第八話〈焔の使い手の匣〉
「初めまして」
和親は色々と聞きたいことがありながらも心に留めて、いつもの葛城のようにニコニコと微笑んでいる閻魔こと九条を見つめながら、硬くなって挨拶を返す。弓を背負っているとかなり座りにくかったので、ゆっくり下ろしてから自分の横に置いた。
九条はそんな和親を見ながら葛城に話を繰り出した。
「静佳、この子階級O2に飛び級したんだって?」
「はい、閻魔様。今は特殊戦闘部への配属が決まっております」
「またそう畏まって。彰仁でいいって言ってるだろう?」
九条は下の名まで呼んで親しげに話しかけているのに、葛城は敬語のまま他人行儀に受け答えをしている。九条は些か不服そうに名前で呼べと言い返したが、葛城は結構です、と即答で首を横に振った。
和親はこの二人の関係が一体どういったものなのか予想もつかないが、こんなやり取りをしていてもやはりお互い信頼しているというのがよく分かった。
「静佳は僕と同期なんだよ。閻魔匣を考案していた時から一緒にいる友人でね。立場もそう変わらないのに階級や制度を本格的に決めだしてからずっとこの調子。友達として僕は寂しい」
九条は和親に葛城との関係を少々納得していないのか、まるで子供がすねているような口ぶりで話す。が、和親はこの何気ない一つの会話からどうにも気になる言葉を見つけた。躊躇ったが一応敬語を使いながら発言してみる。
「ちょっと待ってください。立場もそう変わらないって・・・」
「あれ? 静佳、まだお前和親君に言ってないの?」
九条は和親の言葉を耳にするときょとんとして、葛城のほうへと視線をずらして問いただすが、葛城は苦笑いを浮かべながら黙っているだけだ。
「葛城静佳。ランクA+、階級O1。エリアXO指令部総司令官、及び閻魔匣最高責任者補佐。僕の一番信頼している人だよ」
何も言わない葛城に変わって、九条が葛城の素性をサラリと簡潔に明かした。
「総司令官・・・? 葛城が?」
和親は開いた口がふさがらない状態だった。自分は今までそんなたいそうな立場の男と行動を共にしていたのかと思うと、唖然とする他無かった。
やはり最初にあった時、敬称をつけねばならないと思った和親の直感は外れていなかったらしい。大体は察していたつもりだったがまさかここまでとは考えていなかったのだ。
「その、色々とすまない。葛城・・・さん」
「葛城でいいですって」
何故か謝る和親。
いつかの時にもあったこのシチュエーション。和親は記憶が蘇ってきた途端、思わず声を殺しながらも笑ってしまった。
葛城もその時のことを思い出したのか、和親につられてクスクスと笑いを堪える。
九条はそんな二人をじっと見つめながら、仲が良いのは良いことだとでも言うようにとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。
「話を戻して・・・和親君、君は本当に特例だ。今までこんなことは一度だって無かった」
九条は一旦区切って真剣な表情で話を戻した。和親は最初の時のように硬くなって九条の金色の瞳をじっと見つめて口を開いた。
「どうして判定の壷は、俺にあんな判定を?」
「それは僕にも分からない。判定の壷は技術開発部が中心となって研究に研究を重ね創り出した、魂の質を測るモノだ。でも階級や部まで指定するようなプログラムまではしていない、と技術開発部が断言していてね。今必死になって調べているが、成果は出てないよ。通常なら、僕がその人の授かった武器と能力がどの部で一番力を発揮できるかを見定めて、配属するんだけど・・・でも判定の壷がわざわざそう判定したんだ。君はそれだけ戦闘に長けているとでも判断されたんだろう。・・・君の匣、見せてもらえる?」
九条は和親の問いに対して、首を横に振りながら曖昧な返事をした。和親はその答えに少々残念さを覚えながら、九条の話を静かに聞いた。
判定の壷が此処の者達によって創られたものだと聞いたとき、あんなものが人の手で創りだせるものなのかと、和親は驚いていた。
匣を見せるように言われて、和親は半分忘れかけていた匣の存在を思い出した。慌てて首から提げて服の中へと隠してあった漆黒の匣を取り出し、首から提げたまま九条に見えやすいように手で少し持ち上げる。
九条は取り出された和親の匣をじっくりと眺め「綺麗だ」と一言いったきりで、その匣については何も触れずに言葉を続けた。
「それから君、薬、まだ飲んでないでしょ? 早く飲んで。能力が何なのか見たい」
九条は和親が例の能力の薬を飲んでいないと即座に見抜く。半ば強引な言いようで、和親に薬を飲むように急かした。
「これ、だよな・・・」
和親はポケットの奥底へとしまいこんでいた紅い液体の入った小瓶をゆっくり取り出して、ごくりと唾を飲んだ。
明らかに異様な真紅のの怪しい薬。躊躇う和親に横から葛城が追い討ちをかけるように「それです」と小声で呟く。
和親は自棄になってコルクを乱暴に引き抜いて、一気に自分の口に紅い液体を流し込んだ。
液体が全て喉に通った途端、和親は激しく咳き込みだした。
和親にとってその液体は特に不味いとは感じなかった。味はよく分からなかったが、後味的には寧ろ綺麗に澄んだ水を飲んだ後のように清々しい感じさえした。
だが、喉が焼けるように熱いのだ。次第にその熱は身体全体へとまわっていく。和親は思わず喉を押さえた。
そんな和親を九条と葛城は特に慌てる様子も助けようとする様子も無く、ただ何かを観察するような目で見守っている。
和親が熱に悶え始めて約三分、身体の熱さが嘘のようにすうっと引いていくのが分かる。
和親は全力で走った後のように息を切らして這い蹲っていたが、暫く経っておさまったのを確認しまだ息が荒いのを整えながらゆっくりと元の位置に座る。
「一体何が・・・」
軽くまだ咳き込みながら、和親は掠れた声で言う。
自分の身に何が起こったのか未だに検討がつかない。和親は自分の身体を見ながら異変が無いか確認したが、特に変わった様子も無い。
「能力を身体に取り込むとき、ある程度拒否反応が起きるからだよ。と言っても、君はかなり辛そうだったね」
九条が辛そうに眉間に皺を寄せている和親を見て、心配そうな顔で説明する。
「能力は魂それぞれにあったものが此処に来た時に授けられる。そうだな、例えば・・・静佳」
九条は葛城に視線を合わせて何やらコンタクトをとった。葛城は了解したかのように微笑みながら軽く頷いて、懐をあさり始める。
結果取り出されたのは普通の万年筆だった。それを自分の前の畳の上へと置き、軽く右手の人差し指を万年筆へと添える。
するとその瞬間、万年筆は煙のようにその場から消失したではないか。
和親は自分の目を真っ先に疑って思わずごしごしと手で無造作に擦るが、見間違いでは無さそうだ。
すると葛城はそんな和親を見つめながらまるで和親に何かを伝えようとするように、意味深な微笑みを浮かべて自分の服のポケットを手でトントンと叩く。
和親はその仕草にハッとして、自分のポケットがある場所を上から触ってみると硬い棒状の何かが入っている。
急いで取り出せば、紛れもない先程消えた葛城の万年筆だった。
「私の能力は物質移動。最初の内は小さな物を少し移動させるのがやっとでしたが、段々と能力が覚醒して使い慣れてくると自分の頭で想像できる所であれば何キロも先の場所まで瞬間的に移動させることが可能です。勿論、自分の身体でさえも。しかしその物体が大きかったり重かったり、移動させる位置が遠いほど力を消耗します。力の消耗は各々でどう現れるか違いますが、体力的にも精神的にも疲れがでます。人二人を長距離移動、となると流石にきつくて・・・歩かせてしまってすいませんね」
和親は葛城と出逢ったときの状況を思い出していた。誰もいなかった場所に突如として現れたことも、今の話で確かに説明がつく。
匣店までの経路をわざわざ歩いたのは、別に葛城が和親を歩かせたくて歩いていたわけではないと分かって、和親はつっかかっていた何かが外れるような感じがした。
葛城は万年筆を和親から受け取って元あった自分の懐へとなおし、和親に柔らかな微笑みを向けながら姿勢を正して正座しなおす。
「この世界では、向こうの世界でありえなかったことが普通に起きる。一々驚いていては身が持たないよ。さて、君の能力は一体何なのかな・・・。どうにか何か一発でもあらわせられないかい?」
九条は未だに葛城の能力について色々と考えを巡らせていた和親に意地悪気に声をかける。和親の能力が一体どんなものなのか、知りたくてうずうずしている様子だ。
「そんなこと言われても・・・」
薬を飲んだからといって、はい能力がつきました、なんて普通にあることなのだろうか。
和親はまさか自分に葛城がやってのけたようなことが出来るとは到底思っていなかった。
ともかく、何と無くではあるが自分の利き手である左手をスッと上げて人差し指を立ててみた。
だが特に何も起こる気配は無い。和親は少しイラッときたのか、まるで魔法の杖でも振るかのように人差し指を立てたまま少々手荒に振ってみた。
突如、和親の人差し指の先から紅い閃光が飛び出した。それと同時に和親の胸元にある漆黒の匣が一瞬眩い光を放った。
和親は驚きとその衝撃のあまり正座の状態から後ろへ派手にしりもちをつく。その閃光はすぐに炎を帯びた大きな球体となってもの凄いスピードで真っ直ぐ飛び、九条の頬を掠めそうなぐらい近くを通って部屋の奥の壁へとぶち当たった。
そこは瞬間で勢いよく燃え上がり、炎の塊は真っ黒な焦げ跡を残して間も無く消えた。よく見れば壁が少々えぐれている。
九条もかなり驚いたらしく目の色を変えて急いで振り返り焦げ跡を見つめる。葛城も同じく驚きの表情で正面の焦げ跡を見つめた。
「焔、か・・・。軽く一振りでこれほどとは。これはとんだ新人のお出ましだね」
少し間があいてから、九条は和親へと向き直って参ったとばかりに軽く手を上げた。
今起きた現状をどうにも理解できない和親はしりもちをついて体制を崩したまま、ただ呆然と自分の指先と壁の焦げ跡を交互に見ていた。
「大丈夫ですか?」
そんな和親を見かねた葛城は顔を覗き込みながら心配そうに声をかける。和親は呆然としたままゆっくりと一回頷くだけだった。
「その弓、だから矢が無いのか」
何やら九条が分かった、とばかりにポンと手を叩いて和親の弓を見る。和親は興味本位で自分の横に置いてある大きな弓に手を伸ばそうとする。
「待って待って! 此処でそれ使われちゃ、どうなるか分からないから! 武器はその人の能力を媒介にして威力を増大させるためにある。下手すればこの部屋ごと吹っ飛ぶよそれ。試すなら、後日特殊戦闘部の練習場ででもするといい」
九条は弓に触れようとする和親を慌てて止め、後にこう説明を加える。
「炎に属するものは、数多くの能力の中でも攻撃的威力がずば抜けているんだ。判定の壷も特殊戦闘部へ所属させたがる訳だ・・・。その素晴らしい能力を把握するために、近いうちに君のその匣を技術開発部で解析させてもらうよ。ああ、匣の解析は皆ここにきたら絶対しなければならないことだよ。個々の能力等は全て此方で管理する必要があるからね。能力を使うのはそれからかな・・・」
ついに九条は楽しそうに高笑いし始めた。笑いがひとしきりおさまった後、匣の解析のことについて少々触れて和親に説明した。そんな九条とは裏腹、和親は突然色々なことが起こりすぎてもう頭がパンクしそうな勢いだった。兎に角首を縦に振っておいた。
「色々と無理をさせてしまってすまなかった。今日はもう休むといいよ。静佳、この子を部屋に連れて行ってあげてくれるかい?」
頭の中では現在嵐でも起こっているであろう和親に、九条は笑いを抑えて申し訳なさそうに謝る。
葛城にそう言って部屋に案内するように言付け、九条は葛城を手招いてこっちへ来いと合図している。
葛城は素早く立ち上がって九条の傍へと行く。九条は何やら葛城の耳元でこそこそと話しているが、和親の耳には届かなかった。
話が終わったのか、葛城は九条の顔を見て軽く頷いていた。
「和親君、行きましょう。君の部屋に案内します」
和親の傍までやってくると葛城はいつものように暖かく微笑んでそう言った。思考がごちゃごちゃして疲れきっている和親はその微笑みにいくらか助けられた気がした。
和親はゆっくりと立ち上がって入り口の襖のほうへと歩を進める葛城について行くが、何故かふらふらと千鳥足だ。先程放った炎のせいだろうか。
葛城は和親が入り口まで来たのを確認してから襖を自分が通れる分だけ開けて、和親の背中を無理矢理おして先に和親を部屋の外へと出した。その後に「失礼します」とだけ小声で言って部屋の外へと出、ほっと溜息をつきながら襖を閉める。
そんな二人を九条は意味深な笑みを浮かべながら襖が閉まって姿が見えなくなるまで見つめていた。
葛城は和親の背中をトンと押しながら、二人はエレベーターへ乗り込んだ。
葛城は「9」のボタンを押し終えて、また溜息を吐く。
「・・・九条さんって、本当に最高責任者なのか? あんな軽そうな人なのに」
和親はいくらか気が落ち着いたところで葛城にずっと言いたかったことを言う。
「ええ。でも良い人だったでしょう?」
葛城は和親の言葉を聞いたとき、些か顔を歪ませたような気がしたがすぐにいつもの微笑みを浮かべてそう言った。
「あ、そう言えば、蓮のことを聞くの忘れてた! もう一度戻ってもいいか?」
和親は今の今までとても大切なことを頭の隅の方へと追いやっていたことに気がつく。
葛城の返答を待たずにもう一度、と「23」のボタンを押しにかかるが、葛城が慌てて和親の手首を掴んで阻んだ。
「いけません。謁見はそう簡単に出来るものではないのですよ? 先程まであそこにいたとは言え、一旦部屋を出てしまっていますから謁見にはそれなりの手続きを踏まねばなりません。そういう決まりなのです」
葛城は首を横に振りながらそう言った。和親は少し悔しそうに葛城の手を振りほどいた。
そうもしているうちに、九階へと到着した合図の音が鳴る。
スムーズに開いたドアから葛城が先に出て、和親も後に続く。
和親の目に入った光景は、ホテルのような感じのフロアだった。壁にドアが羅列している。
葛城は淡々とした調子で歩み続けた。すると、ふと一つのドアの前で立ち止まり、振り返って和親を見る。
「此処、905号室が和親君の部屋です。二階から十七階までは此処と全く同じ造りのフロアですから、くれぐれも間違わないように。必要最低限の設備や家具、用品は揃っています。お金は入ってすぐ左の棚、一番上の引き出しに入っていますので、何か他に必要なものがあれば街にでも買い物に出かけてみてはどうですか? 匣の解析はもう少し後でしょうし、君の特殊戦闘部への出勤は明後日に設定されていますから、その蓮君、という友達探しも兼ねて」
和親は葛城の最後の言葉で息を吹き返したかのように目を輝かせた。先程のことで落ち込んでいただろうと察した葛城なりの配慮だ。こういうところを見ると、和親もまだまだ子供だ。
葛城はそんなコロコロと変わる和親の様子を楽しそうに見ながら、何やら懐から取り出した。蔦のような装飾が施された銀の懐中時計だった。
その美しさに和親は思わず息を呑んで葛城の手の中を覗き込んだ。
「此処閻魔匣は向こうの世界と違って時間感覚が掴みにくいです。特にエリアXOは和親君も気づいているように永久的に同じ場所に太陽がある、イコール永久的に日中だということです」
確かによく考えてみると和親は此処へ来てから長い時間経っているが、気を失った時を除いては一睡もしていない。
ずっと出続けている太陽のせいで今が昼なのか夜なのか分からなくなっていたからだ。というより寧ろ、ずっと昼だと思っていたぐらいだ。
「言っておきますが和親君が閻魔匣へと入ったのは、向こうの世界で言うと朝の五時五十六分です。流石に少し休まないと、身体がついていきませんよ?」
「朝の六時? どうりで疲れるわけだ。生憎太陽の光のおかげで眠気はあまり無いが」
閻魔匣に入った時のことを回想してみる。朝早くなのに人が多かったのは特別警戒令が解除されたのと、朝市の時間とが丁度重なったからかもしれない。と言っても、太陽は常に出ているわけだが。
流石にそんなに時間が経っているとは思っていなかった和親。休養をとっていないと考えた途端気分が悪くなってきたのか頭を押さえる。
「その為にあるのがこの時計です。中央時計塔に設置されている大きな四つの時計はまるで使い物になりませんからね。多分街の所々にもこの時計のように正確に動いているものがあるはずですが、此処に来たものには必ずこれが渡されます。最初は慣れるまで少々きついですがこの時計の時間を目安に休養をとるようにして、今日明日を有意義に過ごして下さい」
少し他人事のように言いながら、葛城は手のひらの上で銀時計の蓋をパチンと開いて和親に見せた。時計の針は八時を少し回ったところだった。下のほうを見ているとご丁寧に「AM」とパネルが出ている。
葛城はその銀時計ゆっくりと閉めて和親に手渡した。
「後、これも渡しておきましょう」
葛城は思い出したように今度はポケットの中に手を突っ込んだ。中から取り出したのは漆黒の硝子のようなものでできている少し大きめのプレート状の耳飾だった。
「技術開発部が開発した小型通信機です。私は君が此処に慣れるまでの付添い人に任命されております。私も同じようなものを持っていますので、何かあればこれで連絡して下さい。通信電波は勝手に拾ってくれます。自分が喋るときは後方に小さなボタンがありますから、それを長押ししながら喋ってください。・・・以上です。私は使用がありますので」
和親が手渡されたそのままの体制で銀時計に見惚れていると、葛城はついでに、と銀時計の上にその小型通信機と言われた耳飾を置く。
最後に軽く礼をしながらそう言うと、和親の言葉を待たずにまた暖かい微笑みを浮かべてその場から去っていった。
そそくさと立ち去っていった葛城の背中を見ながら、和親は耳飾を左耳に適当につけ、銀時計は懐にあった内ポケットにほおりこんだ。
ドアの横の壁についているシンプルなプレートにイタリックで「905」とだけ書かれている。和親は少し重ためのドアを体重をかけて押しながら開いた。
部屋は思っていたより随分と広かった。
言われた通りすぐ左側には小さな棚があって、その上には可愛らしいランプが置いてある。
広いワンフロアにベッドやタンス、机は勿論、ソファ、食器棚の中には食器一式、小さな台所までついている。右手を見るとドアがまた一つあった。そっと開けてみるとトイレ、その奥は風呂場だった。
天井や壁は相変わらず白いレンガで、少々目がチカチカしてきた。床は一階と同じで漆黒の石がはってあり、カーテンの空けられた窓から太陽の光が差し込んでつやつやと輝いている。
とてもシンプルだが必要なものは全て揃っている部屋だ。
羽毛だろうか、ふかふかとしたベッドの上に和親は勢い良く倒れこんだ。今になってやはり疲れていたのだろう、急に睡魔が襲ってくる。
此処に来てから本当に色々ありすぎた。
和親の常識は既に此処では通用せず、有り得ないことだらけで思考は今や未知の世界で浮遊しているに違いない。
和親は午前八時という時間にも関わらず、ゆっくりと眠りについた。