしたもんだよ。」

「持ってる側?」

「運だよ、運。これは馬鹿にしたものじゃないんだぜ。実際俺の経験上中途半端に強くて運が無いヤツより、てんで弱くても運だけは持ってるヤツの方が生き残る確率は高いんだ。ましてはお前さん、ライカ様に合流できただけじゃなくオオロ様が闘ってるところまで見れたんだろ。羨ましいくらいだぜ。」

「オオロ様って誰ですか?」

「ライカ様がオロにぃと御呼びしてたんだろ。だったらその方は俺ら『攻城衆』の頭のオオロ様だ。あの方は俺の憧れでもあるんだぜ。凄かっただろ?」

「それは…はい。正直、凄いなんてもんじゃなかったです。」

「そうだろう、そうだろう。」


 この後はオオロ様がどれだけ強いのかを延々と聞かされる帰路となった。




 村に到着すると村長のジバ爺さんが皆を集めて演説を行った。


「皆の者!今回の件は村にとっては災厄であったが不幸中の幸いとして誰も死ぬことなく乗り切れた。まずはこのことを祝おう。そして一日でも早い復興のためにも皆で力を合わせていこう。」


 村長はここで一度言葉を切って村の皆を見渡す。皆は頷くなどして肯定しているが、そんな中僕は素直に頷けず目を逸らしてしまった。


「さて、復興するにあたり先立つものが必要になる。そこでワシが村長になって以来皆に作成を推奨し、皆が日頃から作り置きしていたとっておきを出す時が来た。」


 とっておきとは何のことだろう?わからなかったので隣にいるゼフさんにこっそりと聞いてみることにする。

「ゼフさん、村長が言ってるとっておきって何のことですか?」

「ん?あぁ、酒のことだろうな。クラットの家でも作ってるだろ。」


 確かにこの村では自分たちで消費する用の酒が積極的に作られている。酒類の販売には国の認可が無ければ犯罪になるので、大量に作ったところでお金にはならないのにと子供の頃から疑問だったのだ。


「傭兵の国は国と呼ばれるだけあって傭兵の他に商人とかもいるんだ。だから傭兵の国は魔王を討伐した後に本隊の下で市場を開くんだよ。この市場はこの国の領土の外で開かれているから国の法律に縛られない。その上物々交換とかでも取引してくれるから商品さえあれば色々と買い物できる訳だ。」


 ゼフさんの説明を聞いて納得した。魔王の討伐なんていう闘いの後はおそらく宴会が開かれるだろうから酒類はいくらでも需要があるだろう。それでなくとも酒類は消毒などにも使えるから闘いが日常の彼らにとってはいくらあっても困らない物だ。

 村長が積極的に酒を作っておけと指示を出していたのも納得だ。


「各自、作りおいていた酒と売れそうな野菜、その他手放しても構わないものを集めてくれ。ワシの方で目録を製作する。その後は傭兵の国の本隊へと向かい復興のための物質を調達するぞ!」


 村長の指示により皆が一斉に動き出す。

 そんな中、僕は別のことに胸を高鳴らせてしまっていた。

(傭兵の国に…行ける!)

 今まで感じたことない高揚感に戸惑いながらも僕も作業に加わった。






 傭兵の国に帰還することになるクランさんに案内してもらい、商品をまとめた目録とそのサンプルを持って傭兵の国へと向かう。

 正直な話、僕の悩みを相談できそうな人はクランさんしか思いつかないので是非とも相談したいと思っているのだが肝心のクランさんが村を出てから何か考え事をしているように見えた。


「どうしたんですかクランさん。何か悩み事でも?」


 むしろ悩みを聞いてほしいのはこっちの方だが話をするとっかかりとしてそう切り出した。そういえば村を出る前にテイルがクランさんを呼び出しているようだったのでそのことが関係しているのかもしれない。


「ん~~~ちょっとな。ま、俺もたまには悩むことがあるんだよ。」


 そう言われてうまくはぐらかされてしまった。悩みの原因をこちらには話してくれなさそうな雰囲気があるので少し強引だがこちらから切り出すことにする。


「悩みですか。それなら僕も悩んでることがあるので後で話を聞いてくれませんか?」

「ここじゃ話せないのか?」

「はい。個人的な悩みなので。」


 今は村長をはじめとした数人の村人がすぐ近くにいるため話しにくい。別の話題で話をそらすことにする。


「ところで傭兵の国の本隊とどうやって合流するんですか?クランさんは先行して僕達の村に来てるから本隊の位置ってわからないんじゃないですか?」

「ああ、それなら視界が開けた所に出られれば一目瞭然だからな。見晴らしがいいところに行ければ本隊の位置はすぐにわかるさ。」


 そういわれ意味がわからずにいたが森を抜けて一気に視界が開けるとその言葉の意味をすぐに理解した。見覚えのない山があったからだ。


「あんな山この辺にあったっけ?」


 同行していた村人の一人がそうつぶやいた。僕も同じ疑問を抱いていたところだった。


「無かっただろうな。あの山の麓が傭兵の国の本隊だ。」

「どういうことですか?」

「口で説明するより見た方が早いんだが、簡単に説明するとあの動く山が傭兵の国の本隊なんだよ。」

「動く山?」


 ますます疑問が深まってしまったがとにかくあの山の麓を目指して移動することになった。




 傭兵の国の本隊に到着して山の正体を知り驚愕した。山の正体はとてつもなく巨大な亀だった。


「驚いただろ?見当た目は完全にめっちゃデカい亀だけど実際は龍の一種らしいぞ。その昔、俺達の総大将が手懐けたんだと。」


 どこか自慢げにクランさんがそう語る。つい最近見た魔王よりもさらに大きいその生物にただただ圧倒された。

 どうにか視線を下に戻すとその生物の周囲に沢山の大小様々なテントが建てられていた。

 どうやら一部のテントは商人の店舗になっているようで商品が並べられていた。

 村長が先陣を切って商人のテントへ突撃していく。

 すぐに中から白熱した商談が聞こえてきた。商談が終わるまでは少し時間がかかりそうだ。

 一緒に来た他の村人も物珍しそうにテントの中の商品を覗いている。僕も商品を見て回りたいがクランさんに悩みを相談するには今が一番いいタイミングだろう。


「クランさんさっきの相談の件…」

「やっとみとつけましたよ、クランの兄貴。お疲れ様っした。コルトの兄貴の件は片が付きましたか?」


 突然現れた謎の人物に言葉を遮られてしまった。


「あぁ、ザイードか。あいつ…コルトの件は一応区切りがついた。」

「そうっすか…。それじゃ詳しく事の顛末を教えてください。」


 突然現れたザイードという人物にクランさんが連れ出されそうになってしまった。思わす懇願するような目でクランさんを見てしまう。


「ザイード、すまないがその話はもうちょっと後でいいか?今は例の村で知り合ってちょっと世話をしたこのクラットの悩みを聞いてやるのが先約なんだ。」

「コルトの兄貴の村の……先約なら仕方ないっすね。そういうことならオイラは後でも大丈夫っす。そういえばオイラも新人の面倒見なくちゃいけないんでした。クランの兄貴また後で。」


 そう言い残すと嵐のように去っていった。


「すまんな。あいつはザイードといって俺の弟分なんだ。ちょいと騒がしいが悪い奴じゃないんだ。それで、相談があるんだってな。」

「はい。」

「ここはゆっくり話すにはちょいと賑やかすぎるな。向こうで話を聞こう。」


 クランさんの言葉に甘えて商店のテントがあまりない一角に移動して話始める。


「クランさん、僕は………強くなりたいんです。今回のことで弱いままでいることが嫌になったんです。でも僕一人でいくら訓練や修行をしてもたいして強くなれるとは思えません。だから傭兵の国に行って色々な強さの形を見てみたいんです。でも、僕が村を出る村の皆を、故郷を置いていくことになります。それに僕がどれぐら強くなれるかもわからない。もしかしたらあっさり死んでしまうかもしれない。だから踏み出すことが怖いです。でも弱いままで流され続けるのもなんで嫌です。僕はどうしたいいんでしょうか?」

「どうしたらいいかなんて聞かれても俺には答えられんぞ。何を選び何を求めて何のために踏み出すのか、結局のところその問いに対する答えはお前さんの中にしかないだろうからな。ただ、お前さんよりちょいと年上のお兄さんとして何かアドバイスしてやれるとしたら、しっかりと悩んで答えを出せということだな。一度しかない人生をできるだけ後悔が無いように生きるなら、踏み出すのか留まるのかのどちらかを選ぶにしても自分の中の答えをしっかりと悩んで出すことだ。しっかりと悩んで出した答えでこの先後悔することになっても、そいつはもう仕方のないことってやつだ。」

「……………あんまり参考にならないアドバイスですね。」

「そうかもな。だが忘れるな、悩んだ先の答えはお前さんの心だけが知っている。おれも最近ちょっと悩んでることがあったんだがお前さんの相談に乗ったおかげで俺の中の答えは出た。だからお前さんも精一杯悩んで答えを出せ。」

「………はい。」


 結局こんな感じで参考になったかどうかわからないアドバイスしかもらえなかった。

 テントの方に戻ると商談が終わっていた。こちらの求める商品を今晩中に集めて明日村へと運び、村で目録の商品を引き渡すことが決定したようだ。

 村への案内も必要になるので今日は来客用のテントを借りて傭兵の国で一泊することになった。

 勝利の宴の喧騒に混じる気にもなれず僕は自分用に借りたテントで早々に横になる。

 しかし、まだ答えが出ておらず眠れない。しばらく一人で悩んでいるともう一人、というか一頭相談できそうな存在がいることに気がついた。ジルパだ。

 ジルパは傭兵の国に到着した後、魔物の生体を研究しているというなんだか癖の強い感じの人と共にいってしまた。

 でも僕は繋がりのおかげでジルパがどこにいるかなんとなくわかる。どの道一人で悩んでいても答えが出そうにないのでジルパに会いに行くことにした。






 ジルパは宴の会場となっている広場から離れたテントですぐに見つかり、特に警備をしている者もいなかったのであっさりと再会できた。


「ジルパ最後になるかもしれないから会いに来た。それと実は相談に乗ってほしいことがあって…」


 [頭の中で考えるだけである程度伝わるからいちいちしゃべらなくていいぞ。というか実は俺、人間の言葉は簡単なのしかわかってないからベラベラしゃべられると逆に伝わりずらい。]

 話を遮るようにそんな意思が伝わってきた。

(そっか。こんな感じで伝わってるか?)

 [わかるぞ。]

(じゃあ気を取り直して……そういえばジルパはこれからどうするんだ?)

 [ここにで暮らしていくさ。]

(クソ騎士の所に戻らなくていいのか?あのクソ騎士はクソ野郎だけどジルパには優しそうだったし、いい暮らしができるんじゃないのか?)

 [確かにいい暮らしはできてたが自由に運動できないからな。あとあの重くて臭いやつは普通に俺も嫌いだぞ。重いのは最悪我慢できるが臭いのは我慢できん。前回乗られた時はあまりに臭くてストレスが溜まって普段温厚な俺がついゴブリンとかに八つ当たりしてしまったくらいだ。]

 初めてあった時、荒ぶっていたのはクソ騎士の体臭のせいだったらしい。

(世話をしてくれてる人とかには未練はないのか?)

 [俺が世話してくれる人間になつくと、あの重くて臭いやつが自分よりもなつかれてることに腹を立てて世話をする人間をコロコロと変えてやがったからな。特定の誰かに未練なんかないさ。]

 あのクソ騎士ならやりそうだろうなとあっさり納得できる答えが帰ってきた。

 [まあ、ここなら自由に走り回れるし俺のような人を乗せる訓練をした馬なら騎馬にしろ荷馬にしろ食い扶持はいくらでもあるだろう。]

(ジルパは心が決まってるんだな。正直、羨ましい。)

 [お前はどうするんだ?]

(実はそのことを悩んでて……)

 それから僕はジルパに悩みを聞いてもらった。繋がっている影響で言葉にするよりもより詳しく僕の思いが伝わった気がする。

 [なるほど、人間も色々大変だな。]

(なんか軽いな。他人事だと思って……)

 [まあ、実際俺達は繋がっているとはいえ他人事だからな。ただ、人間のしがらみとかはよくわからん俺としてはお前が一緒に来てくれた方が心強くて嬉しいぞ。]

(……そっか、ありがとな。もう少し悩んでみるよ。ジルパに会えて良かった。)

 [俺もだ。]


 こうしてジルパと別れて僕の夜は更けていった。


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