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街頭インタビュー

作者: 雉白書屋

 仕事を終え、会社を出た俺は駅前で、ただひたすらに探し回っていた。あの連中を……と、言うのもある日のこと。


「お前……テレビ見たぞ! すごいなぁ!」

「ああ、俺も見たよ」

「私も見た。堂々としてて良かったぁ」

「ほーんとそう! あれって駅前よね!」

「いやー、ナイスコメント」

「そうそう、スタジオのアナウンサーとかが褒めてたよね」


 そう、俺はある夜、家に帰ろうと駅前を歩いていたら、たまたま街頭インタビューというものに出くわしたのだ。

 質問内容は多分、政治とか今の暮らしをどう思うとか多分そんなところだろう正直、あまり覚えていない。疲れていたのもあったし、緊張の余り、しどろもどろ。自分がどう答えたのかも覚えていないが、どうも上手くいったらしい。

 そのニュースを見た同僚から称賛を受け、ご満悦といったところだったのだが、その数日後。今度は課長のやつがインタビューを受け、そして俺と同じようにみんなから称賛されたのである。

 思えばあの器の小さい課長の野郎は俺がみんなから褒め称えられていた時、フンと鼻を鳴らし睨みつけるような、なんとも面白くないといった顔をしていた。なので、きっと駅前でテレビクルーが来るのを張り込みしていやがったのだろう。

 確か以前も、あの駅前で街頭インタビューを行っていた気がする。オフィスが入っているビルが多い街で、サラリーマンがあの駅をよく利用するから欲しい画を撮るには、うってつけというわけなのだろう。


 だ、もんで俺はまたインタビューを受けるために駅の北口前、南口前と行ったり来たりと連中、テレビクルーを探しているのだ。 

 と……


「えっ」


「ん? あ」


「か、課長……」


「おお、君か……あ」


「え、あ……」


 なんてタイミングだ。課長とバッタリ会ったばかりか、その向こうの方でテレビクルーが撮影を行っているではないか。いや、出遅れなかっただけマシだが、課長を振り切り、どうやってあっちに近づくか……。


「……君」


「え?」


「えー、今のこの国の政治についてどう思うかね!」


「え、いや、なんでそんな大きな声で」


「私はねぇ! 若返らせる必要があると思うのだよぉ! どういうことかというとだねぇ! もっと選挙に若い人に立候補してもらってだねぇ! そうすれば若い世代も政治に興味を持つんじゃないかと思うのだよぉ!」


「え、は? あっ!」


 そ、そうか、課長の野郎……アピールだ。アピールしてやがる! チラチラと向こう、テレビクルーの方を見ながら大声で! おのれ、させるか!


「僕はですねぇ! 月々のお小遣いが一万円なんですよぉ!」


「は、は? 君、何を」


「だからですねぇ! ホントやりくりが大変でしてねぇ! 飲み屋とか行けないじゃないですかぁ!

だもんで! 特売で買った鶏肉をねぇ! 家で調理してタッパーに詰めぇ!

仕事が終わった後にコンビニで買ったビールと一緒にグイッとぉ! でもこの前、妻に僕のお肉が見つかってしまいましてねぇ!」


「いや、き、君は独身だろう? あ!」


 気が付いたか課長。そうとも。何もインタビューの内容が政治関係とは決まっていない。それに、政治関係だとしてもそんな風に話したがりの奴に聞きにくるとは思えないね。

 それよりもサラリーマンのお小遣い事情。これは連中にとって涎ものだぁ……。さあさあ見ろ、この悲壮感溢れる顔を。


「いやー、マッチングアプリというのは中々難しいねぇ! この歳になると婚活も大変大変! まあ、それとは別に気になる子はいるんだけどね!」


「え、課長、そんなのをやってたんで、あ、そうか、いやー! マッチングアプリの失敗談あるなぁ! 面白いやつがぁ!」


「お、おい君! 私のマッチングアプリだぞ! 君はやらなくていい!」


「そんなの決まってな、いたっ、何するんですか、はなしてくださいよ!

あ、パワハラ! パワハラだ! 会社の上司のパワハラに困ってます!」


「な、あ、すぐパワハラという若手社員! モンスター社員! エピソードあるなぁ!」


「嘘でしょうが! ほら、もう帰ったらどうですか!」


「君こそ帰りたまえ! 送って行ってやろうか!」


「やめろ、くそ! この、この!」


「あ、はぁ、やめ、やめたまえっ」







「……いやー君たち二人がまさかねぇ」

「ホント、あのドラマ好きだったんですね!」

「私もつい、毎週観ちゃって!」

「オジサンズロマンス!」

「原作再現なんて大ファンね!」


「いやー、はははは……」

「はははは……」


 あの夜の駅前での俺と課長の、組んず解れつの喧嘩は撮影され、どうも意図的に切り取られ放送されたらしい。

 愛し合う二人のおっさんのテレビドラマ。そのファン、と。つまり宣伝に使われたのだ。おまけに前回使われなかったインタビュー映像も差し込まれていた。そう、あれを観て思い出したが、前回、俺が答えたのは好きな野球選手。課長は知らん。多分飼い猫かなんかだろう。



『いやーホント大好きでぇ! 尊敬もしてるんですよぉ』

『可愛くってねぇホント』


『自分もそうなりたいって言うか』

『生意気なんだけどねぇ、でもつい共通点を探したり、時には意地悪しちゃったりってははははは……』

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