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1日目前編:異世界へようこそ

初投稿。前書きに何を書いたらいいかわからない。

 死体が目の前に転がっている。3日前に訳のわからない世界に一緒に飛ばされてきたうちの一人が呆気なく死んだ。そりゃそうだ。剣も魔法も使えない一般人が異世界に来ても、いつかはそうなることは分かりきっていたことなのかもしれない。自分があんな気を抜くようなことを言わなければ、いや、そもそもこの世界を望まなければ、という後悔の念をなんとか振り払おうとした。


 ――3日前。

 今日は大学の補講日。教員が学会やらフィールドワークやらで休講にした授業が実施されるが、土曜日であることもあり、出席は基本取られない。そのため、教室もいつも以上に空いていた。その帰りに同じゼミの友人と一緒に寄った図書館もいつもに比べ大分閑散としていた。友人の名前は大下彰。どうやら単位がギリギリで絶対に落とせない授業のレポートに苦しんでいるらしい。


「ちょっと生協行ってくるわ。なんかいる?」


 1時間ほどしたころ、アキラはおもむろに立ち上がり、声をかけてきた。こいつは本当に気がきくしいいやつだ。イケメンだしモテることだろう。何より、人生を楽しんでいる感じがする。仲のいい友人だが、こいつの隣にいると嫉妬をしてしまう自分がいた。


「いや、いいや。飲み物もまだあるし、何か食うにしても中途半端な時間だし」

「そうか。ま、行ってくるわ」

「少し降ってるが大丈夫か?」

「まぁ小雨だしぱっと行ってくれば大丈夫だろう」

「そか」


 アキラが出て行ってから「さてと」と心の中で呟きながら自分のレポートを再開した。アキラに比べれば単位に余裕もあるし、ゼミでやったことを流用しながらレポートをかけば結構簡単に終わるはずだ。だが、「それでどうする?」という思いが頭から離れない。浪人はしたがそれなりの大学に入り、友人も多くはないが気の置けない仲間もいる。大学の授業やゼミもつまらなくはない。バイトはそれなりにしないといけないが、親からちゃんと仕送りももらっており、貧乏学生というほどでもない。特に不満はないが、人生を楽しめないというか、何かに本気になれないというか、常に一歩引いて全てのことが他人事のように感じてしまう。3年の夏休みがやってくる。その後は就活をするはずで、遊べるなら今のうちだが、特に何かを楽しもうとまでは思えない。どうせバイトをしながら、ゲームをして、この頃ちょくちょく読んでいる異世界ものの小説でも読んで終わりだろう。倦怠感とともに、アキラをはじめとする楽しんでいるように見える友人たちに嫉妬を感じてしまう。そんな自分の心を写すかのように外の雨は強まってきた。

 

「ひゃー。ちょっと濡れたわ」


 ほどなくして、アキラが帰ってきた。アキラは少し大きめのビニール袋からオニギリを2個取り出て渡してきた。

 

「松橋先輩たちにあってさ。ゼミの何人かでこの後飲みにいこうってさ。一緒に行くだろ?食わずにいくとつまみで飲み代増えるから、あとでこれ食ってからいこうぜ」

「お、ありがとう。あとで払うわ」

「おっけ。さて、さっさとレポート終わらせるか」


 なんというか、本当に気の効くやつだ。そんなアキラを見て、さらに嫉妬している自分はもう末期だと思う。自分に染み付いたこの考え方をリセットしたい、と切実に思う。外の雨も初夏の夕立とは思えないくらい本降りになってきた。レポートも手につかなくなり悶々としていると、遠くから雷鳴も聞こえてきた。陰鬱な気分になりながら「異世界にでも言ってリセットできないかなぁ」と心の中で呟いた。


「願いを叶えてやろう」


 どこからともなく、そんな声が聞こえたかに思えたその瞬間、大きな雷鳴とともに建物が大きく揺れ、電気が消えた。「地震で停電?いや、それにしては揺れが短い。というか揺れたのは気のせいか?」とパニくりながら、隣のアキラに話しかけた。

 

「あ、アキラ。今のは……」


 ところが、隣にいるはずのアキラの姿がない。机がならんだ広い学習スペースにいたはずの10人以上の人たちを探そうと、あたりを見回してみるが、見当たらない。停電し薄暗い中でそのスペースの反対側にぽかんとしている眼鏡をかけた女の子とだけ目線が合った。なかなかの間抜け面と言いたいところだが、たぶん自分も負けず劣らず間抜けな顔をしていることだろう。お互いに少し見つめ合ったあと、思い出したようにあたりを見渡すが、やはり他に人はいない。女の子は立ち上がると窓の方へ寄って行った。


「え……?」


 と驚きとともに小さな声を発した。何事かと寄って行き、外を見ると雨がすっかり上がっていた……どころではなく、キャンパスの他の建物が見当たらず、全く別の地形が目に飛び込んできた。低木やゴツゴツした岩がところどころに点在とする草地がなだらかな斜面になって下っている。しばし呆然としていた。その「しばし」が数秒か数十秒かはわからないが、先に口を開いたのは女の子の方だった。


「ええと……これって大学じゃないですよね……?」

「た、たぶん。うちらが夢を見てない限りは……」


 スマホの電波を確認してみるが、アンテナも立っていない。それを見せながら


「……日本ですらないのかも」


 そう言ったあと、また沈黙が戻った。自分は外と女の子の顔を交互に見ながら、どういう言葉を発していいのか迷っていた。女の子は少しオタクっぽい感じだけど、結構整った顔立ちをしてるな、などといらぬことを考えていた。その視線に気付いたのか女の子がこちらを見返し、視線があう。


「えっと。とりあえず外に出てみますか」

「そうですね」


 こんな事態の中でちょっと可愛いかも、などと考えていたことが相手に分かるはずはないのだが、気まずさからこちらから慌てて話を切り出す。


 3階から降り、無人となった受付を横目に図書館の入口に出ると、4人ほど人が集まっていた。自分の通っているキャンパスはメインキャンパスでなく20年ほど前にできた新設学部のキャンパスであり、図書館も比較的こじんまりとしている。現代風な木造の3階建てでテニスコート4,5面分程度の敷地というところだろうか。ただ、補講日という条件であっても、少なくとも数十人はいたはずである。まだ中にいる人がいるにしても少ない。やはり、全員が「こっち」に飛ばされてきたわけではないようである。小さなキャンパスなので、なんとなく見たことのある人はいるもののいわゆる知り合いはいなかったが、1人だけ知っている顔がいた。2年の時に単位のためだけにとったロシア語の授業での先生で、40前後の確か非常勤講師だったはずである。相手が覚えているかどうかもわからない上、その授業では出席日数もギリギリであまり真面目な学生とは言えなかったので、少し話しかけづらかったが、他に適当に話しかける相手もおらず、とりあえずこの人に恐る恐る話しかけてみることにした。


「あの……」

「ああ、君は確か去年の授業の……鈴木君だったよね」

「はい。ところで……その……何がどうなっているか……なんて分かるわけもありませんよね……」

「そうだねぇ……とりあえず我々の知らない『別世界』に飛ばされたってことなんだろうかね……」

 

 そう答えるしかないな、という質問をしてしまったと思ったが、それ以外になんて言えばいいのかもわからなかった。少しの沈黙のあと、その講師は続けた。


「風景的にはヨーロッパの丘陵地帯に似てそうだね。スコットランドあたりがなんとなく思い浮かぶけど、気温的にはもう少し暖かそうだ。日本と同じ季節なら、だけどね」


 なるほど、言われてみれば、さきほどまでの日本の蒸し暑い初夏よりは涼しい。こんな中でも冷静な分析でさすがは年の功とでも言いたくなったが、冷静に見えるのは自分と同じく現実感が持てないだけかもしれない。

 

「そうですね。季節もわかりませんが、時間は今何時なんでしょう。確か4時間目が終わってから2時間くらいは経っていたと思うので、もうすぐ日没のはずだったのに、その割にはまだ日は高そうですね……」

「そうだね。緯度はわからないけど、ここは……」

「あの、それを考えてもすぐには結論でないと思いますし……とりあえず今からどうするか考えません?」


 さきほどの眼鏡の女の子が会話に割って入ってきた。少し驚いてまじまじと見返した。


「あ、いえ、その。批判をするつもりはなくって、その……ごめんなさいっ」


 自分への視線が、反感を買ったものかと思い慌てているようだ。別にそういった意味の視線ではなかったのだが、相当気弱な性格なのだろう。


「いやいや。何も謝る必要はなくって。何も確かにそうだなと思って見ちゃっただけだから」

「とりあえず、図書館の中とあたりを調べてみるのはどうっすかね。まだ中に人もいるかもしれないし」


 190cmくらいはありそうなガタイのいい学生が話に入ってきた。残り2人の学生もそれに同意する。片方は少し小太りだが清潔感もある男子学生で、もう1人は中肉中背の目つきが少しきつい男子学生である。


「ただ、日没も多少近そうだし、あまり遠くに行かない方がよさそうだね」


 ロシア語の講師は、少し考えてから言葉を続ける。


「何かあると危ないから2人1組で行動して、30分後に3階のミーティング室に集まろうか」


 「危ない?」。その言葉にいわゆる異世界にいるモンスターを想像してしまったが、そんなことはあるはずがないと思い直す。


「あ、そうだ」

 

 眼鏡の女の子は中に入ると受付の中をごそごそと漁り出す。しばらくすると紙とマジックとセロテープを持ってきて、


「入口に紙貼っておきましょう。中とか外に人がいるかもしれないし。今何時ですか?」

 

 ロシア語講師は腕時計を見ながら、


「6時すぎだね」

「わかりました。えっとじゃぁ『6時半にミーティング室に集合』って書いておきますね」


 と言って、2枚の紙に大きく書いてドアの表と裏に貼り付けた。


「頭いいっすねー。自分は脳みそ筋肉しか入ってないんで、ちょっと分けて欲しいっす」


 眼鏡の女の子が少しはにかんだように笑った。このガタイのいい男はなんかノリと人当たりが良さそうだ。たぶん、どこかの体育会系なんだろう。俺がそのノリを分けて欲しいくらいである。


 その後、2人ずつの3つグループに分けて、外と中を見回ってみることにした。一緒に降りてきただけだが、そのままの流れで俺は眼鏡の女の子と中で残っている人を探しに、ロシア語講師は同じ喫煙者ということで目つきがちょっときつい学生と一服ついでに喫煙所のある裏手側を、体育会系らしい男は小太りの男と一緒に草地を下った先にある川らしきところまで行ってくることとなった。


 建物の中に入り、まずは1階を回ってみることにした。受付の中に入り中を見てみる。結構本は借りる学生で、夕方から夜にかけている受付の初老のおじさん2人組に顔を覚えられていた。そのおじさんたちは定年退職後にパートとして働いているようで、貸出時間が過ぎても対応してくれたりと学生に対してとてもやさしく平日昼間の時間にいる正規職員であろう司書よりもこの人が受付にいる時間帯に利用していた。土曜日でこの時間ということはたぶんあのおじさん達が受付にいたはずであるが、その姿は今はない。中に回ってみるとおじさんのらしき老眼鏡と読んでいたであろう本が開いた状態で伏せられていた。


「……さっきまでいたんだな。当たり前だけど」

「そうですね……おじさん達に『こらこら、受付の中に入っちゃダメだよ』って声が聞こえてきそう」


 と少しはにかみながら眼鏡の女の子は答えた。


「さて、とりあえず印刷室とかもろもろの鍵があるはずだけど……」

 

 印刷室を使うときは申請をしてここで鍵を受け取ることになっており、受付の人が引き出しから出しているのを見たことがあった。引き出しを開けてみると、印刷室の鍵以外にも、いくつかの鍵があり、とりあえず、それもまとめてポケットに入れた。女の子の方は紙をプリンターから取り出していた。


「1階軽く見回って上行こうか」

「はい」

 

 1階を「誰かいますかー」という声を上げながら回ってみる。気恥ずかしさからちょっと大きめ程度の声にしておいた。トイレなども見てみたが、誰もいない。仕方がないので、2階に上がろうすると、上から女の子が降りてきた。顔を見た瞬間はっとした。名前は知らないが、学内で何回か見たことのあるクール系美人の女子学生だった。絵から出てきたような美人でモデルをやっていても不思議ではないレベルである。アキラたちと一緒にいるときにすれ違って「すっげー美人だなー」と会話してたのを思い出す。


「こんにちわ。声が聞こえたので……これ今何が起こっているんですかね」


 声まで美人である。普通であればこんな美人と話せるだけでも喜ぶのであるが、どうも美人すぎると気後れしてしまう。「なんの苦労もなさそうでいいな」と妬みすら感じてしまう。さらには、今はこんな事態に巻き込まれ、美人だのはどうでもいい話に思えてきた。彼女に入口で人に会って30分後にもう一度集まろうとなったことなどを伝え、一緒に2階、3階を見回ることにした。20分ほど色々と見回ってみたが、荷物などはあるが、人がほとんど消えていること、電気や水道などのインフラが止まっていることなどが分かっただけだった。


「まだ30分経ってないですけど、早めにミーティング室にいきますか」


 という眼鏡の女の子の提案に従ってミーティング室に行くことにした。ミーティング室に入ってみると2人の男子学生が会話をしていた。いや、会話というよりも片方が一方的に話している。


「あ、入口の貼り紙見ました」


 こちらの顔を見るなり話していた学生が言葉をかけてきた。もう片方は会釈をしただけである。どうやら2つある階段のせいですれ違ったようだ。両方ともいかにもオタクといった風貌で、話していた方はかなり太め、もう片方は痩せていて眼鏡をかけている。彼らも状況は理解しているようで、こちらにも今まであったことを伝える。言葉少なに今起こっていることの状況を確認しながら、もうすぐ帰ってくるであろうはずの外に行った組を待った。自分も現実感がなく、何より自分の妄想で彼らを巻き込んだのではないかという罪悪感に似た不安が頭の中でチラつき、明るく会話をする気にはなれなかった。


完全初投稿なので、意見が1つでもいただけたらうれしいです。

基本週1くらいで投稿していきます。ただ、書き溜めたらすごい間延びしてたので、最初のうちは週2くらいで投稿するかも。

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