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1話-1

 『少女』が目を覚ました時、最初に感じたのは柔らかな暖かさであった。


(……天国? やっぱり死ん、っ痛い)


 直後に感じた腕と脚の痛みに、まだ生きているのだと認識する。目を開けて周囲を確認した所で、見覚えのない天井に部屋、それから


「起きたか」


 反射的に身体を起こし、『燃やそう』とするもより強い力によって掻き消される。鬼の様な形相、というか鬼の形相の面を被った人間だと気がつくのに数瞬、それから意識を失う前に聴いた声の主だと気がつくまでに数瞬。


「はぁ……取って食いやしないから落ち着け」


 落ち着かせようという気があるのか、酷く平坦な声でそう言う顔の上半分を面で覆った男に対して、少女は10年を超えるスラム、加えて地下機構を生き残れるだけの『賢さ』がある故に、しっかりと現状を把握していく。


 目の前の自身より圧倒的な強者が、完全に自身の生殺与奪を握っている状況。その上で、殺されるどころか、これほどに上等な寝床において傷の治療まで行なっている事実からは、少なくとも即座に命を取られる心配は無し。つまり、それゆえに。


「……未経験だが、もう子供は出来る、ますです」

「……は?」


 無償で他者を、それも自分のような『人間もどき』を助けるなど想像出来ず。かと言って特異な能力であれ金銭であれ、自分が持ち得る全てを相手は遥かに上回っている以上、残された『自分の価値』といえばそれくらいしか思い当たる事もなく。


「助けた、という事は目的がある、です。ボクより強く、ボクが何も持ってない以上、考えられるのは身体だけ、ます」


 利がなければ動く事もなく、対価を反故にされれば報復しなければ『舐められて食い潰される』。それしか知らず、そうやって生きてきた故に、そんな風に少しでも『価値を示す』事で生き残る確率を上げる、という事は『少女』にとっては当然の事であり。


 そんな価値観の違いからくる認識の差に、『実際何かを目的に助けた訳では無い理外の存在』は頭を抱える。


(あー、どうしてそうなる? いや、言われた通りか? クソっ、どうするか……)


 助けました。後は勝手にやってくれ。なんて事が無責任な不要な手出しだという事は知っている。そもそも人間扱いされない存在で、保護者がいるかどうかも考えればわかる事。


 元々居たであろうスラムも今は『清掃』のおかげで既に更地や再開発の真っ最中、つまり帰る場所など何処にもなく、生活の手段など無いに等しいだろう。多少治安が良いとはいえ、放り出せば勝手に死ぬのは明白で、そこに『自分には責任がない』というのは。


 むしろ嬉々として『狩』をする連中すら存在しており、それを合法、むしろ推奨すらされる社会である。であるならば、この少女がこの先生き残るにはオレが世話をしなければいけない訳で、などと考えている中で、くぅ、と音が1つ。


「……とりあえずメシにするか。食えないものはあるか?」

「ない、です」

「そうか」


 一旦保留、と逃げるようにして部屋を出てキッチンへ向かう。小型プラントへエーテルを叩き込み、精製されたブロック状の栄養バーをざっくりと砕き。湯を沸かしてそこに放り込み、適当な調味料を入れながら2、3分煮込む。それだけでなんとなく粥やシチューのようになるそれは男にしてみれば立派な料理だ。


 皿に移すか、と考えた所でどの程度食べるかもわからない故にとりあえず鍋ごと持っていけば良いと匙だけ突っ込み、適当にかき混ぜながら寝室へと戻り。精々5分程度だったからか、逃げ出す事もなくちょこんと身体を起こしたままそこで待っている少女。


(そういえば鍋を置く場所が無い……というか、こいつ腕に怪我してるんだよな)


 最低限の処置だけしかしていない右腕を見た上で、沸かして熱い鍋を渡してさぁ食えと、そう言えるだけの低い人間性を持ち合わせては居ないが故に、それはある意味で当然の事。


「ほれ」

「これは?」

「好きなだけ食え、と言っても無理せず入るだけだ」

「いえ、はい」


 一般には『あーん』などと言われるような状況に、混乱した少女は一度訪ねるもそれを食事に対する質問だと捉えた男に対しては望む返答、というかどうすれば良いかは分かりながらも自分に対してそのような事を行われるとは思っていなかったがゆえに。


 床に皿を用意されて舐めるように食事を摂ることすらあったが故に、そんな経験は初めてで。加えて言えば、残飯や虫、害獣(クリーチャー)など『食べれれば良い』ような物ばかり食べていた経験も相まり。


「っ」

「あぁ、熱かったか。すまんな」


 美味しい食べ物というだけでは無い、あまりの『幸福感』に涙すら出そうになり、それに重ねて匙に息を吹きかける優しさを感じて。


 黙々と、差しだされた匙によって餌付けされる構図が、そこにはあった。

 ちょろい様に見えますが一応理由があります。理由があるとはいえちょろいですね。

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