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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
アレク編
103/108

オデュン強襲ー1

 衝撃で発生した砂塵が立ち込める中、地に伏せていた身体を起こし何が起こったのか確かめるために視線を巡らせる。

 視界が悪いため視覚的な情報はあまり状況が掴めないが、代わりに聞き慣れない声が何かを話しているのが聞こえた。


「…どうヤら想定していたよリも結界の力が強いようデ念話にノイズが入ルようだ。不本意でハあるがこレ以降の意思疎通は言語を用イて行うものとする。」

「了解シた。…到着した場所も想定しテいたポイントから少しズレているヨうだぞ。破壊目標はドレだ?」

「少シ待て。」


 聞いていると違和感を覚えるような喋り方だった。

 言葉のイントネーションが何処かおかしく、まるで人間ではない者が無理矢理喋っているような話し方に聞こえた。

 そしてこの声の主達からは濃密で強大な魔力を感じる。

 猛烈にイヤな予感がし始める中、事態は悪い方向に進んで行く。


「ヒッ…やっ…やめ…」

「うるサい。黙ってノうを差シ出せ。」


 未だに晴れない砂塵の向こう側で誰がこの来訪者達に捕らえられてしまったようだ。


「嫌だ!やめてく…アァァアァァ…ア…」


 断末魔の悲鳴が響き、同時に液体がボタボタと地面に落ちると血の臭いが周囲に広がった。

 この時点で来訪者達は平和的な目的では無いことが確定した。

 事態がどあ転ぶか読めないが、いずれにせよ隠れるなり逃げるなりして身の安定確保すべきだろう。

 そんなことを考えていると、すぐ近くにいたペルシュ隊長とエルク副隊長の二人と目が合った。

 両者とも余の安全を案じているのが伺えたので、余は小さく頷いてゆっくりと移動を開始しする。

 気配を消し音をたてないようにしながら慎重に移動しつつ、念のために『ミラージュ』の発動準備もておく。

 そんな余の様子を確認した二人はそれぞれも行動を開始した。

 エルク副隊長は砂塵に紛れるようにして何処かへ姿を消し、ペルシュ隊長はさりげなく来訪者達の目線から余が隠れるような場所に位置取りした。


「把握シた。目標の〈楔〉はすぐソこのようだ。それと、コレは我らが主がお恵み下さッた物を〈楔〉ではなく近くニいる王族に対して使っタらしい。」

「あァ、それで目印がズレていたワけか。ならば近くにいるはズの王族も殺さネばならんな。」

「それだケではなイぞ。どうやラあの上の方の他ト違う建物にモう一匹王族がいるらシい。」

「バラけてイるのか…面倒な。」

「フヒッ…いいじゃねェか、その分たクさん殺せる。大歓迎ダ!」


 不穏な会話の途中で、砂塵の向こうから声の主に向かって誰かが地を蹴ったような音がした。

 直後に激しい力と魔力がぶつかり合い、生じた衝撃波によって砂塵が吹き飛ばされて視界が一気に晴れる。

 そして一気に開けた視界に写ったのは異形の存在に猛烈な連撃を繰り出すエルク副隊長の姿があった。

 始めて見る異形の存在。

 この異形達からは魔力も感じるので、おそらくこれが魔物という存在なのだろう。

 そう思っていたが、エルク副隊長が次に放った言葉でその予想が悪い意味で間違っていることを知った。


「…テメェ等…魔将だな。それも上級種の魔物が元になっている上澄みの方の。」


 魔石粉から感じた魔力とは比べ程にならない程に濃密で膨大な魔力を秘めているように感じていたことから、いわゆる上級種の魔物なのかもしれないとも予想していたのだが、相手はそんなものを通り越して魔将と呼ばれる魔王の配下における主戦力とも呼ばれるような存在だったようだ。


「おい馬鹿エル!軽々しく相手が魔将だとか言うな!士気に関わるぞ!」

「相手の強さにビビって動けなるなるような腰抜けは騎士団には居ねぇよ。それよりも相手がどういう存在か事前に知っておいた方が生存率が上がるってもんだ。」


 ペルシュ隊長の懸念ももっともではあるが、今はエルク副隊長の言い分の方が正しいと感じた。

 何が起こっているのかわからないこの状況下では有益な情報は少しでもありがたい。


「それで、何でこんな結界の力が強い場所にまで、お前達のような魔将がいきなり入り込めてんだよ?」

「………」

「答える気は無いってか?。だが、答えなくてもオメェ等の後のソレが関係してるってことはミエミエだぞ。」


 そう言いながらもエルク副隊長が視線を向けた先には、複数の人間をまとめて肉団子にしたような不気味な肉塊に怪しい光を放つ水晶のような物が大量に突き刺さっているような見た目の醜悪な何かがあった。

 そのままの流れで視線を動かし、改めて突如として来襲してきた魔将の姿を確認する。

 魔将の数は全部で五体。

 一体目は色々な種類の動物の骨が集まって身体が形成されているような見た目の魔将で、この魔将対してエルク副隊長は攻撃を仕掛けられていた魔将のようだ。

 傍らには頭部が無い死体が転がっており、切離された頭部は魔将の身体から突き出た複数の骨の槍に串刺しにされていた。

 二体目は複数の蛇が絡まり合って無理矢理人の形を形成しているような歪な見た目をしており、人型を造った後に余った蛇は適当に背中から生やしたみたいな無造作さで触手のような蛇が何本も生えている怪物のような見た目の魔将。

 三体目は山羊の頭と蝙蝠の翼を持つ悪魔のような見た目の魔将。

 四体目と五体目はおそらく同種の魔将のようで、大きな蠍型の体躯から堅牢そうな外殻に覆われた人型の上半身が生えている異形の姿の魔将だ。

 なお、この二体は背後にある醜悪な何かを護るような場所で位置取りしており動く気配がない。

 魔将が二体ががりで守護する体制を取っていることから、あの醜悪な何か魔将達にとってはよほど重要なものなのだろう。


「バフォメットにメドニ・ヒュドラ、それとギルタブルルが二体…あの骨のヤツは何の魔物が元になってんだ?ペル、わかるか?」

「わからん。見た目が骨っぽい魔物なんていくらでもいるからな。元が何だったのか見当もつかんが…なんにせよ十分に警戒しておくべき相手だ。」

「だな。それはそれとして、後のアレは何だと思う?」

「それもわからん。だが、ああやって護っている以上は壊されたら困る物なんだろう。」

「やっぱそうだよな。…つまりは弱点ってわけだ。」


 エルク副隊長とペルシュ隊長が意見を交換し合っている一方で、魔将の方も改めて自身の身体の調子を確認するような素振りをし、ある程度確認した後に口を開いた。


「…やはり結界のせイで少々動きにクいな。能力低下は総合的には二割程度といったところか…想定よりも能力が低下しているが戦闘は可能、よって当初の予定通り作戦を決行するものとする。」


 五体の魔将を代表するように骨の集合体の魔将がそう宣言し、エルク副隊長が元となった魔物を看破したバフォメットとメドニ・ヒュドラの魔将が同時にこの場を離れるように動き出した。

 一方でギルタブルルの魔将二体は微動だにせず、あくまでも背後にある醜悪な何かを護るつもりのようだった。

 この場を離れたバフォメットとメドニ・ヒュドラが何処へ向かったかは先程の魔将達の会話から想像がつく。

 魔将の目的は結界の破壊と皇族の抹殺、つまりこのままだと母上が危ない。

 だが一方で余達に救援に向かう余力は無さそうだ。

 魔将と呼ばれる存在の強さは元となった魔物の種族によって大きく左右されるため、その振れ幅も大きい。

 だが一般的に上級種の魔物から魔将となった存在の強さは、熟達した一流の騎士達が複数人で挑まなければ話にすらならないような強さだと言われている。

 そんな魔将がこの場に三体も残っている。

 戦力的には逆に救援が欲しいくらいの戦力差があることになる。


「この状況で戦力を分散させた…?どう見る?」

「全員で攻撃して俺達を速攻で潰した後に次の目標に向かえばいいところを、わざわざ戦力を分散させた。明らかに下策だがそうやったってことは、そうしなければならねぇ理由があったってことだろうよ。」

「同意見だな。そしてそうしなければならない理由として一番ありそうなのが……時間的な問題か?」

「ありそうだな。そもそも、こんなに結界の力が強い場所まで入り込んでんのに、あのクラスの魔将の能力低下が体感二割程度というのがおかしい。どうやってるのかはわからねぇが、能力低下を防ぐ何かがあるってことだ。それでその何かには時間制限がある…って考えれば戦力の分散をしたのも頷ける。」


 二人は意図的に声を大にして意図的に周りに聞こえるように議論しているようだ。

 これはおそらく他に騎士団のメンバーに情報を共有するため、そして同時に魔将達の反応を見るためでもあったのだろう。


「察するに、その後ろで大事そうに護ってるソレが能力低下を軽減する役割を担ってて、何もしてなくても時間経過でその効果が低下していくって感じか。」

「そんでもちらんだが、今すぐにぶっ壊されても大いに困る代物でもある、と。」

「………」


 ペルシュ隊長とエルク副隊長の半ば挑発のようにも聞こえる問いかけに魔将達は沈黙で返す。

 だが全ての魔将が冷静というわけではなかったようで、蠍型の魔物の魔将ギルタブルルの一体が苛立たしげに蠍の尾を荒ぶらせ、それ以上喋るなと言わんばかりに地面を尾で叩いた。


「おっ!その反応は…イラついてるな?ってことはやっぱり俺達の推測は間違いじゃないってことだな。おし!野郎ども!攻撃目標はあのクソみてぇな造形した不細工なオブジェ!展開して包囲攻撃!」


 エルク副隊長の号令を受けて今まで静観しながらいつでも動けるように待機していた騎士団達が一斉に動き出す。

 醜悪な肉塊を包囲しながらもそれを護る魔将達の攻撃が来たら対処できるように一定の距離を空け、前列に布陣している騎士は大盾を構えて防御の姿勢を取った。

 醜悪な肉塊は突き刺さっている怪しい光を放つ水晶はある程度強度がありそうだが、肉塊の方はそもまで強度がありそうに見えない。

 まずは包囲陣形からの遠距離攻撃で肉塊の強度は確かめつつダメージを与える作戦なのだろう。

 二体のギルタブルルが即座に反応し肉塊を護るように動き始め、左右から同時に尾を振るって騎士団を薙ぎ払おうとした。

 前列に布陣していた複数の大盾持ちの騎士団員が同時に動き、二手に別れて左右からせまるこの一撃をそれぞれで防ぎにかかる。

 金属と固い外殻がぶつかり合う重低音が響き力と力の押し合いは始まった。

 後列に布陣している騎士員ももちろんこの攻防を黙って見守るばかりではない。

 攻撃に注力しながらも肉塊の前に立ち塞がっているギルタブルルの防御の隙間を抜けるような軌道を狙って弓での遠距離攻撃で肉塊への攻撃を開始した。

 矢の雨を盾のように幅広な鋏の部分で払いながら肉塊を護るギルタブルルとの熾烈な攻防戦が始まった。

 今のところ、余の目には手数で圧倒的に勝る騎士団の方が優位に見える。

 一方でペルシュ隊長ちエルク副隊長の二人は未だに正体がわからない骨の魔将と交戦を開始していた。

 ペルシュ隊長が正面から魔将を引き付けるように攻撃を仕掛け、機動力に長けるエルク副隊長が死角から奇襲を仕掛けるコンビネーションで骨の魔将を追い詰めていく。

 正面から攻めるペルシュ隊長の圧は無視できるものではないが、同時に高速でどこから攻めてくるかわからないエルク副隊長にも注意を払わなければ即座に致命傷を与えらる。

 こちらの闘いもペルシュ隊長とエルク副隊長の二人が優勢に見えた。

 別の場所に奇襲かけに行った残りの魔将二体について気になるところだが、あの魔将が護っている肉塊を破壊できれば戦局は大きくこちら側に傾くはずだ。

 余はあの魔将達の攻撃目標の一人で、幸いなこと余は未だに魔将から捕捉されていない。

 本来ならばこの場は逃げることが正解だろうが、同時に余の存在はこの闘いに一石を投じる切り札にもなりえる。

 敢えて姿が見えるようにして逃亡すれば魔将を一体この場から引き離したり、あるいはこのままで潜伏状態で密かに移動し余自身の手であの肉塊を破壊するという選択肢もある。


「…もウ少し雑魚共が群がってキてから使いたかったコこらが潮時か。」


 どう動くべきか考えていた所に、骨の魔将がペルシュ隊長とエルク副隊長の猛攻を捌きながらそう小さく呟いた声が聞こえた。

 そして次の瞬間、地獄の門が開いた。

 骨の魔将の足元から夥しいほどの数の骨の魔物が這い出してきたのだ。


「なっ…こいつ…スケルトン・レギオンか!?」

「…いや、この数は…もうパンデモニウムだ!」


 ペルシュ隊長とエルク副隊長の二人が同時に驚愕の声を上げた。

 二人が口にしたスケルトン・レギオン、そしてパンデモニウムという魔物の名には心当たりがあった。

 この魔物は最強の魔物は何かという議論をする上で必ず名前が上がる魔物だ。

 まずスケルトン・レギオンという魔物が複数のスケルトンが寄り集まって群体となり、その意識が混ざり合って一つの共有意識の下に動くようになった魔物である。

 そしてこの群体の規模が大きなり全体に保有している魔力の総量がある一定値を越えるとパンデモニウムという新たな魔物に進化する。

 姿形は骨の魔物の群体であることには変わりがないが、パンデモニウムはスケルトン・レギオンであった頃には持たない能力を獲得している。

 それは、他の魔物や生物を取り込むことでその対象を強制的に自身の群体の中に組み込むことができ、なおかつ取り込んだ魔物や生物の持っていた能力をも獲得できるというものだ。

 一応群体の数は保有している魔力次第で限界があるらしいが、魔王の手で魔将という存在にまで能力を引き上げられたパンデモニウムの魔力総量がどれ程のものになるかは見当もつかない。

 そんな魔将が南方領の深部にまで攻め込んできたのだ。

 おそらくこれは帝国という国げ建国されて以来、最も危機的状況に追い詰められていると言ってもいい状況だろう。

 真の力を解放したパンデモニウムの魔将相手に帝国の存亡を賭けた闘いが始まった。

ちなみにアレク視点からは砂塵のせいで見えなかったことなので詳しい描写はしてないですが、最初に魔将に捕まって脳から情報をチューチューされて死んだモブはサウスワール派の残党の一人です。

作戦がうまくいったか確認するために現場近くに潜んでいたところにヤバそうなヤツ等が現れたので逃げ出しましたが、なりふり構わない全力疾走が仇となって魔将に捕捉されてしまいました。


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