1話-2
すっかり鍋が空になった所で、改めて少女の事を見る。姿形については非常に人間に近く、顔立ちだけ見ればその辺りの普通の人間とそう違いは無いだろう。差異といえば、その頭の上に付いている耳程度。
(猫……いや、犬か? まぁ何にせよ動物系の半変異体といった所だが、さて)
懐から取り出したPDAを、特に問題なくエーテルネットワークに繋げられる事を確認した上で、電源を落として少女に渡す。
「これは?」
「ちょっとした確認だ。少しでも使えそうかの」
ぺたぺたと、色々な所を触り、ボタンについてもひとしきり押してもなお無反応を貫くPDA。それに対して段々と焦るように手を加速させ、考えうる限りを試していく少女を見ながら、予想通りだな程度の感想を抱く。
(EPSを使っていた以上はまぁ当然、か。世間的に言えばコイツは『人間じゃ無い』訳だ)
およそ皇国のみならず、この世界における『人間』のコミュニティにおける1つの常識であり、『人』と『それ以外』を分けるもの。それは『エーテル』を扱えるかどうか。
PDA程度であれば赤ん坊ですら何かしらの反応を返す程には一見してわかりやすく、人種だの外見だのといった『些細な違い』に比べてなんと明確な『種族の違い』。
それを扱えず、逆に俗に言う『魔力』と呼ばれるものを扱い、EPS、つまり超能力だの、あるいは『魔法』と呼ばれる現象ー大ネズミをローストにしたそれーを引き起こせる時点で、この少女は、少なくとも皇国の法に於いては『人間では無い』。
姿が一見して人間から離れていれば害獣と混同される変異体の、人に近い容姿をしているが故に半変異体。それの扱いは害獣となんら違いは無く、むしろ下手に『人間に近い知性』を持ち合わせる故に『厄介な敵性存在』に分類される。
(そうしたら、まぁ、そうなるよなぁ)
うんともすんとも言わないPDAを悪戦苦闘する少女から取り上げて、懐に戻した上で。
「さて。お前には差し当たって生きる上で2つの道がある」
半分泣きそうに見える少女に対して、まずは一本指を立て。
「1つは自由に生きる道。この国……はまぁスラムも綺麗になった以上『地下』に潜るくらいだが、後は何処か他所のミュータントのコミュニティでも探してそこで生きる道だ。
(少なくとも尊厳を売り渡したりはしないで済む、自力で生きる道だな)
内心でそう思いながらも、2本目の指を立てる。
「2つめはオレの下で、まぁペットだの奴隷だのと言われるような立場で生きる道だな」
実際にどう扱うかはともかくとして、『部品』として処分、あるいは狩られないようにする為には、個人の所有物として取り扱った上でそれを管理出来る必要があり。対外的にはそう見られて初めて生存を許される存在であるという事でもある。
「さぁ、どうする?」
一方の少女はと言えば。『使い物になるかのテスト』に対して何の成果も出せず、最初に提示されたのは放逐。何の価値も示せなかった証であり、実質の死刑宣告と想像出来るだけの知性があったが故に。
元より提示した条件、自身の持つ価値。それが勝ち取ったかに見える選択肢を選ぶのに、なんの躊躇いもある筈は無かった。