動き出す刻(とき)~まけんきがつよい~
「フィルローグ家のお嬢様、ごきげんよう」
目を開けたとき、フィルが聞いたのはそんな声だった。
いつのまにか魔犬(気が強い)は大人しく主人の手元に戻っている。
「私はルチアノ! フィルローグ・デザイン社には世話になってるわ!」
ツインテ金髪美女(気が強そう)の愛犬が、こいつなのだろうか?
フィルはしばらくぽかんとしていた。
「ミドリが粗相をしたようね、ごめんなさい」
「間に合ってよかったぁ。もう少しで天国に向かうとこだったわー、わんちゃん共々」
フィルが笑顔を向けると、彼女はぼそっとなにか呟く。丸腰ならと思ったけど、反撃にあい、さすがに死なれちゃ敵わないというのがルチアノの本音だ。「まぁっ、とんでもない。ミドリは、ルチアノ家の光!」
大袈裟なくらいに驚いて見せるルチアノ。
「放し飼いはいけないと思うわよ。寮はペット禁止だし。犬に噛みつかれて死ぬなんて嫌だもの。
家の光なら、首輪でもつけてきちんとしつけなさい」
ギャウギャウ言っている家の光 だが、ルチアノが撫でるとうっとりした表情も見せる。
「で。何しに来たの?」
フィルは改めて、冷静に問う。
「少し、あなたに来て欲しいところがあるの」
「来てほしいところって、どこ?」
フィルが怪訝そうにするのも気にせず、ルチアノはその腕を引いて部屋の外へ向かおうとした。
しかし、立ち止まる。
「……」
ルチアノは廊下の奥をうかがうようにしながら、進もうとはしない。
「な、なに?」
「あなた、本以外でも戦えるわね」
キッ、とにらむような目。戦いを示唆されているのだろうか。
理解が追い付かず、フィルは何も言わなかった。
「結界《管理者》は、ただの純血ではない」
「父様の、こと?」
「あなたもよ、フィルローグ!」
強い口調で言われて、なにがなにやらで戸惑う。
「敵が、居るの?」
フィルは握りしめた本にそっと手を置きながら聞く。
「残念ながら。誰かが侵入してる気配はさっきからあるわ。
まさか気付いてなかったの?」
呆れられたが、彼女はそれよりも侵入者が気になった。
「いい? 私犬死はごめんだから。
今から言う通りにしなさい!」
びし、と指をさされて、フィルはあっけにとられた。
2019 1/18 0:59