メイルとツルナルール
「クローンと、
純血の人間、花たち……
彼らが
つがいになることは、
『ひも』になれる、と、
信じられてきました」
しかし、これを見てください。
リライト先生が、黒板を叩いた。
メイルは、昨日の戦いで疲れてほぼ眠っていたが、その内容はぼんやり聞いていた。
「普通の人間と、
『我々』がつがいになってからの、
自殺や病気率の推移です。
劣等というわけではないのですが、我々が生命として優れているという思い込みはまだ社会に根強く、
同じ空間にいるだけなら、いい影響もありますが、
我々とつがいになった
クローンたちの多くは、
『ひも』になるどころか、迫害を受けたり、
自殺をする傾向がありました。
また、殺人におよぼうとする確率も、30パーセントほどに高い年代もありました。
」
誰かが、質問している。
「ひも、には、なれないということですか」
「難しいでしょうね。
逆に、そのような考えでつがいになったクローンの身が潰されていくケースが数多く、」
そう。
メイルは、うとうとしている微睡みのなかで、考える。
(私の家族を殺したやつらも、そんな甘い考え、誰かの蜜を吸って生きようという、馬鹿げた思考が、スタートだと思う)
利用など、できやしない。使えないものを持った人間は、結局無理をして壊れるだけなのである。
「その幻想を、壊していくことも、つとめだという考えも今は出始めています」
釣り合わないものがつがいになった、という周りからの嫉妬や、
『ひも』への根拠のない憧れや妬みで、
逆にクローン同士の揉め事になったりもするらしい。
クローンと、私たちが関わるのは棘の道だ。
そして、利用してやろうという考えをもつクローンは、その大抵が組織ごとつぶれる。
結局、わかりあえるわずかな人間同士でしか、
生きていけないのだろう。
「まぁ、混血のひとと結婚した人だっているんですよね。
私の婚約者も
『私はどんな目にあってもいい。
あなたといられるなら、いじめられても、誰から批難されても構わない』
と言い切ってくれた相手だったんです」
キャーキャーと、クラスメイトが高い声をあげる。この先生は、既婚者だが、ファンが多いのだ。
「一人でいたときの方が、まだマシだというような目に何度も合わせてしまった。
家族からも沢山否定され、同僚からも嫌みを言われたりする……
正直、普通の相手と結ばれるのが、幸せだと思います。
なのに、別れないというのだから、強いですよね。苦しむだけなのにな」
「そこが好きなんですね」
「先生、もう一人お嫁さんいりませんか! 私とか」
休憩時間、自分の席で寝ていたメイルのもとに、ツルナがやってきた。
「メイルちゃん、昨日、探してたのよ」
「え……そうなんだー、ごめん、用事があったの」
昨日は、『彼』と、戦闘をしていたのでメイルはそれで疲れて帰宅した。
「なにか、用事だったのかな」
「ききたいって、前に言ってた、『ロマイシン』だよ」
ロマイシンは、覆面バンドでありながら様々なタイアップで話題となっている。
そのCDを聴きたいと言ったのをツルナは覚えていてくれたらしい。
「今日渡せるけど。どうする?」
しかし教室では渡さない。ツルナはこそっと小さく囁いた。
それには理由がある。
ロマイシンはクローンの人物のバンドだから。
純血至上主義のクラスメイトも居るので一応気を遣っているのだ。
「ありがとう、ツルナ。昼休みに、ここを抜けて渡してくれないかな」
「うん。わかった」
校内放送がなったのは、そんな朝のいつも通りの流れの中だった。
「さきほど校則に違反した生徒が二名、殺害されたのが発見されました。純血生徒の皆さんは、教室から出るときは必ず誰かと行動してください。
結界が緩んでいる箇所を見つけたときは、騒がず、すぐに職員に連絡してください」
穏やかではない放送に、メイルたちは、戸惑いながらもしかし冷静だった。なぜなら、常にその心構えを聞かされているから。
しかし、それが誰、なのかはわからない。
教室を見渡すと、今日はフィルは来ていなかった。
「……まさか、ってことはないよね?」
ツルナが言い、メイルはうーん、 という感じに唸る。
「どうだろう。それより私、だとしたら討伐にいかなくちゃ」
「女が一人で討伐に行くって?」
横から声。
振り向くと冷ややかな目をしてる、ロデナリークロードが居た。
「リークロード君」
ツルナがわわっ、と驚いた顔をするが、メイルは昨日あったばかり。
「メイルがいくら強くたって、俺にさえ敵わないやつだぞ?」
「そんなことないわよ」
小さな火花が散っている。ツルナは横であわあわと慌てた。
「二人はっ! いつのまに、仲良しだったの!?」
「は?」
二人がいっせいにツルナを見た。
「いやいやいや」
「そんなんじゃ……」
あまりに息が揃うので、ツルナはさらに気になるばかりだ。




