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楽園のポストアポカリプス  作者: 平之和移
第1部の1 集合編
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第1話 渚へ

(本格的な長編は)初投稿です。


昼、倒れたゾンビに鳥が落ちてきた。アスファルトを埋めた砂の上。二人の少年少女が、落とした鳥を見ていた。


「ちょっと撃ち過ぎた」


拳銃を持った少女が、マガジンの軽さに表情を曇らせながら呟く。身体中に巻いている革のベルトを鳴らしながら少年のほうへ振り向いた。


「これでしばらくは飯に困らないかな? オサム」


少年は転がっている空薬莢に目を配りながら冗談を言う。オサムと呼ばれた少女はムッとするも、言われた事実を受け入れた。


「BB、あんたの成果はどうなの」


「オレは缶詰めをいくつか。拳銃の弾もちょっと」


「缶詰め? またポークビーンズじゃないよね」


「残念なことに豚と豆だね。ゲームなのに不味いものを食べさせられるとは思ってなかったよ」


銃をホルスターに仕舞い、短いポニーテールを揺らしてBBと言われた少年に近付く。美少年の彼の手には、両手に収まる程度の缶詰め。拾ったであろう銃弾。広がる荒野ととてもよくマッチしていた。


オサムは弾を拾い、箱を開けていくつか抜く。マガジンに装填しておくと、まだ光る真上の太陽を仰ぐ。BBも釣られて空を見る。人工的に創造された世界とは思えない程に、ここは写実的だった。


「空腹ゲージは?」


いつの間にかオサムを見ていたBBが問う。彼の目は自分の空腹ゲージに向かわれている。この世界が、『ポストアポカリプス』というVRサバイバルオンラインゲームでなければ、関わりたくない人種の言動としてカテゴライズされていただろう。


「そろそろヤバイかな。缶詰め一つちょうだい」


「はい」一つ手にとって投げる。BBは両手に持っていたものを地面に広げた。ログアウトも考えると、充分な収穫だ。


「なんだ、カレーもあるじゃん!」


缶をナイフで切り開けジュースのように飲む。電子的な空腹は抑えられた。やけに嬉しそうだった。


BBのほうは、鳥に近付いてひょいと拾いあげた。小鳥だ。なぜオサムはこれを狙ったのか。銃の腕は酷いクセに。それでも食料に変わりはない。ぶらぶらと手を動かして気だるげに投げた。鳥は缶詰めの山に埋もれた。


さて、とポーチからライターを取り出す。オサムは飲んでは咀嚼を繰り返す。ゾンビを木材代わりに着火し、焚き火にする。その上に網を立てた。小鳥の羽をむしっている間、テキトーな缶を乗せる。熱いものを食べれば、体温ゲージも上がる。


二人の間に沈黙が降りた。まだ協力して数週間も経っていない二人。互いに自分を語らない為会話がない。どうしてコンビになったのかと小さな後悔を燃料に声をかける。


「ねぇ」「なぁ」


気まずくなった。どうしようかと幼い思考を使い解決の道を手繰っている。


と、二人以外の足音がした。動きが止まる。耳をすます。足音は五つ。ゾンビのような鈍さではない。


BBは鳥をそっと地面に置いた。オサムも同様に缶を置く。二人ともナタを抜き臨戦態勢を取る。背中合わせで、どこから来てもいいようにする。来ると判る敵を誘う。


にょきりと、無警戒に何者かが出てきた。BBの前、岩の後ろ。斧を持っている。


「オレの前だ!」


先手を取るため駆ける。背にはオサムが追従。そんなに離れてない。岩からは二人、三人と出てくる。こちらの接近に気がつき、各々武器を抜く。一人は弓だ。一人は銃。


オサムが立ち止まり銃を抜いた。BBは構わず突進。斧を持った三人と対決。最も近付いてきた男が斧を振り上げる。下がると同時に横にステップ。一歩踏み込み腹を斬る。横からもう一人。先の斬撃の回転を維持しつつ斬る。オサムが発砲。その音に驚き、敵が全員止まった。その瞬間に三人の腕を斬り落とし、その腕の斧を取り上げ投擲。最後の一人は首をはねる。一気に三人倒した。彼らはポリゴンとなり霧消。


残った二人は怯えて立ち止まる。が、それもすぐ回復。銃を持った女が声をあげて突っ込んだ。パニックになっているのか、撃ってこない。オサムの射撃で部位ダメージを負い膝を突く。走りながらナタでとどめを刺し、弓を射る敵へBBは挑んだ。


敵は矢を放った。真っ直ぐBBへ向かって。上手い。BBは感心しながら矢を斬り落とし、二射目が来る前に敵の懐へ潜る。そこから乱れ斬り。HPをゼロにした。終わってみれば圧勝だった。


相手はプレイヤーだった。プレイヤーはデスすると持っているアイテムを全てその場にロストする。リスポーンする時は初期装備だ。そこいらに散らばっている物資をホクホク顔で集め、二人は合流する。


「アシストありがとう」


BBが微笑と共に礼を言う。


「別に。別にまだあんたみたいに戦えないから」


「いつか戦えるよ。運動、得意なんでしょう?」


オサムが反論する前に、彼女の手を引き焚き火の元へ戻る。網に乗せた缶は、触れるとダメージを食らう程に熱くなっていた。ナタで網からどけたあと、手に入れた物資を調べた。


「弾は持ってないね」BBは表情を変えない。


「食料もなし。こいつら、空腹だったのかな」


「かもね。物々交換になら使えそうなものばかりだけど」


「ハズレ?」


「ハズレ」


戦ったことを若干後悔。この悔しさ、食で晴らそうとしよう。また鳥の羽をむしり始める。


「ねぇ」オサムが目を合わせてきた。


「どうしたの?」


「さっきら何を言おうとしていたの」


「その、正直言うと特に話は無かったんだ。そっちは?」


「わたしも。同じ」


フフッと笑みが溢れた。お互い内心を打ち明けるとちょっと恥ずかしい。でもそれを共有し、共感し合えたのはまぁ嬉しい。羽はむしり終えた。


「さっきの戦い、凄かったね」


「どこが?」BBは羽のない鳥を見つつオサムへ言葉を返す。


「三人を一人で倒したり、矢を弾いたり」


「三人は君のサポートがあったからだよ」


「サポートっていっても、外したんだけどね」


鳥の血抜きをしようとナイフを取り出す。血を垂れ流す。絵の具のような色彩。


「そんなに自虐しないでよオサム。助かったのは本当のことだし」


「そう。……ありがとう」


「どういたしまして」


鳥を網に置き、すぐに脂の焼ける音が鳴る。食欲の起床ラッパが荒野に走る。


「あんまり喋らないね。オレ達」


「話すのは苦手だし」


「オレも」


鳥を裏返す。よく焼けている。ナイフでつついてみると、火が通っていることが判った。


「黙っているほうがいい?」


「どうかな。わたしそれも苦手かも」


二人は火を囲む。これがゲームじゃなかったら悲壮なシーンになりそうだ。実際はパラメーターの変動に従っているだけだが。


「じゃあ、何を駄弁ろうか」


「それ、コミュ障みたい」オサムはクスッと笑う。


「酷いこと言うなぁ。じゃあ、うーん、何時まで居られる?」


「この世界に? 今は十四時か。じゃあ十六時まで」


鳥を持ち上げてみる。手が熱せられる。痛みはない。このゲームに痛覚はない。火は通った。そのまま掴んでセラミックの皿に乗せた。皿は地べたに置いた。砂が混じらないか心配した。


「それまで何しよっか」


「オレとしては、武器を探したいな。ナタ一本じゃ頼りない」


ナイフで鳥を切り分けた。大きいほうはオサム。残りは自分、BBに。オサムは何か言おうとして、


「気にしないでよ」


とBBが遮る。不承不承に受け取った彼女は、豪快にかぶり付いた。黙って頷く。旨いらしい。BBも食べてみた。チキンの味がした。塩と胡椒があればと二人は思う。


食事が終わっても課題は残る。この物資をどう運ぼうか。このゲームにストレージなんてない。持っているものをバックパックだのポーチだのに詰めるしかない。彼らはポーチぐらいしか持ってない。


「食料を優先しようか」


「そうだね」


BBの提案により食料をポーチに詰めた。一応武具類は手に持って行った。名残惜しさをこの地に残しつつ出発した。


武器がスポーンする場所といえば街しかない。今までの経験からそう結論づけ道を進んだ。ところどころ見えるアスファルトを目印に歩みを進め、ただ減っていく水分ゲージに苛立つ。そうそう水を用意しなければ。オアシスはどこだろうか。


「水の残りはどのくらい?」


不安になったBBが振り向く。オサムは水筒をチャプチャプ言わせた。ホッと一息つくも、自分の分は減っていることに気付き少々慌てる。


「ない?」


「まだまだあるけど、そろそろ補充したいな」


「オアシス探す?」


「いや、街に行こう。他のプレイヤーから奪えるかも」


喉の渇きを潤してから、また歩み始める。このゲームのほとんどは移動が占めている。ファストトラベルなんてない。車と、それを動かすガソリンがあれば。


うんざり。このクソゲー。BBは心の中で石を蹴った。




一時間が経っただろうと時間を見たら、もう二時間。それでも街に着いたので、マップの大きさは考えられているのだろう。


街は全て廃墟だった。ビルは朽ち果て傾いている。ゾンビ共がうろつき、それがビルの中にもいるから油断できない。二人は武器を抜き、いつでも戦闘ができるようにしていた。戦利品の武具はもう捨ててあった。


さぁ新武器を、というところで十六時になってしまった。


「また明日だね」BBはため息を吐いた。


「なんか、ゴメン」


「君は悪くないよ。でもここ、リス地点としてセーブできるのかな。そこが心配だよ」


「やってみるよ」


しかしできず。場所を変えてみようと移動を繰り返して、少し街に外れた場所、その低いビルの中でリスポーン地点を登録できた。これで、次デスした時や、ログアウトした時、ここから再開できる。


「よし、できた」


「オレも落ちようかな。ここにさせてもらうよ」


「うん。……明日もできる?」


「もちろん。学校終わったらだけどね」


「わたしも学校終わったら。先にログインしたらどっか行ってもいいよ。街には居るんでしょ」


「そうだね。でも、オレ一人じゃこの街を一日で回りきれないし、君を待つことにする」


「おーけーおーけー。んじゃ、また明日」


そう言い残してログアウト……。


できなかった。


「あれ?」


「オサム、ログアウトボタンある?」


「ない。BBは?」


「オレも。バグかな?」


「このゲームじゃ珍しいね」


「運営にメールしとくよ。……いやメールできない。どうなってるんだ?」


「マジ?とんだ不祥事じゃん。サ終するかもね」


「お詫びに強い武器とか欲しいな」


「石じゃなくて?」


「ソシャゲじゃないんだから」


そう言い合った二人。台風で停電していた時のような非日常を楽しんでいたが、これが三十分、一時間となると、流石に恐怖してしまう。ログアウトできない。問い合わせもできない。不満、不安、恐れの捌け口がない。まだ生きて短い二人にとって、これらに晒され続けるのは苦痛この上ない。


二時間経っても、何もない。オサムはイライラして顔が歪んでいる。BBも緊張していた。二人に共通していたのは、あくまでこれが一時的な不具合で、いつかは解決されるものだということ。ただ、そのいつかがどれほどの期間か。それが解らない。


三時間後。BBはステータスやオプションを開いては閉じ、現状の手段でどうにかできないか探っていた。オサムは横になっていた。眠ってはいない。どうしようもない現実を見たくなかった。BBの奮闘虚しく、手段は講じられなかった。


「オサム、人を探そう。二人じゃどうしようもない。きっと、他の人も困ってるよ。皆で集まれば、何か解るかも」


オサムは不機嫌を隠さずに立ち、行こうとするBBに着いていった。


二○五二年。VRサバイバルオンラインゲーム、ポストアポカリプスは、ログアウト不能になった。


現実世界は、暴動やテロが多発し、AIの台頭などによる社会情勢の不安が世を支配している。そんな中でVRゲームやれるだなんて贅沢なのだが、しかし、プレイヤー達は気付かない。


BBとオサムの二人は、その現実に想いを馳せる。しかしその現実を見る瞳は、それぞれ違う色を見ていた。

今更SAOのパクリなのか(困惑)

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