隔てる力。負の感情。そして……解除不能ッ?
――ホント疲れた。今日はもう駄目だ。もう誰も暴れんでほしいな。
封印の現場から帰る途中。疲れたなぁ、と思いつつ。
『暗神霊の暴走って、全部あんな感じなのか?』
こういう事は、今ンところ祓神霊のアミにしか聞けない。
この心の声に、アミが答える。
《そう……じゃのう、例外なく攻撃的になる。本人の気持ちの程度もほぼ関係がない。あんな風にならん時はなかった》
『マジかよ』
これは誰にも聞こえない会話だってことだけど……。
頭がおかしくなりそうだ、なんでも見透かされそう。まあ、仕方ないと言えばそうだけど。
《すまない、私の力で迷惑を掛けた》
『ちょ、えっ!……シカ? オオツノジカ?』
いや予想外過ぎる。
『話せるのか!』
《ああ。だがもうじき……》
『なんだよ、聞こえなくなるのかよ』
《そうだ。だから……この壁にも床にもなる……隔てる力……、そなたに……を……》
『えっ、なんて? おい』
路地を歩きながら――交差点では左右を気にしながら――頭の中で聞いてたのに、そこから先が聞こえない。いつまで経っても聞こえない。
『おいシカ!』何度も声を掛けたけど、返事がない。なんでだ。
『封印のせいなのか?』
《そういうことじゃな》アミの声は聞こえた。
あのちょっとのあいだだけかよ。もっと話せればいいのに。
『今日のはまだそこまで嫌じゃなかったけど、これから、こんなことに何度も付き合わされるっちゃろ? もっと酷い暴走の時も――』
《あるじゃろうなあ》
はぁ……。溜め息ばっかり出ちゃうよ。
きつい目に遭うこともありそうだし。そう思うだけで、こう、肩も下がっちゃうっていうか。
『やだなあ』
《まあ、これも運命よ》
『やな運命』
そう返したところで、一つ気になった。
『ああいう暴走って、事件と関係してそうやけどさ、なんか切っ掛けとかあるん?』
《暗神霊は負の感情に引き寄せられている節がある。共鳴しておるのかもしれんな。溢れ過ぎた感情が切っ掛けよ》
『――てことはどういうこと? あの人が勘違いだけど恨んでたから――?』
《うむ、そうだろうな》
『え、じゃあこれからも、そういう怨恨の事件が続くってこと?』
《さあ、それはどうやろうのう。今回は怨恨だったが、別なこともあるかもしれん》
『あ、そう……。どうであれ負の感情とは関わってくる、と』
《だろうな》
『はあ……。なんかなあ。まあ頑張るけどさ。……あ、そういえば』
《なんだ?》
『変身、解かんと』
俺、今、女の姿やもんな。このまま家に帰っても俺だと信じてもらえなさそう……。
『変身を解くのが見られない場所を――』
《それがな、真》
『え、なに?』
《今日はもう無理じゃ》
思わず足を止めてしまう。
『……は?』
混乱する俺に、アミが。
《どうやら私の能力を借りる力が真にもうない。枯渇しとるのよ》
『え、じゃあ』
《回復が必要じゃの。そのためにはその姿のまま数日待たねばならん》
『えッ? なんで!』
《なぜかというと、じゃ。お前は私の力を借りておる。そのためには姿を似せておる。解くための力も私に借りておる。分かるか? その姿で自分の力が回復するまで、変身解除に使う力を私に借りることもできん、というコトだ。それほどのスッカラカン具合はできるだけ避けろ、というコトだな》
『ちょい待ち。え、でもそれ、解除に使う力――の分だけでも回復すりゃいいってことやろ? そうよな?』
《まあそういうことだ。というワケだが……二日隠せるか? 今の段階でも、二回夜をしっかり寝て、翌々朝起きるまでくらいの休みは必要だぞ》
『ちょっ……え、うそぉん』
《それが本当なのよ》
『いやいやいやいやいや』
え? どうやって帰ればいいん? 今日だけじゃなく明日寝るまでバレずにいろって? どうやって?
とりあえず近場の別の公園へと進行方向を変えてみた。
誰も見てないよな……と辺りに目を配ってから、その公園のトイレに入る。
で、ドアを閉めて変身を解除してみようとする。《数秒念じるだけでいい》らしい。よぉし……。
って、念じてみたけど。
――本当に解けない……。
途方に暮れるってのは、こういうことか……。
薄暗がりの中。公園内。
どうすればいいんだよ、コレ。