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戯曲&シナリオの試み

シナリオ 奇妙なミニカー

以前「なろう」で発表した「奇妙なミニカー」(「蜜蜂男爵の館」に収録)のシナリオ版です。

登場人物

 ミサコ(12):中学生の少女。美佐子の子供の姿

 カズ(6) :ミサコの弟。小学一年生。

 母(36) :ミサコとカズの母。

 美佐子(24) :商事会社勤務のOL。大人になったミサコ。

 哲也(28)  :美佐子の恋人。

 

 

〇児童公園。砂場とブランコがあり、砂場には砂で作った山がある。

 ミサコ、ブランコで遊ぶのをやめ、砂場に行く。

 カズ、ミニカーを砂場の山に走らせ、螺旋の道を作る。カズの口、砂で汚れている。


 ミサコ「カズちゃん、お砂食べちゃだめよ」

    ミサコ、ハンカチでカズの口元をぬぐう。

 ミサコ「カズちゃん、おもちゃを口に入れちゃだめでしょ」

    ミサコ、ブランコの方へ行こうとする。

 カズ 「お姉ちゃん、こっち来て、こっち、こっち」

    ミサコ、カズの側まで来る。

 カズ 「このミニカー変だよ。見て」

    カズ、緑色のミニカーをミサコ差し出す。

    ミサコ、側に落ちていたオレンジ色のミニカーを拾い、カズに差し出す。

 ミサコ「カズちゃんのミニカーはこっちよ。それ、よその子が置き忘れたミニカーでしょ。勝手に遊んじゃだめ」

 カズ 「このミニカー、人が乗ってるんだよ」

 ミサコ「えっ?」

    ミサコ、カズが差し出した方のミニカーを手に取り、しげしげと眺める。

    ミニカーをクローズアップ。ミニカーに小人の美佐子と哲也が乗っている。 

    小人の美佐子と哲也は盛んに体を動かし、何かしゃべってるが小さくて聞こえない。

    ミサコ、ミニカーに耳を近づけてみる。

 (美佐子の声)「あなた、ミ・サ・コでしょう・・・・」


〇山道。緑色のオープンカーが疾走している。オープンカーの運転席には哲也、助手席には美佐子。

 オープンカーの助手席から眺めた視界をしばらく描写。青空を背景に揺れている木々の枝。


 哲也 「さっきの話、続き聞かせてよ」

 美佐子「ああ、あれ? でもカズちゃんは全然、覚えてないって言うのよ」

 哲也 「カズちゃんって、君の弟の和之君のこと?」

 美佐子「そうよ」

 哲也 「彼、今年から大学生だよねえ。十年以上も昔の話じゃないか。だったら彼だって覚えてないよ」

 美佐子「で、どこまでしゃべったっけ?」

 哲也 「ミニカーに動いてしゃべる人形が乗っていたところまでだね」

 美佐子「とにかく、公園の砂場で拾ったそのミニカーには人形が乗っていたの。人形は二つで、一つは男、もう一つは女だったわ。人形は人間みたいに動くし、しゃべるの。その人形、何て言ったと思う?わたしのこと、ミサコって呼んだのよ」

 哲也 「へえ、君の名前を知ってたんだ」

 美佐子「そうなの。で、ここからが面白いところなんだけど・・・・」

    対向車のトラックのクラクションで美佐子の声はかき消される。

    トラックが猛スピードでオープンカーとすれ違う。

    ドライブの光景をパンでしばらく描写。「無人休憩所」の看板が見えてくる。

 哲也 「あそこで休もう」


〇無人休憩所。車を十数台駐車できるスペースがあり、自動販売機とベンチが置いてある。

 美佐子と哲也、ベンチに座り、自動販売機で買ったジュースを飲む。


 哲也 「実は......俺、結婚するんだ」

 美佐子「えっ?」

 哲也 「この前の連休、実家に戻って見合いしたんだ。相手は地元の女性で、まあ、箱入り娘みたいな女だ」

 美佐子「どういうこと?」

 哲也 「本当にすまん。今日が最後のデートになるかな・・・・」

 美佐子「そんな、急にそんなこと言われても・・・・」

 哲也 「君のことは忘れないよ」

    突然、地面が大きく揺れる。

    美佐子と哲也、ベンチから転げ落ちる。

    山よりも大きい巨人のミサコとカズが現れる。

    巨人のミサコ、一歩進むごとに地震が起きる。

 哲也 「車に乗るんだ」

    哲也、美佐子の手を取り、車まで走り、二人とも急いで乗る。

    哲也、エンジンをかけ、車を急発進させる。

    美佐子、しばらくすると車体が宙に浮かんでいることに気づく。

    巨人のミサコが車を掴んでいるからだった。

 美佐子「ちょっとやめてよ。早く降ろしてよ」 

    巨人のミサコ、耳を美佐子の方に向ける。

 美佐子「あなた、ミ・サ・コでしょう・・・・」


〇児童公園。夕焼け。


    母、買い物袋を持ってミサコの背後にやってくる。

 母  「美佐子、カズちゃんはいい子してた?」

     ミサコ、声がしたので振り向き、母に気づく。

 ミサコ「うん」

 カズ 「ママ。まだ遊んでたいよ」

 母  「だめよ。もうすぐ夕飯食べる時間だから、おうちに帰らなくっちゃ」

    ミサコ、緑色のミニカーを地面に置き、ミニカーに乗っている小人の美佐子と哲也のうち、どちらか一方をつまみ上げ、指で潰す。(*作者注)

    グチャリと音がして、ミサコの指が赤い鮮血で汚れる。

    緑色のミニカーが夕日に向かって走り出す。

    ミサコ、ミニカーをいつまでも眺めている。


   

        (完)




*作者注: 

 原作小説ではミサコが美佐子と哲也のうち、どちらを殺し、どちらを逃がしたのか、あえて曖昧にし、読者に想像してもらうという手法を取りました。

 映像表現ではミサコが殺したのは美佐子または哲也とはっきりわかる表現でもかまいません。また美佐子、哲也のどちらを殺すのか。すべては監督が選択できます。

 一方、映像表現でも原作小説同様、ミサコが殺したのがどちらなのか曖昧にできるでしょうか。曖昧にできるなら、監督がそれを選択することもできます。

 ところでミサコはどちらを殺し、どちらを生かしたのか。

 普通に考えて、自分自身である美佐子を生かし、自分を捨てた男、哲也を殺すのが理にかなっているように思えます。しかし、男にだまされた不甲斐ない自分に嫌気がさし、自殺の意味で美佐子を殺す選択もあるかもしれません。そして自分をだました憎き男ながら、一度は愛した哲也を逃したとも考えられます。あるいは美佐子としては哲也を極限まで軽蔑しきれば、復讐などせずそのまま放置する心理にもなるかもしれません。

 いずれにせよ、ミサコが殺したのはどちらで生かしたのはどちらかを読者の想像にまかせるのが、文学的に深みのあるテイスト。作者はそう考えましたが、いかがでしょうか。

                            

よろしければ原作小説もお読みください。


奇妙なミニカー(短編集「蜜蜂男爵の館」に収録)

https://ncode.syosetu.com/n7146cq/5/

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