霊気の高め方。真の制服にはアレが必須ッ? 新しい学校生活開始!
突然、祓神霊使いってヤツになってしまって、姿も女から戻れないから学校も変えたりした方が都合がよくて――、明日は制服を買う――と決まりはしたけども。
その日の夜になって、ベッドの上で悩んでしまってた。
――封印から出てしまった暗神霊を封じ直さなきゃいけないけど、相手が手強かったら? 封印成功のためにできることは、ほかにないのか?
頭の中で、祓神霊のアミの声がする。
《祓神霊の能力は、霊気という霊的な精神力のようなものを消費して行使される。真はまだ霊気が少ない。祓神霊の力を何度も使えば、私達から力を借りるための霊気も次第に多くなる、じゃから寝る前になったらもう使い切ってしまってよいぞ、そうして鍛えればよい》
つい首をひねった。
「明日戻れるかもしれんのに使い切っていいと?」
《だがその望みは薄いんじゃろ?》
「あー確かにそうやな……。まあ……だったらいいか。でもそんな夜に限って暗神霊の事件が起こったりして。それはどうする?」
《気になるなら、姉と交互に鍛えればよかろう》
――あ、そっか。忘れてた。姉ちゃんも祓神霊使い。協力すればいいったい。
「そうやな、それなら対処できる」
《うむ。それに、霊気を今のうちに高めておけば、変身の余力ができる》
「なるほど。いいこと尽くめなのかな、まあ戻れればだけど」
《そうじゃのう。……そして、元の姿に戻るために最も取るべきかもしれない行動というのが、『最後の一人を見付けること』じゃったか》
言われて頷く。「ああ、祓神霊使いの最後の一人な」
《うむ。弓矢、ナイフ、網、……最後のは熊じゃな》
「熊か。ちょっと人前では会いにくいかもなあ」
《そうだのう。暗神霊封印の現場に来てくれればいいが》
「そっか、そうだよなあ……俺達が駆け付けた所に、既にいたり、来たりしてくれれば、かあ……」
《うむ》
ふと疑問が浮かんだ。『あのさ。まさか突然戻ったりしないよな』
《それはないな。働きかけんと解除は起こらん》
『ホントに?』
《それに関しては間違いない。戻る力を掛けた時に途中で弾かれとる話もしたろ。力を掛けんと元に戻ることはない。安心せい》
『……なるほど』
――そっか、確認しておくべきだったな。もし突然戻ることがありえたら、滑りに行った時にやばかった。こういうことは気にしておかんとなぁ。
そう思ってから姉ちゃんと話し合って、今日力を使い切ってから眠りに就くのは俺の番、ということになった。
――そうと決まれば、とりあえず網を出したり消したりしとこ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、食事中に、スーツ姿の父さんが誰かとケータイで通話をした。
で、父さんが今しがた「よおしオッケー」とそれを切った。
「なにがオッケーなん?」
って、ご飯を飲み込んだ口で俺が聞いてみた。そしたら。
「転校手続きたい。それが済んだ。学力テストの成績が効いたぞ」
「マジか。ちょっとは頑張っててよかったぁ――」
つまりは今日、無事に、父さんの言う高校の制服を買いに店へと向かえることとなった訳だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
葦津山高校の制服や鞄。
買うことに迷いはない。……ただ一点を除いては。
店内にて提示されたパンフを見ながら、一緒にいる美鶴が言う。
「女子用のズボンの制服もあるからそれでも――。でも目立つよね。目立たないためにはスカートかなあ、周りほぼ全員そうだろうし」
ブレザータイプで色は紺。
ズボンやスカートは濃い灰色。
目立たないためにこのスカートを? まあ長さは十分だしそうそう妙な事にはならなそうやけど……。
「どうする?」
美鶴が問い掛けてきた。
正直、心許ない。
決断できないでいると、また美鶴が。
「ハーフパンツ穿いてもいいし、スカートでもいいんじゃない?」
そのあと美鶴が、店の人に聞こえないようにだろう、俺に耳打ち。
「暗神霊対策をさ、仕方なく制服でってコトになったら、やっぱり特殊な格好の時になにかあって目を付けられると、ちょっと……困るでしょ」
「そうだよな……そうだけど……」
うーん。と、悩んだ末。
「仕方ない、スカートにするか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
美鶴のお父さんの運転する車に乗って、美鶴が帰っていく――のを見送った。
その顔は明るかった。大好きななにかを自分のために買ったみたいに。
――あの姿での学校生活がそんなに楽しみなのか? 俺は不安ばっかりだってば。
見送ったあと、ちょっと溜め息。
「ほら早く乗りなさい」母さんに言われる。
「分かってる」と、我が家の車に乗り込んだ。
通い始めるのは明日の朝から、という話になっていた。
それまで時間を潰さないと。
車中でそう思い、帰り着いてから、すぐに自転車に乗った。パトロールの開始だ。
暗神霊の気配を――と思ったけど、結構な遠出をしても特に感じなかった。
――昨日、力を使い込んだから?
そう思ったらアミの声が脳内に。
《いや、暗神霊の暴走が起こっとらんだけだと思うぞ》
『暗神霊が気配を隠せるようになったとかじゃあ……ない?』
《それはない》
『じゃあ、また別の日にパトロールしないとな……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の朝。
父さんの友人が校長を務める高校――葦津山高校へ、バスで向かった。
敷地はまあまあ大きい。
正門から入り、正面玄関へ。
そこのドアを開けて入った校舎内、事務室の横らしき所には既に美鶴がいた。
父さんと同年代くらいのイケオジの姿もある。
彼が言う。
「なるほど、こういう二人ね。さてと。俺が校長の石岡滝司だ。よろしく」
「滝司さん。本当にありがとうございます」
美鶴が早かった。
「俺からも、あざっす」
遅れて頭を下げたものの、一応は二人並んでの一礼。
「話は聞いてる、なにかあったら相談に乗るよ、忙しいから捕まらないことが多いけどね」
滝司さんはそう言って背を向けると、また。
「まずは下駄箱を」
そう言って案内し、俺達の靴を置く場所を教えてくれたあとは。
「さっき通ったあそこの――職員室の前でとりあえず待っててね。じゃあ俺はこれで」
そう言うと去っていった。本当に忙しそうだ。
――時間はホームルーム前。
たった今職員室から人が出てきた。五十代くらいの男性教師。が、すぐこちらに気付いた。
「君達が転校生?」
「はい」俺達が頷く。と――。
「じゃあついて来て」
歩きながら、たまに振り返りながら、また彼が言う。
「二人とも同じクラスにしたから。その方が見守りやすいってさ。校長先生が決めたらしい。で、俺は担任の茅代力斗。社会担当だからね。よろしく」
美鶴は「はい、よろしくお願いします」と無難な返事をした。
「お願いします。ところで茅代先生、普段なんて呼ばれてんの?」
俺がそう聞くと、先生は親指をグッと立てた。
「リッキーでいいよ。――みぃ~んなにそう呼ばれてるから」
そういうことなら。
と、思ってから辿り着いたのは、一年三組の教室。
入ると、リッキー先生は、「席に着けぇい」と言いながら黒板に俺達の名前を書いた。
「網沢真心さんと、潟原充くんです。じゃ、みんなよろしくぅ」
――俺は天樹真に、美鶴は中村美鶴に、戻るまでの辛抱。間違えないようにしないとなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ついて行けないレベルの授業は特になかった。まあ、自分が優秀者扱いされる授業もほとんどないけど。
休み時間に、話し掛けてくれる子がいた。女の子が一人だけ。
「私、咲菜。咲いたあとの菜っ葉って書くの」
「へえ、その教え方面白い。よろしく、咲菜」
「よろしく。真心ちゃんはさ、休みの日とか、いつもどんなことしとうと?」
聞かれて少し考えた。
――本当のことを言おうか。嘘言ってもなあ。
――どっかで衝突があっても嫌やしなあ。男の時と結び付かなきゃいいんやし。
……よし、言おう。
「休みの日はスケートやってる。ローラーが一直線に付いたやつ」
咲菜が知らない可能性もあったので、形状の説明も。
すると。
「ああ、あれかあ。あれで、なに、スケボーみたいに技を見せるとか?」
「いや、実はあれで踊るのにハマってて」
「へえ~、面白そうやね、それ」
会話には困らなかった。咲菜は話しやすい。
横を見ると……やっぱり美鶴がチヤホヤされている。
ふと周りを見て思ったけど、男の視線は、チラチラ俺に向いてる。
女の姿でモテたってどうしようもない。俺にとって問題は美鶴だ。
でもまあ……一風変わった学校生活は、まあまあ順調には行きそう、かな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
授業の合間のある時、トイレから教室に戻ろうとしていた俺に、美鶴が廊下で言った。
「体育の時、胸、気を付けてよ」
「大丈夫、見ないよ」
「そうじゃない、いやそれもあるけど。真が見られちゃ駄目ってこと。私もほら、勾玉あるし」
最後だけ軽く耳打ちされた。周りに人はいないけど、そこだけはやっぱり。
「ああそっか。見られちゃダメやもんな」
「そうそう。じゃ、ほら、次の授業」
言われて「おう」と俺も教室へ。
次の授業のあとは体育の時間だ。気に掛けてくれたんだな。