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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の1 集合編
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第7話 なおも燃える


もう何度も描写した荒野の道。砂を混じらせるアスファルト。代わり映えしない光景。いくら広いこの世界でも、ここまでくるとゲーム的に手抜きだろうと言わざるを得ない。


あの襲撃からしばらく。食糧も水も尽きてきた。だが、おそらくあと少しとレモンは言う。それを信じ歩き続ける。街に着いたら何をするのか。みんなそれを考えていたので会話はない。しかし心地良い沈黙だった。


坂に出会う。登り歩く。いわゆる体力、HPとは違うステータスを見ることはできない。しかしこの世界も人工とはいえ現実。疲れるのだ。草食は一旦休もうと一声かけて、坂に生える岩に腰かけた。


「この先を越えたらあると思います」レモンが荒れた息を整えつつ言う。


「やっとかぁ。いやぁレモンちゃんがいて助かったよ」


「こちらこそありがとうございます。街では良いことあるといいですね」


草食に対し、いくらか突き放したような言い方。だが顔を見れば、寂しそうにしているのが解った。


「それなんだけどさ」


「はい」何かを期待する目。散歩を期待する犬のよう。


「レモンちゃん、あたしらまんぷくテロリストの仲間にならない?」


「いいんですか? 食い扶持が増えますよ」


「オレは是非加入してほしい」「わたしも」


BB、オサム共に強い眼差しを向ける。彼女の戦力は頼りになる。ここで手放せば、未来の自分に呪われる。


「全員一致だね。どうかな? この世界から脱出しようとする、まんぷくテロリストに加わらない? 無理強いはしないよ。レモンちゃんの意志で……」


「入ります!」目をキラキラ。新入部員のような元気さ。「よしっ」草食はガッツポーズ。


「えーと、改めましてレモンです。これから頑張りますね。よろしくお願いします」


道の上で深々と頭を下げた。自分も自分もとそれぞれ挨拶した。レモンの加入が決まった。


「それじゃあここでパーティーでも」「しないですからね」「え」


オサムはレモンの仲間入りを喜びつつ草食を止める。オサムはいつの間にか荷物担当になっていた。チーム共用に荷物、それらの管理をしている。本人は己の弱さを知っているので、この現状に不満はない。


しかしながら、こうした行軍で一番畏れられるのは荷物担当だ。その者がチームの命を背負っていると言って過言ではない。故に、荷物担当の言葉は時にリーダーよりも重い。オサムが無理と言えば無理なのだ。


「もう食糧も残り少ないですし、水なんて使えません。プレイヤーを倒すことでこの道のりを突破する予定でしたけど、結局あの後プレイヤーには会いませんでしたからね。物は減る一方です。ですから、ダメです。パーティーとかはなしです。街でやりましょう」


なるほど、と草食は頷いた。なんでだろう、この発言を正論のように扱っている。考えてみれば街に着いても代価がないので結局腹は膨れないのでは? なんてBBが事を思っている時には、すでに出発していた。


坂は長い。そして険しい。レモンはまた息を絶え絶えに苦しみ始める。空の方角へ歩き続けること何分か。


ポストアポカリプス各プレイヤーの目の前に、運営からのメッセージが送られた。


まんぷくテロリストのそれぞれも、最初スパムか何かかと捉えた。しかし、確かに運営からだ。


「運営からメールだ!」オサムの喜びようといったら。


すぐに確認する。メールのポップアップをタップ、メールの内容が開かれる。タイトルは、『バージョンアップのお知らせ』……もう先が想像できてしまう。なおも希望を捨てきれず、何とかスクロールして読み込んでいく一同。


書いてあることは、これだけだ。リスポーン地点の設定に関して。リスポーン地点はこれからベッドアイテムにのみ設定が可能。ベッドで寝るなどしてリス地点をセーブし、デスしたらそこから。ログアウト不可のことも、謝罪も、惨状のことを記した文言は、一切見当たらなかった。


「なに、これ」オサムの震えた声。草食はみなに背を向けてカウボーイハットを深く被る。レモンは崩れ落ちる。唯一BBだけは動揺を表に出さなかった。


「ロ、ログアウトのことは? 現実のことは? あの、返信もできないんですが。どうなっているんですか?」


レモンは冷たい文章を認めたくないのだろう。すでに涙を目に溜めている。


「これで、確定したね」BBはため息混じりに言う。


「何が」オサムが苛立ちを隠さずに言葉をぶつける。その目をしかと受け止めた。


「運営は、オレ達を故意に閉じ込めているということだよ。じゃなかったらこんなこと送ってない」


「じゃあどうするの? 運営に命握られてるも同然じゃん。どうやって脱出するの」


「解らない。けども、より街に行く理由ができた。向こうでも何らかのアクションはあったハズだよ。それを見に行こう。……草食さん」


草食は振り向かなかった。オサムとレモンはその姿に共感と同情を寄せた。


「草食さん?」


「え?」


彼女がこちらを見る時、一瞬だけ口角が上がっていたのをBBは見逃さなかった。だけどこの混乱下で問い詰めてもメリットはない。そう判断した。


「これから、どうします」BBは聞く。「一応貴方の意見も聞きたいのですけど」


「いや、このまま目標変わらず。街に行こう。何かあるかも。あと、ベッドアイテムを手に入れないとね」


切り替えが早くて助かります。なんて、BBは言わなかった。真意がどこにあるにせよ、彼女のガンマンとしての腕は捨てがたい。


四人は再び歩きだした。先ほどまでの穏やかな空気はメールに喰われた。運営が意図してログアウトを封じている。ならば、時間が解決してくれるとは、現実で動きがない限りありえない。希望が足下で潰れていくのを実感しながらの足取りは、それは重いものだった。


ついに坂を登りきった。眼下に見えるのは、枯れ木と、荒野と、燃える街。……燃える街!


「レモン!」BBが吠える。「あそこが件の街?」「そ、そうです」「急ごう! 不味いことになった」草食が急かす。全員走り出した。


下り坂は滑り下りた。街からは、銃声、金属のぶつかる音、火が殺意となる音。赤い暗黒が殺気だっていた。


BB、オサムが速度を上げて抜刀。近接戦闘ができるのはこの二人だけだ。住人がパニックから、四人へ銃を向ける。


草食の早撃ちによって銃持ちはキルされデスした。燃え盛る火の海へBBら二人は飛び込む。が、すぐ立ち止まる。


ロストしたアイテムが海をなし、プレイヤー達はあい争っていた。なぜ? その問いを投げかけられる人物なぞ、どこにもいないようだった。


暴れるプレイヤー達の中にいる美青年がこちらを見た。暴徒の一人と識別していたので、身構える。


「君達、余所から来たのかい?」


こんな最中なので声を張り上げている。BBは充分に警戒しながら近付く。こちらのキルゾーンに入る。


「はい。オレ達、あとから二人来るんで四人なんですけど、余所から来ました。何をすればいいですか」


「話が早くて助かる」美青年は頷く。その背丈は平均的な大学生男子だ。BBを見るため背を丸める。「ボクに着いて来て。仲間とはぐれたんだ。合流しないといけない。戦える? 話はその後で」


「オサム、いける?」


オサムは力強く頭を縦に振る。


「よし。行きましょう」


「まずはここをどうにかしよう」


青年の陣営が敗れたのか、こちらに向けて武器を向ける輩が多数接近してきた。青年はひとまず逃げの姿勢をとる。反してBBは前へ駆け出した。


「ダメだ! その数相手じゃ」


二人同時に斬りかかるところを一閃。キル。槍で突こうとすれば槍を蹴り上げられ足を横に回転させた勢いで腕をはねる。さらに槍が三人。二人をショットガンで片付け、一人のほうへ跳躍。頭上からナタを振るい脳天を割る。


まだ来る。銃を持った男が発砲。弾道を予測し回避。そこへナタ二刀流の女。振るわれる刃をいなした瞬間にショットガンをリロード。ホルスターに仕舞い女との戦いに集中。必ず女を銃持ちの男の射線に入れるよう動く。


敵の右手が上から。一方踏み込み手を掴む。斬ろうとするがバックステップされる。ショットガンを発砲。バックステップ中の空中で当たる。ミリ残った。しかし女は倒れた。


女が倒れ、射線の邪魔がなくなったので男は撃った。転がり回避。突進。二発目が来る前に斬り捨てる。女が起き上がったところを、後ろからオサムがとどめ。


息もつかぬ間に敵の来襲。オサムはナイフを左手、ナタを右手に持ち、BBと共に歯向かう。ナイフで斬撃を受けナタで叩き斬る。更なる攻撃も上手くガードしていく。その間にBBが他の敵を平らげていく。オサムは防戦一方だがこれが幸を成した。敵が上手に分断され、BBが戦いやすくなる。だが、負けられない。オサムはせめて一人はと攻めに転ずる。


斧を流し、振り切ったところへ斜め斬り。さらにナイフでひと突き。倒した。自分もやれる。オサムのその油断、隙となる。背後から槍の突きが来る。


そこへ素早い銃声。全て頭にヒット。さらに重い銃撃。着弾し一人一人片付ける。草食とレモンだ。ついに敵方は恐れをなして逃げだしていく。やはり銃声は本能として恐ろしい。


「大丈夫だった?」草食がリロードしながら尋ねる。BBは疲れを感じさせずに答える。


「ナイスカバーです。ありがとうございます。この人は撃たないでください。味方です」


「味方? この人が?」


四人の猛戦ぶりに腰を抜かした美青年は、冷え冷えと目を震わせている。


「君達、強いんだね。あの数、これでけで……」


「まぁ、相手がパニックになっていたからですよ」


BBはそう言いつつ納刀し、彼に手を伸ばす。手を取り、ようやく立つ。ふぅと一息。


「それで、どうするんでしたっけ」


「これからボクの仲間の下へ行こう。道すがら挨拶でも」


すでに敵はいない。悠々と歩くことができた。この大火では、散歩気分とはいかないが


「まず、はじめましてだね。ボクはサンドロチェリー。気軽にチェリーって呼んで」


なぜ自己紹介など。こいつもレモンと同じようなお喋りか。BBとオサムはそう判断する。まだチーム内の信頼が築き上げられていない。


「あたしは草食。まんぷくテロリストっていうチームのリーダー。この子らを連れてるんだ」


「へぇ。チーム名まで付けたのか。いいね。で、最前線で大活躍の君は?」


「BBです。その、よろしくお願いします」


「ふふ、可愛い子だね」


BBは心に宿るその想いをそのままにしといた。


「君は?」「わたしはオサムです」「ふむ。君は?」「レモンです。よろしくです!」「中々個性的なメンバーだね」


なぜか自分だけ褒められたり、今もじっと見られていることから、BBはチェリーへの信用を捨てた。


「そろそろだ。……おーい、戻ったよ。状況を教えてくれ」


人々がよくできたウッドハウスに籠っていた。焼けた跡が残っている。だがまだ原型を留めている。


一人が外に出て、チェリーと対面する。後ろのまんぷくテロリストを見たが構わなかった。


「今は何も問題ないよ」その眠たげな目を擦って言う「チェリーこそどうしたのさ」


「それはこの子達がね……」


「大変だ! 街の外から敵が来たぞ!」


偵察している人の声。その声は、止まらぬ戦火の号令だった。

投稿遅れてもうた。


医療教会の英雄が強いのが悪い(責任転嫁)

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