美鶴とリビングで会議。ゲームしながら会議。一瞬イタズラ。
幼馴染の美鶴が家にやってきた――けど、美鶴は今、男の姿。しかも俺は女の姿――祓神霊使いとしての変身を解けずにいて――。こんなの誰にも言えないよなあ……。
こんな事になるなんて、と思いながらとりあえず美鶴にはリビングで座ってもらった、そこまではいいとして。
麦茶を入れて二人で飲みつつ、なにから話そうかと思ったけど、そんな時美鶴から声が。
「凛ちゃんから『珍しく真も休んでる』って話が回ってきたの。急なことだから念のため確かめに来た。違ったら協力してもらうだけにしようとしたけど――まさか予感が当たってるなんてね」
凛か。
同じ小学校に通っていた同年代の女の子で、美鶴とは仲がよかったなぁ……。俺とはほどほどだけど。凛には話してたのか。
多分、凛は単に面白がって知らせたんだろうな、『真は普段全く休まないのに』ってな具合に。――まぁ心配もあったかもしれないけど。
「美鶴やったなんてなぁ、あの弓矢の人が」
「うん」
美鶴は頷くと、麦茶を飲み干してコップをそっと置いた。そしたら思い悩むみたいな顔を見せた。
こうして見ると今の美鶴はかなりイケメンだなあ。
なんか変な感じだ。嫉妬心も芽生えない。
感動すら覚えて笑えてくる。一時的なもんだって自覚してるからかなあ。
まあとりあえず。
俺は自分の状況について話すべきだろうな。
「俺、今変身が解けないんだよ。その理由も分からん。回復してるのに解けないらしくて」
「私も」
「うん……え?」
思わず、美鶴の目を凝視した。
「え? 美鶴も? なんで?」
「さあ。それを私も知りたいのよ」
ええ? いったい、どうなってんだ? 俺ら二人とも?
急に、アミの声が響き始めた。
《茜には、ほかに異状がない……ということは、茜は正常に宿ったのかもしれんな。お前達二人は巻き込まれたのかもしれん》
『はあ? なんだそれ。そうだったとして、俺らどうなるんだ?』
《……さあ、分からぬ》
「リョウヤが言うには――」
俺が頭の中でアミと話しているあいだに、美鶴も似たことをしてたっぽい。
耳を傾ける。と、美鶴が言う。
「弓矢を扱う祓神霊にリョウヤって名前を付けたの、そのリョウヤが言うには――私達二人が正常で、祓神霊を引き寄せて、その要素の近くに兄弟や近所の人がいたから茜お姉ちゃんや別の人にも宿ったのかもって。それで、みんなで協力できるよう、引き合わせたくて、祓神霊使いとしての力が無自覚に働いているのかも……って」
《確かにそっちの方が正しそうだ》これはアミの声。さっきの意見を撤回。
『だな』妙に納得。
「じゃあ、えっと……」
と、俺が聞く前に、美鶴が聞いてきた。
「封印の蓋になった祓神霊は四体いたんでしょ?」
「あ、ああ、俺も確かそう言われたな。じゃあ、あと最後の一人と会えれば?」
「戻れるかもしれない」
美鶴がうんうんと頷いた。
可能性としては高いはず、と確かめてるみたいだ。
確かにとは思える。封印に四体必要だっていう話だった気がするしなあ。集められないと困るから。
美鶴は続けた。
「もしくは……私達二人が会えたから、戻れるかもしれない」
「んぇ? それは、なんで?」
「封印者がいたはずでしょ? 昔も。この……暗神霊が初めて暴れた時――」
「ああ……最初はサ……ナントカって人が封印したって聞いたな」
《サナミだ》アミが教えてくれた。
「ああ、サナミだ。サナミが封印した話なら聞いた。うん、それで?」
俺が聞くと、美鶴はお互いを手で示しながら。
「つまり、私達が封印者になるのかもってことよ、そのサナミみたいに。でも、封印者は一人とは限らないでしょ? 私達の世代なら――まあなにが原因かは分からないけど――二人でやらなきゃ駄目かもしれない」
「あー……なるほど。封印役が欠けたら駄目かもしれないから、お互いをちゃんと自覚して会わないといけないかもしれなくて……探せよ、って感じで無意識な力が働いてたかも?」
「そういう感じ」
分からんでもないけど、なんだかなあ。それが本当ならアミがなにか言うと思うけど。
俺が思ったからか、アミが言う。
《封印に人数は関係ない……とは思うがのう》
確定ではない……のか? ううむ。
考えてすぐ、提案してみた。
「じゃあ解こうとしてみらん? それが合ってたら、こうして会えた今解けるってことやん」
目をつぶって念じる。五秒ほど。
で、目を開けて確認。
うわ、マジか、解けてない。
「じゃ、最後の一人を探そっか」
美鶴がそう言った、残念そうに。同じく変身を解けなかったんだろうな。
俺も頷くしかない。
「そうやね、ひとまずは。どこにおるっちゃろな、残る一人は」
「そうね……」
探す方法は限られてる。他人の祓神霊の力については感じたことすらない。姉ちゃんが使ってる時も感じなかった。現象は見えているけど根幹の力を感じはしない。
《そうなのよな、探れた試しがない》アミも同意。
だよなぁ、と意気消沈してから、ふと気付いた。
「あれ? そういや俺も美鶴も学校に行けんってことよな、明日もこのままかもしれんし。うわ、やば、どうすればいいん?」
「それ、私も相談したいのよ、大人も含めてね。だからちょっと……今日はここにいさせてね」
「あ、ああ、うん」
という訳で、今日は久しぶりに二人で遊ぶことに。
まずはカーレースができるゲーム。
リビングのテレビで。
画面の至る所の変化を素早く目で追い、的確に操作しようとする。
「懐かしいなぁ」
「そうなぁ……美鶴が引っ越してからは会えんかったもんな。よっ」
「遠いからね、東京は。あ、そこだめ!」
「いつから福岡に戻っとったと?」
「入学と同時。あああ! それでさ、一人暮らし、したかったけどさせてくれなくて、親も一緒に帰って来た。学べる時に学ぶことに集中しなさい、協力するから、んー惜しい! そう言ってた」
「……あぶねっ! いいこと言ってくれんじゃん」
「まあね」
話の切れ目で、美鶴が超絶プレイを見せた。「うわ、今のうまっ」
だけどそのあと向こうから聞こえたのは返事ではなくて。
「落ち着いたら会おうとはしてたんだけどっ」
「ああ、でも、もっと早く会うことになったね、と」
「うん。しかも祓神霊を宿し合ってるとか。凄い偶然」
……ホントに偶然かなあ。いやまぁ偶然かもしんないけど。
実際のハンドルみたいに、たまにコントローラーを傾けてしまう。
そんな俺の脇を、美鶴がくすぐった。
「にゃ!」
自分でも驚いた。なんて声だよ。くすぐられたからって。
そう思う俺の隣で、美鶴がくすくすと笑ってる。
「酷くない? 反則やろ今のは」
「ごめんごめん、どんな反応するかと思ってさ」
何レースかしてから気になったので聞いてみた。
「美鶴の近所で暗神霊の気配は? しないの?」
「うん。今日はなかったね。昨日もなかったし」
「あ。自分でもその気配って感じられると? それともその――なんだっけ、リョウヤだけ? あ、カーブしくった」
「いや、私も感じるし聞こえるよ。あの低い音とかで――しょっ」
「それ! 姉ちゃんは感じないんだってさ! よし!」
熱中してしまって会話に集中できないが、今とても重要なことを話した気がする。その直感はあったからか、声も大きかった。
でもまぁいっか。
引き寄せる要素が謎だったけど、その要素が多分、探知する素養みたいなことだったんだろう。
加えて協力できる関係なら……とか? あるかもしんないなぁ理由として。
――昼時になって、美鶴が言った。
「ねえ、部屋を見せてよ、真の部屋」
「ああ、いいよ」
ゲームをやめ、片付けてから、部屋へと連れてくため手招きして。「じゃあこっち」