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第1章

 テンプレの婚約破棄ものと思いきや、婚約破棄を宣言をしておきながら、訳あって破棄されなかった場合、その後の結婚生活はどうなるのか、そんな話を書いてみました。

 

 初めて性描写のある話を書いたので、拙い表現で申し訳ないと思います。

 それに女性を侮蔑しているような描写もあります。近世ヨーロッパのイメージですが、現実世界ではなく異世界の話だという認識でお読み下さい。この手の話が苦手な方はどうかパスして下さい。

 

 短編にしたかったのですが、またもや長くなり連載形式にしました。続けて投稿します。

 

 妻が死んだ。俺が貿易の仕事で他国へ行っているうちに。

 あまりにも突然のことだったので事故かと思ったら死因は病死だった。

 葬儀の時、息子や娘、親族、そして参列者の視線が痛かった。

 

 貿易の仕事でほとんど家には帰らず、子育てや領地や屋敷のことは全て妻に丸投げしていた無責任な夫。病気の妻を顧みることもなく、死に水を取ることもなかった冷酷な夫。

 

 そんな目で見るな! 仕方がないじゃないか、妻が病気だなんて知らなかったのだから。

 

 何故知らせなかったのだと執事を叱ると、彼はこう言った。

「奥様から、お忙しい旦那様に迷惑をかけたくないので知らせないで欲しいと命じられていました」と。

 

 そして俺と瓜二つの息子は、俺と同じアイスブルーの冷めた目をしてこう言い放った。

「母上の病気を貴方に伝えて何の意味があるのですか? 伝えたとしても貴方はどうせ屋敷に戻ったりはしなかったでしょう? 

 それにもし戻ってきたとしても、どうせ母上を労る言葉などはかけたりしなかったでしょう?」と。

 

 学院を休んでずっと妻に付き添ってくれていたという娘は、俺が帰宅してから一言も口を利いてくれないし、俺を見ようともしない。

 

 弔問客達は息子と娘に悔みの言葉を述べ、亡き妻との思い出話をしていく。

 しかし、喪主である俺のことはみんなスルーしていく。どうせお前は妻のことなど何も知らないだろうという風に。

 

 おかしい。

 

 かつて悪役令嬢、悪役夫人だと揶揄されていた妻が、二十二年後には良妻賢母と呼ばれて、親類縁者、領民、学友からもこんなにも愛され慕われていただなんて。

 そしてこんなにもその死を惜しまれていたなんて。



 いいや……本当はわかっていたんだ。もうずっとずっと昔から。彼女が素晴らしい女性だということは……

 そして俺は愛していたんだ。妻のアリスを。生まれ変わっても再び彼女と結婚したいと願うほどに。



 ✽✽✽✽✽

 



 俺の名前はアンソニー=ローハン。名門と呼ばれる古い家柄の伯爵家の当主だ。

 妻のアリスティアも同じく伯爵家のミラー家の娘だった。

 同い年の俺達は十二歳の時に婚約した。両家の共通の知人宅で開かれたパーティーで、アリスティアが俺にひと目惚れして婚約を申し込んできた……という話だったので、当時の俺は彼女を憎々しく思っていた。

 

(でも、後になってアリスティアが俺にひと目惚れしたという話は母の作り話だと知った時は、実母を平手打ちしたくなった)

 

 

 

 アリスティアはとても綺麗な少女だった。しかし黒い髪に黒い瞳はなんだか陰気臭く感じたし、目が少し釣り上がって気が強く見えるところも好みではなかった。 

 俺の好きな女の子のタイプは明るい色合いの容姿をしている、美人というよりは可愛らしい、守ってあげたくなるような子だったからだ。

 

(その後、人というものは見た目では判断できないものだということを、嫌というほど思い知らされたが、全て後の祭りだった)

 

 

 

 婚約してから俺達は、月に一度ずつ互いの家を訪れてお茶を飲むようになった。

 アリスティア、愛称アリスは自分のことを知ってもらいたいからと言って、自分の趣味や好きな食べ物などの話をしてきた。つまりプレゼントには自分の好みの品を贈れというアピールか? 厚かましいなあ、と思った。

 そして俺のことを知りたいからと言って、色々と質問してきたが、鬱陶しく感じていつも適当に答えていた。

 

 そのうち俺があまり喋るのが好きではないと思ったらしく、彼女は俺にあまり話しかけてくることはなくなり、最低限のことしか話さなくなった。やがてお茶会はただお互いの家を訪問して、本当にお茶を飲むだけのものとなった。

 

(しかし大人になって思い出してみると、毎回ミラー家のお茶会では大分大切にもてなされていたことがわかる。

 いつも違う珍しい菓子やら飲み物が用意されていたし、帰る時にはいつも土産を手渡されていたから)

 

 

 俺とは会話ができないと察したアリスは、その後まめに手紙を送ってきたが、俺はそれを開封しなかったし、当然返事を返すこともしなかった。

 贈り物も捨てるか使用人に与えていた。その中でも彼女の思いが込められているハンカチは特に迷惑だった。あいつの刺した刺繍入りのハンカチを持ち歩くだなんて、到底そんな気にはならなかったからだ。

 

(アリスの刺繍の腕前はまだ子供の頃からプロ並みで、大金をはたいても手に入れたがる者も多かったそうだ。

 しかし、彼女はそれで商売をする気はなかったので、彼女のハンカチを持つことはかなり貴重なことだったらしい。

 後でそのことを知った時にはさすがに惜しいことをしたと思ったが、まさか今さら使用人に返してくれとは言えなかった。

 悔しいことに今でもローハン伯爵家にいる者達は、俺以外の人間は皆アリスの刺繍入りのハンカチを持っている)

 

 俺とアリスの関係は一向に深まることが無いまま三年が過ぎて、俺達は王立の学院に入学した。

 しかし三年間同じクラスになることはなかった。

 何故なら成績順でクラス分けをされていたため、俺がどんなに努力しても、アリスのいるAクラスには入れなかったからだ。

 そのことが余計にアリスを避ける原因となった。だって情けないじゃないか。女より成績が下だなんて。

 



 俺は自分では気付かなかったが、かなり見てくれは良かったようだ。明るい金髪にアイスブルーの瞳、そして背が高いことは女性に好かれる要因だったらしい。

 俺は在学中男女関係なく人気があった。俺は自分に婚約者がいることを隠さなかった。だからこそ安心感があって、女性達は親しげに話しかけてきたのだろう。

 

 俺はアリスのことを相変わらず好きではなかったし、学園内でも最低限の会話しかしなかったが、浮気をして自分の評判を下げるつもり気はさらさらなかった。

 だから女性にはもててはいたが、アリス以外の女子と付き合うことはなかった。そう、彼女が現れるまでは。

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