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幽霊先生




「その点、あの水色の子、さすがだわ……」


黒いものを操っていた私たちに向けて、いや、もしかしたら黒いそれに向けたかもしれないが。


『あの日』メイルは言った。


『失うものは失った。あなたたちも、知ることは知れた。

だから、これからはようやく敵同士。


仲良くしましょう』



私たちは、やっと敵同士になった。

それは、因縁をつけたい相手の眼中に自分が居るかいないかの差。

家族を失ったとなれば、嫌でも眼中に入る。


友達は無理でも、この方法で『敵』に、なることはできた。


「敵であることは、私も望んでいた……フフフ……フフフ……隠してあるあなたの本音を聞いたなら、もう、敵ね。

完璧に、敵になれた」



敵同士、と目をつけたときから言い続けたが。



ようやく、これからは、「あおり文句」が効いてきたというところ。

 どんな事情があっても、下手な情けはかけない。これが敵のルール。


「なのにあの男と来たら……混ぜてくれといいながら、中途半端な仕事!」


むしゃくしゃして、背中の剣に手をかけそうになったところを、小柄な銀髪の少女が止めた。

青く大きな瞳は、悲しそうに揺れている。


「だめです、ルチアノ」


「あら、あなた……」


「だめです」


神出鬼没な彼女は、学校にいる幽霊であり、教員だ。足もとはひらりと長いスカートが揺れている。


なぜ、幽霊が教員なのかは誰も知らないが、自分の手で、教え、それにより幸せなこどもを見るまでは成仏出来ないと言い続けるようだった。


「八つ当たりなら、お家にかえってからにしましょ?」

「や、八つ当たりなんか」

ルチアノが怒りで顔を赤くすると、幽霊教師はにっこり微笑み、あなたはいいひとなのです。と、言う。

「ね、その剣をおしまいになって」


「……はい」


関わると面倒そうなので、ルチアノは素直に従った。

けれど、戦わずして得るものなどないのだ。

友情や恋だって、戦いなのだから。


敵というのは、人間関係に無くてはならないとルチアノは考えている。

なくてはならない存在として認められることは、普通に、メリットではないだろうか?


「偽善者っ」


ふ、と息を吐き捨てて、ルチアノはさっさと廊下を歩いていく。

走っちゃいけませんよー、とどこかから聞こえた。



「敵になって良いことなら思いつくわ。でも、味方になって良いことなんてひとつも浮かばないじゃないの!」


ルチアノは欲しいものが特に無い。

 持っているものだけで充分なのだ。


それなのに、その持っているものを奪われたとしたら、どうやって生きていけというのだろうと、嘆いた夜があった。


けれどそんなある日、彼女の前に現れて戦おうと言ったメイルに、救われた。


私は倒す。

残ったのは戦う生き方だけ。


故郷も家族も理解者もない今……『やつら』がズタズタにした今となっては。

もはや、戦いがなければ生きる目標を亡くしてしまう。


手を取り合うだけで、崩れ落ちるだろう。

敵として張り合う相手の方が、ずっと心の支えとなっている。


「全然理解しないくせに、偉そうね、あの先生」


ルチアノは自嘲気味に笑った。


決めていることがある。『敵』が『消えた』ら、手を取り合わなきゃならないなら、私は自殺しよう。

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