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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
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オデュン強襲ー4

 逃走を開始した余はできるだけ人気が少ない場所を選んで走っていた。

 幸いなことに、オデュンの一部の地域は余が視察に行くことが決定した後から立ち入り規制がかけられている場所があるため、その辺りを逃走ルートとして選べば一般人を巻き込む危険度を大きく下げられそうだ。

 一応、逃げる行き先はこのまま人気が少ない場所を選びながら街の外までパンデモニウムを誘導したいというボンヤリとした方針はあるものの、余はこの街の地理については土地勘が無いので最適なルートがわからない。

 追って来ているパンデモニウムは鈍足のスケルトンでは埒が明かないと判断したのか、四足獣型の起動力に長けたタイプのスケルトンを大量に出現させながら余に迫って来ている。

 この四足獣型のスケルトンは平地でのスピードが余よりも速いようで少しづつではあるが距離を詰めて来ているのを気配で感じる。

 だが、こいつらが余よりも速いのはあくまでも平地での話だ。

 追いつからそうになったので、余は大ジャンプから三角跳びの要領で建物の屋根に登り、逃走するルートを舗装された道から屋根の上へと変更する。

 予想通り四足獣型のスケルトン達はこういった咄嗟のルート変更には対応できないようで、屋根の上まで着いてこれたものはいなかった。


「ちょこマかとよく逃げル!ならバこれはどウだ?」


 パンデモニウムはそう叫ぶと、今度は鳥形のスケルトンを出現させて余を追跡してくる。

 この鳥形のスケルトン達も余よりも速いみたいなのでこのままでは追いつかれるのも時間の問題だろう。


「『ボルテスレイジ』」


 だが、鳥というのは飛行能力を得るために身体の丈夫さを犠牲にした生物だ。

 防御力が無いので逃走しながら構築した魔導術を放てば倒すことは難しくない。

 このような感じで今のところパンデモニウムの追跡を上手く躱し続けることができている。

 とはいえ、このまま逃げ続けられるなどと楽観視するのは命取りとなるだろう。

 なにせ相手は魔将で、おまけに最強の魔物の一角として名前があがるパンデモニウムだ。

 その存在を最強と言わしめる根拠の能力である〝元となった生物の能力を継承した骨〟をこのパンデモニウムはまだ見せていない。


「…こコまで逃げらレるとは完全に予想外だ。…キサマただの人間のガキではなイのか?」

「………」

「ダンマリか…まァいい。コチラの仕込みはモう終わった。絶望シろ。」


 どうやらパンデモニウムも本気になったようだ。

 下半身の骨を馬型の魔物の骨に組み換え、背中には大型の鳥の魔物の翼の骨を生やした異形の姿へと変貌させた。

 その上でどこからか骨でできた槍を取り出し構えて突撃の姿勢を取る。

 馬の骨の足に力がこもるのが視えた瞬間に猛烈な嫌な予感が全身に駆け巡った。


「ッ!『炎衝角』『ミラージュ』」


 咄嗟に連続して起動待機状態で留めておいた魔導術を連続発動させる。

 最初に放った『炎衝角』で攻撃しながら爆炎による煙幕を張り、続きて『ミラージュ』を連続で二回発動させてその場に留まっている状態の自分の虚像を残して自身は何もない空間の虚像の裏に隠れて姿を隠しておく。

 それらの準備が整った直後に、凄まじい速さに加速したパンデモニウムが爆炎を突き破って設置しておいた余の虚像の上を駆け抜けていった。

 …咄嗟の勘に従って動いたがそれで正解だったようだ。

 あのまま動かずにいたら今頃あの骨の槍に貫かれ串刺しにされて殺されていたことだろう。

 そして今の動きでハッキリした。

 今のパンデモニウムは余よりも速い。

 少なくとも直線距離での移動能力では勝負にならないぐらいの差がありそうだ。

 パンデモニウムには余を生け捕りにする気などサラサラないようで初めから殺すつもりで加速したいたために、余の虚像の上を通過した後も走り抜けていったので逆に距離が空いたようになったが、今の加速を視た後では多少距離が開いていたとしても何一つ安心できる要素にならない。

 視たところ馬型の魔物の足は方向転換も苦手なようなので、今のような加速を細かく連続で繰り返すというようなやり方はできなさそうなのが唯一の救いだ。

 この様子だと、常にジグザグに移動いて加速して来る先の的を絞らせないようしつつ、パンデモニウムが加速してきた瞬間に思いっ切り横に躱すように移動すればギリギリ回避が間に合いそうではある。

 だが、ジグザグの動きを強いられるということは、つまりは常に余分な動きをし続けなければならない制約をかけられたのと同義とも言える。

 その上、パンデモニウムには手足のように思い通りに動かせるスケルトンの分体が大量に居る。

 こいつらはスケルトンと呼んでこそいるが実際はパンデモニウムの一部であり、それぞれの分体が知り得た情報は即座に全ての分体に共有されし、全てのスケルトンが同じ一体のパンデモニウムなので分体同士の連携において合図などの意思疎通も必要としない。

 単純な速さの勝負で引き離し続けられなくなった今、分体であるスケルトンの動きにも注意を払わなければあっという間に退路を塞がれて轢き殺されてしまうことになる。

(覚悟はしていたつもりだが…想像以上に厳しい相手だ。それに、あのパンデモニウムの手札が馬の骨の下半身によ急加速だけだとは思えない。さっき仕込みが終わったとか言っていたのも気になる。…だが今は兎に角、逃げ回るより他に道は無いな。)

 とりあえず、騎士団の者達が例のあの肉塊を破壊してくれるのを期待してジグザグに動いて的を絞らせないようにしつつ逃げに徹して時間を稼ぐ。

 だが、余計な動きが増えたことで直線上での移動距離が短くなってしまったこともあって、パンデモニウムの突撃を数回躱した後にはかなりスケルトン達に距離を詰められてしまっていた。

(まずいな…このままではジリ貧だ。スケルトン共の包囲網が完成してしまえばパンデモニウムの突撃を回避する手段が無くなる。やはり突撃の要である馬の魔物の足だけでもなんとかして破壊しないと…)

 早くも今の形態のパンデモニウムから逃げ回ることに限界を感じ始めたので、どうにかして現状を打破する方法を模索する。

 パンデモニウムは自らの群れに取り込んだスケルトンの骨を組み合わせることによってそのパーツとなっているスケルトンが持ってい能力を使用できる個体になることができるが、逆を言えば能力を獲得するためには必ずその能力を持っている骨を組み込んで置く必要があるらしい。

(今までの戦闘でこのパンデモニウムが自分の分体であるスケルトンの骨を再生させるような能力は使ってような様子は無かった。ここから推測するに一度破壊された骨は再生できないのかもしれない。ならどうにかしてあの馬の魔物の骨を砕くことができれば、パンデモニウムはあの急加速して突撃してくる技を使えなくなる…かもしれない。)

 推測を基にした作戦を立てるのはリスクが大きいが、どの道このままでは逃げ道を潰されて殺されるだけだ。

 ならば少しでも行動を起こして状況が変化することに賭ける方が建設的だろう。

(さて、反撃するのは良いが今ある手札でどこまでやれるか…余の使える技で今のところ一番破壊力があるのは『炎衝角』だな。だがこれはさっき突っ込んで来るパンデモニウムに打ち込んでみたがあまり効いて無かったみたいだった。おそらく炎に耐性がある魔物の骨でも組み込んで耐性を底上げしているのだろうが…なんにしても『炎衝角』では致命傷は与えられそうにないのは確かだな。…そういえばさっきペルシュ隊長とエルク副隊長がパンデモニウムが交戦していたときには、二人の攻撃はしっかりと防御したり回避したりでしっかりと対処していたみたいだったな。あの様子を視るにかえって純粋な物理攻撃の方が効果があるのかもしれない…が、流石に武器もなしの無手で繰り出せるような攻撃では致命傷は与えられない。…何か…武器になるような物…『グランドスクラム』は地面を隆起させて槍衾を創り出す術だが、これは純粋な物理攻撃だ。この槍衾に『闘氣』を纏わせて、その上であの突進のスピードを逆に利用できれば…どうにかできるかもしれない。)

 もちろん魔導術で創り出した物に『闘氣』を纏わせるなんてことは今までやったことがない。

 だが、ここでできなければこのまま殺されるだけなのでぶっつけ本番で成功させる以外に道はない。

 行動の選択肢を広げるためにジグザグに動きながらも常に魔導術の術式構築を進めていたので反撃の準備は既にできている。

 まずは、スケルトンに移動先を塞がれて動きが一瞬だけ止まったように見せかけて突進を誘う。

 続いて『グランドスクラム』と『ミラージュ』を連続で発動させて突っ込んで来る先に見えない槍衾を拵える。

 最後に余の狙い通りに突撃して来たパンデモニウムに対して逆に突っ込んで行き、槍衾の根元に転がり込み根元から槍衾全体を『闘氣』で包み込んで力場の渦でコーティングする。


「なッ…なにィ!?」


 パンデモニウムは逃げ回るだけだった余が突如として反撃に転じるとは思っていなかったようで、見事に策にハマってくれた。

 パンデモニウムの馬の骨の足は猛スピードに加速していたこともあり、余の『グランドスクラム』とほとんど相打ちになるようにして砕け散った。

 一方で余は槍衾の根元で腹ばいになっていたので、馬の骨の足を砕かられてあらぬ方向へとすっ飛んでいくパンデモニウムに巻き込まれることなく無傷で済んでいる。

 ぶっつけ本番ではあったが想定通りの戦果を出せたようだ。


「幼体であリながらコれ程戦闘能力を持つ…キサマ…まさかアの異常個体ノ血統か!?」


 パンデモニウムは何やら意味のわからないことを喚きながら、砕け散った馬の魔物の骨をおそらく同種の馬の魔物の骨と入れ替え始めた。

 …考えてみれば同じ種類の魔物を複数取り込んでいたとしてもなんら不思議ではなかった。

 どうやら反撃には成功したが想定していた成果は得られなかったらしい。

 ならばこんなところで相手の骨の組み換えが終わるまで悠長に待ってやる筋合いは無い。

 今の内に少しでも距離を取るなりした方が建設的だ。

 ということで踵を返し、背後で未だになにやら喚いているパンデモニウムを完全に無視して再び逃走を開始した。




 少しはパンデモニウムを引き離せたものの、やはり新しく取り替えた馬の骨でも例の加速は可能だったようでそのアドバンテージは直ぐに潰されてしまった。

 やはりパンデモニウムの持つ手札が多すぎるのが問題だ。

 パンデモニウムも無限に骨を内包しているわけではないはずなので、少しずつでもパンデモニウムの骨を破壊していけば手札を潰していえるし最終的には倒すこともできるはずだ。

 なのでジグザグの動きをしながらも包囲しようと近づいて来るスケルトンをできるだけ破壊するようにし始めた。


「ちっ…大した損失デはないとはいえ少しずツでも体が削られるというノは不快だな。…ならば趣向を変えてこうイうのはどうだ?」


 余の周りを包囲するために群れていたスケルトン達が合体し始め、一回り大きい大型のスケルトンに組み替え始める。

 そして最終的に完成したのは御丁寧に翼を持つ魔物の骨も組み込んだ機動力にもある程度長けていそうな強化型のスケルトンだ。


「『ボルテスレイジ』」


 どれぐらいの強度があるのか確かめるために試しで魔導術を放ってみる。

 するとダメージは受けいるようだが、先程までとは違い一撃で倒せなくなっていた。

 包囲してくる数は減ったが代わりに簡単には倒せないようになってしまった。

 正直、余としてはこっちの方が厄介だ。

 なにせこちらは足を止めるわけにはいかない。


「ほう…コの方が苦戦していルようだな。初めカらこうするベきであったか。」


 余が苦戦しているとみるとパンデモニウムは羽付の強化型スケルトンをドンドンと増量し始めた。

 途端に不利な状況に追い詰められることなったが、これに関しては反撃の有効な策が思いつかない。

 どうにかして一ヶ所に纏めて強力な一撃で一網打尽にするのが有効そうだが、そのための作戦も一網打尽にできるだけの強力な一撃も現状アテがないのだ。

 有効な策が思いつかないまま時間だけが過ぎていき次第に追い詰められていく。

 とうとうに逃げ道を完全に塞がれてしまい、視界の端でパンデモニウムが例の突撃の姿勢を取ったのが視えた。

(流石に限界だ!これ以上は持たない!)

 もう駄目だと思った時、不意に誰かの声が響いた。


「こっちだべ!」


 最近どこかで聞いたような憶えがる声が聞こえ、反射的にそちらを視ると体格の良い大男が奇襲により余を包囲していた羽付きの強化型スケルトンの内の一体を破壊して包囲網に穴を作っているのが視えた。

 考えるよりも早くその穴に向かって飛び込み転がるようにして窮地から脱する。


「劣等種ノ蛆虫がッ…逃がスものか!」

「これでもくらっとくべ!」


 即座に追跡してくるパンデモニウムに対して、余の救い主となった大男は何かを投げつける。

 ボンッという爆発音がすると、たちまち怪しげな煙が立ち込め視界が真っ白になった。


「ぐオっ…なんダこの煙は!?」

「着いてくるべ!」


 真っ白な視界の中伸びて来た腕が余の手を掴み、そのままグイグイと引っ張られてその場から脱した。

 こうして余は間一髪のところを突然の救いの手により助けられることとなった。

ちなみに作中でパンデモニウムがいつの間にか装備していた骨の槍は武器ではなく、槍みたいな形状に組み換えたスケルトンで自身の身体の一部です。

なのである意味素手で攻撃していると言えるかもしれません。

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