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ツルナルール



 あぁ飛び級なんか、するんじゃなかった。

ツルナは思った。


けれど、しなくたって、わたしには居心地の悪さは変わらなかったと思うから、どっちもどっちかもしれない。

 小さい頃から、周りと自分が同年代であるということが、どこか違和感があった。


友達と、ヒーローのおもちゃで遊ぼうと言われたときに「くだらない」と思った自分に、なぜか悲しくなったり、他にも、あれやろうと誘われるひとつひとつ、退屈だった。

頭が良かったわけじゃない。

ただ、退屈だっただけ。後輩でいるときには先輩のクラスの授業が羨ましくて、その学年になれば、既に卒業してしまいたくて。

そんな風に、退屈だった。


 なんで楽しめないの?と、感受性を理由にしようとしたこともあるけれど、まずはそもそもわたしは、みんなと気が合わないみたいだ。


 展開に想像がつくような漫画や小説よりは、図鑑や百科事典の方が面白いと本気で思っていたから、当時クラスで流行っていたいくらかのそれらに、そんなにいいかな? くらいしか思わず、かといって試すわけでもない。


当時に人気だったアイドルグループだって、なんだか嫌だとしか思わず、ただ跳ねるだけ。



可愛いげの無い自分。

流行に乗ろうともしないし、話を合わせる気もない。

つまらないわたし。


 学年があがればなにか変わるかな?

と、だから、必死に飛び級までして入った学園。


しかし――はっきり言うと、いまのところ、地獄。

理由は『人は歳を取れば大人になるわけではないから』だ。

わたしは単純すぎた。


ここはむしろ、あのときの同級生以上に、幼稚だ……

そう思えてしまうくらいに、学年が上がるくらいじゃ、何も代わり映えしなかった。


 相変わらず、話題は最近流行るアイドルグループや、わかりきった展開の漫画とかの話。

苦手だったすべてが前以上に、しかも年齢が上なぶん、よりエグい具合に凝縮されている。


そうか。

こうなるんだ。



ツルナは、現実に対し、無知すぎたんだと自らを嘲笑う。

 当時のクラスメイトからは妬まれ、疎ましがられて、ときどきわたしの陰口を聞くという。


 そして、そこまでして得た立場である今のクラスのメイトたちは、わたしから残念だと思われていてわたしも、そう思われることだろう。


……あーあ。


帰る場所も、行く場所もなさそうだな。



机に頬杖を付きながら、ツルナは息をはいた。



「おーい!」


声がして、ふと見上げると、目の前にフィルが立っていた。

この子は、昔馴染みだけれど、器の狭いわたしにも、わりと話しやすい。にたところがあるのだと、本人は言っていた。

美人で、すらっとしているけれど、どこか周りを寄せ付けない、それがフィルの印象だ。

それが心地いい。


「どうした、ぼけーっとして」


「ううん、別に」


わたしはあまり、弱いところを見せたがらない。

「……なんか、顔が真っ白だぞ?」


「な、なんにも無いよ」


「そうか?」


すっと指先から冷たくなり、ガタガタと震えることはあるが、よくわからないのだ。


 私は、いつ殺されていいように、嫌いなものを目の届く場所に繋いでおく癖がある。


ずっと握りしめたままだった携帯電話の履歴を、ちらりと確認して、

『あぁこれか』と思った。

 変な性格だ。

嫌いなものほど、手放さない。

脅迫症状。


目の届かない場所で何をされるかわからないから、手の届くところに置きたがる。


好きなものほど、遠くへ遠くへ隔離する。

いつ、嫌いなものに関知されるかわからないから、言葉に出すことすらもしないのだ。


「どうかした……?」


フィルは、不思議そうにわたしから携帯電話を掴みとって、画面を確認した。


「この名前。一級のストックマニア集団の人じゃない!」


純血クラスとはいえ、あまり穏やかではないからと、フィルは小声で、しかし、驚いた声で、私に言った。


「らしいね」


「……なんで」


「わからないの。覚えてない、そんなアドレスが沢山……」


ガタガタと震えているわたしに、フィルは席を立つように言った。


「少し、違う部屋で話そう」



 その日の時間はちょうど、放課後だったから、あとは終礼を待つのみだったけれど、わたしとフィルは、先生が来るよりも早く荷物を抱えて廊下を歩いた。



嫌いな人間は、あまりいない。

けれど、名前を呼ぶことすら受け付けなくなって存在そのものを受け付けない人間というのがいた。

顔を見るだけで吐くときもあるらしい。


そして、わざわざ、もらった連絡網は所持する。いつでも拒否できるように。


これは、わたしの呪いに関係している。

わたしが好きだと思うものは、大抵力づくで奪いたがる人間が群がる。


理由はわからない。

 フィルが言うには、


あるときには、半ば脅されながら何もかも奪われたらしいのだ。

深く、覚えてないけれど。

昔から、自分のものを

なにひとつとして所有出来ない。


 お気に入りだったマグカップとか、そんなものまで、家に来てまで盗まれたりする。

美術の宿題だって、全く同じものを他人が作って先に出したりする。


周囲は、なぜかわたしに成り代わろうとして、無理矢理でも下の立場にさせたがった。


いつも、押さえつけたらしい。


らしいというのは、あまり、はっきり覚えていないから。


それから、わたしは壊れてしまったのかもしれない。

嫌いなものばかりを、周りに集めたがった。

 廊下を歩きながら、フィルがまさかまた、とよくわからない心配をしている。


「ううん、平気、たぶん……」


「ならいいけれど」


「わたし、なんで何をしても、みんな盗られちゃうんだろう?」


「そうだ。

心の中なら、絶対盗られやしないよ。

形に残るものは盗めても思っていることだったら、人それぞれだもん」


「……」


わたしは、なにも言わずに、にこりと笑った。

それも試してみたよ。


やっぱり、かわらなかったよ。








■◇■◇■◇




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