プリンセス・コネクト
――突然だった。
「プリンセス・コネクトォ!!」
という甲高い声。
そのあと爆発音がして、廊下に煙が舞った。
「え……っ」
「な、なに」
リークロードとツルナは二人とも驚きに固まる。
冒頭の台詞や爆発は、職員室よりさらに奥……の方から聞こえた。
そこに居たのは、ピンク色した拳銃? を両手に持った少女だった。
肌が白くて、髪も薄い水色のような白のような儚い色合いをしている。
「おっわあ! そこにおわすは、リークロードの子と、ツルナルールだぁー! あはっ。あはっ!」
その子は天井に穴を開けたらしく、砂煙を頭に浴びていた。
「んー、そっちに流れた雑魚は、消えちったか」
「そうみたいですよ。アサヒナ先輩」
リークロードが、引き気味に彼女に答える。
「つーか、俺が」
二人の関係性がわからず、ツルナはおろおろ。
「っふふふ! 面白! 知ってるよ。そこのツルナが結界を投げつけたこともね」
ツルナは思わず頬を赤くした。
「きみ、ここが狩り場と化してるのを知らずに入ったのかい?
この先、武器がないんじゃやってられないよん。
『黒いの』はどこからでもわいてくるんだから」
リークロードがひそひそとツルナに囁く。
「あれは、討伐一家の一人で、アサヒナさん。
毒入りの弾丸を撃ちまくっている。
この学校にも出入りする権限があるんだ。
『プリンセス・コネクト』には当たらない方が良い」
「そうそう! よく知ってんね」
横から入ってきたアサヒナはうんうんと頷いていた。
「まー、ちょっとした痺れ薬だからさ、即死するわけじゃないよ」
当たらない方がいいのは変わらないけど、と彼女は楽しそうにわらった。
☆
「今は緊急事態だからね、私も好きに出入りしてるんだぁ」
まだ煙の残る銃口の先を見つめながら彼女はニッ、と笑った。
「あの……!」
ツルナはぷるぷる震えながら強く声を出した。
「私、私にも、強くなることができますか」
彼女は考えていた。
討伐隊はよくわからないけど、自分も此処を、誰かを守る存在になりたい。
「あははは!
きみは充分に強いって。あれだけの啖呵が切れるんだからね。
でも、そうだね、素手では倒せないから……」
彼女は、ぽい、とその手に向けて鍵を投げてくる。ツルナは慌てて受け取った。
「それは、そこの廊下の階段下の倉庫、その入り口の鍵だ」
「そこに向かいなさい」
そう告げたら、アサヒナはまたどこかに去ってしまった。
◇
ツルナは、ドキドキしながらそこに向かった。すぐ後ろにある階段……の真下にはわずかにスペースがあって、地下へ繋がることは知っていたけれど、
いつも施錠されていたから入ったことがない。
「……お、おじゃまします」
中は薄暗くてほこりっぽい。
あちこちに蜘蛛の巣があり、彼女には精神的にもなかなかクるものがあった。
「うえ……」
ドアがバタンとしまるのは恐ろしいので、間に近くにあったモップをかけて、しまりきらないように細工した。
「これでよし」
「おー。相変わらず不気味ぃ」
後ろについてきたのは、リークロードだった。
「……」
ツルナは、得たいの知れない男の子と、得たいの知れない場所に入るこれも、精神修行のひとつだと思った。
異性が嫌いというわけでも同性が好きなわけでもないが……
体力負けするのはわかったし、もしも彼が変な気を起こしたら確実に死ぬだろう。
こんな不気味な場所に取り残され、そんな目にあったら、ひとたまりもない。
男はいいなと適当なことを思いつつも、頭を振って感情を落ち着かせる。
彼が悪い人と決まってはいない。
「……帰りたーい」
「入って三秒で泣きそうになるな」
「うぇえ……リークロードくんは、なんで平然としてるんですか」
彼は意地悪な笑みを浮かべていた。
「お前の挙動不審が面白い」
「死ね」
ツルナは最悪な気分になりそうだった。
「人に向かって死ねはないだろ」
「じゃあ私が死にます! うううう……」
「死ななくていいだろ、少なくともまだ入り口だ」
かたかたと震えながら、ツルナは部屋の奥を目指す。壁にスイッチを見つけて電源を居れるとぱあっと周りが明るくなった。
そこには棚があり、様々な瓶などや使わなくなった教科書がつまれていたけれど……
壁に、ひとつだけ、ツルナの目を惹くものがあった。
「おお、なかなか質が良いな」
壁に立て掛けられた『それ』を、あとからのぞいた彼も褒めた。
「たぶん、それをお前にということじゃないか?」
「い、いいのかな……」
壁からゆっくりはずすと、ツルナはそれを背負う。
「使い方はわかるか?」
「平気。練習する。すぐ覚えるわ」
そこには強い覚悟があった。