4日目後編:女騎士
ついに初めての死者が出てしまった……
図書館に戻り、かなりの沈黙を経て、今後の善後策が話し合われた。灰皿の一撃は、たぶん、そこに溜まったニコチンが染み出した水が目に入ったか何かでのたうちまわったのだろうということになったが、そんなことを狙って再現できるかどうかは怪しかった。火を恐れるのではないかという不確かな考えから、図書館の入り口外には増設したバリケードに加えて、図書館にある机をスコップで叩き割って大きな火を焚いていた。図書館内部から消火器やらの武器になりそうなものを集めてみたものの、スコップ以上に強い武器はなさそうである。当初の予定ではとっくに図書館を出発しているはずであるが、こんな装備では誰もそれを口にするものはいなかった。外で燃えている机はニスか何かの影響からか薪を燃やした時よりも多く黒煙が立ち上がっているように思える。
遅い朝食の後、何をしていいのか分らぬまま呆然としていた。呆然というのは無能の証である。この世界で敵を倒す力も、食糧を確保する能力もなく、それどころかこの図書館に押し込められて出ることすらできない。
武器を何か作ろうと四苦八苦してみるが、スチール製の書架を分解したフレームが一番まともな武器になりそうであるが、こんなのであの怪物を倒せるわけがない。松田君がぼそっと呟いた投石用のスリングを作ってみるが、手ごろな大きさの石はそうそうなく、何より練習が必要そうである。
結局たいした準備もできないまま正午が近づいてきた。今日も同じ方向に狼煙が見えている。木下君の呆気ない死と相まって、暗澹たる気持ちが膨らんで行った……。
「おい、な、なんか馬か何かに乗った、そのっ、何かが来た」
上の階にいた高部君が松田を引き連れて駆け下りてきたのはそんな時であった。遠くから何かが近づいてくるらしい。あまりの慌てぶりに「何か」を連呼しているが、彼の表情やこの状況は、それを笑う気も起こさせない。とりもなおさず入口のバリケードの前に集まり、身構える。足が震えているのが自分ではっきりと分かった
「誰かいるか!?」
外に到着した一団は馬に乗った人間のようである。安堵の気持ちと同時に疑問が沸き起こる。
「えっと……日本語ですね……」
山田さんがその疑問を呟く。
「だ、大丈夫っすかね?出てった瞬間に斬られるとか……」
「た、たぶん……敵意あるようには聞こえないけど……」
小谷君の不安に対して自分自身に言い聞かせるように辻野さんが答える。全員が固まる中で真っ先に動き出したのは瀧本さんだった。慌てて、後ろについて出ていく。
「お前ら!あの狼煙が見えないのか……ん……?」
外にいたのは7騎ほどの騎士であった。先頭にいて喋っているのは金髪で透き通った肌をした女性騎士であった。相手も何か疑問を思ったらしく、数拍沈黙が流れる。どうやらというか、果たして、中世ファンタジー世界に紛れ込んだことだけははっきりしたが、それ以上に驚くことは、やはり……
「日本語だ……」
山田さんが先ほど言った疑問をつい繰り返して、口に出してしまったようだ。
「ニホンゴ?なんのことだ……それよりもその出で立ちに、この見慣れない建物……転移者か?」
転移者と言う言葉が何を意味するかはだいたい予想がつくが、そういう言葉があるということは、どうやらこの世界では自分以外にも同じような人がいるということである。
「ふむ……とりあえず、小休止。火もあるようなので水を沸かさせてもらいながら、話を聞かせてもらいたいが良いか?」
こちらが無言のまま立っているのを認めたその女性騎士が号令をかける。背後の騎士たちが馬を降り、準備をするところを見ると、この女性騎士が部隊長のようである。部下にも2人女性らしき人がいる。こういった職種に女性がいるというのは珍しい。
「ええとですな……」
そんな疑問を感じても仕方がないため、言われるままに年長者の後藤さんがこれまでの経緯を簡単に説明してくれた。どうやら、というよりは、案の定というべきか、怪物はファンタジーの世界で聞いたことのあるトロールと言うらしい。
「死んだ者には申し訳ないが、武器もまともに持たずにそれだけで助かったのは幸運としか言い様がないな。しかし、トロールまで出現しているのか……」
女性騎士は唸るように言った。こちらは状況が掴めず、押し黙る他なかった。
「ああ、すまない。そなたがたには何なのか全くわからないだろうな」
こちらの表情を読んでか、説明を加えてくれる。
「この地域で魔物の大発生が起きたようで、街まで避難しろという合図の狼煙だ。で、我々は、発生の規模の調査に回っている」
なるほど。そんな中、避難もその準備もせずに呆然としていた我々を発見してくれたということだ。
「水を汲んでまいりましたが、いかがですか」
「ああ、やはりこの者達は転移者らしい」
「なっ!!」
「で、どうやらトロールがすでにここまで来てるらしい」
「……なるほど」
女性騎士は水を汲んできた部下と言葉を交わす。ただ、気になるのは、トロールの名前を聞くよりも、転移者という言葉を聞いた時の反応の方が大きいように感じた。さらには、それを聞いた部下たちの視線が、敵意とは言わないまでも、かなり疑念のこもったものに変わった気がする。気のせいかも知れず、その反応に対して質問をすべきか否か躊躇してしまう。その躊躇の間に滝本さんが口を開いた。
「あの、大変失礼な質問かもしれませんが、転移者と聞いた時に、騎士様たちの顔色が曇ったように思うのですが……」
「……いや、他意はないんだ。気にしないでくれ」
そう言って言葉を濁すが、やはり何かあるように感じる。滝本さんも同じことを感じているらしく、じっと相手の瞳を見つめていた。その視線に対して、女性騎士は頭をふって言葉を続けた。
「転移者というのは本当にごく稀にしかいないのだが……一般的に転移者は、その、なんというか偏屈者というか、こちらの世界になじまないというか、そういう者が多くてな。全員とは言わないが、それでトラブルを起こす者もいるのが事実なんだ」
なるほど、具体的なことはわからないが、先ほどの反応と視線には合点がいった。合点はいったが、いきなり自分たちにはどうしようもない負の情報を突きつけられて狼狽えてしまう。
「いや、そんなたいしたことではない。胡散臭いと思われることはあっても、少なくとも我が国では差別はされないはずだ」
フォローをしてくれたようだが、少なくとも我が国では、ということは差別される国もあるということである。
「ま、なんだ。その話を戻そうか」
釈然としないものの、考えても始まらない。何よりもこの危険な場所から脱出したい。差別だのなんだのとは考える心の余裕はない。
「ここから、まず半日くらいの距離にある集落に現在避難民が集合している。そこから護衛をつけて街に避難してもらうことになる。かなり大規模な魔物の発生らしく、この地域の手勢では、この地域を放棄する可能性もある。一時的な避難でなく長期になることも覚悟してもらいたい」
「……ここには戻ってこれない、と?」
「そうなる可能性は高いかな……」
「……」
思わず聞き返してしまった。自分でも今気づいたが、どうやらこの図書館に未練があるらしい。
「魔物に占領された地域も、準備さえ整えば奪還できるし、どうやら発生している魔物は知性の低いものばかりのようだから、数年経ってもこの建物は残っていることも十分期待できる」
そんな自分に気づいたのか、気遣いから無理やりにでも安心材料をくれているように思える。ただ、たとえ嘘でも今避難する以外に選択肢はないように感じる。
「話の腰を折ってすいません。避難の件続けてください」
「いや、大丈夫だ。それでだ。距離的に今からここを出ると人の足だと夕暮れを超えてしまう可能性が高い。魔物の多くは陽の光に弱く、昼であれば安全に行動できるはずだ。明日太陽が昇ってから移動すれば良いだろう。これが地図だが……」
そういうと彼女は、雑嚢から羊皮紙の地図を取り出し説明を始めた。
「ちょっと待ってください」
山田さんが小走りに建物の中に入って行き、紙とボールペンをとってきた。
「ああ、書き写すのか。そこまで複雑な道程ではないから、大まかで……なんと、上質な紙だな……是非とも少しほしいものだ」
当然、中世であれば驚かれる質なのだろう。図書館だけあって、印刷室にはかなりのストックがあるはずである。と言っても、自分たちにこれを作れるわけではないのだが……
「もし、良ければ後でお分けしますよ。それよりも、えっとこれが川で……?」
「ああ……えっとだな……」
女騎士の説明を受けながら、山田さんが描き写していくが、上手いものである。地図が描き写せた頃には、ひとしきりこのあたりの地形が把握できた。後藤さんの説明するように丘陵地帯に流れる本流の川に小川がいくつもん流れこんでいるようである。その川沿いにいくつか集落があり、さらに河下流へいくとさらに大きい川に流れ込むらしい。
「それで、紙のことなのですが……あの……その……交換に少し武器か何かを分けていただけないでしょうか……」
山田さんは描き終わった後に、おもむろに顔を上げると、おずおずと言った。疑念を持たれている我々に何かを分けてくれなど、もしかしたら失礼なお願いではないかと考えてしまう。
「ははっ、いや、それでいいと思うぞ。これから避難生活で最低限の食糧は救貧などで貰えるだろうが、何かと入用となるから、貰えるものは貰った方が良い」
豪快に笑うその姿に安堵しつつも、避難生活、救貧、という言葉に身構えてしまう。
「とは言いつつも、分けてあげられる武器などは少ないが、騎士の誇りにかけて悪どいことはしないから安心してくれたまえ」
少し会話をしただけで全面的に信用してはいけないのかもしれないが、この人ならば信用できそうだという気がしてきた。
「ちょっと取ってきます。結構量があるのでとりあえず適当に持ってきますね」
小谷君がそういうと小走りに図書館の中に入って行った。その間に辻野さんが質問を続ける。
「少しこの国の貨幣についてお聞きしたいのですが……」
女性騎士の説明からすると、この国の通貨の単位は高額な単位から順に並べて、リラ、ソルド、デナロで、1リラはそれぞれ、20ソルドと240デナロと交換可能らしい。新任の衛兵で18リラの年俸となるとのことだ。一般家庭の食費は下層都市住民で月に10ソルド程度とのことらしい。実に上手く辻野さんが質問してくれたおかげで、通貨価値の概要が手早く掴めた。
「持ってきました」
小谷君は両脇にB4用紙の段ボールを2箱抱えてきた。確か1箱に500枚入りの束が5束だから2500枚持ってきたということになる。それを軽々と小走りで持ってきて息1つ切れていない小谷に少々驚くが、相手方の驚きはそれ以上らしい。
「なんと……それが全て先ほどの紙か?」
「そうっす」
「まだあるのか?」
「えーっと、ぱっと見たところ30か40箱くらいありましたかね。もっと要りますか?」
「ははっ、それはちょっとした宝の山だ」
宝の山と聞いて、かなり期待してしまう。やはり中世ではかなりの高級品なのだろうか。
「そうだな……とは言え、任務中にどれだけ馬に積めるかというと、その持ってきてもらった分が限界だろうな。そして、支払いなのだが……」
当たり前だが、確かに紙というのは重量もかなりあり、運搬が面倒になりそうだ。紙500枚で5ソルド程度らしい。食費が月に10ソルドということは1リラ10万円程度であろうか。そうすると1束2万5千円、30、40箱あっても、まぁ平均的な人の年収くらいだろうか。宝の山、と聞いて少し心躍ったが、十分な価値ではあるものの、一攫千金で大富豪とまではいかないようである。
「品質分を考慮すると倍以上出さないといけない気がするのだが、手持ちからするとそこまで高く支払えぬ……」
結局、剣1本と手槍4本に40ソルドとの交換で手を打つことにした。これがどこまで妥当な交換かはわからないが、どうせ、これだけの量を運び出すのは無理である。何よりも、この人は信用ができそうである。全員一致で快くこの取引で手を打った。ただ、後藤さんだけは怪訝な表情をしていた。
「さて、任務も残っているゆえ、小休止もそろそろにして戻らねばならない。」
そういうと、部下に号令をかけ荷物をまとめ始めた。色々聞きたいこともあるが、引き留めるわけにもいかない。礼を言いつつ、別れることにした。
「ああ、そうだ。一応名乗っておこう、私はアグスティナ。避難所に言ったら私の名前を出してくれ」
こちらからも名乗ったが、謝罪まじりに覚えられそうにないとはにかんで去っていった。確かに、日本人の名前を憶えておけというのが無理であろう。
「えっと……と、とりあえず……」
騎士の一団が馬に乗って去っていく後ろ姿を眺めながら、つぶやいてみたものの、あまりの急展開に頭がついていかない。魔物の大発生という恐怖が、仲間の死という恐怖に勝ってしまい、頭の整理などできようもなかった。ただ、日本語が通じるのがひっかかるが、まさに想像するような中世西洋ファンタジーの世界の中に紛れ込んでしまったことだけは確かなようである。
中に戻ってからは、慌てて脱出の準備だ。初めの集落まで1日、その後もさらに数泊野営しながら歩き続けることになることを考えるとあまり重量を増やさない方がいいのだろう。一方で、先ほどの紙ではないが、何かと交換になるものを持ち出して今後の生活の糧にもしたい。
「重量は体重の20か30%が登山の目安って聞いたことがあるんだけど……たぶん登山経験者じゃないとそれ以下がいいんですかね」
「うーん、でも登山と呼べるのは例の川までの下りだけですし、それくらい持っちゃってもいけるような」
ガールスカウト出身らしい瀧本さんの話に高部君が食い下がる。確かに少しでも多く持ち出したい。ちょっとした議論の末、どれだけ持つかは各自の判断ということになった。前日に用意したものに武器やら道具やら追加の食糧やらを積み、背負ってみて歩けそうかを確認していった。
「うーん、しかし、紙は重たいなぁ。これ1束か2束で1か月分の食費が賄えるとしても、重量的な交換比率がもっといいのないんだろうか」
辻野さんが投げかけた疑問は当然のものと思えるほど紙は重たかった。全員の期待を込めた視線が先ほど紙を軽々もってきた小谷君に自然と向けられる。
「いやー、ラグビー選手、それもフォワードは長距離苦手なんですよね。自重が重いのでそれが不利になってしまうんすよ……」
あれだけ軽々と紙の箱を運んできた小谷君もそこまで大量に運べなさそうだ。それでも運動不足の自分よりは大丈夫そうだが……
「うーん、靴とかどうでしょうね。テニスシューズっぽいのは結構ありますよね。戦争映画とかブーツを盗んだり、死んだ敵兵からはぎ取ったりとか見たことあるので」
「でも、あれ本革で脛まであるからってのもありますよね?品質さえ理解してくれれば買ってくれそうだけど、見た目布の靴くらいに思われそう」
聞いた瞬間は妙案に思えた高部君の案も瀧本さんの意見を聞くとそうとまでは言えなそうに思えてきた。
「うーん……靴も多少持っていくとして、後は筆記用具ですかね。昔の筆記用具から考えたらボールペンどころか鉛筆ですら高級品になりそうな気がします」
「あー……でも、生協で売ってるボールペンあれちょっと乱暴に扱うとすぐ出なくなるじゃないですか。売った直後に出なくなったとかクレームつけられて……とか怖いですね」
辻野さんの言葉に対する高部君の不安ももっともらしいように感じる。状態のいい筆記用具と靴を選びつつも、結局は紙を交換の中心にせざるをえないようである。
「後は……本ですかね。一人1,2冊くらいしか持っていけないでしょうけど」
荷造りをしながら後藤さんが呟いた。本なんて交換には使えそうにないが、どういうことだと疑問に思ったその瞬間に自分自身の中で納得した。
「中世に持ってきたら使える知識ですね」
同じく納得した山田さんが目を輝かせながら返答した。剣や魔法が使えなくても、現代の知識さえあれば、この世界で有利な立場になれるはずである。文系が中心の小さいキャンパスの小さい図書館と言えど、それなりの蔵書がある。各自が思い当たる本を探しに散った。
自分が真っ先に思いついたのは「電気」である。小規模でも発電ができれば、大きく世界を変えられるはずだ。現に今だって灯りに困って薄暗い書架の間から窓の傍に移動してきている。狼煙が伝達手段のこの世界に電信を持ち込むこともできるかもしれない。高度な電子機器を作るのは無理でも今ここに捨てていこうとしているスマホなどの電子機器を蘇られることもできるかもしれない。色々と期待が膨らんでくる。
蔵書検索システムが使えないため、お目当ての本が分類されている書架にたどり着くのに苦労した。どうやら、他の人も同じようで、同じ人と何度もすれ違うことになった。なんとかたどり着いた先でそれらしき書名の本を取り出して、それらを窓際の席に持ってきた。パラパラとページをめくりながら読んでいくうちに、先ほどの目論見がどれだけ甘かったかを思い知ることとなる。
「発電をするには磁石を回す、磁石を作るにはコイルに電流を流す……」
そういえば、そんなことは聞いたことがあった気がする。鶏が先か卵が先かで、いくら発電機の仕組みを理解したところで作れそうにない。人類の先達たちは、これをなんとかして生産方法を確立したのであろうが、初期の磁石の作り方が乗っている本を探さないと始まらないらしい。電球にしても同じである。フィラメントが燃えないように中を真空にするか酸素以外の気体で満たすかをしないといけないのだが、その方法が乗っている本が見つからない。
「リン酸……窒素……カリウム……」
すぐ近くで調べていた辻野さんも同じように唸っていた。話を聞くと農業、特に化学肥料のことを調べているようで、肥料の三大要素と呼ばれるものまでは分かったらしいが、結局はその製法がわからなかったり、分かったとしてもその設備など自作できそうになかったり、で行き詰っているらしい。
なんとかならないかとさらに書架とを往復する。蔵書検索システムが使えればもう少し楽なのかもしれないが、一向に解決の糸口さえ見えてこない。すれ違う他の人に聞いてみても、同じような壁に当たっているようだ。そうこうしているうちに、時間が経っていった……。
遅い朝食であったため、夕方になる前に昼食とも夕食ともつかない食事を摂ることとなった。密かに楽しみにしていたカップ麺は明日以降になり、賞味期限が短いものに加えてかさばるものを食べてしまおうとポテトチップスまでもが食卓に上った。健康に悪そうではあるが、数日程度ならどうってことないだろう。
「なかなか、これって本ないですね……一番使えそうなのは家庭の医学ですね」
ご飯を食べながら愚痴りあっている。そう発言した瀧本さんも含めて、ほとんどの人が収穫は芳しくなさそうだ。
「何か機械を作るとして、たとえ構造がわかっても製造するのはさらに高いハードルだよなぁ」
「井戸の手押し式ポンプあるじゃないですか。構造わかってもシリンダー部分ってどうするんだろうって。あれって金属だと思うけど、隙間から漏れないようにしつつ、一方で動かせるようにするって金属で作るには結構な工作精度必要ですよね」
自分の感じたことにかぶせて高部君が身振りを交えながら話し始めた。確か、井戸のポンプは、ポンプを上下させての気圧や水圧を変えてそれで水をくみ上げるはずだが、そうするには内径にかなり密着した部品を同サイズの部品を作る必要があるのだろう。想像しただけで金属のこすれあう音が聞こえてきそうである。
「でも、それはいけそうじゃないっすか?」
小谷君がぽつりと呟き、さらに続ける。
「エンジンとか高望みしたらダメっすけど、その程度なら頑張ればいけるってことっすよね?」
確かに見方を変えればポジティブに捉えることもできる。井戸のポンプを作るかどうかは別として、その程度のレベルであれば量産は無理にしても作れるということである。
「石油、電力、化学の第2次産業革命レベルの技術力は無理としても、その前段階までなら、まだ探せばありそうですね」
後藤さんが解説を加えるように付け足した。日没まで時間もあまりない。荷造りも完全に終わっていないため、許された時間は残り少ないが、できる限りの準備をしよう……
完全初投稿なので、意見が1つでもいただけたらうれしいです。
基本週1くらいで投稿していきます。