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夢の先

作者: 詩愛

「この写真の場所に行きたい!」

 私のふと思ったことだ。空を鏡の様に映す世界。ここはどこなんだろう。日本?それとも外国?北国かな?それとも南の国?さっぱりわからない。

「ねぇーお父さん、あかり、ここに行ってみたい!」

 幼い私は思ったことをそのまま父に伝えた。

「ここはボリビアのウユニ塩湖ってところだよ。そうだね。あかりがもう少し大きくなったら家族みんなで行こうか。」

 父はそう約束してくれた。私はこの約束をずっと忘れない。


 父が亡くなって四年が過ぎた。私は中学に入学して、ひそかに父との約束をずっと胸にしまっていた。父と約束してから、沢山調べた。ボリビアが南米の国であること、すごく遠くの国であること、行くのに飛行機で何時間もかかること、とかとか。

 中学生になって思ったけど、父は私がどれくらい大きくなったときに行こうと思ってたのかな。うんん、もしかしたらその場しのぎの口約束だったかもしれないかな。そう少し現実が見えるようになって、胸に抱えた約束がおかしくなって笑ってしまうことがあった。でも、お父さん、私がここまで本気で行きたいって思ってるって思わなかったでしょ?

 中学での目標は英語だった。ウユニ塩湖に行くには日本からツアーで行くこともできることは調べて知っていた。それでもいいかもしれない。けど私はこのころはなんとなく、自分の力で行くんだ!と謎の気持ちが強かった。だから、とりあえずまず外国語をと思って英語を身につけることを目標にしていた。


 高校に入学した。今も気持ちは何も変わらずだった。

 ある日、担任の先生と進路相談を行った。

「私の夢はウユニ塩湖に行くことです。」私はこのことはずっと隠さず言い続けていた。

「ちょっと調べていいか?・・・あー、ここか。」先生は名前は知らなかったが、写真でも見たことがある。綺麗なところだ。と言ってくれた。私は今まで調べて知ってることを初めて聞く人でもわかる内容を話した。

「なるほどな、良く調べられててえらいな。それで新藤はそこに行って、何がしたいんだ?」

 私はこの質問を受けて、頭が真っ白になった。行った後の話?そんなこと、考えたこともなかった。だから、えーと、や、そのー、としか返せなかった。

「いや、悪い。意地悪な質問をしたと思う。良い夢だと思う。それは本当だ。ただもう高校生だ。将来のことをちゃんと考えさせることが、教師の役目なんだ。」

 きっとこれが物語なら、目標を何年かけても達成してハッピーエンドで絞められたと思う。でも、そうじゃないって気づかされた。


 その日、母と話した。気持ちを抱えきれなくて、吐き出すように話した。

「お母さん、私、どうしたらいいんだろう?」少し涙が混じってたと思う。進路相談で先生から質問を受けて、何も答えられなかったこと。それで、わからなくなったことを伝えた。

「あかり、沢山考えなさい。あかりの道はあかりが決めることよ。もちろん目標は諦める必要はないと思うわ。でもね、母としては、夢を叶えたあとも、あかりにはずっと幸せでいてくれたらなって思ってるよ。」


 私の夢はあの写真の場所に行くこと。お父さんと約束したから。それだけを考えて毎日過ごしてきた。沢山本を読んだり、インターネットで調べたり、独学でスペイン語も勉強したり。でも、きっと私は叶えてしまったら空っぽになってしまう。きっと何一つ残らない気がする。

 ただ、それでも約束なんだ。


 それから私は、なんとなくで生きてしまった。空っぽになるだけの夢を見ながら、夢の先が私はどうしても見つけられなかった。

 思うよ。この約束を忘れても、きっと父は怒りはしない。母もきっと許してくれる。だけど、どうしてだろう。涙が出てくる。


 そんな気持ちのまま、私は公園で泣いてしまった。

「あ、あかり?こんなところで、どうしたの?」

 目の前にいたのは小学校から一緒だった美優だった。

「みゆー」泣きながら抱き着いてしまった。

「わぁー⁉えっ?どうした、どうした?」

 私は美優に夢のこととその先が見えないことを話した。

「えーと、その、ボリ、ビア?のその塩湖?ってどんなところなの?写真とかある?」

 私は携帯で検索して画像を見せた。

「えぇー!!何これー!!こんな場所が地球にあんの⁉」

「うん、ちょっと時期は限られるけど。」

「ホント⁉あかり!私も行きたい!」

 私は正直驚いた。すごくいきなり言われたから。

「で、でも、行っても、」

「いいじゃん!行きたいから行く!そのくらいの理由で。行きたいのに行かないなんて、絶対後悔するぞー。」

 美優は私のずっと悩んでもつれた心を簡単にほどいてくれるようだった。

「あ、でも、私、バカだから。英語とか全然だから、もしあかりと一緒なら助かるなー。あかりって英語得意だったよね?」

 美優は隣りに座って、続けてくれた。 

「私ね、別に夢とかそんなの何にもないの。だから、あかりのこと普通にすごいと思うよ!具体的に行きたい場所があるって!私なんてほぼ勢いで生きちゃってるし。

あかり、そんな深く悩むなって。叶った先なんて、最悪叶った後決めてもいいじゃん。もしかしたら私がこれを機に海外旅行にハマっちゃうかもだし。その時はあかり、付いてきてよ。年一とかで世界中まわるとか楽しそうじゃない?」

「そう、だね。楽しそうかも・・・」私は喉の奥が痛くなりながら、声をだした。

「私ね、お母さんも連れてきたいんだけどいい?」家族で行くのが約束だから。

「いいよ。じゃあ私もお母さんとか妹とか誘っちゃおうかな♪」美優は笑いながら言ってくれた。


 夢ができた。夢の先の夢ができた。これが正解かはわからないけど、きっと空っぽなんかじゃない。それだけで私は前に進める気がした。


 父との約束、きっと最初の形とは全然違うんだろうけど、いつの間にか夢になって、笑顔で叶えられる気がするよ。そしてその先も笑顔でいられると思う。


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