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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
105/109

オデュン強襲ー3

 結界の効果を肩代わりしていた肉塊が致命的な損傷を受け、その役割を果たせなくなったことで魔将達は一斉に膝を着くことになった。

 余の目から視ても魔将達の体内に満ちていた魔力が抑制されて正常に機能しなくなっているのがわかった。

 こうなってしまえばもう魔将は全力で力を奮うこともできないだろう。

 まだ魔将を討ち取ったわけでは無いにしろハッキリとと視えた確かな勝機に騎士団の皆が歓喜の声をあげた。


「まだダぁ!こノ下等生物共がぁ!たカだが〈贄柱〉を一つ破壊シた程度で勝った気ニなるな!」


 そんな戦勝ムードを吹き飛ばすように怨嗟の声を上げながらパンデモニウムが立ち上がる。

 両腕を天に掲げ、残された力を総動員するようにして上空に渾身の魔力を放出し始める。

 大技を用いての一発逆転でも狙っているのかもしれないが、そんな行為をただ黙って見ていてやる道理も無い。


「往生際が悪い!」


 直ぐ様近くにいたペルシュ隊長がこれを阻止しようと動いたが、パンデモニウムはまるで湯水の如く己の分体を出現させ人海戦術で壁を築き時間稼ぎに徹し始める。


「ええぃ!次から次へと鬱陶しい…『破衝閃』!」


 このままでは埒が明かないと判断したのか、ペルシュ隊長も『闘氣』の消耗が激しいながらも強力な技を連発しながら強引にパンデモニウムの元へ向かう。

 そしてとうとうスケルトンの壁を突発したペルシュ隊長がパンデモニウムの下に迫るが、パンデモニウムほ既に準備を終えていたようだ。


「少し遅カったようだなったヨうだな。」

「そうでもないさ。」


 どこか勝ち誇ったような態度のパンデモニウムが魔力の塊を上空に向かって放つ。

 それに対してペルシュ隊長は大きく跳躍して魔力の塊に追いつくと、大剣にいつもとは違う感じるがする闘氣の渦をまとわせて一閃する。

 この一閃の効果はきめんで、魔力の塊は真っ二つにされた後に空気に溶けるようにして霧散した。


「バカな!?我が魔力ガ…いっタい何をした!?」


 パンデモニウムもこれには驚きを隠せなかったようだ。

 あんな風に魔力に直接干渉して斬ることができたのは、おそらく大剣を一閃させた時に視えたいつもと違う感じがする闘氣の渦が原因だろう。

 一瞬のことだったのでハッキリととはわからないが、あの一閃を受けた魔力の塊は大剣が纏っていた力場に接触した瞬間に魔力のエネルギー同時の結合のようなものを絶たれて無数の小さな魔力の塊に分断され、そして分断された小さな魔力の塊は再び結合することなく霧散していったように視えた。


「教えるわけないだろ。」


 ペルシュ隊長が冷たく言い放ち、パンデモニウムの最後の抵抗もこれで終わりかと思われた…が、やはり魔将という存在はこの程度で終わる程簡単な相手ではなかった。

 戦場から少し離れた場所でバキバキッと何かが壊されるような音が連続で響いた。

 その音につられて目線を向けると、小動物の骨を組み合わせてできたような小柄なスケルトンが魔石粉が詰められていた樽を破壊してるのが視えた。


「…認メよう。この攻防の勝者はキサマだ。だが、このイくさの勝者ハ我々だ!」


 パンデモニウムはそう宣言すると同時に小柄なスケルトンが樽から溢れた魔石粉に触れて直接内包されている魔力に干渉し始める。

 何をするつもりかはわからないが、阻止しようにも魔石粉の樽までは距離が離れ過ぎているのですぐ妨害することはできそうにない。

 そうこうしている内に魔石粉から感じる魔力はどんどんと大きくなりそして…ドオオォンという派手な爆発音とともにスケルトンを巻き込んで爆ぜた。


「…ハッ…ハハハッ…魔力の制御に失敗したんだな!無理もない。既に結界の効果は復活しているからな!」


 騎士団の誰かがそう言って笑い飛ばした。

 確かに魔石粉に直接干渉していたスケルトンは爆発に巻き込まれて木っ端微塵になっている。

 だが、余はあのスケルトンが魔力の制御に失敗したとは思えなかった。

 あのスケルトンはパンデモニウムの一部であるはずなので、スケルトンと呼んでいたが厳密にはあれもパンデモニウムと同一個体だ。

 そしてそのパンデモニウムはペルシュ隊長に阻止されてしまったとはいえ、ついさっきまで結界の影響を受けながらも魔力の塊を作り出し何かをしようとしていた。

 あんな魔力の塊の制御を失敗していないのに、魔石粉の魔力ごときの制御ができないとは到底考えられない。

 であるならば、あの爆発は意図して起こした爆発だったはずだ。

 結果から見れば魔石粉の爆発で壊れたのはパンデモニウムの身体の一部であるスケルトンだけのようだったが、逆に言えば自身の身体の一部を犠牲にしてでもあの爆発を起こしたかった理由があったということだ。

 ここで不意に、魔将が攻め込んできた直後の会話を思い出した。

 魔将達は確か目印がズレているとか言っていた。

 あの時の会話から察するに目印とは魔石粉のことだろう。

 そして今、その目印の魔石粉が爆発した。

 それが意味しているのはつまり…


「今のは増援を呼ぶ合図だ!総員全力を持って目の前の魔将だけても今の内に倒せ!」


 余が結論にたどり着いたのとほぼ同時にペルシュ隊長も同じ結論にたどり着いたようだ。

 そもそも、魔王の戦力が魔将が五体程度しかいないとは考えにくい。

 おそらく、今攻めてできているのはあの結界の効果を肩代わりする肉塊が正常に作用するの調査を兼ねた先遣隊でしかないのだろう。

 そう考えると、さっきの魔石粉による爆発は後続部隊に攻めるべき先を知らせる合図である可能性が高い。

 もしこの推測が正しいなら、この後に更なる脅威である魔将が攻めてくることになる。

 ペルシュ隊長が言ったように今の内に今いる魔将だけでも倒しておかないと、戦力差は絶望的なものになってしまう。

 状況を理解した騎士団員達は必死になって魔将を攻め立てるが、増援が来るまで防御に徹し始めた魔将達に致命傷を与えられずにいる。

 余も騎士団達に混じってギルタブルルに魔導術を放つが、堅牢な外殻に攻撃が阻まれて致命傷にならない。

『炎衝角』なら少しは外殻に傷をつけられるだろうが、ギルタブルルの周りを騎士団達が包囲攻撃しているの状況なので下手に撃てないのだ。

 とはいえ、致命傷は与えられないまでも少しずつだが確実にダメージは蓄積させられているのは確かだ。


「オラァ、トドメの『凶叉』だ!いい加減、死んどけ!」

「ーーーッ!」


 そんな中でエルク副隊長が『身槍螺穿・砲閃化』で大ダメージを与えて弱らせていたギルタブルルの内の一体にトドメをさした。

 これで残りの魔将は二体。

 魔王側の増援が来るまでに最低でもあと一体は魔将を倒しておきたいところだ。

 だがここで、再び何かが飛来する音とそれに続いて大地を揺らす轟音が響き渡った。

 …タイムリミットが来てしまったのだ。




 轟音と共に再び砂塵が舞うが、その砂塵を爆心地から吹き荒れた突風が砂塵を散らして晴らした。

 突風が去った後には炎の身体を持つ悪魔、鬣を生やした筋骨隆々の大猿、巨大な目玉の化物、多頭多腕の異形の怪人、そして最後にさっきエルク副隊長が破壊した肉塊と同種のものと思われる肉塊と、それに腰を下ろしたよえに見える〈その場の空間が黒く歪んでいることでそこに居ることがわかる何か〉がいた。

 魔将達の増援だ。

 あの増援の魔将達がどれ程の強さかはわからないが、放っている威圧感と魔力の感じからして余達を制圧するには十分過ぎる戦力が到着してしまったようだった。

 新たに到着した魔将達は直ぐに行動を開始するでもなく、中央の肉塊とその上にいる〈黒い歪み〉の周囲を囲ようにして佇んでいる。

 そんなの中でパンデモニウムとギルタブルルは同時にその場に跪いて〈黒い歪み〉に向かって首を垂れ始めた。

 大きな隙をみせた魔将達だが、新たに現れた魔将達やその中心にいる黒い歪みが放つ魔力と威圧感によってその隙を突くように攻撃できる者は騎士団の中には居なかった。


「まサか…主様自ら来てイただけるとは…」


 そして震える声でパンデモニウムがそう絞り出した。

 その言葉を聞いて戦慄する。

 どうやら言動からしめ肉塊の上に陣取っているおの〈黒い歪み〉は魔王本人らしい。

 魔将のみならず、まさか本物の魔王が直々に攻めてくるとは完全に予想外であった。

 だが魔将が主と呼び跪いて首を垂れれているのが目の前の黒い歪みが魔王本人であるという何よりの証拠になっている。


「アレが…魔王…」

「いえ、アレはシャドウ・アストラルっていう一部の魔王が造り出せる自分の分身みたいな魔物です。本物の魔王ってのはあんな程度じゃないですよ。」


 思わず漏らした言葉に、近くに移動して来たエルク副隊長が小声で訂正してくれた。


「それにしても…バルログ、獅子猿鬼、ゲイザー、ヘカトンケイル、それと最後に…さっきの肉塊と魔王の分身のアストラル・シャドウまでいやがる。クソッ…こんなヤバ過ぎるおかわりがあるなんて流石に聞いてねぇぞ。」


 続くエルク副隊長の言葉は引き攣ったような声で、その声色が事態が深刻であることを物語っていた。

 おそらく現状の戦力差は絶望的なものになっている。

 魔王側の動き次第では全滅は必至だ。

 固唾を飲んで魔王と魔将のやり取りを見守ることしかできない。

 重苦しい雰囲気が漂う中、遂に魔王の分身とやらが口を開いた。


「…呼ばれて来てみれば、〈蠍〉の内の一匹と〈蛇〉は半死半生、そこのもう一匹の〈蠍〉と〈山羊〉に至っては既に死んでおるではないか。出撃前は〝我々だけで攻め落としてみせましょう〟と豪語しておったというのに…随分と無様を晒しておるようだな。」

「…申シ訳のしよウもありませン。」

「…まぁ、良い。この場の生者全てを殺し尽くし、この地の〈楔〉を破壊せよ。できるな?」

「この命に代えマしても必ずヤ成し遂げてみセます!」

「…あまり悠長にしていては〈蛇〉が死にそうだ。アレにはまだ使い道があるから失うには少し惜しい。…念のために〈炎〉と〈猿〉を残す。〈炎〉〈猿〉不甲斐ない〈骨〉と〈蠍〉に蹂躙とはどうやってやるものなのかを教えてやれ。」


 一方的にそう言い残すと魔王の分体とやらはゲイザーとヘカトンケイルを連れて南方領の城に向かって飛び去ってしまった。

 とりあえず、今すぐの全滅という最悪のシナリオは回避されたが、新たな魔将の参戦により騎士団達はパンデモニウム、ギルタブルル、バルログ、獅子猿鬼という四体の魔将と闘う流れとなった。

 三体の魔将を相手にしていた状況でなんとか渡り合っていた状況だったが、今度の闘いでは魔将が一体増えている。

 おまけに騎士員達も少なからず疲弊し始めている。

 先程の肉塊への奇襲は常に警戒されている状況であろうから、同じ手を使おうにも全力で潰しにかかってくることだろう。

 この状況で全ての魔将を倒した後に母上達の救援までこなさなければならないが、とてもではないがそれが可能性だとは思えない。

 余達に勝利の可能性があるとすれば、やはり結界の効果を肩代わりしているあの肉塊を破壊して結界の効果を取り戻すことしかないだろう。

 そのために余ができる最適の動きは……余が魔将達の狙うターゲットの一人であることを明かして囮となり、この戦場から魔将を引き離して少しでも騎士団の負担を減らすことだ。

 次に余が惹きつけるべき相手だが…これはパンデモニウムを釣ることができればベストと言えるだろう。

 新たに現れた魔将についてはよくわからない部分が多いものの、おそらくこの戦場で最も手数が多く厄介なのはパンデモニウムだ。

 それに、パンデモニウムは一度隙を突かれた経験から絶対にペルシュ隊長とエルク副隊長から目を離さないはずだ。

 それゆえ、この場にパンデモニウムが残ってしまうと肉塊への奇襲が成功しにくくなる。


「騎士団の皆、すまないが余はここで逃げさせてもらうぞ。余が逃げるまでの時間を稼いでくれ。」


 あえて魔将達にも聞こえるような声で堂々と宣言する。

 近くにいたエルク副隊長が小声で「バカッ」と声を漏らしたが、途中で何かに気づいたように慌てて口をつぐむ。

 おそらくその後に続くはずだった「何でこんな局面で自分の正体がバレるような発言をしたんだよ!」という趣旨の言葉から、余がなぜ魔将に聞こえるような声でそう言ったかを察したのだろう。

 そんなエルク副隊長にチラリと視線を向けてアイコンタクトをした後にパンデモニウムを見据える。


「王族ノ子か?にガすわけがナいだろう!」


 余に向かって一斉に魔将達が動き出したが、素早く動く獅子猿鬼の前にエルク副隊長が立ち塞がり、炎の悪魔のバルログの前にペルシュ隊長が立ち塞がってくれた。

 ギルタブルルは元々騎士団達に包囲されている状況なので立ち位置的に余のことを追える状況ではない。

 したがって余の狙い通りに、余を追えるのはノーマークであったパンデモニウムのみという状況となった。


「それでは…失礼させてもらおう。」

「まテ!」


 獣氣による身体能力強化をフルに使って全力での逃走を開始する。

 一瞬だけ振り返って視ると、余の計画通りにパンデモニウムが余を追って来ているのが視えた。


 余の勝利条件は騎士団の皆がなんとかしてあの肉塊を破壊するまでパンデモニウムから逃げ続けること。

 命を賭けた逃走戦が始まった。

本当はもっとオリジナルの魔物とか出したいんですが、いざ書こうとすると良い魔物って案外思い浮かばないものですね。

ちなみに獅子猿鬼は長い尻尾でも攻撃してくる金色にならない金棒で武装したラー◯ャンみたいなヤツを想像してもらえたら大体合ってます。

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