オデュン強襲ー7
迫り来る骨の壁を背にパンデモニウムと対処する。
圧倒的に有利な状況を作ったことでパンデモニウムからは余裕が滲み出ていた。
腹立たしいことだが、その余裕も納得できるほど余が置かれている状況は絶望的だ。
なにせパンデモニウムは積極的に攻撃しなくても、迫り来る骨の壁が余を飲み込むのを待っているだけで勝利できる。
対する余は『イリュージョン』の術式の維持を辞めたことで再び魔導術を使うことができるようになったものの、それ以外にまともな武器すら持っていない状況だ。
やはり素手での戦闘ではリーチという点で圧倒的に不利を強いられることになるし、闘氣刃を代表とする闘氣を使った戦闘スタイルにおいて、素手での戦闘の達人でもない限り何かしらの武器があった方が闘いやすいとされている。
「どウした?来ないノか?」
パンデモニウムが安い挑発をしてくるが、無策で接近戦を仕掛けてどうにかなるような相手では無い。
「お前を倒した後に戦利品として部屋に飾る骨をどれにするか物色していだけだ。」
リーチの問題からカウンター狙いで動いた方が有利だと判断し挑発で返す。
それにパンデモニウムの骨を物色していたというのは本当のことだ。
パンデモニウムの個体が持つ能力は身体を構成している骨によって変わるのは、これまでの攻防で身に染みてわかっている。
だからこそ身体のどこかにパンデモニウムの知能を確立させている骨があるはずだ。
魔物という生物は魔力といえ不可思議な力を持って産まれてくるが、知能の高さという点については人よりも勝っている種はほとんどいないらしい。
であるならば、このパンデモニウムの知能を確立させている骨は人の骨、それも頭蓋骨である可能性が非常に高い。
その頭蓋骨を破壊できればパンデモニウムの知能を大幅に下げられ闘いを有利に進めることができるはずだ。
(思えばこの闘いにおいて余は人骨が使われているスケルトンを一度も見ていない。人の骨なら手に入れようと思えばそう難しいものでもないはずだ。それなのに使われていないということは…何かしらの事情で手にはいらなかったか、もしくは…別の何かに使うことを優先している…といったところか。)
この考えで思い当たるのは、エルク副隊長が一度は破壊に成功したあの怪しげな水晶が突き刺さった不細工な肉塊だ。
あまり考えたくないことだか、あの肉塊には明らかに人の部位に見えるものが所々に散見していた。
(アレの材料が人だとすると…増産を優先してパンデモニウムに回す分の人骨が用意できなかったのか?…そう考えれば辻褄は合うし、この推測が正しいのならパンデモニウムに人の頭蓋骨のスペアは無いことになる。…狙うべき弱点が視えてきたな。)
「マだそんナ口をきけるほドの胆力が残ってイるか。キサマを殺したアかつきにはソの骨も取り込ンで使ってヤろう。幼体とハいえ異常個体ノ骨だ。どレ程の力を得られルか今から楽しミでならない。」
「まだ殺してもいないうちから皮算用か?」
「そレだけ余裕がアるというコと…クッ、やはり気のせいデは無かったカ!」
今まで余裕たっぷりといった態度から一転し、パンデモニウムが突如として襲い掛ってきた。
突然の豹変に困惑しながらも跳び退いて攻撃を躱すと、そこに外部から骨の壁を貫通して何かが飛来する。
それが何なのかわからない状況ではあるが、何か直感のようなものが閃き気づいたら余はその何かを手にしようと身体が動いていた。
パンデモニウムがその動きを阻止しようとするが、攻撃を仕掛けた直後だったのが災いし余の方が一瞬早く飛来物を手にできた。
「コレは…剣?」
骨の壁を貫通して飛来したのは、やや反り返るように湾曲している片刃の剣であった。
ショートソードと呼ばれる剣と同じぐらいの長さであったが、子供の体格である余には丁度良い長さで扱いやすそうだ。
刀身は鋭く磨かれており一目で稀代の業物であることが伺える程の輝きを放っている。
状況からして明らかに余を助けんとして投げ込まれた一振りだ。
更に言えば突如として余裕の無い態度で攻撃を仕掛けてきたパンデモニウムの反応もある。
骨の壁の外には味方となる誰かがいて助力していることは明白だ。
どうやら状況は余が想定していた程、最悪でもないらしい。
「おやおや…自慢げに語っていた余裕とやらは、一体どこに行ってしまったんだ?」
「黙レ!」
挑発しながら手にした剣に闘氣を纏わせてみると何か抵抗のようなものを感じて上手くいかなかった。
こんなことは今までになく初めての経験だ。
戸惑いを表情に出さないようにしながら、一旦状況を整理するためにパンデモニウムの猛攻を回避し続ける。
諦めずに試行錯誤していると少しずつこの剣が持つ抵抗の正体についてわかってきた。
その正体はこの剣自体が持っている不思議な力だ。
何も考えずにこの力に逆らうように闘氣を纏わせても力同士が反発してしまい、その結果抵抗のようなものを感じていたらしい。
(つまり、とんだじゃじゃ馬だったというわけか。だが、逆に言えば使いこなすことさえできればこれ以上ない程に頼りになるということ。こんな状況ではあるが…面白いではないか。)
必ず使いこなしてみせるという意思を込めて柄を強く握りしめる。
すると、そんな余の意思に呼応するように剣が持つ力が波打った。
それはまるで〝面白い!やってみろ!〟と剣が語りかけてきているようだった。
(この剣を使いこなすには、この剣の力を感じ取り呼吸を合わせる必要がある。)
その為に必要なのは感覚の強化。
毎朝やっている瞑想と同じ要領で心を落ち着かせ、世界の全てを感じ取れるように集中する。
すると次第に自分という輪郭がボヤけてそのまま世界の中に融けていくような感覚がしてくる。
いつもの瞑想ならここで辞めて戻って来るが、今日はその先に行く必要がある。
だがら踏み越える。
自分が完全に融けて無くなり、そして世界と一つになる。
その果てで………何かの意思と繋がった。
無我の境地のままにパンデモニウムの攻撃をひたすら回避し続けていた身体に意識が戻って来る。
瞑想の果てで大きな意思と繋がったことで、今の余は色々な事を理解していた。
(魔によって産まれし者…世界にとっての異物。この手で討たねばならんな。)
今の余は生存のためにパンデモニウムと闘うというよりも、 目の前のパンデモニウムという魔将を倒さなければならないという意識で対峙している。
手している剣についても既にわかっているので、もはや何の抵抗も無く闘氣を纏わせることができそうだ。
ここであらためて対峙しているパンデモニウムを観察する。
今のパンデモニウムは攻撃のことごとくを回避し続ける余に業を煮やしたのか、蜘蛛の足を思わせる骨の触腕を生やし文字通りの意味で手数を増やしているような状態だ。
その状態で跳び掛かるように接近し左右から生やした触腕による逃げ場の無い同時攻撃を仕掛けてくる予兆が視えた。
この攻撃に対して余はタイミングを合わせて踏み込み先の先を取って右側の触腕をまとめて斬り捨てる。
そしてそのまま触腕を失ったことで攻撃ができなくなった右側の安全地帯に身体を滑り込ませる。
右側の触腕を一気に失ったことで、左右のバランスが崩を崩しながらも方向転換しながら余の動きを捉えようと身をひねるパンデモニウムに、今度は余の方から電光石火の追撃を仕掛けパンデモニウムの頭部に当たる部位を斬り飛ばす。
(ここに頭脳である頭蓋骨を隠していると思ったが…違ったようだな。考えてみればこのような異形の魔物がわざわざ生物的なセオリーを踏襲しなければならない理由などないか。)
生物であれば頭部に感覚器官が集中しているものだが、そもそも死骸の塊であるパンデモニウムに感覚器官があるかさえ疑わしい。
極端な話、今斬り飛ばしたパンデモニウムの頭部のように見える部位でさえただの飾りであったとしてもおかしくはない。
(次は…胴を狙うか。あそこは身体の中心だし使われている骨の部品が最も多い。)
頭脳代わりの頭蓋骨を破壊したところでパンデモニウムを倒せるわけてはないが、破壊してしまえば思考能力の低下が狙えるのでパンデモニウムにとっては失いたくない器官のはずだ。
パンデモニウムは余が胴に狙いを定めたことを察知したのか、全身に魔力を漲らせて闘氣のような魔力の力場を纏い防御力の底上げを図ってくる。
(アレは…今の状態では斬れないな。力場どうしが相殺しあい威力が削がれて防がれる。)
その様子を視て直感的に今剣に纏わせている闘氣刃では魔力の防御を突発できないと理解した。
正確に言えばこの剣が名剣であるため、魔力の力場を突発した後に傷を入れることはできるが途中で止められ絶ち斬るには至らない。
(このままでは攻めきれない。…『炎衝角』を連続で撃ち込んで魔力の力場を削るか?…いや、魔力の力場を削るのには効果的だろうけど、それ以上に爆煙で視界が悪くなるデメリットの方が大きい。かと言って他の魔導術では威力が足りず削りきれない。…となると後は『縮放』ぐらいしか手札が無いが…ああ、そうか。闘氣刃と合わせて使えばいいのか。)
一つの突発口を見出したので直ぐ様それの準備として全身に闘氣を纏い始める。
次の攻撃には少し準備が必要になるため一度攻撃の手を緩めることとなったが、それを反撃の好機ととらえたのかパンデモニウムの攻撃からの攻撃が激しくなる。
失った右側の触腕は既に組み替えによって新しい触腕になっており、今度の攻撃は複数ある触腕にそれぞれ時間差をつけての隙が少ない連続攻撃だ。
だが今にはその動きは全て視えている。
十分に引き付けた上でギリギリで回避しつつ、闘氣刃を纏わせた剣で魔力により強化された触腕を軽く斬ってみるが、想定してい通りに途中で止められてしまい断ち切るにはいたらなかった。
この結果を受けてパンデモニウムは自分に通じる攻撃手段を余が持っているないと思ったのか、調子づいて攻撃の勢いをましてきた。
好都合なのでその勘違いを助長させる意味も込めて、大きくバックステップで距離を取り攻撃の間合いから逃れる。
まるで獲物を追いつけるようにジリジリと間合いを詰めてくるパンデモニウムに対し、余はパンデモニウムの攻撃を回避するのに備えようにトントントンとその場で小刻みに跳ぶ。
こんなふうに軽く跳んでいると普通のなら着地後には足が衝撃を受け止めるための硬直が発生し、一瞬だけ動けない瞬間ができるのだが、余はその認識を逆手にとることでパンデモニウムの先手をと取ることを狙う。
これはパンデモニウムの魔力による防御を突発する手段を模索していた時に思いついたのだが、そもそもの話『縮放』による収縮する力場を作るのをわざわざ武器の表層でする必要は無いのだ。
身体の表層でも『収放』の力場は作りだせる。
ならばソレを身体に纏っている闘氣ごと流して使いたいタイミングに使いたい場所に持ってくればいい。
パンデモニウムが攻撃に移る直前、それも軽く跳んだ後の着地と同時にタイムラグ無し一足飛びに踏み込み瞬時に距離を詰める。
あらかじめ脹ら脛辺りで作っておいた『収放』の力場を着地する瞬間に足の裏に移動させ着地と同時に解放する。
こうすることで本来なら硬直しているはずの一瞬を踏み込みのタイミングとして使うことができる。
予想外のタイミングで踏み込んできた余にパンデモニウムの迎撃は一瞬遅れた。
そしてその一瞬があれば十分だ。
全ての触腕をかいくぐり懐こ踏み込むと上段斬りで胴体に斬りかかる。
刀身に纏わせた闘氣刃と魔力の力場がせめぎ合い対消滅し、最終的に残った僅かな闘氣刃の力場と刀身がパンデモニウムの胴体の骨にダメージを与えただけに留まり到底致命傷には程遠い。
だからこの攻撃をここで終わりにはしない。
瞬時に消滅した闘氣刃の力場に代わり、腕の表層で溜めておいた『縮放』の力場を刀身の表層に流して解放する。
僅かに入った胸部の骨のダメージに追撃の『縮放』による衝撃が加わり、防御を失っている胸部の骨は爆ぜて砕け散った。
大きく破損した胸部の骨の砕け散った割れ目の奥、人であれば心臓がある位置に狙っていたパンデモニウムの弱点である人の頭蓋骨が視えた。
(そこか!このまま続く連撃で仕留める!)
既に二の腕辺りで作っておいた『縮放』の力場を腕の辺りまで流しており、刀身には再び闘氣刃を纏わせている。
身をよじって攻撃から逃れようとしているパンデモニウムに、さっきと同じ要領で再び着地と同時のタイムラグ無しでの跳躍で詰め寄り剣を振るう。
二撃目となる余の爆ぜる斬撃がパンデモニウムの防御を突き破り、心臓部にある頭蓋骨を粉砕した。
なんとか更新できました。




