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魔犬と遭遇!?


――血を、

眺めていた。


彼の目の前の壁にはブラシでもそう楽には落とせないしぶきの跡。


キョロ充か、鶏みたいにあたりを見渡した後に、にやりとわらった。


いい出来だ。


こんにちはとチャイムが聞こえたから動転した。慌ててドアを開けると男が居る。

ところどころ緑の髪色は、中途半端でまるで黒色を途中まで弄って放したような感じだった。

 それをとがめられようとも、彼は直さない。


ドアを開けた客は、話をしたいですがいいですかと言ってきて、構わないと言った。

けして後ろを振り返らないよう、悟らせないように。



「今、緊急で寮に居る生徒の点呼をしています」


知らない先公が彼を心配そうに見つつ言い放つ。あぁ、そう。

まあ確かに事件だもの。笑いを噛みころしながら彼は「ごくろーさんだね!」と言った。


あぁー。

部屋に入られたら終わりだぁ。


せんせい、だめ、だめっ!


心の中は、かなりぱにくっていたりする。


 彼は、『住民』ではなく生徒のふりをしている。あれやこれやを偽造して生活しているストックフィリアである。

 なぜだか納豆に執着を持ち、やたらと納豆を食べる生活をしているということと、中二病以外に、特に珍しい点はない。

 鶏に似ており、頭には逆立てたトサカがあるくらいだが……

これは人間の髪型だ。


先公、は次に彼には、うげげ、となりそうなことを言い出した。


「今から、ロビーにみんなで集まります。いいですね」


ロビーだって!?

コ、コケー!!!


「他の生徒は移動してますよ! あなたも急いで。

今、幽霊先生から結界が数ヵ所ほつれていた連絡がありました。


侵入者が潜んでいるかもしれません。

一人になってはならないのです」



あぁー!

あぁー。だめだぁー。

仕方ないなぁー。

コケッ。


「先生も、一人になっちゃいけませーんよ?」


ザクッ!!


先生の脇腹に、彼、の持つ刃が飛び込んだ。

が。


サッ、と避けた先生は、気がつくと彼の右手をひねり上げていた。

刃を拾い上げて、そして微笑む。


「ああ、あぶないなぁ。寮の規則違反ですよ」


「お前、なん……で」


チッ、と舌打ちした彼は即座に開いていた窓から飛び降りた。


「あっ、待ってください!」


先公、も、はっとして部屋に入る。

そして気がついた。

いろんな人の写真が、

彼の机の上に大量にならんでいること。



それから、壁の血に。






◇■◇■◇■




 昨夜のおそい時間のことだった。



「正直言って人間不信。気が合うなって、思うと大抵おっさんなのよ!


嫌だ!

サエズッターとかさあ!

顔がわからないからなのか、私の心が男なみなのか! 次こそ女子だーって思って話しかけたら、やっぱり男なんだよ。わかる?」


寮の中でフィルは悶えて、親友にでんわをしていた。


「ふふっ、あはは、フィルったら、おもしろい」


ツルナルールは、くすくすと笑い声をもらす。


「ネットにゃ何人男がいるんだよ! むしろネカマしかいないんじゃないの」

「うーん……、どうなんだろうね」

「『女子としてわかります!』とか言い出すのが、8割おっさんだし。料理画像にやたら素材気にすんのもおっさんなんだよぉ……」


「謎の経験値が身に付いたねー」


「クローンと、私たちの境目がないとこが、いいとこだったけど。

でも、こうもおっさんしか居ないと、凹むわ」


おっさんが悪いわけではないことは、フィルもわかっていた。

フィルが閲覧するジャンルの割合がいけなかったのかもしれない。


 彼女は哲学やら何か難しそうな話が好きだった。しかしクラスメートの女子は、アイドルやらスポーツ選手やら彼氏で忙しい。とても、そんな話題を持ちかけはしないだろう。


だからこそ、クローンとも自由に交流の出来る『広場』のそういったカテゴリにアバターを置いたことがあった。


趣味の合う同年代くらいの同性の友人がほしかっただけなのだが。


「アバターが女子なのに、8割おっさんなのよ……しかも、年齢鯖読みなのよ」


フィルが知ったのは、ネットでおっさんにしか好かれないのではという懸念と、人間不信だった。

「うーん。やっぱり、たぶん、目で見ないと人ってわかんないよ」


ツルナは親身になってフィルをはげます。

彼女は恋人に興味がない。しかし、話や波長の合う女子もいなかったのでツルナは貴重な友人だった。

だからこそ重く思われるわけにはいかないし、友人をもう少し広げたいものの、

クラスには居なさそうだし、ネットで絡もうと出てくるのはひたすらに、おっさんだった。


こういうとき、救われる気分になり、甘えそうになる。


「だよね……」


……。

いや、おっさんが悪いわけじゃない。


ただ、世間の目がよくないのだ。


 要は散々だ。

ネットからつきまといに発展するおっさんまでいるせいで、

フィルは『たぶらかす』『遊んでる』『男好き』とまで言われている。

実際は、誤解でできた根も葉もない噂だ。


「私だって、おっさんばかりと絡みたくないのよっ! ツルナがあと三人くらいいればいいのにっ」


ぐすっ、と鼻をすするフィルに、ツルナルールはいつものへにゃんとした笑顔で言ってるのだろう言葉で慰める。


「あ、諦めるには早いよ~。おっさんじゃない人だって、お友だちになってくれるはずだから。私みたいに」


「……そう、かな」


 おっさんが悪いわけじゃなくとも。

自信は、無くす。


フィルがパソコンの電源を落とすと同時に、部屋のドアがノックされた。

「あ、はい。ちょっとまってて~」



携帯通話を保留にして、彼女はそちらに向かった。

 ドアの向こうに居たのは、大型な犬だった。

目をぎらつかせ、獰猛さをたたえた視線をもって牙を剥いている。

獲物を狙っている。


まるで……魔犬だ。


「いぬ?」


フィルは不思議がった。なぜなら寮はペット禁止なのだ。


気が強い魔犬が現れた!

彼女は頭の中でテロップを引き出してみたが、あんまり愉快にはならない。


ドアがだんだん開いていくうちに、観察しようとして顔をあげたときには、犬、にしては少し、足が、倍の数あり、頭も4つに分かれていたことがわかった。


「ま、魔犬だ……!」

 やはり、気が強い魔犬で間違いがなかった。

それか。

魔改造されたクローン犬!

彼女は近くにあった分厚い辞書を手にする。


「怪我したくなかったら、おとなしく下がりなさい!」


頭のひとつは戸惑いを浮かべ、もうひとつはりりしく睨み、もうひとつはグフグフと笑い、もうひとつはきゃんきゃん吠える。

同じ胴体に繋がるが、それぞれの人格を有していた。

涎をたらしながら、一番メインの頭がしゃべる。

「うわんっ! てめーぇがァッ!純血っつーワケダヨナァ!! 違うかァ!?違わねぇんだよ!くたばれ!」


この魔犬……そうとう気が強いみたいだわ。というか私、まだ何も答えてないわよ。

グアアア!

と魔犬は勢いよく飛び上がってくる。

フィルも、辞書を手に応戦した。どうにか二匹は倒せたものの、油断したすきに、足元がすべる。

「きゃっ!!」


ぐわり、と大口が開いていた。


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