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傭兵の国群像記  作者: 根の谷行
クラット編
1/71

プロローグ

 強大な力と力がぶつかり合っていた。


 片方は〈龍〉。

 どんな者でも見上げる他ないほどの巨体。頑強という表現すら不足と言えるほどの龍鱗。その巨体が内包する力は開放されれば世界を灼くだろう。


 もう片方は【人】。

 相対する龍の前で矮小と言う他ない体躯。肉体を護る防具は軽装で龍の苛烈な攻勢を防ぐには役不足極まる。手にする武器は無骨な剣が一振り。


 一見すれば勝負にすらならないように見えるが、その実優勢なのは信じられない事に【人】のほうであった。龍の苛烈な攻撃の尽くを躱し、逸らし、防ぐ。

 対する【人】の攻撃はその巨体ゆえ躱すことが叶わす、龍鱗による防御は少しづつ削られいき、ときには傷付いた龍鱗へ痛撃を受け鱗の下の肉体を抉る一撃を受けていた。


「業腹だが認めよう。キサマは強い。」


 戦いの中〈龍〉が口を開く。


「故に、全身全霊の次の一撃にて屠らせてもらう。」


 〈龍〉は急所を庇う姿勢をとり内包する力の全てを腹の奥に集め始める。

 対する【人】は口元に小さく笑みを浮かべると剣を上段へ構えながら、〈龍〉に対抗するように氣を練り上げる。


「正面から我が渾身の一撃に挑むか。」


【人】の選択を目にし〈龍〉も笑った。

 十分に力を圧縮した〈龍〉が先手をとり攻撃を放つ。

 ドラゴンブレス。

 〈龍〉の体内から開放された力は全てを灼き貫く光線となった。

 その一撃に身を灼かれる前に【人】が動いた。

 振り上げた剣を一閃する。

 それにより世界が二つに分かたれた。

 一閃を境に右と左へ。

 龍の一撃も龍のその身を例外では無かった。

 これにより、戦いは決着した。

【人】の勝利であった。




 戦火をかき分け勝利した【人】の元に数人の男女が駆け寄る。


「派手にやりやしたね。総大将が負けるなんざ欠片も思っちゃあいませんでしたが、流石っすね。それにしても相手は龍種の魔王ですかい。壁の中の連中に見りゃあ腰抜かりしてしょんべん漏らすでしょうね。」

「どうでもいい。」


 勝利への称賛も【人】にとってはどうでもいい事のようだった。


「総大将、この後はどうなりますかい。」

「次は……西だな。」

「西ですかい。ここから西だと『グレルカイト』あたりですかね。」

「その辺だな。」

「了解しやした。」


 短い問答の後怒声に近い大声が響く。


「おい、野郎共、撤収準備だ!その後は西へ向かう!伝令にもそう伝えろ!気合入れてけよ!」

「「「「「応!」」」」」


 威勢のいい返事を返し一斉に動きだす。

 慌ただしく動きだした男女の喧騒のなか【人】は西の空を見上げていた。




 それから数日の月日が流れる。

 この日は『先触衆』が本隊を離れる日であった。

 出発の前に集まっていた『先触衆』のもとを一人の男が訪ねてきた。


「すまんが邪魔するぞ。俺は『攻城衆』のクラン、ちと野暮用があってな。お前さんらに同行したい。」

「『攻城衆』…野暮用とは?」


 その問いにクランと名乗った男は小さな壺を取り出して見せた。それだけで通じたようだ。


「なるほど…。では私と共に行きましょうか。」

「助かる。」

「クラン殿はすぐに出られますか?」

「準備はして来た。それと堅苦しいのは嫌いでな、クランでいい。」

「わかりました。では私のことはシキシマと呼んでください。」


 こうして、のちに一人の少年の運命を変える旅がはじまった。

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