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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
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オデュン強襲ー2

 パンデモニウムの魔将の足元から這い出て来るスケルトンの数は膨大だった。

 複数の魔物の骨が組み合わさったて形成された歪な姿のスケルトンの群体が次々と出現し、その数はとてもではないがペルシュ隊長とエルク副隊長の二人だけで殲滅しきれるものではなかった。

 二人が倒しきれなかったスケルトン達はそのままギルタブルルと交戦中の騎士団達の下に向かう。

 形成している隊列を包囲するように広がったスケルトン達は後列で弓による攻撃に専念していた騎士団達に襲い掛かった。

 スケルトンの軍団にも対処しなければならないことになり、勝っていた手数が制限されたことで戦局は魔将の方へと傾きつつあるようだ。

 このままではいずれジリジリと戦力を削られて敗北する。

 そしてその後に待つのは自由に動けるようになったスケルトンの群体による虐殺だ。

 ここまで戦局を一気に傾けられてしまったのなら、余が取るべき正しい行動は身の安定を優先しての逃亡一択だろえ。

 それが正しいのは頭ではわかっている。

 わかっているが…余の存在という切り札に成り得る一手がこの局面に投じられることで、騎士団や南方領で暮らす人々を助けるられる可能性に繫がるかもしれないという希望を捨てきれない。

 下手を打てば何もできず殺されるかもしれないし、最悪の場合は必死に闘っている騎士団達の足を引っ張ってしまうかもしれない。

 …だが、劣勢に追い込まれている騎士団が逆襲するきっかけになれるのなら…命をかける価値はあるはずだ。

 ならば動かない理由は無い。

 余も余なりのやり方で闘う。

 そう決意した瞬間、一昨日の夜にムサイと対峙した時と同じように余の中で何かのスイッチが入ったのを感じた。

 頭の芯の部分がどこまでも冷えていき、代わりに血潮がどんどんと熱くなって感覚が研ぎ澄まされていくのを感じた。

 さっそく、思考が加速した頭でどう動くのが最適か思案を巡らせる。

 まず、まだ余の存在がバレていないとうアドバンテージを最大限に活かす方法として、不意打ちを仕掛けるのが効果的だろう。

 上手くすればそれなりの痛手を与えられて、その上で余を追ってくるであろう魔将側の戦力をより多く吊ることができる。

 次に不意打ちを仕掛ける相手だが、コレはやはりあの不気味な肉塊が最も効果的だと思われる。

 なにせ魔将側からしたら一番攻撃されたくないものであり、同時に最も防御能力が低そうな存在でもあるので余の攻撃の通りも良さそうだ。

 奇襲対象が決まったのなら次にどんな攻撃を仕掛けるかだが、これについてはすぐに答えが出せそうに無い。

 余が使える攻撃技の中で最も高威力なのは、おそらく闘氣の渦を纏って繰り出す一撃だろう。

 だが、この技は射程距離が極めて短いという致命的な欠点がある。

 だからこの技で攻撃しようとしたなら、潜伏状態を維持したまま手を伸ばせば触れられる距離まで近づく必要があることになる。

 現実的に考えてそれができるのかと自問すると、即座に極めて困難であるという結論が出た。

 今余が魔将達に捕捉されていていないのは単純に、魔将達が戦闘中で索敵に注力していないことと、余が隠れている場所が魔将から少し距離があるため『ミラージュ』の違和感に気付けられてないためだ。

 流石に潜伏状態を維持したままターゲットの肉塊に接近するのは現実的ではない。

 接近が難しい以上、残された選択肢は必然的に遠距離攻撃になるが…それはそれで問題がある。

 余は遠距離攻撃できる手段がほとんどないのだ。

 幾つか攻撃用の魔導術は覚えているが、どれもまだ初級レベルの威力があまりない術式しか覚えていないのでダメージが期待できない。

 騎士団が戦闘のどさくさで落とした弓を拾って使うのはどうかとも考えたのだが、これもたいしたダメージを与えることはできないだろう。

 弓を引く力は獣氣を使えば賄えるだろうが、弓の威力を十全に引き出すには致命的に体格が足りないからだ。

 何か効果的な攻撃方法が無いかと思案していると、一人の騎士団員が目に入った。

 その騎士団員は周囲の状況に目線を走らせてながらスケルトンの層が厚い場所を確認しているようなので、おそらく押し寄せるスケルトンの群体を一掃しようと魔導術の準備をしているのだろう。

 その騎士団員が魔導式を構築している様子を見て妙案を思い付いた。

 魔導術の術式を直接的視て、その力の流れを覚えることで魔導術を無理矢理習得するやり方は先日姉上から教わっている。

 ここでも同じ事をして今この場で有効なダメージを与えられる術式を覚えしまえばいいのだ。

 ただ、このやり方は魔導術が実際に発動するところをしっかりと観察しなければ、どんな性能の魔導術なのかわからないという欠点がある。

 広範囲を攻撃できる魔導術も覚えておいて損はないだろうが、ここは奇襲に適した一点に威力を集中させた爆発力があるような魔導術が好ましい。

 というわけで、他にも魔導術を使おうとしている騎士団員が居ない探してみると、チラチラとターゲットの肉塊に目線を向けてながら魔導術の準備をしていそうな騎士団員が複数人いることが確認できた。

 どうやら、先程の範囲攻撃の準備をしていそうな騎士団員が周囲のスケルトンの数を減らして、その隙に複数の魔導術による同時攻撃であの肉塊を狙う策のようだ。

 事前の打ち合わせ無しの即興でこんな連携をしてしまえる騎士団員達の練度は見事、という称賛を送りたいところだが、これではどの術式を覚えてればいいのかわからない。

(どの術式を覚えるべきか…いっそのこと感を頼りに…いや、この緊急事態にどれかなどどいう博打を打っていては勝てるものも勝てない!どれが良いかわからないのなら…全て覚えてしまえば良いだけの話!自身に才があるという自負があるのなら、この鉄火場でこそその力を示してみせろ!)

 己を叱咤するように追い込み、決意と共に集中力を高める。

 すると今まで入っていた戦闘のスイッチのさらに奥、余という存在の根幹の部分で何かが弾けるような感覚がして、視えている世界が激変した。

 今までも普通は視えないらしい力そのものを直接視ることは自然とできていたが、今はその力の流れのようなものを感じ取れるようになったのだ。

 これにより視界に入るもの全ての次の動きを高い精度で予見できるようになり、同時に構築されている術式がどんな効果をもたらすのかも何となくわかるようになった。

 そこからはただ無我夢中だった。

 視界の中で構築されていく複数の術式の中で、最も求める結果を引き出しやすそうな術式を視ながらそっくりそのまま真似て構築を開始する。

 同時に気配を殺しながら『ミラージュ』の範囲内から飛び出し、魔導術を放つのに最適な位置に移動する。

『ミラージュ』は一度展開するとその場所に固定される幻影なので隠れながら移動することはできないのだ。

 だからここからは『ミラージュ』による視覚の隠蔽無しでの隠密行動になる。

 幸いなことに魔将達は騎士団との攻防に注視しているようで『ミラージュ』から出てすぐに捕捉されるということは無かったが、これ以降はいつ見つかってもおかしくない状況だ。

 小柄な身体を活かして物陰から物陰へと移動しながらも、その間は術式の構築過程からは目を離さないようにして自身も同じ様に術式の構築を進める。

 ここで、移動したことで視える範囲が変わり視界の端にスケルトンの群体を排除しながらもパンデモニウムへと攻撃を仕掛けているペルシュ隊長とエルク副隊長が視えた。

 ペルシュ隊長は先日闘ったムサイがしていたように大剣の側面に『縮放』を纏わせた面による攻撃で次々とスケルトンを粉砕し、エルク副隊長の方はスケルトンの頭骨を足場にしながら踏み砕きつつ高速で跳躍を繰り返しパンデモニウムに攻撃を続けているようだった。

 そんな中、不意にペルシュ隊長とエルク副隊長が一瞬だけ視線を交差させて小さく頷き合っているのが視えた。

 そして二人の身体の中で駆け巡っている力がよりいっそう活性化し始める。

 二人は対峙しているパンデモニウムの隙を伺いながらも、この状況を打破するために何かを仕掛けるつもりのようだ。

 であるならば、余が今術式を構築している魔導術も直接的に攻撃するのではなく、この二人が仕掛ける攻撃を補助するよう目的で放つ方が効果的を期待できそうだ。

 そうこうしている内に他の騎士団員達が構築していた術式が完成し反撃が始まった。

 騎士団員達は一斉に競り合っていたスケルトンを突き飛ばして自分達との間に隙間を作り出した。


「『アトモプレッシャー!』」


 そこに騎士団員が放った魔導術が炸裂し、スケルトンの群体は上空から叩きつけるように落ちて来た圧縮された空気の塊によって押し潰される。


「『ボルテスレイジ!』」


 ダメ押しとばかりに雷撃の雨が降り注ぎ騎士団の周囲に群がっていたスケルトンの群体は一時的に殲滅された。

 だが、魔将達もただこれを呑気に見ていただけでは無い。

 再び二体同時の尾による薙ぎ払いが騎士団を襲う。

 先程これを受け止めていた大盾持ちの騎士団員達は、スケルトンの群体をまとめて突き飛ばしたばかりでまだ体勢を整えきれていない。


「『グランドスクラム!』」


 あわや尾による薙ぎ払いの直撃を受けるかと思われたところだが、騎士団側はちゃんとこれぐらいの反撃は想定していたようで、周囲の地面を槍衾のように隆起させて尾を迎え撃ち大盾持ちの騎士団員が体勢を整えるまでの時間を稼いだ。

 体勢を整えた大盾持ちの騎士団員達はすぐさま大地の槍衾を破壊しながら迫る尾に体ごとぶつかっていき薙ぎ払いを受け止める。


「『炎衝角!』」


 状況を持ち直した後にいよいよ本命となる攻撃が放たれ極太の炎の槍が弱点となっている醜悪な肉塊に向かって放たれる。

 だがこの攻撃は魔将側からしても想定の範囲内だったようで立ち塞がったギルタブルルの鋏によって受け止められてしまう。

(ここだ!)

 直感的にそう思った。

 轟音と共に爆発した炎の槍によって視界が悪くなったこの瞬間に直前まで知覚できなかったような攻撃が来れば反応が遅れるはずだ。

 余は隠れていた物陰から跳び出し最後の位置調整をして、見様見真似で覚えた魔導術を発動させる。


「『炎衝角』」


 余が放った魔導術はさっき覚えた魔導術の中でも最も威力に優れた爆発する極太の炎の槍。

 ただし、一発ではない。

 並行構築によって同じ術式を三つ同時に構築しておいたのだ。

 三本の炎の槍のうち二本はわざとギルタブルル共が姿勢が崩れることを承知でその身を盾にすれば、あの醜悪な肉塊への直撃を避けられるような軌道で放つ。

 最後の一本はエルク副隊長の攻撃を捌いているパンデモニウムに向かって放つ。

 突如として認識の外から飛来した炎の槍に対し、ギルタブルル共は強引にその身を盾にして肉塊を護り、パンデモニウムは咄嗟に障壁を張って対処した。

 なお、この動きは全て余の計算通りである。

 ギルタブルル共は完全に体勢を崩しているのでこれ以上肉塊を護りに動くことはできない。

 そしてパンデモニウムは障壁を張って爆発を防いだことで生じた爆煙によりエルク副隊長の姿を一瞬見失っているはずだ。

 そして、あの二人にはその一瞬さえあれば十分。


「ペル!」

「エル!」


 瞬時にペルシュ隊長の元まで跳躍したエルク副隊長はペルシュ隊長が構えた大剣の側面に跳び乗り、ペルシュ隊長はエルク副隊長が跳び乗ったことを確認するとそのまま全力で大剣を振り抜いた。

 同時にペルシュ隊長の大剣を蹴って加速したエルク副隊長は、双剣を前方に構えた姿勢で錐揉み回転しながら一瞬で人間に出せる速度の限界点にすら届きそうな速さに到達する。

 そこから後の一撃はもはや余の目ですら追えない領域の一閃であった。

 気が付いたら魔将達が必死に護っていた肉塊のド真ん中に一目で致命的だとわかる程の風穴が空いており、ついでとばかりにターゲットである肉塊との直線上に身体の一部が重なっていたギルタブルルの半身を抉ってブチ抜いていた。


「『身槍螺穿・砲閃化』…オメェ等の野望をブチ抜いた技の名だ。冥土の土産に覚えとけ。」


 エルク副隊長が着地した姿勢のままそう言い放ち、直後に結界の効果をモロに受けることになった魔将達が同時膝をついた。


ちなみにこの闘いの裏では各所に別れて襲撃しに行った残りの魔将達との闘いが裏でも起こっています。

具体的にいうと結界の補助アーティファクトを破壊しに行ったバホメットVSカゲツ。

皇族の抹殺に向かったメドニ・ヒュドラVSオーロック&ガイザス+残りの皇族近衛騎士団&南方領防衛騎士団の連合軍です。

ただ、いつものようにその場にアレクが居ないので描写はカットの予定です。

もし読者の方から読みたいという要望が来たら途中に挟むかもしれません。

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