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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
108/109

オデュン強襲ー6

 今回の反撃作戦を立てるにあたり、これまでのパンデモニウムとの攻防と言動から推測できる性質上の弱点とも言える点に着目していた。

 その弱点を看破する上でまず最初に注目したのは、ついさっきの出来事であるパンデモニウムが魔力を遮断する性質があると思われる煙に包まれていたときのことだ。

 あの時、煙のに包まれていたパンデモニウムと強化スケルトン達はその場から動かず防御の姿勢を取っていた。

 一方で煙に包まれておらず影響を受けていなかったはずのスケルトン達だが、コイツ等は動きが緩慢になっており防御の姿勢をとっている様子もなかった。

 スケルトン達とパンデモニウムは全て繋がっている同一個体であるはずだ。

 それなのに煙に包まれていたパンデモニウムと煙に包まれていなかったスケルトン達で行動に違っていた。

 これが何故なのかと考えた時、パンデモニウムは身体を構成している骨によって能力が変化する性質があることを思い出した。

 羽付などのパーツを組み込んで強化されたスケルトン達は機動力も防御力も上がっていたし、あの司令塔になっているパンデモニウムが下半身の骨を馬型の魔物の骨に組み換えたことで急加速という新しい技を使い始めている。

 その上であの時に煙に包まれていたパンデモニウムと煙に包まれていなかったスケルトン達の何が違うのかと考えた時、その答えはそれぞれの個体が持っていた能力の違いではないかという仮説が生まれた。

 この仮説を前提に改めてあの時に起こっていた事を整理してみる。

 司令塔であるパンデモニウムが煙に包まれてしまったことで分体との魔力の繋がり断たれてしまい、それぞれの分体が自身の判断で行動せざるを得ない状況となった。

 その結果、身体の部品により多くの骨を使われているパンデモニウムと強化スケルトン達は個体としての能力が高いため防御姿勢を取るという判断ができたが、一方で簡素な作りのスケルトン達は個体としての能力が低いため状況判断ができずに棒立ちになってしまっていた。

 こう考えるとパンデモニウムとスケルトン達で行動に違いがあったことにも納得ができる。

 そしてこのことから推測できるパンデモニウムの弱点とは、パンデモニウムと分体との魔力の繋がりを断つことができれば分体達の大幅な弱体化が狙えるということだ。

 次にパンデモニウムと分体との魔力の繋がりを断つ方法だが、これについてはそもそも魔王がパンデモニウムを今回の奇襲の先兵として送り込んできたのは何故かということにヒントが隠されていると考えている。

 パンデモニウムは保有できる魔力に応じた数の骨を取り込むことができ、その取り込んだ骨が持っていた能力を自身のものとして使えるという極めて厄介な魔物だ。

 一方で魔王は魔将を作り出す際に下級の魔物でも結晶化した魔力を体内に埋め込むことで、無理矢理その種の限界を超えた力を持たせる外法があると聞いたこともある。

 この外法をパンデモニウムに使えば無理矢理魔力の総量を底上げすることができ、その底上げされた魔力によってパンデモニウムが取り込る骨の数を更に拡張することができるはずだ。

 そしてパンデモニウム一つの個によって動く群体の魔物だ。

 パンデモニウムを構成している別の群体に同じように魔力の結晶を埋め込むことで更に魔力の総量を底上げできるはずで、これを繰り返せば事実上パンデモニウムの群体を無限に拡張できる。

 余が魔王ならばこの方法でパンデモニウムをひたすら強化し続け、パンデモニウムを前線に出させないようにしつつ無限に増殖させられる分体の物量で国を潰しているだろう。

 余でも簡単に思いついたこの戦術に、魔王が気がつかなかったとは考えにくい。

 そして、魔王はこの戦術を取らずにパンデモニウムを奇襲の先兵として直接送り込むという使い方をしてきた。

 その理由はおそらく、パンデモニウムの分体同士での魔力の繋がりを維持できる距離に限りがあるためでではないかと推測している。

 魔力を阻害する煙に包まれた時、それぞれの分体の魔力による繋がりが断たれそれぞれが個別の判断で動いていたという余の推測が正しいのなら、分体同士の距離が開き過ぎた場合でも同じように魔力の繋がりが切れてしまい孤立した分体は個別の判断で動くようになるはずだ。

 思い返してみれば奇襲してきた当初、パンデモニウムは結界の影響が想定よりも強く念話での意思疎通ができないと言っていた。

 このことを言い換えれば結界の影響によりの魔力による通信ができなかったということになる。

 結界の影響によって魔力による通信ができなかったというのなら、魔力の繋がりによって分体と情報を共有しているパンデモニウムにも分体との繋がりに何かしらの影響が出ていたとしても不思議ではない。

 奇襲してきた直後の闘いにおいてパンデモニウムは分体を出現させても自身の目の届く範囲のみで分体を活動させたいた。

 今思えばあれは、結界の影響範囲内での分体の運用がどれぐらい可能かについてスケルトン達を小出しにしながら試していたのだろう。

 そして段々と調子がわかってきたことで分体の数を増やしていき今に至る、といったところか。

 …少し話が逸れてしまったが、余が看破したパンデモニウムの性質上の弱点とは要するに、司令塔であるパンデモニウムと分体とを引き離すことができれば魔力の繋がりを維持できなくなる可能性が高いという点だ。

 よって、このことを踏まえた作戦を考案しムサイに説明する。


「ムサイ、今から作戦を伝えるぞ。」

「わかったべ。オラは何をすればいいべ?」

「作戦の肝は司令塔のパンデモニウムをターゲットである強化スケルトン達から引き離すことだ。その為の仕込みとしてまず、作戦の場所から離れた位置にある不特定多数の場所に『イリュージョン』を仕掛ける。ムサイは余が仕掛けたこの『イリュージョン』の内部から索敵中の孤立しているスケルトンに狙いを定めて奇襲を仕掛けてくれ。それと…くれぐれもこの時に周囲にいるターゲット以外のスケルトンに見つからないように注意してくれ。」

「どうしてだべ?」

「パンデモニウムにはこの『イリュージョン』を展開している場所はよく見えない空間になっているらしい。そしてパンデモニウムもこれまでの攻防で余がよく見えない空間を作り出してそこに隠れたりすることを学習しているはずだ。そんなよく見えない空間が乱立している区域でスケルトンの分体が次々と撃破されているとなれば、パンデモニウムはその区域のどこかで余が隠れながら暴れて回っていると思うはず。」

「なるほど…つまりこれはオラが疑似的におめぇさんに見えるようにするための工作ってわけだべな。」

「その通りだ。それでパンデモニウムがこの策に騙されて『イリュージョン』を仕掛けた区域に向かった後、索敵の為に散っているスケルトン達を余がどこかの建物に誘導する。」

「ふんふん、それでその後は?」

「建物の内部に誘い込んだ後、その建物を破壊して倒壊させて瓦礫に巻き込んで一掃する。」

「うえぇ~~~!勝手に建物さぶっ壊して怒られないべか!?」

「人が居ない建物ならば問題ない。非常事態であることだし、余がそうする必要があると判断したのだから誰にも文句はいわせんさ。…ちなみにムサイはこの辺りでこの用途に適した建物に心当たりとかは無いか?」

「う~~ん…あ!それなら成金倉庫がいいかもしれないべ。」

「成金倉庫?」

「オラもついこの前のアルバイト中にバイト仲間から聞いた話だけんど、前の南方伯様の時代に贔屓にされてた商人がこの辺の貴族区画の一角の古い建物を買い取って改装して倉庫として使ってたらしいべ。なんでも前の南方伯様と結託して違法品の一時保管場所として重宝してたらしいんだけんど、いっぱ物が置けるようにって柱やらを倒壊しないギリギリまで減らしたりしてたって聞いたべ。そんで今では倒壊の可能性があるとかで使われなくなってるんだと。」

「おあつらえ向きの建物だな。作戦決行場所はそこにするとしよう。」


 丁度いい建物があっさりと見つかった。

 二人でその成金倉庫と巷では呼ばれている建物に行ってみるといい感じに老朽化しており、強い衝撃を加えれば狙い通りに倒壊させられそうな状態であった。


「いい感じに脆そうだな。これなら『縮放』を何発か打ち込めば倒壊の瞬間をこちらでコントロールできそうだ。」

「それはよかったべ。それで、オラがあの骨の怪物を惹きつけてる間にこの建物に誘い込むのはわかったけんど、作戦開始の合図とかはどうするべ?」

「余の準備が整ったのは『イリュージョン』を発動させればわかるとおもうが、ムサイ側からのパンデモニウムの惹きつけに成功したという知らせを受け取る術がないな…ムサイよ、何かいい案はあるか?」

「それなら獣氣で強化した喉で普通なら聞こえないような音を出して知らせるべ。おめぇさんも獣氣で聴覚の強化ができるなら聞こえるはずだべ。」

「わかった。それではその合図を出した後、ムサイはこの区域から離脱して姉上と合流を測ってくれ。」

「おめぇさんの所に戻って一緒に闘わなくていいべか!?」

「確かにムサイが一緒に闘ってくれれば心強いが、それ以上に姉上を呼んできてくれた方が勝算が高いからな。」


 この発言は半分噓である。

 ムサイが一緒に闘ってくれれば心強いのは本当だが、パンデモニウムという上位種の魔将が相手では多少の戦力の増加程度では焼け石に水だ。

 そんな死地にも近い戦闘に新婚のムサイを巻き込むのは気が引ける。

 それに上手く事が運んで姉上を連れてきてくれたのなら勝算が大幅に上がるのは事実だ。


「…わかったべ。姫さまじゃなしにしても誰か頼りになりそうな人さ探して戻ってくるべ。」


 ムサイはムサイで何かを察したのか神妙な面持ちで頷いて納得してくれた。




 作戦の為の『イリュージョン』の仕込みを終えた後、予定通りムサイと別れて各々で行動を開始した。

 既に余が仕掛けた『イリュージョン』はすべて起動させているので、後はムサイからの成功の知らせが来るのを待って行動を開始するだけだ。

 待機していると今回の作戦が上手くいくか急激に不安になってくる。

 そもそも正直パンデモニウムの魔力の繋がりについてはどれぐらい距離を離せば分断できるのかについてはわかってない。

 なので最悪の場合、分体の弱体化はほとんど起こらない可能性もある。

 そんな弱気を振り払うように気合いを入れ直す。

 分体の弱体化が望めなかったとしてもパンデモニウムを作戦を決行するあの建物から引き離してさえいれば、倒壊する前にパンデモニウムに建物を破壊されるというリスクを無くすことはできるので無駄では無いはずだ。

 そんな風に思い直していると、ついにムサイが惹きつけに成功したことを示す普通に生活していればまず聞くことがないような音域の声を獣氣によって強化された聴覚が捉えた。


「ムサイは上手くやったようだな。…余も始めよう。」


 意図的に声に出すことで気合入れる。

 パンデモニウムから引き離したことでどれぐらい分体の判断能力が弱体化しているか遠巻きに観察してみるが、パッと視ではそんなに急激な弱体化をしているようには視えない。

 だが、ムサイもパンデモニウムを惹きつけ続けるのには限界があるし、今更作戦の変更もできないのでやるしかない。


「こっちだ!この首が欲しくばついて来い!」


 スケルトン達の前にわざと跳び出し、そのまま走り回って仕込みをした建物を目指す。

 余の策が上手くハマったのか、誘き出したスケルトン達はあからさまに怪しい余の行動に対して特に疑問を持った様子もなく、狙い通りにゾロゾロと後をついてきているようだった。

(分断工作が成功しているのか?…なんにしてもチャンスだな。このまま引き連れて誘導する。)

 あまりに上手くいき過ぎているようにも感じたが、だからといってここで止まるわけにもいかない。

 余の後をノコノコと追って来た大量のスケルトン達を引き連れたまま、目的地である細工を施した建物に向かいそのまま建物の内部へとスケルトン達を誘導する。

 ひょうし抜けするほど思い通りに何の疑いも無くついて来たスケルトン達が建物の中にまで追ってきたのを確認すると、最後の仕上げとして建物を支えている柱に渾身の『縮放』を叩き込む。

 ちなみにこの時に余は触媒の容量の限界までをフルに活用して『イリュージョン』の術式を複数構築しながら維持しているので他の魔導術を構築する余裕は無い。

 なので必然的に建物の柱を破壊する手段は『縮放』による一撃ぐらいしかないのだが、見た目よりも構造が頑丈だったようで建物の柱は大きな亀裂が入ったものの一撃で破壊するには至らなかった。

(思っていたよりも硬い。だが、一撃で足りぬなら何度でも叩き込むまで!)

 背後に余を追って来たスケルトン達の気配を感じ、若干の焦りが湧き上がるが続く二発を先程入れた亀裂の内部で爆発するようにして放つと確かな手応えを感じた。

 建物の倒壊が始まると確信した余は踵を返して建物からの脱出をはかる。

 覚えたての『空放脚』もフルに活用して大ジャンプしスケルトン達の頭上を跳び超えて一気に出口に向かう。

 建物から脱出した後はダメ押しとして、ついさっき通った出入口にも『縮放』を放ち出口を塞ぐ。

 轟音と共に崩れる建物から少し離れた所まで退避して倒壊を見守る。

 どうやら作戦は全て上手くいきスケルトン達を一網打尽にできたようだ。

 達成感を感じながら成果を確認していると急激な速さで何かが接近して来る音が聞こえた。


「やってクれタな!」


 声がした方を振り返ると、そこには憤怒の色に染まったパンデモニウムがいた。


「一足遅かったな。見ての通り、お前の分体は瓦礫の中に埋葬してやったぞ。」


 挑発の意味も込めて軽口で返してやったのだが、意外にもパンデモニウムは挑発に乗って来ずすぐに冷静さを取り戻し始めているようだった。


「…たかダがガキ一匹にこコまでしてやらレたのは恥の極ミだが、これ以上手こズって恥の上塗りをすルわけにはイかぬ。故に…ガキ一匹にハ過剰すぎることヲ承知で我が身ノ全力を出させモらおう。」


 パンデモニウムは今までの攻防では、この場以外での戦闘が発生する可能性を考慮して常に余力を残すような分体の運用をしていた。

 だが、余を仕留めきれずにズルズルと時間だけが過ぎていったことでとうとう余裕が無くなったらしい。


「もハやキサマに鼠一匹入リ込める程度の逃ケ゚場すら与えン!こレで…今度こソ本当に終ワりだ!」

「…おいおい、余一人を相手にそこまでするのか…」


 パンデモニウムの終わりという宣言と共に、パンデモニウムを中心とした円形の骨の壁が出現した。

 その壁は音を立てながら中心に居るパンデモニウムに向かって収縮し始め、円の外周が狭まった分だげ上へ上へと伸びていく。

 そして最終的に半球状のドーム…いや、コロシアムを形成した。

(さて…流石にコレは想定外が過ぎるぞ。こうなった以上もはや逃げ場などどこにも無いし、逃げ回ったところでいずれ収縮し続けている壁に押し潰される。…つまり、生き残るにはパンデモニウムを倒す以外に道はなくなった、ということか。)


 こうしてとうとう、余の生存を賭けた闘いの最終局面の火蓋が切って落とされた。

話のストックなんてほぼないのに仁王3が発売してしまう…更新が間に合わなかったらごめんなさい。

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