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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の1 集合編
3/137

第3話 ガンスリンガー


あれから数日が経った。人とは出会わず、獣やゾンビを退け、ただ生きる為だけに活動する。自然と口数は少なくなった。運営からは何もなく、本当に二人だけになったかのよう。アダムとイヴも、追放された時はこんな気分だったのか。少年BBは想う。


今日も廃墟に出会う。住宅街の朽ちた姿。黙って家々に侵入し物を漁る。ゲームの癖に、なんて惨めなことをさせるんだ。


家から出て、立ちはだかるのはクマ。路上、道の中心にいた。BBは遠くのオサムに何も叫ばず言わず抜刀。対峙する。この頃彼女は曖昧な応答しかしない。BBとしても、それを励ませるような口は持っていない。だから、戦闘能力に乏しいオサムを戦って守るしかできなかった。


クマは声をあげて威嚇する。ナタをあえて後ろに下げいつでも走り出せるようにした。警告を無視したBBにクマが突貫する。右前足を上げて引っ掻く。宙を裂いたところを横っ飛びで見ながら、まずはモーションの確認をする。忘れてはいけない。どれだけリアルでもこれはゲームだ。プレイヤーでないなら動きに法則がある。


前足の引っ掻き。全体重を乗せた突進、両前足の振り下ろし。芸がない。たった三つの動きで戦っている。持久戦に持ち込もう。呼んでないのでオサムは来てない。


クマは前足を双方振り上げる。その隙に腹を斬った。微量のダメージ。下ろされた爪を避けてすぐ攻撃。こちらを向き引っ掻いてきた。後方に下がり前足が地面につく。目を斬った。先よりも多いダメージ。今度はクマが下がり突進。転がり避けて追撃。


ただこれだけのことだった。一撃でも喰らえば即死。BBにその心配はなかった。避けて斬るを繰り返す。時間を開けて撃破。クマが塞いでいた道を行く。草に占領された洋風の屋敷があった。とても豪勢だ。何かあるに違いない。


家に入り、埃の舞う廊下を行く。見えた扉を開けていった。調度品はどれも素晴らしいが、欲しいのはそれじゃない。キッチンなどは後回しにして、いい加減武器が欲しかった。できれば、オサムが持っているような銃がいい。アレを見つけたのはBBだが、オサムに譲った。彼はいつも他者優先だった。


家の奥にある、上階の一角。その部屋に入ると、物置だった。期待が膨らんだ。何かはある。その確信が、足を勇む。


部屋の壁に飾られているある物に、当然目が止まる。「お」と微かな喜びの声、その先にある物は、ショットガン。ソードオフで、ショートストック。水平二連式の、世紀末作品でよく見るショットガン。それを手に取り、しげしげと眺める。


ショットガンは、今のBBにとって宝となる。至近距離で撃てばほぼ即死。その絶大なパワーを思うと持って行かずにはいられない。


屋敷を飛び出して、「オサム!」と大声をだす。


ふてくされた様子のオサムがノロノロと来た。そこで浮かれた自分に気付き、後悔。彼女は人を求めていて、こんなのは望んでいない。


「ごめん、何でもない」


「武器、見つかったんだ」予想に反し、彼女は反応した。


「え、うん。そうだね。見つけた。ショットガン。いやごめん、これだけだよ」


「おめでとう」笑顔ではない。皮肉でもない。純粋な賛美。


「ありがとう」


「これ。ショットガンの弾。転がってた。同じマップ内にあるんだし、多分口径はあってると思う」


「助かるよ」


BBは渡された弾をショットガンに詰めることにする。銃を折り、二つの筒が判る。一つ、二つ。弾を詰めた。しばらくの相棒だ。


静かな喜びに浸っていたのが悪かった。誰も足音に気付かなかった。接近する者を知ったのは、その者が口笛で感嘆していたからだった。


「随分良い物を手に入れたねぇ。ここには先駆者はいないみたいだし、ラッキーってところかな」


声から察するに女性。二人がその人を見ると、伊達な姿に、一瞬目を疑った。


「おー。ナタでここまで生き残ったんだ。流石だね。あたしは銃がないとどうしようもなくてさ」


カウボーイハットに手をかけ、その金色の髪を撫でる。ショートにまとめたそれに、若々しいエネルギーを感じる。


人だ。プレイヤーだ。オサムは感動して固まった。


BBは警戒を露にしていた。見たところ彼女の持っている武器は腰に差しているリボルバー一丁。これだけで生き残れたのなら、ただ者ではない。


「あ、あの」声が上ずった。オサムは「プレイヤー、ですよね」と続ける。


「お、他プレイヤーを見るのは久しいって感じ? 寂しかったよねぇ。その年じゃ辛かったでしょ」


オサムは返答に詰まった。この状況、望みはしたが想定してなかった。他にプレイヤーはいるのか。今このゲームはどうなっているのか。聞きたいことは山程ある。


「はじめまして、ですね」


「BB?」突然重い声で話し始めるBBにオサムは戸惑う。


「BBって言うんだぁよろしく。ところで、何をそんなに警戒しているのかな?」


その軽薄そうな態度全てだ。BBは慎重に足を運び、ナタでも銃でも確実にキルできる距離に近付く。


別に信頼できないだけで斯様な行動をしているのではない。BBが半歩進むと彼女も半歩下がる。やましいことがなければそんなことはしない。それに、BBにとって攻撃されると都合が悪い。リス地点はここから遠いのだ。やられて、武器をロストして奪われたら、時間が無駄になる。それにここまでまた来るのに武器なしで進まないといけない。


両者、共に緊張。オサムはこの空気に戸惑いを隠せない。BBも女も殺気を隠さなくなった。この距離ならショットガンのほうがいい。右手に持っているそれを信用する。


オサムは、BBを止めようと駆け出した。


その足音が合図となり、銃声が弾けた。


銃を向けたハズの右手から、ショットガンがなくなっていた。ショットガンはくるくる宙を舞い、地面へ無様に転がった。動いたオサムを庇おうとしたBBは驚愕で目を開いた。


あの女の銃を抜く姿、スピード。見えなかった。速すぎる。


「危ない危ない。中々、抜くの速いでしょ。でもまさか反応されるとはなぁ。お姉さんショック」


このままナタを抜いて斬るかいや第二射は頭に来るそれじゃオサムを守れないいっそナタを投げるかうや撃ち落とされるこのままでは勝てない。思考はとどまりなく続く。わずか一秒未満の間。


「はーい、はいはい。おしまいおしまい。あたしが悪かったよ。そりゃ警戒するよね。あたしは別にとって食おうなんて考えてないよ。いやホントホント。そんな目で見ないでよ。大丈夫だってあたし悪いことしないから」


沈黙。オサムさえも。


「あー……」居心地が悪くなり、女は目を泳がせる。今までの態度も、全部無思考でやったのだろう。BBにとってそれは、イライラさせるのに充分だった。こうやって悪く見られるのも、事情を知れば予想できた。もちろん、そんなの女が知るわけがない。


女はリボルバーをしまい、咳払い。


「えっと、あたしは草食。これはプレイヤーネームね。仲間を求めてウロチョロしててね。近くの街じゃ、あたしの評判悪くてね」


「何が望みです」BBの眼光は鋭い。


「い、いや、仲間が欲しいだけで」


「何をさせるつもりです」


「え? えっと、それは……」


「ちょっと待って。近くの街ってどこですか」


オサムが耐えかねて聞く。BBはなおも攻撃の機会を探している。


「え、知らないの」「どっから来たの」「あっちです」「あっち?」「あっちです」


オサムと、草食と名乗る女の問答。草食は何に驚いたのか、苦笑した。


「そっち、クマがいるところじゃん。どうやって突破したの」


「クマいるんですか」


「いないの?」


「あのクマなら倒しましたが」


BBは会話を続ける為割り込んだ。今度は草食が渋い顔をした。


「いや、どうやってさ。あいつ固いんだよ? 急所に当て続けてもこっちが弾切れになるんだけど。まさかナタで倒したとか言わないよね」


「そんなのどうでもいいでしょう」BBは少し息を吐く。「さっきまでの非礼は詫びます。貴方の仲間になるかならないかは知りませんが、その街についてとか、その他情報について。それらを教えていただいたら、物資をお譲りします。どうしますか?」


「え、えっと、クマ……」「BB、クマなんていたの?」


さっさと話しを進めさせてくれとBBは眉をひそめる。


「倒しましたよ。で、どうします?」


「ナタ一本で?」「はい」


草食は絶句した。あの体力バカをよくもまぁ。こんなとんでもない奴がいるとは。ちなみにオサムはすごいのかどうか判らない。


草食の頭の上に、電球が灯る。閃きの合図。ニンマリと笑い、ナイスアイデア、と自分を褒める。


「ねぇ、情報提供よりもさ、いいことを思い付いたんだけど」


「何ですか」BBはまだぶらっきぼうな態度をとる。


「あたしの仲間になるってのはどう?」


「それは」オサムが目を輝かせるが、BBが手で諌める。


「申し出はありがたいのですが、オレ達にも目的があります。それが完了するまでは、何とも」


「あぁ、目的ね。それって、今のポストアポカリプスの現状のことでしょ?」


特段、驚きはしなかった。こちらもそれで悩んでいるんだ。他の誰かが同じ悩みを持っていても不思議ではない。BBはうなずいた。


「それに関してはあたしに着いてきて。この先に、プレイヤーの集まる街がある。そこで詳しく話そうか。それはそれとして、あたしの目的をあらかじめ話しておこうか」


「草食さんの、目的。何かあるんですか」


「大有りだよ。あたしはね」数秒、わざとらしくためる。江戸の歌舞伎ものってこんな感じだろうか。オサムはふと思う。


「あたしは、このゲームから脱出する!」


彼女は舌をペロッと出し唇を舐めすぐ引っ込める。その動作を別に気にはせず、脱出というワードのほうを気にした。特にオサムは。


脱出、という言葉を使うということは、この世界、ポストアポカリプスに閉じ込められたということ。それを差している。そして、それをどうにかしようとしている人がいる。にしても脱出とは! 少年少女は各々想いを募らせる。そんな方法があるのか。オサムは家に帰ることを考えた。BBはただ冷然とした。


「詳細は街で。さ、行こう。その間、自己紹介をちゃんとしようか。お茶はないけど雑談も」


三人は歩き出す。ある程度の期待を秘めながら。BBはいつもの如く冷めていた。しかしオサムの表情からした彼女にメリットがありそうだ。なので積極的になろうとした。


「ねぇ、BBって言うんだっけ、君」「そうですが」「クマをナタ一本で倒すとはやるねぇ。普通迂回するもんだけど」


正論過ぎて顔が動かない。振り向いた草食がその顔を見て、どうしようかと笑って誤魔化す。


「そこの女子、名前は?」


「わたしはオサムです。プレイヤーネームですよ」


「あたしは草食。気軽にお姉さんって呼んで」


「草食さんは件の街から来たんですか? どんな街何ですか?」


「電気も水もない、街と呼ぶにはお粗末なものだよ。みんな情報が欲しくて来るだけ」


住宅街を抜け、再び荒野に出る。草食のカウボーイスタイルがとてもマッチしている。


「草食さん」BBには浮かんだ疑問があった。


「どしたの」


「弾、残り何発ですか。見たところ、銃をよく使うようですが」


「え、えっと、うん大丈夫」


「何発ですか」疑惑が深まる。


「そ、それよりも、ほら前を見て。街だよ」


何もない荒野。その先には、あばら家が複数。


BBとオサムは、このゲームにクラフト機能があることをすっかり忘れていた。そう、あれはプレイヤーが建てたものなのだ。


彼らの目に映るのは、生きた三次元のプレイヤー。深海に人がいるのなら、見つけた者はBB達と同じ反応をするだろう。


電気がないのに、光があった。

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